この関係性欲求を充足する条件として、対象児における「重要な他者」とのつながり が重要となる(Ryan&Comel,1989)95。岡田(2007)は、一学習においては、r重要な他 者」との親和関係性が、学習に対する精神的安定を生むとした。そのために、学習集団 への所属感を得ることを目標として努力することが関係性欲求(親密欲求)となる。こ の関係性欲求の尺度は、二つの極からなるだろう。一つは「受容されている」という欲 求充足感であり、もう一つは「受容されたい」という欲求不満のことである。よって「受 容されたい」と、r受容されている」の間で揺れ動いていると考えることができるだろう。
この関係性欲求を達成するにあたり、学習者は関係を求める相手を「誰に対して」、つま り関係性欲求を向ける対象先(志向先)がポイントになってくるだろう。
2 有能性欲求
「有能性」は「自分はできるのだ」という気持ちのことである。学習面では、与えら れた学習課題に対し自分のカでやり遂げることにより、自分に対する自信、有能性を感
じる(安藤・岡田、2007)96。そして、「有能性欲求」とはそれを欲求する動因のことで ある。「私はできる人間でありたい」という気持ちのことである。コネル・ウェルボーン は、この中位構成素として「方略の認知」と「能力の信念」を、さらに下位構成素とし
て「努力」、「能力」、「重要な他者」、「運」、「不明」が「方略の認知」に含まれ、「努力」、
r能力」、r重要な他者」、r運」がr能力の信念」に含まれるとした(Comell&We11bom,
1991)97。
二の有能性を充足する条件として、学習者の頭の中で、「課題の情報」が混沌状態から 構造化・整備された状態へ移行する必要がある(Ski㎜er&Edge,2002)98。課題の情報 が構造化されたとき、学習者は初めてその課題が自分にとって出来る・出来ないという
motivational ana1ysis ofselisystem prosesses.Gannar,M、&Sro雌,A.(Eds)Minnesota lぎmposi・m㎝・hildpsy・h・1・gγUni…sity・fChicag・P・・…Chi・ago・IL・
Ryan,R,M、&Connell,J.R(1989)Perceivedlocusofcausa1ityandintema1ization:Examing reasonsわr acting in two domains.Joumal ofPersonalities and Socia1Psychology,57,749−761.
96 タ藤史高・岡田涼(2007)自律を支える人間関係,中谷素之(編著)学ぶ意欲を育て る人間関係づくり一動機づけの教育心理学.35−58,
97bomell,J.P。&Wellbom,J.R(1991)Competence,autonomy and re1atedness:A motivationa1 analysis ofse咋system prosesses.Gamar,M.&Srou危,A.(Eds)Minnesotasymposium onchi1d 貯y・h・1・gγU・i・・「sityofChi・・g・P「e…Chi・・g・IL・
SkinneL E.&Edge,K.(2002)Selトdetermination,coping,and deve1opment.Deci,E.L Ryan,R.M、(Bds)HandbookofSe1トDetermination Rsearch.The University ofRochester Press.
Rochester,NY
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第二章 学習動機 第二節 聴覚障害児の学習動機
達成基準を判断することが可能になる。学習に対する恐」1布、特に有能性は情報不足に対 する恐怖と密接な関係があるだろう。とある課題に取り組む場合、多くの場合、教師か
ら児童へ次の課題について言語的情報が与えられる。私はそれをできるかどうかを判断 する.ときに、その課題の情報の多寡が決め手になる。この有能性の尺度は、「できる」「で きない」という因子からなる。この有能性欲求を達成するにあたり、学習者は課題の情 報を構造化してくれる言語媒体が何であるかが重要になってくる。そうした言語媒体の
中から「どれに対して」頼ることで、学習ができるようになりたいと考えるのか、その 言語媒体の依存先(志向先)がポイントになってくるだろう。
第二節 聴覚障害児の学習動機
聴覚障害児の学習動機を考えるとき、聴覚障害がどのように学習動機に影響を及ぼす かそれについて考える必要がある。
1 聴覚障害児の関係性欲求
関係性は前述したとおり、「私は受容されているのだ」という気持ちのことであり、関 係性欲求は「私は受容されたい」という動因である。またこのとき誰に受容されたいと 考えるかが焦点になってくる。聴覚障害児における関係性について考えるとき、聴覚障 害児が取り巻く学習場面の中で、誰に受容されたいかを考えることができるだろう。つ まり、耳が聞こえない聴覚障害児集団に受容されたいために学習する気持ちや、または 耳が聞こえる聴児集団に受容されたいために学習する気持ちを学習動機として考えるこ とができるだろう。前田(1994;2001)99100は、聴覚障害児にとって、子どもの集団内 で互いに意思疎通を図ることのできる共通手段を保障することが学習の向上につながる ことを指摘している。このことから、聴覚障害児にとって他者受容への欲求が学習の成 立にっながるということであり、よって誰に対してという関係性欲求の志向先を聴覚障 害児集団かまたは聴児集団の範囲内で考える枠組みを、聴覚障害児特有の関係性欲求と して考えることができるのではないだろうか。これについては、次章の研究仮説の中で 説明していきたい。
99 O田芳弘(1994)幼児期の言語・コミュニケーション指導における手話・指文字の長
所と課題.聴覚障害,49(7),19−24,
100O田芳弘(2001)日本語による一言語教育の見直し一北欧バイリンガル教育を視察し
て一.聴覚障害,600,30−35.
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第二章 学習動機 第二節 聴覚障害児の学習動機
2 聴覚障害児の有能性欲求
有能性は前述したとおり、r自分はできるのだ」という気持ちのことであり、有能性欲 求は「私はできる人間でありたい」という動因である。またこのときは、どの言語媒体 に依存したいと考えるかが焦点になってくる。聴覚障害児における有能性について考え るとき、聴覚障害児を取り巻く学習場面の中で聴覚障害児の持つ個々の媒体に対する受 容能力を基にどの言語媒体に情報を依存しているかを考えることができるだろう。学習 場面には、音声から手話、文字などといったさまざまな言語媒体が介在してあり、聴覚 障害児の視覚・聴覚の受容能力によっては、それぞれの言語媒体に対する情報の多寡が 限定される。窪田・長南(2006)101は、ノートテイクによる書記媒体の情報保障の実施 前と実施後を比較すると、実施前は先生の質問に対する聴覚障害児の挙手は全くなされ なかったが、ノートテイク実施後は勉強を意欲的にやっていたという報告している。こ のように、学習場面における受容可能な言語媒体の有無が、私はできるのだという有能 性欲求を達成する条件となりうる。よって、どの言語媒体に対して依存するかという有 能性欲求の志向先を手話や音声、文字の範囲内で考える枠組みを、聴覚障害児特有の有 能性欲求として考えることができるのではないだろうか。これについては、次章の研究 仮説の中で説明していきたい。
l01 E田博子・長南浩人(2006)聴覚障害児の情報保障に関する研究一高知県における 実態調査と情報保障の実践から一.ろう教育科学,48(1),31−40.
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