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無関心・拒否層の研究の意義

無関心・拒否層の研究では、生活必需品ではなく、消費への動機の大半が、個人の嗜好 に依存するような消費を取り上げた。無関心・拒否層の研究は、これまで消費者研究において、

積極的に取り組まれることのなかった領域である。その理由は本来、自社製品に拒否的反応 を示す消費者を把握すること自体が困難であることに加え、例えこれらのセグメントにアプロー チできたとしても、調査段階において、無関心・拒否層がゆえの困難を伴うためと考えられる。

すなわち、調査への取り組み動機の低さ(関与面)と、具体的イメージや言葉を持たないことに よる回答の画一化(知識面)に起因する、意味ある調査の難しさである。

同じ体験消費であっても劇場消費は、レジャーや旅行とは異なり、知識も経験も限られてい ることから、この層には大きな個人的阻害要因が存在することが第5章で確認された。これを受 けて、無関心・拒否層の認知を明らかにするために行ったのが、第6章の調査である。

無関心・拒否層に関する研究の意義は3つ挙げられる。第一に、これら無関心・拒否層の調 査に取り組み、典型性認知にも正負があるなど、マーケティング刺激に対する高関与層との認 知の相異を実証的に示した点がアカデミックな成果である。ここでは、企業が通常マーケティン グ対象とする顧客層とは明らかに異なる反応を引き出すことができた。これによって、無関心・

拒否層をターゲットに、市場の新規開拓を行う際の示唆を得た。

第二に、カテゴリー研究として、実際の広告画像を用いて、調査と分析を行った点である。ま ず、プロトタイプ、エグゼンプラーといった抽象的な概念を、具体的な写 真刺激として取り扱っ た。その上で、同じ写真が高関与、無関心、拒否層に逆の反応を生み出し、この3つのセグメ ント間で、異なるタイプとして機能する場合があることを捉えた。さらに、パワーエグゼンプラー を認識すること自体が、知識の少ない無関心・拒否層には困難であることが示唆された。

第三に、広告というホリスティックなマーケティング刺激を用いながら、典型性と具体性という 2軸に着目することにより、幅広い層の消費者認知を捉えたことにある。クリエイティブな広告の 数値化は通常困難を伴うが、消費者の知覚を規定する軸として典型性と具体性の概念を用い、

その認知を整理した。これはカテゴリー研究における各種タイプを規定する2つの次元から借

良い。典型性と具体性を二元配置し、さらにそれらを無関心層、拒否層と組み合わせた時に、

認知メカニズムを規定する要因となった。典型性と具体性がより一層、意味を獲得したと言え る。

精緻化見込みモデル(Petty and Cacioppo 1986)では、関与-知識の水準の違いによっ て、反応する情報の性質が「中心情報」「周辺情報」と異なった。本研究では、情報取得のた めの認知努力をしない無関心層、拒否層が、表層的に視覚情報を処理することを前提とする。

そのうえで、プロトタイプ、パワーエグゼンプラー、サブタイプに該当する視覚刺激に対し、各層 がどう反応するかを捉えた。これにより関与の水準別に、どのようなコミュニケーションをとるべき か、広告表現として、どのパターンを使うべきかについてのひとつの示唆を得た。

実務へのインプリケーションにもつながる点として、これらの層に関する研究を通して得られ た知見は、以下に集約される。高関与の顧客向けの広告ばかりでは、低関与にすら到らない 無関心・拒否層を突き崩すことはできない。見慣れた刺激は無関心・拒否層には負の典型性 となる。消費者がネガティブに陥る広告を打ち続けているケースもあると思われる。この認知を 突き崩すには、具体的サブタイプに位置する刺激を提示する必要がある。すなわち、典型性を 下げ具体性を高めたサブタイプである。このことが、カテゴリーを逸脱したサブタイプを生み出 し、カテゴリーアレルギーを除去する可能性がある。

実務へのインプリケーション 7.2.

