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知識、記憶、行動面からの関与形成

ここでは、消費者とのコミュニケーションを、知識、記憶の付与の観点から整理し、さらに行 動面から関与を形成する視点を加える。

まず、長期的リレーションシップを構築する製品知識を明確化する必要がある。関与が高ま った後にどれだけ、持続性をもたせられるか、消費者知識が果たす役割は重要である。4.6.2 項でも検討したように、まずは、関与を高め、図表 2-3「関与-知識による消費者発達モデル」

において、縦軸方向に移動させる。次に、高まった関与を「一過性」ではないものとし、長期的 関係を保つために、時間 をかけて獲 得すべき知識 を提供 し、横軸 方向に移 動させる。例 え ば、趣味性の強いカテゴリーという前提において、「より複雑で」「より分化し相違があり」「新た な楽しみをもたらす」 (Bloch and Bruce 1984)ような奥行きをもった製品やブランド、体験を 構築し提供することも一つである。高まった知識による審美眼・選択眼に耐えうる、持続性のあ るコンテンツである。「どれだけ新 しい知 識 、消 費 者にとっての発 見 を提 供 し続 けられるか」

(Bloch and Bruce 1984)という観点で、製品ラインナップ設計をおこなう。超高関与の消費者 による、製品との深い関わりのなかで、企業側が意図せざる魅力を、消費者側が発見すること もある。以上が、客観的知識、意味記憶の観点から製品知識をいかに提供していくかの視点 である。

次に、エピソード記憶の観点である。久保田(2012a)は、ブランド知識は「ブランドについて の個人的意味」であり、ブランド・リレーションシップの形成要因において、頑健性を高めるため に、「好ましい思い出との結合」が必要とした。本研究においても、エピソード記憶を豊富に獲 得してもらうようなイベント、アーティストとのふれあい、来場者の個人的思い出につながる素材 を用意するなどが考えられる。7.2.1項でも述べた、楽屋口でのサイン会における、偶発性を伴 った記憶が、消費者に深いエピソード記憶を残すとともに、彼らを超高関与に導き、その後の 長期的な消費を導いた。こうした記憶が、「対象と自己を結びつける意味ネットワークの生成を 促す」(久保田 2012a)のである。内部記憶と外部記憶との精緻化による「知識や意味の創 造」(久保田 2012a)も、上記のような消費者への情報 、および接触機会の提供などが、きっ かけを与えうる。

次に、行動を伴った記憶が関与を高めるという観点である。参加者の「関与度156」によって、

ソーシャルメディアのコミュニティユーザーをセグメンテーションした小西(2013)は、ブランド戦 略のひとつに「動詞のブランディング157」を挙げた。「ブランドイメージ形成には、顧客やファン とのリアルな対話と、体験プロセスが重要」とし、「『自分ごと化』のため、参加と行動を促してい く仕組みやイベントが必要」(小西2013, p.179)と述べた。

156 小西(2013)は、メッセージやコミュニティを作る時の関わり方の深さを「関与度」と表現し

これまで「行動的関与」の研究は、製品開発や調査・サービス改善において、消費者の積 極 的 な関 わりを引 き出 すための考 え方 として、研 究 されてきた(Kaulio (1998) ; Elspeth (2014))。 本 研 究 の 「 関 与 」 概 念 と は 異 な り 、 行 動 と し て 、 「 関 与 さ せ る 」 と い っ た 意 味 で の”involvement”である。その中でも、消費者の認知面の変化に着目した数少ない研究が、

Hunt et al. (2012)である。

顧 客 と の 協 同 生 産 を 推 進 す る 際 の 消 費 者 の 関 わ り を 、 「 行 動 的 関 与(behavioral

involvement)」という概念で捉えたHunt et al. (2012)は、前述の通り、行動的関与を「消費

者の製品関連活動に携わる程度」とした(3.3.2 項脚注)。そのうえで、「消費者行動研究の歴 史において関与概念は、第一に認知的に、次に、感情的構成概念として概念化されてきた」と し、S-Dロジック(Vargo and Lusch 2004)を引用しつつ「消費者が価値を共創する視点に立 てば、研究者たちの興味は、消費者の態度や感情関与にのみ排他的に向くのではなく、行動 的関与にも向けられなければならない」とした。また、行動的関与は頻度の観点、活動への参 加の幅、そして計画立案に投じられた努力の観点から概念化されてきたとした。さらに、行動 的関与が、行動から影響を受ける「態度」を経由して、「知覚の重要な働き」に正の影響を与え ていることを示した。

4.1.1項でも紹介した内容だが、堀田(2011)の調査で、以下のようなコメントがあった。

- 「個人的経験としての課外活動でのオペラ上演、自らの体験は、記憶にいつまでも残る」

受け身の消費だけでは、なかなか知識(中)から知識(高)への壁を越えづらく、自らやってみ て初めて身につく知識がある。「3b」までは強烈なファンで到達できるとしても、「3c」の領域に 行くには、「抽象を具体で埋める」(Basalou 2008)ための、豊富な経験が必要と考える。もちろ んアートであれば、一部においては、歴史や文学に詳しい場合など、異分野との共通面が、内 部情報と対象アートとを精緻化させて、高知識に移行することは十分考えられる。

