先行研究 6.2.
6.2.1. 拒否、無関心と態度の両価性
初めに、対象に対する選好、すなわち好き嫌いを表す概念としての「態度」について、これま での研究の流れと、本研究との関連事項を整理する。
態度とは、「対象に関する、好みや評価的な判断に基づいた心理的な傾向」(Eagly and Chaiken 1993)である。かつて態度は、認知・感情・行動の3成分からなる概念と考えられてき たが、現在では、対象に対する選好を示す、一次元の概念として捉えられることが一般的であ る。近年さらに態度概念は、対象と評価との連合として単純化される方向となっている(Fazio 1995 ; 林 2011)。
拒否的態度や感情についての研究には、以下が挙げられる。Chaudhuri (2006)は、消費 者の持つ既有スキーマの果たす役割から態度形成を論じ、「覚醒は、刺激がスキーマと一致し ない場合にのみ起きる。新たな刺激をスキーマに同化あるいは適応させられない時、ネガティ ブな感情的評価となり、『このブランドは嫌いだ』『いらいらさせられた』という反応となる」とした。
Romani et al. (2012)は、ブランド関連刺激に対するネガティブな感情を測定する尺度を開
発し、ブランド関連感情を操作することにより、情報源の違いに応じブランドスイッチング、ネガ ティブな口コミといった特定の行動を予測可能なことを示した。そこでは、製品やサービスの属 性や特性ではなく、ブランド関連刺激....
へ.
の消費者の評価が、否定的感情の主な情報源....................
となる とした。消費者は、ブランドの象徴的意味を投影したイメージに、時に趣味に合わないといった 感覚を持つ。製品の機能ではなく、ブランド関連刺激への感情の反応に着目すべきとした。
次に無関心に関する研究として、Fave and Massimini (2005)は、個人の能力や心理を 育成する「最適な経験」の定義をスキルとチャレンジの2次元で試み、どちらも低い場合に無関 心(Apathy)となるとした。アート教育の分野では、Savoie (2009) が、男子生徒の美術への 興味の欠落について論じた。この他、政治的無関心(Thornton 2011)、対人関係における無 関 心(Leander et al. 2014)、 公 的 組 織 の ボ ラ ン テ ィ ア 参 加 へ の 無 関 心 に 関 す る 研 究
(Sundeen et al. 2007)は見られたが、マーケティングや消費者行動の分野における研究は
見られなかった。
好むことと拒否することを対照して扱った分野に、ブランドリレーションシップにおける「愛着 と嫌悪」の研究がある。Attachment–aversion(AA) モデルの一連の研究である。Alba and Lutz (2013)は、愛着と嫌悪の軸、精緻化水準の高低の軸および自己との距離の3軸でブラ ンド愛着-嫌悪の関係性を8つにタイプ分けをした。ポジティブ側では、「高ロイヤルティ」や
「拡張自己」、「あこがれのブランド」といった馴染み深い概念がそのタイプとなるが、ネガティブ 側では、自我防衛の一種としての「ブランド敵意」、毛嫌いのニュアンスを含んだ「ブランド嫌 悪」、直感的・本能的反応としてカテゴリー全体に対しての「ブランド蔑視」、知的な態度として の「ブランドボイコット」などが示されている。拒否概念にも、複数のタイプ分けが想定可能であ ることがわかる。
また、1つの態度対象に対して、プラスとマイナス両方の評価を同時に持つことがある。「好 きでもあり、嫌いでもある」という態度であり、「両価的態度」である。中川(2014)によれば、社
必然的に、同一の対象に対しての肯定的評価と否定的評価が、同時に連合するという態度の 両価性を導いた」とする。両価的態度の場合、質問紙調査への回答では、正しい態度を測定 できない。なぜなら、二つの異なる態度が相殺し合うことにより、「どちらでもない」中間的な態 度となる場合があるからである(林 2011 ; Kaplan 1972)。
