第 6 章 日本語学校生の学習動機と自己形成および在籍期間の関係
6.3 総合考察
本調査の目的は、期待価値理論を用いて、学習動機と自己形成の関連を示すこと、およ び在籍期間との関係を示すことであった。
学習動機と自己形成因子をそれぞれ在籍期間別の学習者群に分けて分析したところ、両 者とも時間の影響を受けることが判明した。すなわち、在籍期間が長い学習者は、学習動 機の因子のうち、「内発的価値」、「能力期待」、「努力肯定」が低く、自己形成因子の うち、「心理社会的同一性」が低いことが分かった。このことから、在籍期間の長い学習 者は、複数の学習動機の低下と同時に、日本社会の中で居場所が確立されていない感覚を 覚えると考えられる。
日本語教育における学習動機研究において、内発的動機と自己効力感が注目されてきた が、構成概念の類似する「内発的価値」と「能力期待」は、在籍期間が長い学習者におい て有意に低いことが明らかになった。特に、学習の継続には、自己効力感(楊2011,岩本
2010)や成功体験(稲葉・倉田2017,岩本2010)が有効であると報告されているが、日本
語学校生の場合、「能力期待」が低下することは、留意すべき点である。
では、教育の現場ではどのような対策が有効であろうか。重回帰分析の結果から、「心 理社会的同一性」が「能力期待」に正の影響を与える可能性が示唆されたため、学習者の
居場所づくり、すなわち社会における位置取り61に目を配る必要があろう。現場の教師は、
学習者の現在のクラスの人間関係や教室外の活動などを把握する機会を持つことが有効だ と考えられる。また、教師側から働きかけを行うタイミングは、入学直後よりも半年ある いは一年経った時に行うのが望ましいだろう。
なお、本調査においては、自己形成及び学習動機において性差も見られた。男子学生は 女子学生に比べて、自己形成因子の「自己斉一性・連続性」と「対他的同一性」が有意に 低いことから、男子学生の方が留学に伴う環境の変化から影響を受けやすいことが示され た。さらに、在籍して6 か月から10 か月の間の男子学生は、他の期間の男子学生群より も、また同時期の女子学生群よりも、「能力期待」が有意に高いことからも、在籍して半 年経過した頃の学習者を取り巻く社会環境が、男子学生の学習動機に非常に大きい影響を 与えることが考えられる。入学して半年経って留学生活に慣れてきたことや、アルバイト や課外活動などの外部社会との接点が多くなったこと等から自信が生まれる可能性が考え られるが、現時点では推測の域を出ない。Ellis(1994/1996)は、性差は、年齢やエスニシ ティ、社会的地位とも関連しているため、明確な結論は導きにくいと述べているため、次 章では、それらの要因も考慮した質的調査を進め、具体的な事例を確認する必要がある。
学習動機および自己形成因子が低下するのはなぜか、それぞれの学習者にとっての「社会」
が何を指すのか、具体的に考察する。
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