• 検索結果がありません。

機能 に関 する問 題

第 6 章 結論

6.1.4 機能 に関 する問 題

生産 性と 同様 に、 日本 語の 動 詞由 来 複合語 も表 6-1 に示 され るよう に 語 形 成レベ ルの 違 いによ って 決定 され ると 考えら れて き た。

内 項 複 合語 付 加 詞 複合 語

例 ゴミ拾 い 箱入り 、革 張り

先割れ

車庫入 れ 値上げ

手作り 黒焦げ

品 詞 普通名 詞 形容詞 動名詞 動名詞 形容詞

語 形 成 レベ ル 項構造 語彙概 念構 造

(クオ リア 構造 )

語彙概 念構 造

(クオ リア 構造 )

語彙概 念構 造

表6-1. 伊 藤・ 杉岡 (2002)、 由本(2009a)、Yumoto(2010)の 日本 語の 動 詞由来 複合

語の機 能の 分析 のま とめ

しか し 、語構 成要 素間 の関 係な いし 語形成 レベ ルの みで はな ぜ 以下 の各 用 例の(a)が 不 自然で ある のか を説 明す ること がで き ない。

174

(12) a.?ハ ンバ ーグ を手 ごね する b.手 ごね ハンバ ーグ

(13) a.?メ ガネ を手 持ち する b.手 持ち メガネ

(14) a.?う どん を包 丁切 りす る b.包 丁切 りうど ん

(15) a.?ボ ート を足 こぎ する b.足 こぎ ボート

(16) a.?野 菜を 朝採 りす る b.朝 採り 野菜

(17) a.?蚊 取り (を )す る b.蚊 取り 線香

(18) a.?心 臓破 り( を) する b.心 臓破 りの坂

(19) a.?菜 切り (を )す る b.菜 切り 包丁

(20) a.?指 だし (を )す る b.指 だし 手袋

(21) a.?ら 抜き (を )す る b.ら 抜き ことば

(12)~(16)の 付加 詞複 合語 は表 6-1 の主張 に基 づく と、それぞ れ(a)のよう に動 名 詞とし て用 いら れる こと になる が 、実 際には( b)のよう に形 容詞 とし て用 い られる ほう が 自然な 表現 だと 思わ れる 。ま た、( 17)~(21)の内 項複 合語 も表 6-1 の 主張 に基づ くと 、 それぞ れ( a)のよ うに 普通 名詞(あ る いは動 名詞 )と し て 用い られ るは ずで あるが 、実 際 には( b) のよう な用 いら れ方 のほ うが 自然だ と思 われ る。

一方 、中 国語 の動 詞由 来複合 語 は 筆 者の知 る限 り、 語形 成レ ベル に 関す る 議論が 皆無 で あるが 、「述賓 式複 合動 詞」、 「偏正 式複合 動詞」 と いう 名の 通り、 複合 動 詞と し て扱 わ れてい る。 しか し、 「述賓式複 合動 詞」、「偏正 式複 合動 詞」 に分類 され て いる複 合語 の

175

中には 、以 下に 見る よう に、中 国語 の 基本語 順で ある SVO 構文 に用い られ な い複合 語も 存 在する 。

(22) 「述賓式複 合動 詞」 (内 項複合 語) :

*我 在 洗 衣。 私 進行 形 洗 う 衣服

(私 は服 を洗 って いる 。)

(23) 「偏正式複 合動 詞」 (付 加詞複 合語 ) :

*我 在 紅燒 魚。 私 進行 形 醤 油煮 込み 魚

(私 は魚 を醤 油で 煮込 んでい る。 )

「洗衣」 、「紅燒」 は 上記の ように SVO 構文 には 用い られな いが 、 「洗衣 精」、 「紅燒 魚」の よう に 修 飾語 とし ては用 いら れ ている 。従 って 、 こ れら の語は 動詞 で はなく 、( 非 述)形 容詞 と 見 る方 が適 切であ ろう 。 しかし 、「洗衣」 や 「紅燒」と いっ た 複合語 が形 態 上も意 味上 も動 詞に 似て いるに もか か わらず 、動 詞とし て用 いら れな いの はな ぜか。また 、 日本語 の動 詞由 来複 合 語 はなぜ 先行 研 究の主 張の 通り に機 能し ない複 合語 も あるの か。

本研 究は その 問題 点に 対し、 以下 の ような 答え を提 示す る。

(24) 複合語 がど のよ うに 機能 するか は 、複 合語の 語形 成を 動機 づけ ている 知識 の 種類 による 。モノ に関 する知 識に よっ て語 形成が 動機 づけ られ てい る複合 語は そ のモ ノの属 性を 表す 形容 詞に なり 、コ トに 関する 知識 によ って 語形 成が動 機づ け られ ている 複合 語は その コト が如何 に行 わ れるか を示 す ( 動) 名詞 になる 。

形容 詞の 動詞 由来 複合 語を例 に取 っ てみる と、 これ は第 3 章 、第 4 章の 考 察でも 見た よ うに、 背景 知識 とし ての モノの 由来 や 用途が 前景 化さ れて いる にすぎ ず、 全 体とし てプ ロ ファイ ルさ れて いる のは やはり モノ の みであ る。 その ため 、そ の知識 によ っ て語形 成が 動 機づけ られ た複 合語 はモ ノの属 性を 示 す形容 詞に なる ので ある 。

複合 語の 機能 、品 詞は 語形成 レベ ル によっ て決 定さ れる ので はなく 、語 形 成を 動 機づ け る背景 知識 の種 類に よる という 主張 は 語形成 レベ ルの 違い で捉 える立 場が 陥 りかね ない 循

176

環論も 回避 でき る。 つま り、一 般的 に 普通名 詞に なる 内項 複合 語は 普 通名 詞 ではな く、 動 名詞に なる もの も存 在す る のは なぜ か という 問い に対 し、 その 立場な ら、 そ のよう な複 合 語は語 彙概 念構 造で 形成 された から だ と答え るし かな い で あろ う。逆 に、 一 般的に は項 構 造で形 成さ れる 内項 複合 語 が語 彙概 念 構造で 形成 され るの はな ぜかと いう 問 いに対 し、 動 名詞と して 用い られ る か らだと 答え る しかな い で あろ う。 つま り、一 般的 に 想定さ れて い る複合 語の 機能 、品 詞と 異なる 同じ カ テゴリ ーに 属す る複 合語 に対し 、そ れ を異な る語 形 成レベ ルで 形成 され ると 想定を 覆す し かない ので ある 。 以 上の 見解に 対し 、 本研究 は語 構 成要素 に基 づい た複 合語 の分類 では な く、実 際に 使用 され てい る例に 基づ き 、複合 語を 動 機づけ る知 識に 2 種 類あ ると想 定し て いるた め、 同じ カテ ゴリ ーに属 する 複 合語同 士が な ぜそれ ぞれ の機 能が 異な るのか を知 識 の違い で説 明す るこ とが できる 。