• 検索結果がありません。

本研究の理論の枠組み

第 4 章 本研究の理論の枠組みと研究方法

4.2 本研究の理論の枠組み

るという目的に合致していることと、教育的応用を念頭にした場合にふさわしいと述べて いる。

日本語教育では、竹口ら(2016)が、ロシアの大学生117名を対象に伊田(2001)の使 用した尺度に修正を加え、質問紙調査を行った。その結果、学習活動が手段化された性向 の強い制度的利用価値、職業的利用価値が、学習行動が目的化された性向の強い興味価値 と比較的高い相関を示したことから、「日本語を進学・就職・実地で生かす」という学習活 動の手段化と、授業への関心という学習の目的化は、どの段階においても両立可能である ことを示唆している。また、「上・下級生」と「留学希望積極群・留学希望消極群」の2要 因分散分析を行った結果、留学希望積極群は全ての価値因子において高い数値を示してい ることから、日本への渡航を意識すると、学習の意義もより高く感じられることを報告し ている。

「期待」は、前節でも述べたように、自分の能力に対する認識と密接に関わっており、

将来に焦点化するものである。タスクをやり遂げられると信じている時、人はそのタスク に取り組みやすく、かつ持続しやすい。日本語学習に当てはめれば、「私は日本語が上手に なるだろう(能力期待)」、「私はいい成績が取れるだろう(結果期待)」という意識である。

「獲得価値」は、個人にとっての活動の重要性のことで、アイデンティティの問題とも 関わる。日本語学習に当てはめて例えれば、「日本語の勉強は大切だ/私は日本語学習に向 いていると思う」という認識である。「内発的価値」は、そのタスクから得られる楽しさを 意味する。例えば、「日本語の勉強が好きだ」という認識である。「利用価値」は、タスク が個人の現在および将来の計画にどの程度合致しているかを示しており、近い将来、また は遠い将来の展望とも関連している。「日本の大学に進学したい(あるいは大学進学後、就 職したい)から、日本語を勉強している」という認識がそうである。

「学習困難」は、現在の学習課題を困難だと認識する意識task difficultyと、課題遂行に 対して努力が必要であるという意識required effortを含む。前者は「日本語の勉強は難しい」

という認識、後者は「日本語の勉強を頑張らなくてはいけない」という認識である。

次に、学習動機の要因の上の矢印の部分を説明する。前節の図4-1に示した期待価値モ デルによれば、「期待」と「価値」の意識は、自己スキーマや情動的記憶から影響を受ける。

図 4-2 本研究の理論の枠組み 期待 価値

「私は日本語が上 手になるだろう」

「日本語の勉強は重要だ」獲得価値

「日本語の勉強は楽しい」内発的価値

「日本語の勉強は役に立つ」利用価値

「日本語の勉強は難しい」

学習困難

「日本語の勉強を頑張ら なくてはいけない」

努力必要 学習困難 自己形成

学習環境

正の相関関係

学習行動

負の 相関関係

期待 価値

さらに、それは文化環境や両親などの社会化促進者の影響を受ける。本研究では、青年期 の自己形成期にある日本語学校生を対象とするため、学習動機に影響を与える要因として

「自己形成」を取り上げる。具体的には、エリクソン(1959/2011)の「個人的同一性personal

identity」と「社会的同一性social identity」を構成する要因が、学習動機の要因とどのよう

な関連があるのか検討し、さらに、自己形成及び学習動機に影響を与える要因として「学 習環境」についても考察する。ただし、「学習環境」は極めて大きい概念のため、学習者へ の個別インタビューからいくつかの具体的な事例を提示するにとどめる。

本研究でEccles & Wigfield (1995)を援用する理由は以下の3点である。第一に、期待

価値理論は学習の「価値」の側面に注目しており、なかでもEccles & Wigfield (1995)は 学習困難意識も学習動機因子に含んでいるからである。第3章で指摘したように、先行研 究では自己効力感及び内発的動機が多く報告されているが、それだけでは自己効力感や内 発的動機が低くても学習を続ける態度を説明することはできないからである。日本語学校 生のように、進学のために1-2 年間という比較的長い時間に渡って学習動機を維持する学 習者を捉えるためには、従来の日本語教育ではあまり扱われてこなかった「利用価値」や

「学習困難」意識についても考察することが肝要だと考えるのである49

第二に、期待価値理論は社会的認知理論から発達し、時間およびジェンダーの観点も含 んでいる。そのため、学習者と環境の相互関係および時間的変遷について考察する本研究 に合致すると考えられるからである。Eccles らの先行研究によれば時間の経過と共に学習 動機は低下すること、男子学生と女子学生の学習動機に科目別に有意差が見られることが 分かっているが、日本語学校生の学習動機にも同様に、在籍期間や性差で異なる値を示す のか、検討したい。

第三に、教育心理学の理論を援用することにより、他の教科学習と第二言語習得との共 通点・相違点があきらかにできるからである。Dörnyei(2003)は「第二言語習得はアイデ ンティティが絡む点において、他の教科学習とは性質が異なる」と主張するが、具体的に はどの要因において相違が見られるのだろうか。本調査では、教科学習で援用されている 期待価値理論を用いることにより、Dörnyei(2003)の主張の妥当性を検討したい。

49八島(2004:49-52)は、期待価値理論の「期待」をさらに細分化したものとして、帰属理論、自 己効力感理論、自己価値理論 を挙げ、「獲得価値」には「統合的動機」との関連性、「内発的 価値」とは「内発的動機」との関連性、「利用価値」とは「外発的動機」および「道具的動機」

との関連性が見られると指摘する。