第 5 章 日本語学校生の学習動機について―期待、価値、学習困難意識の関係―
5.2 結果
5.2.1
尺度構成と信頼性および妥当性の検討(1) 尺度作成と内的信頼性の検討
回答について最尤法プロマックス回転の因子分析を行い、固有値の落ち込み(6.00, 3.12, 1.53, 1.17, 1.03, 0.79, 0.71)から5因子解を採用した。因子抽出後の共通性が2つの因子に おいて.30以上を示した項目と、3 つの因子において.20以上の値を示した項目を削除し、
最終的に18項目を使用した。結果を表5-1に示す。
第1因子は「日本語を勉強することは進学したり就職したりするために役立つと思う」
などの利用価値3つすべてと、「日本語の上達のために努力していることは私のためにな ると思う」という獲得価値2つを含む内容のため、「利用獲得価値」と名付けた。第2因
表 5-1 「日本語学習者向け期待・価値・学習困難意識尺度」の因子分析結果
項目 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ
第Ⅰ因子 利用獲得価値 α=.84
日本語を勉強することは,卒業後勉強したり仕事したりする時に役立つ .94 -.00 .01 -.13 -.04 日本語を勉強することは,進学したり就職したりするために役立つと思う .81 .03 -.10 -.08 .00 日本語の勉強は,学校以外の日常生活で役立つと思う .75 -.06 -.03 .11 .02 日本語で物事を考えたり表現したりすることは,重要なことだと思う .47 -.01 .11 .13 .04 日本語の上達のために努力していることは,私のためになると思う .46 .11 -.03 .23 .03 第Ⅱ因子 努力肯定 α=.77
テストでいい点を取るためにたくさん勉強しなくてはならない -.03 .86 -.01 -.11 -.01 これからいい成績を取るために,頑張らなくてはならない .01 .83 -.05 .03 -.08 さらに上のレベル(クラス)に行くために沢山頑張らなくてはならない
日本語の授業でいい成績をとることは,自分にとって大切なことだと思う .01
.14 .57 .45
-.02 .22
.17 -.04
.14 -.01 日本語の授業でいい成績を取ることは、自分にとって大切なことだと思う .18 .45 .18 -.04 -.01 第Ⅲ因子 能力期待 α=.78
この学校(クラス)の中で,私は日本語ができるほうだ -.05 -.00 .84 -.02 .00
私は日本語が得意だ -.08 -.05 .72 .08 -.02
私は,他の学生よりも,日本語が上手になると思う .10 .06 .66 -.06 .02 第Ⅳ因子 内発的価値 α=.80
日本語の勉強が好きだ -.06 -.01 -.02 .87 -.03
日本語の勉強は面白い .10 .01 .00 .72 .02
日本語を使うのは楽しい .27 -.04 .04 .48 -.08 第Ⅴ因子 学習困難 α=.68
日本語の勉強は大変だ .07 .00 .07 -.01 .72
これまで勉強した他の科目に比べて,日本語の勉強は大変だ .01 -.05 .02 -.07 .67 他の学生と比べて,私は日本語の勉強に苦労している -.09 .04 -.14 .05 .52
因子相関行列 Ⅰ ―
Ⅱ .57 ―
Ⅲ .19 -.16 ―
Ⅳ .66 .45 .27 ―
Ⅴ -.06 .21 -.30 -.11 ―
子は「テストでいい点数を取るために努力しなくてはならない」などの努力必要3つをす べて含むので、「努力肯定」因子と名付けた。第3因子は「私は他の学生よりも日本語が 上手になると思う」など、能力への期待を示しているため、「能力期待」因子と名付けた。
第4因子は「日本語の勉強は楽しい」など内発的価値を含む内容であるため、「内発的 価値」因子と名付けた。第5因子は「日本語の勉強は大変である」など学習困難の項目 をすべて含むため、「学習困難」因子と名付けた。
因子ごとにクロンバックのα係数を求めたところ、第1因子α=.84、第2因子α=.77、
第3因子α=.78、第4因子α=.80、第5因子α=.68と概ね整合性のある値となった。
(2) 妥当性の検討
「利用獲得価値」「内発的価値」「能力期待」「努力肯定」「学習困難」と、妥当性 検討のための既存の学習動機づけ尺度において、ピアソンの相関係数を求めた。結果を 表5-2に示す。
表 5-2 妥当性の検討(ピアソンの相関係数の結果)
利用獲得価値 内発的価値 能力期待 努力肯定 学習困難 1 制度的利用価値 .40** .33** .17** .38** -.12*
2 学業的利用価値 .39** .36** .19** .34** -.14**
3 実践的利用価値 .44** .35** .18** .34** -.10 4 私的獲得価値 .33** .34** .23** .30** -.12*
5 公的獲得価値 .18** .19** .35** .17* -.02 6 興味価値 .36** .58** .29** .28** -.15**
