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属性 を示 すの に用い られ る複 合語

第 3 章 日本語の動詞 由 来複合 語 の語形 成 と意味機 能

3.3.1 属性 を示 すの に用い られ る複 合語

最初 に、 属性 を示 すの に用い られ る 複合語 を提 示す ると 、次 の通り であ る 。

(54) 窯焼き パン/ピ ッツ ァ (車 の) 二本 出し マフ ラー 秋 摘み 茶葉

早 ゆで サラ ダマ カロ ニ(商 品名 )

上に示 した 用例 の被 修飾 語はか なり 厳 しく制 限さ れて いる 。例 えば、「窯 焼き 」の修 飾 対象は 上に 例示 した 「パ ン」や 「ピ ッ ツァ」 であ れば よい が、「 魚」 や「 餅」 になる と「? 窯焼き 魚」、「?窯焼 き餅 」に見 るよ うに 不自然 であ る 。し たが って 、こ れら の 複合語 の語 形 成には 被修 飾語 に当 たる 名詞 、つ まり、「パ ン 」、「車の マフ ラー 」、「 茶葉 」、「 マカロ ニ」な どが関 わっ てい ると 考え られる 。

最初に 「窯 焼き 」を 見る。「窯 焼き 」は 上で述 べた よう に、 一般 的には ピッ ツ ァなど の

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パン類 を修 飾す るの に用 いられ てい る19。した がっ て 、「 窯焼 き」 の語 形成 は「 パン」(に 関する 知識 )に よっ て動 機づけ られ て いると 考え られ る。 以下 に 「パ ン」 に 関する 知識 を 例示す る。

(55) パンに 関す る知 識 構成的 役割 :小 麦粉

形式的 役割 :丸 い/細長 い…その 他様々 目的的 役割 :食 べる

産出的 役割 :小 麦粉 を練 って、 それ を オーブ ンで 焼い て作 る

(55)に 示した 知識 は経 験的 に動 機づ けられ た知 識で ある ため 、特 定の 文脈 を除き 、(55)

に示さ れた 知識 の多 くは パンに 関す る 最も典 型的 な知 識( デ フォ ール ト 値)だ と言え よう 。 その中 で特 に注 目 し たい のは、製 作道 具とし て「オ ーブ ン」が 使用 される とい う点で ある 。 パンを 焼く 際に 「オ ーブ ン」 を 用い る のは最 も一 般的 な方 法だ と考え られ る 。この 「オ ー ブン」 とい う デ フォ ール ト 値に 変更 が ない場 合、 百科 事典 的知 識 に入 って い ながら も、 基 本的に 明示 する 必要 がな いため 、一 般 的に は 意図 的に 「#オ ーブ ン焼 きパ ン 」と表 現 さ れ ること がな い。 しか し、 デフォ ール ト 値であ る「 オー ブン 」と 異なる 「 窯 」 を使用 し て 焼 いたパ ンの 出現 に伴 い、 このデ フォ ー ルト 値 でな いパ ンに 対し 、特徴 づけ と いう需 要が 生 じるた め、本来 背景 にあ った 知識 であ る「 作り方 」( もし くは 道具 )が 前景 化 される 。そ の 結果、「窯 焼き」 とい う表 現が 形成 され たと考 えら れる 。こ れは、「#小 麦粉 パ ン」と いう 表現は 一般 的に 用い られ てい な いが 、「 米粉パ ン 」と いう 表現 は 用い られ てい る こと と原 理 的に共 通す る20。但し、「小 麦粉 」も 「米 粉」も 既存 の単 語で ある のに対 し、「窯 焼き」 は

「パン 」類 との 共起 以外 に見 当た らな いため 、「 窯焼 き」とい う複 合語 の 形成 は「 パン 」類 の百科 事典 的知 識 に よっ て動機 づけ ら れた結 果だ と言 えよ う 。

類例 とし て、「 手焼 き(せ んべ い)」、「手揉 み(茶 )」、「 手ご ねハ ンバ ーグ」、「手選 り(あ

19 近年、「窯 焼き プリ ン」 という 表現 も 目にす る。 使用 状況 を把 握する ため に 、イン ター ネット の検 索結 果を 参考 にした。その 用例数 から、パン 類の ほう が基本 だと 思われ る。(「 窯 焼きパ ン 」354,000件;「窯 焼き ピッツ ァ」3,110,000 件;「 窯焼 きピザ 」195,000 件「 窯焼 きプリ ン」48,200件;Google 検索 2013年 7月 1日 付)

20 石井 (2007: 171) の「 朝酒 」や 「朝 風呂」 とい った 複合 名詞 に対す る「 本 来は朝 にす るもの では ない が、 あえ て(特 別に ) 朝に~ する こと 」と いう 説明も これ ら の複合 名詞 は デフォ ール ト値 と異 なっ ている ため に 成立す ると 言い 換え るこ とがで きよ う 。

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ずき)」、「 手練 り( よう かん)」、「 手伸 ばし(ナン )」など が挙 げられ る 。これ らは 生 産ま た は製作 の際 に使 用さ れた 道具と して 「 機械」 の使 用が 一般 的と なって いる 現 在にお いて 、 機械で 作っ たも のと は異 なると いう 特 徴をつ ける ため に作 られ た表現 だと 考 えられ る。

