第一節 総合考察
第六章 総合考察
本章では、得られた対象者ごとの考察内容から、総合考察を行う。それを踏まえて課 題点を指摘する。
第一節 総合考察
各学習環境と学習動機の関連性について総合的に考察する。聾学校型の学習環境と学 習動機について、通常学級型の学習環境と学習動機について、難聴学級の学習環境と学 習動機についてそれぞれ総合考察を行う。
! 聾学校型の学習環境と学習動機
聾学校型の学習環境は、同一集団の集団保障があり、手指媒体と音声媒体と書記媒体 の情報保障がある環境である。この聾学校型を経験した対象者は、B,C,E,F,Gの7 人中5人である。その全員が初期学習段階が聾学校型ではなく、地域の学校の通常学級 型や難聴学級型を経て、中等教育段階で聾学校に入り、聾学校型の学習環境を経験した 者で占めていた。そのため、5人の間ではどういう事情にせよ地域の学校から聾学校へ 移行するに当たり、学習環境も通常学級型・難聴学級型から聾学校型へ大きく変化した
と考えることができるだろう。通常学級型・難聴学級型と、聾学校型の間で大きく異な る点は、手指媒体の情報保障があるか、ないかである。聴児で多数を占める地域学校の 中にある通常学級型と難聴学級型では、手指媒体の情報保障はなされていないが、聴覚 障害児で占める聾学校の聾学校型の学習環境では、手指媒体の情報保障がある。
そのような背景から、B,C,Fは聾学校に入ったとき、教師もクラスメートも授業時 に手話を用いて進めていたことについて言及した。その環境の中では、「授業の内容が分 かる」「クラスメートが何を話しているか分かる」など、授業における肯定的な意識があ ったことが見出された。Bは、聾学校に入るまで苦手意識を持っていた数学が、聾学校 に入った後には苦手意識がなくなったこと、Fは聾学校に入ってから英語の学習が面白 いと思うようになったことについて言及した。手話があることにより、安定した情報入 力が望めるようになり、その結果学習動機も高まったことが見出された。これにより、
手話を含む手指媒体の情報保障がある環境では、手指に依存することで学習ができるよ うになりたいという、手指媒体志向の学習動機が高まった。したがって、聾学校型では
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第六章 総合考察
第一節総合考察
手指媒体志向の学習動機が高まる学習環境であることがわかった。
2 通常学級型の学習環境と学習動機
通常学級の学習環境は、異文化集団の集団保障があり、音声媒体と書記媒体の情報保障 がある環境である。この通常学級を経験した対象者は、A,B,C,D,E,F,Gの7人 全員である。また対象者の全員が、地域の学校を学習環境の第一の学習段階を経験した 者で占めていた。この理由について、武田(1999)111や九鬼(2000)112は、聾学校の在 籍者の推移から、「幼稚部(入口)と高等部(出口)が多い」ことに触れ、逆に小学部と 中学部は比較的少ないことから、「しゃべれるようになる」「音が聞こえるようになる」
という期待感から幼稚部で言語指導を行った後、地域の小学校へ通う児童が多いとして いる。このことから、対象者全員が通常学級を第」学習環境に選択している理由も、こ の一因が大きいだろう。
この中で、Dは、聞こえる聴児集団である異文化集団に対して肯定的な意識があった ことが見出された。しかし、聴覚障害を持つために音声コミュニケーションの成立が困 難であり、そのため友人関係は不安定だった。富田・鷲尾(1999)113は、「自分が心理 的な負担を抱えていても、それについて気軽に相談できる相手がいなかったり、それを 解決するための必要なサポートを周囲に要求したりしやすい環境」ことが通常学級の特 徴であるとしている。このような環境であるため、他に頼る人がいなく、よって友人関 係を向上したいという気持ちがあったものと思われる。Dは、結果的に異文化集団に認
められたいために、学習ができるようになりたいという気持ちの異文化集団志向の学習 動機が高まった。Fも、学習において認められたいという気持ちはなかったが、異文化 集団に認められたいために、目立っ行動を行うことで聴児の気を引こうとしていたこと について言及している。したがって、多数の聴児で占める異文化集団がある学習環境で は、異文化集団志向の学習動機が高くなることがわかった。
また、書記媒体について、Aは小学校時代に得意意識を持っていた算数の勉強方法は、
教師の説明よりも教科書や問題集によるところが大きいことに言及した。しかし、これ
111 嵩c修(1999)聴覚障害児の指導と学校教育の諸問題、聴覚言語障害,28(2),123−128,
112九鬼英二(2000)全国聾学校児童・生徒数統計を読む.手話コミュニケーション研究,
35.37_43,
113 x田祐介・鷲尾純一(1999)インテグレーションしている聴覚障害中学生の対人関 係に関する意識調査.聴覚言語障害,28(4),193−204.
