検証1においては、無関心層、拒否層では非典型的な写真の方が、具体性は高く知覚され た。バレエというひとつの枠組みに収まった写真に、日常感や自己関連性といった、身近につ ながる具体的情報を感じられなかった可能性がある。これに対し、高関与層ではそのような傾 向は見られなかった。高関与層にとって、典型的な舞台写真であっても、そこに内部記憶から 生じる知識や経験といった具体性を埋め込むことができる。「具体的な接触経験があるからこ そ、抽象的表象を、具体的現実と結びつけることができる」(Barsalou 2008)のである。検証2 でも同様の方向性は認められたが、設定した写真の典型性の差が僅かなものであったため、
有意な結果にはならなかった。
背景が加わった結果、態度に一定の傾向が見られた。検証1では背景が加わることにより、
非典型 (赤) 典 型(白 )
背景なし 背景あり
非典 型(赤) 典 型 (白)
背景なし 背景あり
典 型 (白 ) 非典型 (赤 )
典型(白) 非典 型 (赤)
背景なし 背景あり 背景なし 背景あり
6-51149, 無関心層(F(1, 202)=2.76, p<0.1)):図表6-52150)。その一方で、高関与層では変 化は見られなかった。このことも、同様のメカニズムによると考えられ、高関与層にとって、写真 の意味を見出すのにあたって、背景を特に必要としないためと考えられる。インプリケーションと しては、無関心・拒否層を説得する場面では、背景などの文脈によって、具体性をもたせる必 要があることがわかる151。
図表6-51 背景の有無と態度(拒否層:検証1)図表6-52 背景の有無と態度(無関心層:検証1)
検証2でも、背景があると、全セグメントで知覚具体性が増すことがわかったが、高関与層で は 、 写 真 の 典 型 性 に 関 わ ら ず 、 背 景 が あ る 場 合 の 態 度 が 弱 ま る 傾 向 が 見 ら れ た (F(1, 298)=3.73, p<0.1))(図表6-53)。これはバレエの知識を持つ高関与層にとって、湖面のよう なところで踊るシチュエーションは、「あり得ない光景」であり、「本物らしさ」(1.2.2項参照)がな いと受け止められた可能性がある152。無関心・拒否層にとっては、通常のバレエ写真と異なる 非典型的な背景で、新奇性を感じられるコンテクスト効果があったが、高関与層には逆効果だ ったことがわかる。
図表 6-53 態度(高関与層:検証2)
149 写真の典型性の主効果(F(1, 266)=.001, n.s.)、交互作用は見られなかった(F(1, 266)=1.55, n.s.)
写真の典型性の主効果(F(1, 202)=1.98, n.s.)、交互作用は見られなかった(F(1, 202)=.47, n.s.)
典 型(白) 非 典 型(赤)
背景なし 背景あり
検証1と2で共通していたのは、背景があることで、どのセグメントでも知覚具体性が増すこと、
また、背景が加わった場合に、無関心・拒否層の態度が強まることであった。また、高関与層 にとっては、具体性を増すことが必ずしも態度好転につながるわけではなく、逆効果をもたらす 場合もあった。
最後に、前景と背景の典型性のマッチングについて検討する。検証1では、「典型(舞台)」
の写真では典型性どうしの組合せ、「非典型(通)」の写真では、非典型どうしで前景と背景が マッチング(一致条件)したため、背景が加わっても典型性に目立った変化がなかった。これに 対し検証2では、典型的なバレエダンサーと、湖を背景とする組合せ自体が、アンマッチング
(不一致条件)であったため、典型性を脱することができた。このように、前景、背景、そのもの の典型性のみならず、前景、背景の不一致度が典型性を規定することの可能性がわかった。
以上、高関与層、無関心層、拒否層でそれぞれ、知覚典型性と知覚具体性に及ぼす背景 効果が明確に観察された。このことから背景は、知覚典型性を減じる影響と、知覚具体性を増 加させる影響をもっていることがわかる。これは、サブタイプ化を促すひとつの手段となり得る。
仮説検証まとめ 6.11.
