• 検索結果がありません。

第五節 聴覚障害児の学習環境の分類

らさらに分類していきたい。

1 保障の観点からの分類

 保障とは、rその状態が失われることを避け維持するために、保護すること」である。

そして学習環境の特定の要素の保障とは、その要素が学習環境の構造体の中に存在する ことを確かにすることである。学習環境の要素は、社会的要因と言語的要因に分類され るため、要因ごとに異なる保障内容が考えられる。社会的要因の保障は「集団保障」を、

言語的要因の保障は「情報保障」が対応する。

(1)集団保障

 社会的要因においては、「集団保障」の考え方を適用したい。集団保障とは、「その学 習環境にその集団があることを保障すること」である。よって、同」集団と異文化集団 がその学習環境に集団保障されているかが着眼点になってくる。例えば、聾学校におい ては、異文化集団の集団保障はなされていないといった例が考えられる。

(2)情報保障

 言語的要因においては、「情報保障」の考え方を適用したい。その一般的な定義につい ては、太岡・下島(2003)79によれば、「聴覚障害者を対象に音声情報を手話・文字情報 等にメディア変換し、伝達する方法」としているが、本研究では別の解釈を行いたい。

情報保障とは、「その学習環境に言語的情報を持っ媒体があることを保障すること」とし て考える。内容の理解の、一歩手前にある内容伝達における保障と考えることが出来る。

 補足として、集団保障や情報保障といった保障についての考え方は、それぞれの保障 の範囲を厳密に考えたい。集団保障とは、その学習環境の空間内に集団が存在している

ことを保障するにとどまり、よって集団内における構成員同士の人間関係を保障する意 味には含まれない。集団保障がなされたといってそれは対象児の集団との関係性の良好 関係を保障するものではない。あくまで集団としての成員の交流機会を保障するだけで あり、個人内における人間関係については集団保障の範囲対象外である。情報保障も同 様であり、情報保障は、その学習環境の空間内に媒体が存在していることを保障するに

79 セ田晴康・下島がほる(2003)通常中学校における聴覚障害生徒への情報保障一イン テグレーションと、要約筆記を活用した学習支援一.ろう教育科学.45(3),191−202.

       28

        第一章 学習環境

第五節 聴覚障害児の学習環境の分類

とどまるものである。

2 聴覚障害児の学習環境の三類型

 以上に挙げた「集団保障」と「情報保障」の観点から、聾学校、通常学級、難聴学級 の三つの学習環境を定義したい。しかしながら、聾学校は中には例えば手話を導入して いたり導入していなかったりなど「手指媒体」の有無にばらつきがあり」足していない。

また難聴学級も同一集団がいる学級といない(聴覚障害児本人のみの)学級に二分化さ れるため、よって難聴学級は同一集団がいるかいないかはその学級に依存される場合が ある。このため、「一般的に言われている」聾学校の学習環境を、「聾学校型」とし、通 常学級の学習環境をr通常学級型」とし、難聴学級をr難聴学級型」とする。これを聴 覚障害児の学習環境の三類型とし、それぞれの学習環境の構成を要素から当てはめなが

ら定義していくことにする。

(1)聾学校型の構造

 聾学校の学習環境の現状と特徴から、要素を抽出して聾学校型の学習環境の構造を定

義したい。

 聾学校は、分離教育の一典型な教育様態である。同じ聴覚障害を持つ児童を同じ場所・

時間に集めて指導する形態である。そのため、学習環境はそうした特徴を大きく影響を 受ける。社会的要因については、同じ障害を持つ児童が学習集団として存在する。(中に は対象児しかいない場合がある)そのため、同」集団の集団保障はあると言ってよい。

異文化集団の接触は全く無い。例外として、行事としての地域の学校との交流学習など があるが、学習環境を挙げる上では影響が大きいとは思われないので、ここでは取り上

げない。

 また言語的要因については、聾学校は口話教育時代から長く続く音声による授業を維 持してきた。そのため、音声媒体の情報保障はあると考えてよい。近年における聾学校 の教育現場における手話導入により、聾学校の学習場面でも手話が積極的に使われるよ うになった。このことから、手指媒体の情報保障はあると考えることができる。また書 記媒体の情報保障もあると考える。

 よって、以上を整理すると、聾学校型の学習環境が持っ要素と、その構造は次のTab1e 3の通りになる。

29

        第一章学習環境

第五節 聴覚障害児の学習環境の分類

Table3聾学校型の学習環境の構造 同一集団  異文化集団  手指媒体の  音声媒体の の集団保障  の集団保障  情報保障   情報保障

聾学校

       ○

型 ×      O

書記媒体の 情報保障

O      ○

(2)通常学級型の構造

 通常学級の学習環境の現状と特徴から、要素を抽出して難聴学級型の学習環境の構造 を定義したい。

 通常学級は、地域の学校内における障害を持たない児童が存在する教育様態である。

原則的に、学級に在籍する児童は多数の聴児から構成される。よって、異文化集団の集 団保障はあり、同」集団の集団保障は無いと考えてよい。

 また言語的要因については、音声媒体と書記媒体が中心に情報保障されると考えてよ いだろう。手指媒体は一切使われていないため、手指媒体の情報保障は皆無であると考 えることができる。