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第六章 総合考察
第一節総合考察
は書記媒体の特性というよりも算数や数学のもつ独自性による影響も考慮しなければな らないだろう。算数や数学は、他教科と違い計算など書記媒体に触れることが多い教科 である。よって、そのことを差し引いても、書記媒体に依存することにより生起される 学習動機である「書記媒体志向」の判断は難しいだろう。またCは、小学校時代は通常 学級・難聴学級を経験しており、音声媒体による授業進行があったものの、本人はその 内容を理解できず、よって教科書や問題集で先取りする形で学習内容を補完していた。
そのおかげで、通常学級では聴児に後れを取ることなく授業にっいていくことができた。
このように、学習の」因として書記媒体に依存するという学習動機が生起していた可能 性があると考えられる。また、Dは、音声による聴取理解が出来ず、よって通常学級の 授業中では先生の口形に依存することが多かった。それでも口形による情報取得には限 界があったため、教科書や問題集などで学習を補完していた。このように音声ではなく 書記媒体に依存することで書記媒体志向の学習動機が高まったと考えることが出来るだ ろう。Eは、小学校時代は通常学級と難聴学級に在籍しており得意科目が社会であった。
その得意理由は、社会の学習を授業中の先生のお話からの影響というより、歴史の本寺 によるところが大きいことに言及した。よって、社会の学習への動機の根拠は、歴史の 本という書記媒体であり、よって書記媒体に頼ることで学習動機が高まった事例である と考えることが出来るだろう。このように、通常学級においては、対象児に音声媒体に よる入力に制約がある場合、代替として視覚的な書記媒体に学習を依存する場合が多く 見られた。したがって、通常学級型の学習環境では、書記媒体志向の学習動機が高くな ることがわかった。
また、軽度な聴覚障害を持ち音声受容が可能であるGの事例を見てみると、通常学級 の中では他の聴児と同様に音声から授業内容の把握が可能であったことに言及した。こ のように、手指媒体がなくとも音声媒体がある環境の中で、音声媒体がGにとって内容 が理解可能であり受容可能な言語媒体であった場合、音声媒体に依存することで学習が できるようになりたいという音声媒体志向の学習動機が高まった。したがって、通常学 級では、音声媒体志向の学習動機が高くなることがわかった。以上をまとめると、通常 学級型では異文化集団志向、書記媒体志向、音声媒体志向の学習動機が高まる学習環境 であることがわかった。
3 難聴学級型の学習環境と学習動機
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第六章 総合考察 第二節 課題点
聾学校型の学習環境は、同」集団の集団保障があり、音声媒体と書記媒体の情報保障 がある環境である。この聾学校型を経験した対象者は、A,C,E,Gの7人中4人であ
る。
Dは、小学校と中学校時代のとき、通常学級より難聴学級の方が口形による情報が多 く受容可能な学習環境であったことに言及した。少人数であること、聴覚障害児に対応 した配慮があるという要因も含まれるだろう。本人にとっては音声媒体の受容が困難で あり、また手指媒体の情報保障も地域学校ではなされていなかったため、よって確実な 情報入力の情報源を、書記媒体のみだけでなく、授業中では担当教師の口形から読み取 ることで情報を得ることについて言及した。このことから、口形に依存することで学習 ができるようになりたいという気持ちである、口形媒体志向(仮定)の学習動機が高ま ったことが分かった。よって、難聴学級型の学習環境は、口形媒体志向の学習動機が高 まる場所であることが分かった。
改めて、三つの学習環境の類型から、「聴覚障害児の取り巻く学習環境の持つ構造と要 素が、聴覚障害児の学習動機に影響を与えている」とする仮説の検証について述べたい。
聾学校型の学習環境の構成は、同一集団が集団保障され、手指媒体、音声媒体、書記 媒体がある学習環境である。この中では、手指に依存する手指媒体志向の学習動機が高 まったことが検証された。
通常学級型の学習環境では、異文化集団が集団保障され、音声媒体、書記媒体がある 学習環境である。この中では、異文化集団に受容されたいという異文化集団志向の学習 動機と、音声媒体に依存する音声媒体志向の学習動機と、書記媒体に依存する書記媒体 志向の学習動機が高まったことが検証された。
難聴学級型の学習環境では、同」集団が集団保障され、音声媒体、書記媒体がある学 習環境である。仮説の範囲外であるが、口形媒体に依存する口形媒体に依存する口形媒 体志向の学習動機が高まったことが検証された。
第二節 課題点
本研究では様々な課題点が見つかった。調査では、7人の条件に当てはまる聴覚障害 者に対し調査を行ってきたが、その全員が第一学習環境が地域の学校であり、その後数 名が聾学校へ転校した対象者の内訳となっている。そのため、第一学習環境が聾学校で
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