(1) 研究-1
仮 説 バレエ 腕時計
H1a 典型性は態度に正の影響を及ぼす。 具 体 性 が 低 い 場 合に支持
具 体 性 が 低 い 場合に支持 H1b 具体性は態度に正の影響を及ぼす。 典型性が低い場
合に支持
典型性が低い 場合に支持 H1c 典型性の態度に及ぼす影響は、セグメントにより異なる。 支持 支持 H2a カテゴリー高関与層では、典型性が低い条件では、具体性
は態度に正の影響を及ぼす。 支持 支持
H2b 典型性は具体性にかかわらず態度に正の影響を及ぼす。
H3a カテゴリー無関心層では、典型性が低い条件では、具体性 は態度に正の影響を及ぼす。
支持 支持
H3b 具体性が高い場合、典型性は態度に影響を及ぼさない。
H3c 具体性が低い場合、典型性は態度に正の影響を及ぼす。
H4a カテゴリー拒否層では、典型性が低い条件では、具体性は 態度に正の影響を及ぼす。
支持 支持
H4b 具体性が高い場合、典型性は態度に負の影響を及ぼす。
H4c 具体性が低い場合、典型性は態度に正の影響を及ぼす。
(2) 研究-2
仮 説 バレエ 腕時計
H5 カテゴリー高関与層において、具体 的サブタイプよりも、パ ワーエグゼンプラーの方が、態度が強い。
支持 棄却
H6 高 関 与 層 にとってパワーエグゼンプラーであっても、 無 関 心・拒否層では具体性の認知が低く、パワーエグゼンプラ ー足り得ない。
支持 支持
H7 具体的サブタイプ的認知要素 への態度は、高関与層と無 関心層、拒否層に差はない。
支持 支持
(3) 研究-3
検証1:背景の有無による比較 「一致条件」【典型的+典型的 および 非典型的+非典型的】
仮 説 結 果
H8a 高関与層において、コンテクストの有無による知覚典型性、知覚具体性 に違いはない。
知覚典型性は支持 知覚具体性は棄却 H8b 無関心層において、コンテクスト提示条件では、知覚典型性が下がり、
知覚具体性が上がる。
知覚典型性は棄却 知覚具体性は支持 H8c 拒否層において、コンテクスト提示条件では、知覚典型性が下がり、知
覚具体性が上がる。
知覚典型性は棄却 知覚具体性は支持
検証2:背景が同一の写真比較 「不一致条件」【典型的前景+非典型的前景】
まとめと考察 6.12.
ここまでの研究-1~研究-3について、まとめと考察をおこなう。本章の目的のひとつは、
高関与層と無関心層あるいは拒否層がそれぞれもつ、プロトタイプ、パワーエグゼンプラー、サ ブタイプを把握することにあった。それは相異なったものになることを想定して仮説を組み立て た。研究-1では、高関与層と無関心層、拒否層がそれぞれもつ認知の違いが、同じ写真で も全く逆の反応を生み出すことを示すことができた。そこには刺激の典型性が大きく関わるとと もに、具体性の条件により態度に及ぼす影響が異なることが示された。
研究-2では、典型性と具体性の2軸で布置されるマーケティング刺激が、その位置づけに よってプロトタイプ、パワーエグゼンプラー、サブタイプと、タイプにより異なる機能を持ち、それ が態度に影響することが示された。また、同じ写真であっても、高関与層と拒否層、無関心層 では異なるタイプとして認知されていることが伺えた。
研究-3では、背景を追加することが、具体性を上げ、前景と背景がマッチングしていない場 合には、典型性を下げる効果が示された。さらに、無関心・拒否層では、背景が加わると、態度 が好転することがわかり、研究-1を裏付ける結果となった。
高関与の顧客向けの広告ばかりでは、低関与にすら到らない無関心・拒否層を突き崩すこ とはできない。本研究の主張はこの点である。以下、若干の考察を加えたい。
まず、研究-1において示された交互作用についてである。マーケティング刺激の具体性が 低い場合、セグメントによらず、典型性が高まると態度も強まった。これは従来の見解に沿うも のである。一方、マーケティング刺激の具体性が高い場合、高関与から無関心層、拒否層に なるにつれ、典型性に対する態度のグラフが、正の傾きから次第に負の傾きへと変化した(バ