7 期待 .15** .35** .70** -.01 -.28**
8 努力必要度 .04 -.00 -.27** .31** .40**
9 学習困難度 -.05 -.14** -.38** .13* .51**
* : p≺.05, **: p≺.01
「利用獲得価値」は、尺度作成時における「利用価値」と「獲得価値」の2つの尺度を 含む概念となり、表5-2の1「制度的利用価値」から6「公的獲得価値」までと、r = .33か
らr =.44までの正の相関を有することが分かった55。また、「興味価値」とr = .36、「期
待」とr = .15の正の相関を有することが分かった。
「内発的価値」は1から7の尺度とr = .19以上の正の相関を有し、特に6「興味価値」
とr =.58という比較的高い正の相関が見られた。また、9「学習困難度」とはr = - .14の負
の相関を有することが分かった。
「能力期待」は,1から7の尺度とr = .17以上の正の相関を有し、特に7「期待」とr
=.70の高い正の相関が見られた。また、8「努力必要度」とr = - . 27、9「学習困難度」とr
= - .38の負の相関を有することが分かった。
「努力肯定は」、1「利用制度価値」から6「興味価値」とr = .17からr =.38までの正の 相関を有する一方、8「努力必要度」とr =.31、9「学習困難度」とr =.13の正の相関を有し た。
「学習困難」は、8「努力必要度」とr =.40、9「学習困難度」とr =.51の比較的強い正の 相関を有した。その一方で、1「制度的利用価値」とr = - . 12、2「学業的利用価値」とr = - . 14、4「私的獲得価値」とr = - . 14、6「興味価値」とr = - . 15、7「期待」とr = - . 28の 負の相関を示した。
以上の結果から、全ての因子が、構成概念の類似する既存の尺度の因子と相関関係があ ることが分かった。また、学習困難意識は、他の構成概念を持つ尺度と負の相関関係を示 し、本研究の理論の枠組みを支持する結果となった。すなわち、今回作成した「日本語学 習者向け期待価値および学習困難意識尺度」は十分な妥当性を有すると考えられる。
ただし、「努力肯定」については、「努力必要度」及び「学習困難度」と正の相関関係 があるものの、学習行動を促進する他の因子とも正の相関関係を示した。これについては、
5.3において考察する。
5.2.2 学習動機因子間の関連
因子分析で抽出された「利用獲得価値」、「内発的価値」、「能力期待」、「努力肯定」、
「学習困難」の5つの因子について、ピアソンの相関係数を求めた。結果を表5-3に示す。
55 伊田(2001, 2004)では自己を「自ら望ましいと思う自分(私的獲得価値)」と「他者から見て 望ましい自分(公的獲得価値)」の二つに分けて分析している。
表 5-3 因子間の相関関係の結果
* : p≺.05, **: p≺.01
「利用獲得価値」と「内発的価値」はr =.61という比較的強い正の相関を、「利用獲得価 値」と「能力期待」はr =.18、「内発的価値」と「能力期待」はr =.29という正の相関を有 した。
「学習困難」は、「能力期待」とr= -.25、「内発的価値」とr = -.17と負の相関を有した。
「努力肯定」は、「学習困難」とr =.11の正の相関を有する一方で、「利用獲得価値」と
r =.51、「内発的価値」とr =.38と比較的強い正の相関を有した。
5.2.3 学習動機因子と学習時間・主観的達成度・自己効力感との関連
学習動機因子が、学習時間・主観的達成度及び自己効力感をどの程度予測しうるのか調 べるため、学習動機(「利用獲得価値」、「内発的価値」、「能力期待」、「努力肯定」、
「学習困難」)を独立変数、学習時間・主観的達成度・自己効力感を従属変数とし、強制 投入法による重回帰分析を行った。重回帰分析の結果を表5-4に示す。
表 5-4 学習動機と学習時間・主観的達成度・自己効力感との関係(重回帰分析の結果)
学習時間 主観的達成度 自己効力感 1 利用獲得価値 -.12 -.04 -.10 2 内発的価値 .20** .12 .24***
3 能力期待 .05 .26*** .60***
4 努力肯定 .22*** -.16** .03 5 学習困難 .15** -.00 -.10**
R2 .10*** .11*** .50***
1 利用獲得価値 2 内発的価値 3 能力期待 4 努力肯定 5 学習困難 1 利用獲得価値
2 内発的価値 .61**
3 能力期待 .18** .29**
4 努力肯定 .51** .38** -.06
5 学習困難 -.07 -.17** -.25** .11*
*: p≺.05、 **: p≺.01、 ***: p≺.001
表5-4から分かるように、学習時間に対し、「内発的価値」と「努力肯定」、および「学 習困難」が正の影響を与えている。主観的達成度に対しては、「能力期待」が正の影響を、
「努力肯定」が負の影響を与えていることが分かった。自己効力感に対しては、「内発的 価値」と「能力期待」が正の影響を、学習困難が負の影響を与えている。