両価的態度を実験的に裏付ける方法として、De Liver et al. (2007)は、相反する評価が 同時に連合している状況を、潜在的連合テスト121で確認した。その結果から、両価的態度に は強いポジティブとネガティブの連合が共存していた。また、ニュートラルな態度をもっている対 象のプライミングが、反応時間に影響を及ぼさなかった一方で、両価的態度の対象への反応 は、ネガティブプライミング、ポジティブプライミング共に速かった。
Kaplan (1972)は、両価的態度を質問紙調査で検出する方法として、SD尺度を中央で分 割し、ポジティブ水 準(P)とネガティブ水 準(N)を別 々に測定 する方 法 を提 唱 した。その後 、
Thompson et al. (1995)によって改善が加えられ、次の式によって両価性を測定する方法が
提案された(中川2014)。
両価性水準 = ( P + N ) / 2 - |P-N|
第1項が態度の強度を表し、第2項がポジティブ、ネガティブの態度の強さの類似性を表す。
中川(2014)によれば、態度が両価的であるための2つの理論的条件として、第一に、「態度の 正と負の構成要素の水準が類似していること」(第2項)、それらが「少なくとも、中程度の水準 でなければならない」(第1項)である。「なぜなら、正負両方の評価が、ともに低い水準である 場合、単に無関心な状態となる」からである。Petty and Brinol (2009)によれば、対象に両 価的態度を持つと、SD形式の問で態度を測定した場合、反応するのが遅くなるという。それは、
逆方向の二つの評価を合算する必要があり、それに時間がかかるためとされる(林 2011)。
本研究では、無関心・拒否層および高関与層のセグメンテーションを行うにあたり、この尺度 を援用する。詳細は6.6.1項で述べる。なお、事前にオムニバス調査122で、両価的態度を測定
123したところ、提示したカテゴリーに対し、「全く好きでない」と答えた拒否層には、両価的態度 は全平均で7.0%存在し、「どちらでもない」と答えた無関心層のうち、同じく4.9%が該当した。
両価的態度と近接する概念として、「二重態度」概念がある。ある対象への古い態度に、新 しい態度が上書きされたような場合、消費者は両価性を意識しないまま、古い態度は概念間 の連合として残り、これも行動に影響を及ぼす(林 2011)。これを二重態度 モデルと言い、
Wilson et al. (2000)が提唱した。二重態度モデルは性質の違うものや、重なり方の相異、方
向性の違いなど、多様なケースを含んでいると考えられる。対象に対する態度が逆方向で、か
121 潜在連合テスト(implicit association test ; IAT)は、Greenwald et al. (1998)によって開発され た。人の認知資源が限られていることを前提とし、複数の課題を同時に与える負荷をかけ、回答 までの反応時間を測定する。これによって潜在的意識、すなわち対象に対して持つ固定観念とし ての「連合」を引き出そうとする測定方法である。自己申告式質問調査の欠陥を補う、信頼性の 高い態度測定方法という評価がなされている。
122 調査対象は満15歳~65歳の男女個人 合計750名への留置調査法による。実施は2015年6月
~7月である。(公財)吉田秀雄記念財団によるオムニバス調査の一環として行った。
123 絵画鑑賞/絵を描く/ミュージカル鑑賞/クラシック音楽鑑賞/楽器を演奏する/バレエ(舞 踊)鑑賞/ダンスをする/オペラ鑑賞/合唱に参加し歌う/歌舞伎鑑賞/日本舞踊を踊る/フィ ギュアスケート鑑賞/プロ野球観戦/野球をする/プロサッカー観戦/サッカーをする/プロゴ ルフ観戦/ゴルフをする/グルメ(食べることを楽しむ)/料理をする から「最も好きな分野」
つ正の態度も負の態度も一定以上の水準で、共にアクティブで強いという両価的態度は、二 重態度の特殊なケースと言える。