よって、以上を整理すると、通常学級型の学習環境が持つ要素と、その構造は次のTable 4の通りになる。

Table4通常学級型の学習環境の構造 同一集団  異文化集団  手指媒体の  音声媒体の の集団保障  の集団保障  情報保障   情報保障

通常学

       ×

紙型 O      ×

書記媒体の 情報保障

O      ○

(3)難聴学級型の構造

 難聴学級の学習環境の現状と特徴から、要素を抽出して難聴学級型の学習環境の構造 を定義したい。

 学習環境の社会的要因の要素は、同一集団の集団保障は、その形態からあると考える。

30

         第一章 学習環境

第五節 聴覚障害児の学習環境の分類

難聴学級に在籍する児童生徒数は学校によって異なり、都道府県規模なため児童生徒数 が安定した学級もあれば、突然聴覚障害児が入学したためそれに合わせて難聴学級を設 置する場合、在籍人数が極端に少ない学級もある(高井,2006)80。ここでは異文化集団 の保障は、その形態から皆無である。

 学習環境の言語的要因の要素は、音声媒体と書記媒体の情報保障はある。手話を始め とする手指媒体の情報保障は、その形態から無いとする。平成18年の「全国難聴・言語 障害学級及び通級指導教室実態調査」の調査では、難聴学級の指導内容は、発音など音 声に関わる指導内容が主であることを報告している(特教研,2007)81。足立・西村(2000)

82ノよれば、聴覚活用と口話によるコミュニケーション手段が主であるということから、

手指媒体の情報保障は無いものと考える。

 よって、以上を整理すると、難聴学級型の学習環境が持っ要素と、その構造は次のTable 5の通りになる。

Table5難聴学級型の学習環境の構造

同一集団  異文化集団  手指媒体の  音声媒体の  書記媒体の の集団保障  の集団保障  情報保障   情報保障   情報保障

難聴学

       ○

紙型

×         × O       O

 以上に、三つの学習環境の類型を述べてきた。こうした聾学校の学習環境の構造と、

通常学級の学習環境の構造、難聴学級型の学習環境の構造を同時に提示すると次のTable 6の通りになる。

80 h芟b美(2006)通常の小・中・高等学校における教育と支援,中野善達・根本匡文

(編著)聴覚障害児教育の基本と実際.129−158.

81 チ別支援教育総合研究所(2007)平成18年度「全国難聴・言語障害学級及び通級指 導教室実態調査」結果報告書.

82 ォ立貢・西村則子(2000)大阪における難聴学級(通級指導教室)の現状と課題一ア ンケート調査の結果から一.ろう教育科学,43(3),151−164.

31

        第一章 学習環境

第五節 聴覚障害児の学習環境の分類

Tab1e6学習環境の基準 同一集団  異文化集団  手指媒体の の集団保障  の集団保障  情報保障

聾学校

       ○

通常学

       × 紙型

難聴学

       ○ 紙型

×      O

O      ×

×        ×

音声媒体の  書記媒体の 情報保障   情報保障

O      O

O      O

O      O

 本章では、聴覚障害の学習環境を聴覚障害児教育の現在の制度に当てはめて、「聾学校 型」、「通常学級型」、「難聴学級型」の三類型を定義した。その上で、それぞれの学習環 境に含まれる学習要素は、社会的要因の観点から「同一集団」と「異文化集団」の二要 素、言語的要因の観点から「手指媒体」、「音声媒体」、「書記媒体」の三要素とした。こ の合計五要素の有無を、集団保障と情報保障の観点から学習環境の三類型の構造をそれ ぞれ定義した。こうした三類型の学習環境は、学習動機にどのように影響を与えている のだろうか。要素レベル、構造レベルでどのように影響を与えているのだろうか。次章 では、学習動機について考えていきたい。

 また、本研究の調査では対象者年齢は20歳〜30歳を想定している。それを考慮する と対象者の初等教育段階の開始時期は14〜26年前(1996年〜1986年)、中等教育段階の 開始時期は、8〜18年前(2002年〜1992年)、後期中等教育段階の開始時期は、5〜15 年前(2005年〜1995年)ということになる。その時の学習環境についてすっかり変容し ていることを断っておきたい。特に言語媒体の情報保障の内容は、手話の導入が増加し ていることもあいまって、現在の状況とはかなり違った内容であることが想定される。

32