• 検索結果がありません。

次に、この手段-目的連鎖構造から生まれる、「自己関連性」に触れておきたい。「自己関 連性」は、現在マーケティングにおいて、まさに欠くことのできないキーワードとなっている。

手段-目的連鎖構造は、すでに述べてきたとおり、消費者が「製品の機能や属性(製品知 識)」を「個人的な目的や価値(自己知識)」への手段と見ていることを示す。製品知識と自己 知識のリンクは、消費者にとって製品への「自己関連性(personal relevance)」そのものであ り、対象を「自分ごと」として認識することに他ならない。あくまでも自己概念と結びついた個人 的なリンクのために、同じ製品やブランドでも、人により異なってくる。「製品知識が、心理社会 的な結果や抽象的価値と密接に結びつくほど、自己関連性ひいては関与が高まる」(Peter and Olson 2010, p.77)のである。

記憶研究では、自己に関連づけられた記憶は忘れにくく48、例えば性格特性語が自分に当 てはまるかどうかを判断する課題を行うと、記憶成績がよくなる(Rogers et al. 1977)。これは、

自己と関連付ける処理の際に自己スキーマ49が活性化され、記銘すべき情報が自己スキーマ と関連付けられて処理されるからと考えられる(道又ほか 2003)。また、人から教えられた事柄 よりも、自分で考えた事柄のほうが思い出しやすい(Slamecka and Graf 1978)などの知見が 得られている。

Peter and Olson (2010)は、自己関連性概念を使って、製品関与のような永続的関与と、

購買関与のような状況的関与を、1つのモデルで説明することに成功した。具体的には、図表 3-6 に示すように、関与の源泉を消費者特性、製品特性および状況特性と置いた(p.88)。例 えば消費者特性には、価値や目的を含む自己概念や専門知識力がある。これに製品特性が 結びついて内因的自己 関連性50を形成し関与を生む。この製品特性と消費者特性の部分 に、手段-目的連鎖構造が埋め込まれているのである。図表3-6の「状況的自己関連性」は、

自己概念とそれほど関わりのない関与の低い製品であっても、状況的に自己関連性が高まる

48 自己関連付け効果もしくは自伝的精緻化効果という(豊田1989)。

49 4.4.1項参照。

50 内因的とは、記憶内に貯蔵された知識に基づくという意味である。

可能性があることを示す51。また、精緻化52プロセスである「解釈と統合」との相互作用によっ て、さらに関与が高まる。このように関与は、内因的自己関連性と状況的自己関連性のバラン スによって規定されるとして、関与概念を包括的に位置づけた。

自己関連性についての近年の研究として、実験課題の難しさとの関係を見た Gendolla (1999)は、容易な課題では血圧に差がなかったが、難しい課題かつ自己関連性の高い課題 では、有意に血圧が上昇したとする。また課題を「簡単、中庸、難しい」の3段階の条件に分け ると、取り組みには曲線関係(逆 U 字)が見られた。つまり簡単すぎても難しすぎても取り組み は低調で、中程度の難しさのときに最もモチベーションが上がった。また、Web サイトで、検索 キーワードからの類推によって組み立てられた、準自己関連の情報提示が、自己関連のコン テンツと同じ効果をもつかを検証したKim and Sundar (2012) は、両者がユーザー態度へ の貢献という点で、代替可能であることを示した。個人化されたメッセージと自己関連性の関係 を、禁煙プログラムの説得効果で実験したのが、Dijkstra and Ballast (2012) である。受診 者の名前を組み込むという、禁煙にむけてコンピュータがあつらえた説得場面の「個人化」は、

自 己 関 連 性 が高 い場 合 は説 得 を高 めたが、低 い場 合 には説 得 をむしろ弱 めた。「個 人 化 (tailor message)」がいつでも効果的なわけではない。

図表 3-6 包括的な関与概念

51 観客会員への調査(堀田 2011)の自由回答においても、それまで縁のなかったバレエに興味が

ここまで、関与研究を 1995 年でわけ、その変遷をたどった。加えて「自己関連性」という概 念を取り上げた。自己関連性は超高関与とその認知構造を形成していくにあたって、欠くこと のできない要因であるが、先行研究には極めて高い関与との関係を述べたものはなかった。

快楽的消費、消費体験主義と拡張自己 3.5.

極めて高関与な消費者を対象とした研究として、次に、アートの消費を観察することから生 まれたアプローチに触れる。1980 年代に始まる「消費体験主義」のアプローチは、それまでの 消費者行動研究が網羅しなかった消費領域に光を当てた。

製 品 の 使 用 を 通 じ て 楽 し さ や 心 地 よ さ と 言 っ た 喜 び を 経 験 す る こ と を 、 「 快 楽 的 消 費

(hedonic consumption) 」と言う。芸術を鑑賞して感銘を受けたり、スポーツ観戦で盛り上が

ったりすることを含む(堀内 2004)。「hedonic」は、多重感覚53で取り入れた知覚によるもの で、認知的知覚以外を広く指す、知覚の性質を示す言葉と考えられる。