本研究の、実務へのインプリケーションについて、はじめに概要をまとめた後に、具体的なコ ミュニケーションと関与の形成について述べる。

セグメンテーションは本来、対象を細分化していく作業であるが、本研究ではむしろ、その外 側に超高関与や無関心・拒否の領域があることを示した。これにより、消費者像やマーケティ ングに新たな視点を与える可能性が生まれる。実務的なインプリケーションとして3 点を挙げ る。

第一に、市場セグメンテーションは通常、市場の消費者群を横断的に把握する。これに対し 本研究では、一人の消費者に着目し、関与が変動しながら知識を獲得していく過程で、対象 への関わり方も変容していくことを前提とする。それゆえ消費者の関与と知識水準によって、誘 導を行う動態的視点が生まれる。この8つのセグメントそれぞれに、どのようなコミュニケーション やリレーションシップがあり得るか、次項7.2.1で詳細に述べる。

第二に、ひとたび超高関与まで誘導ができれば、多くは自発的な消費を繰り返す超高関与 層、もしくは経験層となって市場に残留する可能性が高い点である。「超高関与層」が売上に 占めるインパクトは想像以上に大きく(第1章)、長期化するうえに、「超高関与経験層」となっ て潜在化する。消費者をそのような超高関与に維持するためには、ただ短期的に興味・関心 を引くことだけではない、飽きの来ない深みのあるコンテンツが必要となる。Bloch (1986)は、

熱狂する傾向の高い製品カテゴリーを「複雑な製品」と「美的消費の製品」に整理し、「熱狂者 は複雑さに魅了される。複雑な製品ほど、消費者の興味をより長く維持できる」(p.54)とした。

第三の点は、和田(2015)が指摘する、超高関与消費者のもつユーザー・イメージと、需要 拡大への潜在力である。まず、製品熱狂者の例のように、ブランドや体験消費においても、超

が存在する市場はコモディティ化し難いともいえる。また、「市場には、本来的にボリューム市 場とならず、細分化も出来ない分散化された市場、『分散市場』がある」154(和田 2013)とし、

超高関与の消費者がいる市場は、本質的にこの分散市場になる傾向があるとした。さらに、和 田(2015)は、昨今のマーケティング戦略の展開に、需要創造、拡大の視点が失われつつある と指摘し、成熟市場における新需要の開発、既存需要の掘り起こしに、超高関与消費者群像 が貢 献 しうるとした。その例 として、和 田 (2013)は、ユーザー・イメージの発 信 が あるとし、

「BMWは超高関与な消費者イメージを作り上げることにより、ターゲット顧客を捉えた成功例」

(p.71)とした。

7.2.1. 関与を高めるコミュニケーションのマネジメント

本研究の結果を踏まえ、複数のアート組織のケースを参考例に、超高関与へのコミュニケー ションを提案する。図表7-1に沿って消費者を、体験消費、とくにアートの消費者として変容し ていく過程の中で捉え、それぞれのセグメントに応じて、どのようなコミュニケーションをとること が最も効果的で、消費の継続、発展に資するのかを示す。

まず、1a セグメントに入る矢印①である。一般に広く分散している潜在顧客に関心を持って もらうには、種々の媒体を使って接触を図っていく必要がある。わずかでも興味を持ってもらう こと、身近な人に誘われたときに、「行ってみよう」と思える状態にするために、情報提供を工夫 していく必要がある。無関心層を取り込む方法には、例えば次のような方法がある。コラボレー ションする異 分 野のカテゴリーを見 定め、コンテンツやクリエイティブに取 り込む。例として、

G-SHOCK が、バスケットボールやマウンテンバイク、スケートボードなどを積極的にクリエイテ

ィブに利用していることが挙げられる。若者文化と組み合わせることによって、異なるカテゴリー の消費者を取り込む狙いがあると思われる。また、マンガ「ONE PIECE」を歌舞伎化した例も ある155。これらのねらいと効果は、見た目の典型性を下げることにより、異分野のファン層、無 関心層を取り込むことにある。拒否層に対してはさらに、具体性を上げるような具体的サブタイ プの提示を心がける。「負の典型性」に当たる認知要素を除去していく必要もある。より、マネ ジリアルには、他の組織と直接リンクすることも有効である。サービス内容が補完性を持った他 の会員組織、例えば、劇場であれば宿泊施設や交通機関と組むことにより、リンク先顧客にア プローチできる。こうしたバンドリングによって、この受け身段階の消費者の阻害要因を除去す る効果もある。

154 和田(2013)は「分散市場はもともと、市場の本質が分散性にあるから、さらなる市場細分化は 難しい」とした。また、日本酒やファッションを例に、「需要構造が本来的に多様であるため、供 給者は市場をまとめることも困難」とした。さらに「専門家をターゲットとするようなスペシャ ル性の形成に代わる戦略は、消費者の超高関与の状況がないと成立しない」とした。

155 201510月~11月に上演された「スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』」(新橋演舞場)。