次に 、「 二本出 し」 を見 るが 、こ れは 車のマ フラ ーを 修飾 す る のに用 いら れ ている ため 、 ここで は車 のマ フラ ーの 百科事 典的 知 識 を例 示す る。

(56) 車のマ フラ ー に 関す る知 識 構成的 役割 :金 属

形式的 役割 :自 動車 の後 部に出 る、 シ ャーシ ーに 付い てい る一 本のパ イプ 目的的 役割 :排 気音 を消 去する

産出的 役割 :金 属製 のパ イプを 加工 し て作 る

上に 例示 した 知識 の中 で注目 した い のは、 形状 を描 写す る部 分であ る。 多 くの車 に見 ら れるよ うに 、車 のマ フラ ーは一 本と な ってい るの が一 般的 であ る。言 い換 え れば、「一 本」

が車の マフ ラー の デ フォ ールト 値で あ る。本 来、 暗黙 で理 解さ れるこ の知 識 が「二 本」 な いし「 四本 」の 物の 出現 するこ とに よ って、 上の 「窯 焼き 」の 考察で 見た パ ンと 同 様に 、 特徴づ けの 需要 が生 じる ため、「 二本 出 し」や「 四本 出し」など とい った複 合 語 の語 形成 が 動機づ けら れた と考 えら れる。

次に 、「秋摘 み 」を 見る が 、こ れ は茶 葉を修 飾す るの に用 いら れてい るた め 、こ こで は「茶 葉」に 関す る 知 識を 次の ように 例示 す る 。

(57) 茶葉に 関す る知 識

目的的 役割 :飲 料水 を作 る

産出的 役割 :(春 季/夏季/秋 季/冬季 )に 摘み、(発 酵等の 工程 を経 て) 作 る

(57)は 茶葉 がい つ収穫 され るか 、 つま り 、 そ の 産 出 的 役 割 に つ い て 述 べ て い る 点 で 、 上で検 討し た(55)のパン に似 てい る 。しか し、「い つ」、すな わち 、収穫 時 期とい う デ フ ォール ト値 が決 めに くい 点で パ ンと は 異なっ てい る。「秋 摘み 」の ほか に、「春 摘み 」や「夏 摘み」、「冬 摘み 」も ある ように 、 デ フ ォール ト 値 は決 めに くい ものの 、 百 科 事典的 知識 に 入り得 る知 識は すべ て複 合語と して 存 在して いる ため 、こ のよ うな場 合 は 知 識の「 詳細 指

62 定」と 呼べ るで あろ う 。

次に 、「 早ゆで 」を 見 る 。「早 ゆで 」 はマカ ロニ やパ スタ 、う どんな どを 修 飾する のに 用 いられ てい るた め、 ここ では 「 マカ ロ ニ」を 例に 、そ の 百 科事 典的知 識 を 次 のよう に例 示 する。

(58) マカロ ニに 関す る知 識 構成的 役割 :小 麦粉

形式的 役 割 :細 長く て管 状 目的的 役割 :食 べる

産出的 役割 :小 麦粉 を練 って作 る 茹で時 間 :6~13 分

クオ リア 構造 によ る記 述 には 入ら な いが、 ゆで 時間 もマ カロ ニに関 する 背 景的な 知識 の 一つだ と見 なせ る。通 常、「 茹で時 間 6分~13分」の物 に対 し、「2分 ~4分 で 茹で上 がる 」 という 製品 の出 現に より、「茹 で時 間が 早い」 とい う特 徴を つけ る 必要 が生 じ る。 従 って 、

「早ゆ で」と いう 表現 の形 成が 動機 づ けられ たと 考え られ る。「そ うめ ん」や「イン スタン トラー メン 」は 本来 茹で 時間が 短い た め、一 般的 に「 早ゆ で」 の修飾 対象 に ならな い。

以上で 4つの 例を 検討し てき たが 、「窯焼 き」、「二 本出 し」、「早ゆ で」 の 共通点 は 修 飾 対象の デフ ォー ルト 値と は異な るも の を修飾 する 点で ある 。繰 り返し にな る が、パ ンは オ ーブン で焼 いて 作り、自動 車の マフラ ーは一 本で、マカ ロニ はゆ で時 間が 6~13 分で ある のが一 般的 だと 思わ れる 。しか し、 こ れらと 異な るも のの 出現 により 、特 徴 づけと いう 需 要が生 じる ため、「 窯焼き 」や「 二本 出 し」、「早ゆ で 」とい った 複合 語の 形成 が動機 づけ ら れてい る。

また 、「 秋摘 み」の修 飾対 象であ る「 茶葉 」はデ フォ ール ト 値 が不 定で あ り 、収 穫時期 は いつで ある かを 表示 する ために 、詳細 指定に より 、「 春摘 み」や「 夏摘 み」、「 秋摘み 」、「 冬 摘み」 など とい う表 現が 生まれ る。

これ らの 表現 が共 通す るのは 、前 項 が付加 詞で ある 点で ある 。既に 述べ た ように 、 こ れ まで付 加詞 複合 語は 非/半生 産的だ と考 え られ てき た。しか し、上の 考察 から 、付 加詞複 合 語の語 形成 は必 ずし も語 構成要 素に よ って制 限さ れ て いな い。 むしろ 上記 の ような 動機 づ けがあ れば 、項 、付 加詞 に関わ らず 、 複合語 を作 るこ とが 可能 である 。

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