アートは、消費者によって快楽的に経験されるにもかかわらず、普通でない強い関与を生む (Holbrook 1980)。そこで見いだされるのは内在的に動機づけられた、それ自体が目的となっ た価値であり(Holbrook 1987b)54、消費者の人生において、より重要な潜在性を持っている (Hirschman and Holbrook 1982)。「シンプルな喜びから、自己超越状態に例えられるような 深淵な反応まで」(Holbrook 1980 ; Holbrook and Zirlin 1985) を含み、美的体験の研究 では、これまでより感情面を含んだ議論が必要となる(Hirschman and Holbrook 1982)。こ のような消費は、消費者の一部に相当な精神活動を要求し、対象はゲシュタルト55として経験 される(Hirschman and Holbrook 1982)。その結果、「小説、映画、ロックコンサート、サッカ ー観戦は、その最中、さまざまな感情とファンタジーが消費者の中に喚起される」(同 p.98)。

「こうした消費は想像力に満ちている。例えば、観客は映画や演劇を見ている間、自分自身を 俳優の一人として想像している。消費への重要な動機のひとつは、現実離れした状況への憧 れである」(Hirschman and Holbrook 1982)とした。

1990年代には、快楽消費の類型が探索され、快楽的反応に影響を与える個人特性、製品 特性、情動の類型比較を含む、体験的関与の尺度開発が行われた。例えば Lacher and Mizerski (1994)は、ロック音楽に対する快楽的消費反応を、4つのカテゴリー、「感覚的反 応」「想像的反応」「情動的反応」「分析的反応」56として識別した。さらに包括的な「感情的反 応(情動を含む全体的な反応)」「体験的反応(音楽に「はまる」ような体験)」と「再体験ニーズ

(もう一度聞きたい)」という3つの概念を加えて、音楽の購買意図を目的変数とした、音楽消費 体験モデルを構築し検証した。安田・中村(2008)は、音楽聴取における身体反応として、「鳥 肌」「立毛」「振るえ」「身震い」「脈拍」「涙」があり、準身体反応としては「音楽に満たされたり音 楽が浸透したりするように感じる」「無重量の感覚や空中に浮く感覚を覚える」「音楽に押し流さ

53 味覚、嗅覚、触覚、視覚、聴覚を指す(Hirschman and Holbrook 1982)。

54 劇場消費においても、高関与になればなるほど単独で劇場に通う人が多く(堀田 2011)、「顕 示的消費」(Veblen 1899)とは異なってくる。

55 ゲシュタルト(Gestalt) ひとつの図形やメロディーのように、個々の要素の総和以上のまとまっ た意味と構造をもち、変化・変換を通じて維持される形姿、形態(大辞林 第三版2006)。

れる感じがする」があるとした。アート消費はこのように、意図して「非日常的状態を創りだすこと が重要な動機の1つとなる」(Hirschman and Holbrook 1982 p.94)。

Holbrook (1987a)は、伝統的消費者研究では「購買行動や意思決定にフォーカス」してき たが、「消費経験を無視したブランド選択や購買決定研究は、結論をミスリードする可能性が ある」(p.135)とした。また、「隣人を印象付けようとアート作品を買う、あるいは自己表現のため にコンサートに行くといった、外在的に動機づけられた消費の行為がある一方、内在的に動機 づけられた、それ自体が目的となった美的体験は、単純な快楽から、より深遠なものまで、全く 異なる価値を提供する」(p.135)と述べた。

Hirschman, Holbrook ら の 一 連 の 研 究 を 発 展 さ せ た Belk (1988)は 、 「 拡 張 自 己

(Extended Self)57」を論じた。その中で、対象との一体化、新たなアイデンティティを構築する

ことによる消費者の変容、拡張自己を失った際の喪失感などについて、ポストモダン・マーケテ ィングの立場から研究を行った。本研究における消費者の、時間的経過を得た発達プロセス および対象との一体化を捉えるうえで参考とした。ただし、「所有を通じて拡張された自己の一 部になるという点において、同概念は感情的な愛着 や製品重要性とは異なる」(木村・坂下 2012 p.1)とされ、本研究における体験消費の対象も、拡張自己の概念で捉えることは適当で はない。しかし、繰り返し接して知識と体験を積んだ記憶や、訓練を通して身につけた能力は 紛れもない「自己」の一部であることから、「自己一体化」が進んだ消費者においては、類似し た状況が起きていることが想像される。

牧野(2015)は、Holbrook (1980)の立場を継承し、芸術作品とポピュラー・アートの鑑賞の 間には線引きをするべきではないとした。「作品自体ではなく、消費者の反応に焦点を当てる なら、芸術とそれ以外を取り立てて区別する必要は無い」。この立場に立てば、「作品ではない のに、作品のように鑑賞できるデザイン、スタイルの凝った商品、独特な造りの店など、感性的 側面を持っているもの」も知覚対象となる(P.49)。

1980 年代から始まった研究アプローチとしての「消費体験主義」は、アートの消費を観察す ることから生まれ、それまでの消費者行動の理論が網羅できなかった消費の世界を明らかにし た。ここで記述されている描写、例えば「普通でない強い関与を生み」、「内在的に動機づけら れ」、「消費者の人生において、より重要」で「相当な精神活動を要求する」などの表現は、第2 章の劇場消費において得られたコメントから類推される、超高関与の性質や状態を近似的に 表現している。

製品熱狂者 3.6.