仮 説 結 果
H8a 高関与層において、コンテクストの有無による知覚典型性、知覚具体性 に違いはない。
棄却
H8b 無関心層において、コンテクスト提示条件では、知覚典型性が下がり、
知覚具体性が上がる。
支持
H8c 拒否層において、コンテクスト提示条件では、知覚典型性が下がり、知 覚具体性が上がる。
支持
ーを代表するような典型性が、個性とともに強く前面に出てきて、見る側の好き嫌いがはっきり してくる。これはすなわち、高関与にとって正の認知要素であったものが、拒否層にとっては負 の認知要素になるという、1.2.3項の「贔屓は役者のクセにつく」を示すものと言えそうである。
本章冒頭で述べた「負の認知要素」とカテゴリーへの態度がリンクする部分である。具体的な 表現があり、かつ典型性が上がるほど、態度は個別事例への選好に依存するとも考えられる。
次に、研究-2のプロット図(図表6-31, 32)からは、拒否、無関心層の認知には、典型性と 具体性が高いパワーエグゼンプラーに相当する部分が、欠けている様子が見られた。パワー エグゼンプラーを認識することは高知識、高関与層だけに可能なことと言える。すなわち、拒否 層にとって典型的、抽象的にしか見えないプロトタイプに、高関与層の持つ、製品知識および 自己知識が、そこに具体性を見出し、充填すると解釈できる。
また、研究-3では、背景と前景のマッチングを考慮する必要があるとしたが、これについて は、背景なし/背景あり(典型)/背景あり(非典型)という3水準で、実験計画を立てることも 考えられる。これに前景(典型)/前景(非典型)を組合せた6条件の組合せで調査を行えば、
マッチングを考慮した検証が可能であり、これは今後の課題としたい。
見慣れた刺激は無関心・拒否層には負の典型性として、カテゴリーイメージとリンクしている。
この認知を突き崩すには具体的サブタイプに位置する刺激を提示する必要がある。すなわち、
新規開拓するには、典型性をいったん下げ具体性を高めたサブタイプを作るところからスター トする必要がある。典型性を下げるとは、新奇性、あるいは意外性を持たせることにつながり、こ れは「はじめに」で述べた、新たな消費者に訴求する発想にあたる。
本研究にあたって協力をいただいた広報マネジャーは、かつてはイメージ訴求の広告を多 用していたこともあったが、現在は、機能面については製品そのもので押し、情緒面は若者文 化のアートや音楽、スポーツとのコラボレーションで訴求をしていると語った。本研究における プロトタイプ、パワーエグゼンプラー、サブタイプに当てはまるマーケティング・コミュニケーショ ンと解釈することも可能である。
最後に、今回使用した写真刺激の具体性について考察を加えたい。今回の実験刺激では、
写真になっている時点で既に具体的であるという指摘も可能である。現実に存在するダンサー や製品としての腕時計を写真に取り入れているためである。しかし、同じ題材を描いていても 絵画に具象と抽象があるように、同じダンサーやプロダクトを用いていても、撮影するカメラマン および広告を制作するデザイナーの方針次第で、具体的な広告も、抽象的な広告も作成可 能である。本研究で捉える具体性の幅とは、この視点から得られるバリエーションの豊かさを表 している。
研究の限界と課題 6.13.
本研究における課題を5点ほど挙げる。第一に、無関心・拒否層への調査であったことに加 え、インターネットによる調査のため、写真刺激の提示方法、反応測定方法が一定の制約を受 けることとなった。提示枚数や質問数の制限である。インターネットを通じて広告効果実験を行 うことの限界を意識しつつ、使用する調査システムで許される限り、実施方法を吟味した。また、
バレエと腕時計という、限られたカテゴリーにおける、限られた写真点数への測定結果である。