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属性 を示 すの に用い られ る複 合語

第 4 章 中国語の動詞 由 来複合 語 の語形 成 と意味機 能

4.6.1 属性 を示 すの に用い られ る複 合語

最初 に属 性を 表す のに 用 いら れる 例 を以下 に提 示す る。

(52) 冷 泡 茶

冷たい 淹 れる 茶

(水出 し茶 ) 紅 燒 肉 赤い 焼く 肉

(醤油 煮込 みの 肉)

木製 玩具 木製 玩具

(木製 の玩 具)

まず、「冷 泡」 を 見る 。「 冷泡」 は前 節 で述べ たよ うに 、基 本的 に「茶 」を 修 飾する のに 用いら れて いる ため 、以 下には 「茶 」 に関す る知 識を 例示 する 。

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(53) 「茶」 の イ メー ジと それ に関す る 知 識

(a) (b)

第 3 章で も見 たよ うに、「茶 」は 一般 的に( 53a)のよ うな もの が思 い浮 かぶ が、こ こで は(53b) のよう な Langacker 式の 図で 表し、 その 右の 枠の 中に 背景的 な知 識 を記載 する 。 こ こ で は 「 茶 」 に 関 す る 様 々 な 知 識 に お け る 「 熱 湯 で 淹 れ る 」 と い う 部 分 に 注 目 し た い 。

「茶 」と言 えば 、熱 湯で 淹れ るの が一 般的だ と 思 われ る。換言 すれ ば、「 熱湯 で淹れ る」は 暗黙で 理解 され る デ フォ ールト 値で あ る。その ため 、3.3.3節で 説明し たよ う に対比 の場 合 を除き 、一 般的 には「*熱泡茶( 湯出し 茶)」のよ うに 表現 される こと が な い。一方、「冷 水 で淹れ る」 は一 般的 では ないた め、「冷 泡 (水 出し )」と いう 表現 の語 形成 が動 機づけ られ ている と考 えら れる。「 冷茶 」と いう 表 現も論 理上 可能 では ある が、この 表現 は茶葉 を茶 に する過 程、 すな わち 「泡」(淹 れる )と いう動 作が 示さ れて おら ず、ま た 「 冷 (冷た い)」

も一般 的に 名詞 を修 飾す る のに 用い ら れる 形 容詞 であ るた め、「冷 茶」は 単な る「冷た い茶 」 という 意味 にな る。

「紅燒」 も前 節で 見た ように 、一 般 的に「 魚」 や「 肉類 」を 修飾す るの に 用いら れる 。 従って 、以 下に は「 魚」 を例に 取り 、 それに 関す る知 識を 例示 する。

(54) 「魚」 の イ メー ジと 百科 事典的 知識

(a) (b)

構成的 役割:タ ンニ ンや カテ キン 、水 分 形式的 役割 : 緑 色や 茶色 の液体

目的的 役割 :飲 む

産出的 役割 : 熱 湯で 淹れ る

構成的 役割 :骨 、肉 、ぎ ょりん 、ひ れ など 形式的 役割 :左 (a) のよ うな 形

目的的 役割:( 火を 通し てか らま たは 生 のまま に し て) 食べ る。

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気を 付け たい のは、「魚」は場 面に よ って活 性化 され る百 科事 典的知 識 が 様 々であ るが32、 ここで は食 料と して の「 魚」に 限定 し 話を進 める こと とす る。 周知の 通り 、 食料と して の 魚には 様々 な調 理法 が可 能であ る。 例 えば、「煎」(油 で焼 く)、「煮」(煮 る)、「炸」(揚 げ る)、「烤」(直 火な どで 焼く )な どで あ る33。従って 、デフォ ール ト 値 がな いま たは不 定と 言える 。この よう な場 合、「 魚」の 属性 になれ る調 理法 なら、基本 的に どの よ うな表 現で も 可能で ある 。実 際に 「魚 」を修 飾す る 複合語 は「紅燒」 の ほか に、以 下に 示 される 表現 も ある。

(55) 清 蒸 魚

サラサ ラ 蒸す 魚

(魚の 酒 蒸 し)

水 煮 魚 水 煮 る 魚

(魚の 水煮 ;辛 煮)

醋 溜 魚 酢 す べす べ 魚

(魚の 酢 あ んか け)

「冷 泡」と は異 なり、「紅燒」の 場合 は「詳 細指 定」(3.3.1 節 参照)であ る が、い ずれ の 語形成 も背 景知 識に よっ て動機 づけ ら れてい る と 考え られ る 。

次に「 木製」を見 るが、「木製 」が 取れ る被修 飾語 に「家具」や「餐具」( 食器 )、「玩具」 などが ある 。こ こで は「 玩具」 を例 に 取り 、 その 百科 事典 的知 識 を次 のよ う に例示 する 。

32 例え ば、「 習性 」に 注目 する場 合の 百 科事典 的知 識は 「食 人魚」(人 食い 魚/ピラニ ア)

という 表現 の形 成が 動機 づけら れ、 ま た、「 食用 以外の 目的 」に 注目 する 場合 は「觀賞魚」

(観賞 魚) とい う表 現の 形成が 動機 づ けられ る。

33 しか し、「煎魚」(フ ライ パンな どで 魚 を焼く )、「煮魚」(魚 を煮 る)、「炸魚」(魚 を揚 げ る)だ けで はモ ノの 意味 になら ない /な りにく い。