本研究ではさらに、行動的関与を掘り下げ、手続き記憶の視点から関与形成を考える。本 来、関与を高める目的であれば、その持続性は重要な論点ではない。まずは、図表 2-3 で消 費者を縦軸方向に持ってくる考え方である。エピソード記憶に伴う「感動」などの感情的な記憶 が代表的なものである。この観点はこれまでの行動的関与の立場でも、必要な瞬間に関与が 高まれば、行動面で深く関わってくれる、という意味で網羅 されている。しかし、永続的な、消 費者の「変容」を捉えた行動的関与を考えた時、横軸方向への移動を起こさせなければ意味 がないだろう。その一つの柱が、ここまで見てきたような、記憶と結びついた認知構造の形成で ある。さらに、手続き記憶の習得によって、知識軸を右に移動させる観点もある。楽器を売るた めに、楽器メーカーがとる戦略に音楽教室の展開があるが、ひとつの例である。登山や自転車 ツーリングを支える専門店も、似たような消費に支えられている。このような体験消費において は、まさに手続き記憶が精緻化され、対象カテゴリーへの理解を深め、関連消費も多く、長期 にわたる。前述したとおり、このような消費者層の多くは、高知識の領域に移行する。体験消費 では、消費者を変容させ、長期的にそのカテゴリーに滞留させることで需要は増大する。

以上の観点から、企業側が提供すべきは製品知識に留まらず、体験的行動を伴う知識やス キル、各種記憶の付与という視点が生じてくる。また、体験消費において超高関与が生まれや すいとするならば、製品やサービスにおいても、消費者にとっての「価値」を、体験消費の文脈

で、今一度捉え直すことが可能である。消費者は想像以上に「体験」や「世界観」を求めており、

実際の使用場面を想定しながら、その体験をサポートしていくことが、超高関与への誘導、ひ いては成熟市場下における需要創造につながっていくと考える。

ディスカッション 7.3.

本研究では、関与水準の視点から、従来の研究対象領域を拡張した。超高関与の消費者 に対し、個人的阻害要因をもち対象への印象を固定化させている拒否層、そして消費対象と して意識にのぼらない無関心層である。これらを見据え、従来の消費者関与水準を拡張した 領域で捉える試みを行った。本項では、発展的議論の方向性を探る。

図表 2-3の関与-知識による消費者発達モデルを、無関心・拒否層にまで拡げ、一つのモ デルとして説明を試みる(図表 7-2)。縦軸が関与のため、マイナス軸に向かって、低関与、無 関与、関与(-)(マイナス:拒否)と置いた158。一方の知識軸では、知識(少)からマイナス軸 に向かって、知識(0)、知識(-)(:マイナス)とおいた。知識(0)は、これまで対象のアートに ほとんど触れたことがなく、非接触に近いか、わずかなイメージを持っている状態である。また、

知識(-)は、対象に対し偏見や固定観念をもち、そのベースとなる認知に「負の認知要素」を 持っている想定で捉えた。

こうした前提によって、負の領域に6つのセグメントが得られる。ここに、今回のバレエに関す る調査から得られた結果を重ねて解釈すれば、以下のようになる。ただし調査対象者の関与 や知識を測定して得られた結果ではないため、詳細は今後の課題である。

まず、バレエを見たことがない人達に、なぜ見ないかの理由を尋ねた質問において、多かっ た回答が「機会がなかった」「バレエを見ようという発想がなかった」が挙げられる159。これに相 当するのが、「1z」セグメントであり、バレエに偏見やマイナスイメージは特に持たず、何かのき っかけがあれば見るという、バレエ受容層にあたる。この層に対しては、何らかの機会提供によ って、1a,2aセグメントに移行する可能性はあり、それに対しての阻害要因は特にない。

前述の質問に対して同様に多かった回答が、「興味が無い」というものだった160。バレエに 特にマイナスイメージもないが、何の関心も関わりもない層が「0z」セグメントである。バレエに対 する知識も希薄で、無関心層の典型的な立場であり、アートのような市場では、ボリュームも大 きいと思われる。

同様に知識はほとんど無いまでも、ステレオタイプなイメージでバレエを捉え、消費を拒否し ている層が「-1z」である。根強い偏見にまで至らないため、6章で得られたような、典型性が 低く、具体性の高いアート刺激をうまく提示することによって、「1z」ないしは「1a」に移行する可 能性を秘めている。

同様に拒否感を持ってバレエを受け止めているが、バレエに対する負の認知要素をいくつ か持ち、強く拒否的反応を示す層が「-1m」セグメントである。対象カテゴリーを否定的に捉え

158 本来「拒否」は態度概念に含まれる言葉であるが、関与(-)の理解を助けるために、6.6.1 に倣ってマイナス側においた。

159 質問項目への回答としては、「機会がなかった」が「大変そう思う」「ややそう思う」を合わせ