「製品熱狂者(product enthusiasts)」について長く研究を行ってきた Bloch (1986)は、

「遥かに高い製品関与をもった消費者は、市場として無視できないにもかかわらず、あまり語ら れて来なかった」とし、「ブランドの大半は、このような人たちに多くを負っている」(p.51)と指摘

56 「感覚的反応」は、音楽への原初的な反応であり、ダンス音楽にステップを踏むといった行動を 指す。「想像的反応」は、音楽が想起させるイメージを指し、「情動的反応」は、音楽評価の主 要な部分で、音楽聴取体験から生じる喜び、怒り、悲しみなどを表す。「分析的反応」は、音楽

した。Bloch (1982)によれば、製品熱狂者の関与は、極めて高いだけでなく長期間にわたり永 続的となる。この例として、ワインの目利き(wine connoisseurs58)、猫愛好者(cat fanciers)、 自動車の熱狂的愛好家59を挙げた。その特徴は、購買時だけでなく特定の製品クラスに趣味 的興味を維持することであり、関与は彼らのライフスタイルの一部となっている。

Bloch (1986)は製品熱狂者の観察可能な行動特徴として、高頻度の情報探索、オピニオ ンリーダーシップの発揮、新製品好き、製品への愛情をこめた世話や手入れを挙げた。絶え 間ない情報探索によって知識を増やし、それは製品選択や購入時の交渉力となり、他の消費 者への影響力も生む。さらに市場の話題に対し独自の見解をもち、多くの製品や開発過程に 関する媒体に目を通し、製品関連の活動に参加する。時にイノベーター、オピニオンリーダー と共に、影響力のある消費者クラスターを成し、「変革推進者(change agent)60」となる。さらに

「熱狂者は、クチコミや行動でマーケターを助ける。製品熱狂者を作り、維持することは、重要 なマーケティング目標となり得る」(p.57)と述べ、フォトコンテスト開催などのプロモーションで、

新たなカメラ熱狂者を育てる例を挙げた。また、美的アピールの欠落した製品は熱狂者の考 慮集合から落とされること、多くの伝統的マーケティング戦略は、熱狂者には響かないとした。

Block (1982 ; 1986)は製 品やブランドを中 心とした熱 狂 者の性 質に主に着 目 したが、

Bloch et al. (2009)は、関与が形成されるプロセス、体験消費の分野にも目を向けた。永続的

関与(enduring involvement)がどのように始まり形成されるのか、何が関与を育むのかを、

車、写真撮影、ファッション、ジャズの高関与消費者から自伝的記憶を集めた。通常消費者が 各々の製品に最少のつながりしかもたない中、なぜ何十年にもわたって高関与を維持するの か、何がエネルギー源となるのか。これを調査した結果、初めのきっかけとして、親の影響は強 力で、友人、仲間からの社会的影響も大きかった。また製品そのものの魅力に一目惚れする ケースも多かった。例えば「機能的に優れた車、比類なく高度な技術をもって撮られた写真、

エレガントな服、細部まで完成度の高いジャズ。これらは、未接触あるいは無関心の状態から、

人生における長期間の関与と鑑賞行動へと消費者をつき動かすパワーをもっている」(Bloch

et al. 2009, p.56)。また特に「魅力的なエグゼンプラー61のもつインパクトには抵抗しがたく、

劇的な作用で永続的関与に行き着く」(同p.56)とした。また、永続的関与のエネルギー源とし て「報酬」があるとした。報酬とは、内的な喜びによって永続的関与がさらに強化されるようなも ので、それを「スターダム」「パワー」「達成感」「敬意」62に分類した。

このようにBloch (1982 ; 1986)の永続的関与を捉える立場は、社会性を帯びていることが 前提であり、関与の強さに加え、期間の長さを強調している点も特徴である。また、モノ志向、

趣味的興味が中心であり、極めて高い水準の関与を対象としつつも、対象との関わり方の変

58 connoisseursは「鑑定家、目利き、くろうと、通」を意味する。

59 熱狂的なファン、マニアを表す"buffs"が用いられることもある。

60 変革推進者とはイノベーションを拡散する働きをする存在である(Bloch 1986)。

61 カテゴリーを代表し典型的で具体的な製品やブランド、人。

62「スターダム」は、仲間から注目を集めるようなレアな品をもつ喜びである。「パワー」は製品 を完全に使いこなすことから来る喜びで、例えばメーカーがまだ明かしていないような性能や機 能を掘り起こし活用する等である。「達成感」は例えばカメラなら、機材の所有に加えて撮影の テクニックのマスターによって得られるような達成感で、人より一頭地抜き出る レベルに到達し た時に現れる。「敬意」は歴史的なものに対し敬意を払える能力で、その愛着心は切なくノスタ ルジックとなる。ジャズや写真なら古典的な作品に当たり、経験豊かで鑑識眼をもつ人にしかわ からない魅力が対象となる(Bloch et al. 2009)。