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(56) 「玩具」の のイ メー ジと 百科事 典的 知 識

「玩具」も構成 的役 割に せよ 、形式的 役割 に せよ 、様々 で デフ ォー ルト 値が 決めに くい 。 従って 、「玩具」に 関す る知 識の どの 側 面に焦 点を 当て るか によ って 、様 々な 表現が 可能 で ある。 例え ば、「益智 玩具」(知 育玩 具)、や「整人 玩具」(ド ッキ リグ ッズ )は 目的 的 役割 に、「電動 玩具」(テ レビ ゲー ム)は形 式 的役 割に 、そ して 、「木製玩 具」は構 成的役 割に 焦 点が当 てら れて いる と 考 えられ る 。

以 上 、 三 つ の 例 を 検 討 し て き た の で あ る が 、 注 目 す べ き は 、 三 者 の 共 通 点 で あ る 。「冷 泡」、「紅燒」、「木製」 と いった 表現 を 創るに 当た り、 考慮 され るのは 「ど ん な物 な のか 」 であり 、「 何を す るの か」 では ない。「冷泡」、「紅 燒」 は「茶」、「魚」 や「肉」など の産 出 的役割 とい う 属 性を 表し ている ため 、修飾語 とし て用 いら れ、(非述 )形容 詞 にな る ので あ る。そ の語 形成 プロ セス は以下 のよ う なイメ ージ ・ス キー マ で 表示す るこ と ができ る 。

(a) (b) 前 景化 (c)

「 茶」/「魚 」 「 冷泡 茶」 /「紅燒魚」 図 4-4.「茶」、「魚」か ら「 冷泡 茶」、「紅燒魚」 へ の概 念転 換

「茶 」や 「魚 」は 上で 見た通 り、 一 般的に は 図 4-4 の(a)の よう なイ メー ジであ るが 、 どのよ うに 作ら れ て いる のかと いう 背 景的な 知識 は(b)の 破線 で表さ れて い る丸及 び矢 印 の通り、暗黙 で理 解さ れる 。それを ハイ ライト もし くは 前景 化す ること によ っ て、「冷 泡茶」

や「紅燒魚」に 当た る(c)に なる 。「冷 泡」は 茶の 、「紅燒」は肉 の産 出的 役割 を示す ため 、 それぞ れ茶 と肉 を修 飾す る形容 詞に な る。「冷 泡茶」、「紅燒 肉」、「木製 玩具」は本来図 4-4

構成的 役割 : 合 金や プラ スチッ ク、 木 など

形式的 役割 : ロ ボッ トや 車など の形 を してい る人 工物 目的的 役割 :遊 ぶや 集め る、飾 る

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(c)の ように 、一つ のユ ニッ トで ある と考え られ るが 、実際 の使用 につ れ 、ユニッ トか ら

産出的 役割 を示 す 「冷泡」、「紅 燒」、「木製」 が抽 出さ れ、 他の 同様の 特徴 の ある物 を修 飾 するの に用 いら れる こと もしば しば あ る。 例 えば 、「腳 踏車」( 足こぎ 車; 自 転車) の「腳 踏」を 「船」の 前に つけ て「腳 踏船」( 足こぎ ボー ト) にす る 例 や、「手搖 窗」(手回 し窓 ) の「手 搖」を「發 電機」の前 につ けて「手搖 發電 機」( 手回 し発電 機)にす る 例など がそ う である 。

この よう な概 念転 換は 次のイ メー ジ ・スキ ーマ で表 示す るこ とがで きる 。

(a) (b) (c) (d)

茶 冷 泡茶 冷泡

図4-5.「モ ノ」( a)、( b) から 「デフ ォール ト で ない モノ」(c)へ、 そし て 「非典 型的 な モノ」(d) への 概念 転換

繰り 返し にな るが 、図 4-5の(a)は「茶」や「 魚」など を一 括し た「 モノ 」概念 を示 し ている 。本来 、産 出的役 割と いっ た背 景的な 知識 は(b)の破 線で 描か れた部 分 に示 され て いるよ うに、暗黙 で理 解さ れて いる。しかし 、デフ ォー ルト 値 と は異 なっ た 場合、例えば 、

「冷泡 」の場 合、如何に して 淹れ た の かとい う 産 出的 役割 が前 景化さ れる 。この場 合、( 太 線 で 表 示 さ れ て い る よ う に ) プ ロ フ ァ イ ル さ れ て い る の が 主 要 部 の み (「 冷 泡 」 の 場 合 は

「茶」)で ある た め、「冷 泡」は 「茶 」 を修飾 する (非 述) 形容 詞とな る。 但 し、産 出的 役 割はそ の茶 をど うや って 作って いる の かとい う行 為と 理解 され ている ため 、 繰り返 し用 い られて いる うち に、その「如何 にし て 淹れる のか 」が 抽出 され 、図 4-5(d)のよう に、「淹 れ方 」を 意味 する 名詞 になる こと があ る。図 4-5(d)を第 2 章 の図 2-10のよ うな表 示で は なく、 非典 型的 なモ ノ概 念で表 して い る理由 は、 ここ まで 検討 した複 合語 に 述語と して 用 いられ ない から であ る34

34 「紅燒」 に関し ては 4.7節で 検討 する 。

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