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第 7 章 日本語学習者の学習動機および自己形成と社会環境との関係

7.1 方法

7.1.2 分析方法

(1) インタビュー・スクリプトの作成

インタビュー・スクリプトの作成にあたっては、桜井(2002)を参考に、以下のようなル ールを設けた65。インタビュー協力者は表7-1と同様に学習者A、B、C、Dと記し、質問 者である筆者は*印で表した。

①話されているところに発話が重複した場合、二重斜線(//)で挟んで挿入する。発話の 流れのなかでの沈黙、休止、途切れは丸括弧内にドット(…)で示される。

②長音(ー)記号を、長さに応じて連続して挿入する。

③句点(。)は文の切れ目を表し、読点(、)は語句の断絶を明らかにする息継ぎの箇 所を示す。

④疑問符(?)は、語尾が疑問文で終わっていないときの上昇音調を示す。

⑤語り手と聞き手双方とも、笑いは(笑)で表す。

⑥ 音声が聞き取りにくい場合、丸括弧のなかに聞き取れた音声を表記し、疑問符をつけ る。全く聞き取れない場合は丸括弧内を空白にする。

⑦ インタビュー場面の状況や語り手の表情など、括弧内に聞き手(筆者)が気づいたこ とを記述する。

(2) インタビュー・スクリプトの分析

次に、インタビュー・スクリプトの分析を、以下の手順で行った。分析の方法は佐藤(2008)

を参考にし、1ターンごとにその会話の内容を書きこむ「オープン・コーディング」と、い くつかの会話をより抽象的なコードにまとめる「焦点的コーディング66」を用いて整理し た。細かい手順は以下の通りである。

① インタビュー・スクリプト音声データを、Microsoft Office Excelに貼り付ける。

65 本調査では、会話のスタイルよりも内容を重視するという立場を取り、「んー」といった相づ ちはスクリプトには載せない、会話の重複はカウントしないなど、桜井(2002)より簡素化した方 法を用いた。

66 佐藤(2008)によれば、スクリプトを分析する過程で、抽象度の高い、比較的少数の概念的カ テゴリーに対応するコードを選択的に割り振っていき、それらの概念同士の関係について明らかに していく作業を「焦点的コーディングfocused coding」と呼ぶ。

②インタビュー・スクリプト 1 ターンごとに調査協力者のイニシャルと番号をつける。

(例えば、A1:12 は、Aの1回目のインタビューの12番目のターンの会話となる。)

③②のスクリプトに小見出しをつける。小見出しは、一つのターンに一つける(オープ ン・コーディング)。その際に、特に気になる発言は、色をつける。

④いくつかの小見出しをまとめる見出しをつける(焦点的コーディング)。本調査では、

あらかじめ質問項目を設定していたため、それに沿って焦点的コーディングを行った67

(コーディング例は図7-1を参照のこと)。

⑤焦点的コーディングごとに4人の発言を一覧にまとめる。コーディングに分類できな かったものは、「未分類」のラベルをつけた(表7-3)。一覧の中に記述がないと気づい た箇所は、電話での追加インタビューの際に、質問した(表7-3の網掛け部分)。

(3) インタビュー・スクリプト、同心円図および学習動機のグラフを用いた考察

4 名のインタビュー・スクリプト、同心円図および学習動機のグラフ、筆者が作成し た6か月ごとの学習動機および自己形成の変遷図を元に、学習動機に影響を与える要因(自 己形成を含む学習環境)について考察を行った。

インタビューでは、時折調査対象者の語りにおいて時間が前後することもあったが、あ まり気にせず、自由に語ってもらうよう配慮した。そして、同心円図を用いて、日本語学 校在籍中のある時期における学習者を中心としたネットワーク図、いわば断面図を作った。

さらに、時系列に学習動機をとらえること、その時々の学習環境を聞くことで、学習動機 の変遷、いわば縦断図を作った。最終的には、学習動機および自己形成の断面図と縦断図 を参考にしながら、インタビュー・スクリプトを分析した。つまり、インタビュー・スク リプト、同心円図および学習動機のグラフは、本調査において相互補完的な役割を果たし ているのである。

67 佐藤(2008)によれば、既存の理論的枠組みやそれまでの調査結果などをもとにして、最初に 大まかなデータ分析のためのアウトラインを示す図式とそれに対応する一群のコードを作っておい たうえで作業を進めることも有効であると言う。本調査においては質問7項目に該当するコードに 当てはめる形で分析を進めたが、複数のコードに関連する発言や分類不可能な発言もあり、それに ついては結果と考察において、適宜明記することにした。

図 7-1 コーディングの例

インタビュー・スクリプト オープン・コーディング 焦点的コーディング

A1 133 *: そうですかー。それは、台湾のお友達ですかー、日本のお友達、同じですかですか。 台湾と日本の交流関係は同じか

A1 134 A: ちょっと違う。because日本語がまだ・・・。じゃ、//*: うんうんうん//日本語を使うの場合はちょっと、あー、緊張して。ちょっと違う。日本語がまだできないので緊張する A1 135 *: じゃ、多分、台湾のー、ええとー、Aさんはもっとアクティブ。//A: ん、はい//でー、今、ちょっと日本にいるからー、

日本語にまだちょっと自信がないからー//A: はい// 少しshyですか。 台湾の方がアクティブ。日本ではシャイ。

A1 136 A: でもー、4月からー、あー、半年だけー、日本で。も、もっとアクティブ、と思います。そういうほうがいいです。 4月からアクティブになった

A1 137 *: あと、ほんとに、日本語とてもきれいだと思います。 日本語が上手

A1 138 A: ほんと?ありがとうございます。 日本語が上手

A1 139 *: いえいえ。では、日本の中のAさんは、結構、とてもいいと思いますか。それとも、ちょっと大変だと思いますか。日本

の社会の中のAさんは・・・。じゃ、日本の中でAさんは、いい状態と思いますか。 日本の社会の中でどう感じるか

A1 140 A: いい状態? 日本の社会の中でどう感じるか

A1 141 *: うーん、do you think your situation, condition, A-san in Japan is very very good condition? of something … Please

evaluate. 日本の社会の中でどう感じるか

A1 142

A: 私? 日本?//*: 日本の社会で。// I think it is very good. The condition is very good。半年前にちょっと、全然 自信がない。日本語全然分からない。あいうえおから。今、今、少し、少しー日本語と英語ー、はい、じゃ、大丈夫か なーと思います。

とてもいい。半年前は自信がなかった。今は大丈夫 かなと思う

A1 143 *: ふーん、ありがとうございます。とー、(数秒)今、すみません、今、Aさんはおいくつですか。 Aさんの年齢は?

A1 144 A: 28歳。 28歳

A1 145 *: 最初、あいうえおを勉強したとき、クラスのー、クラスメイトは若かった、若い人が多かったですか? 半年前のクラスについて。クラスメイトは若い人?

A1 146 A: はい、はい。27歳、28歳の時、あいうえお。ちょっと遅いです。 みんな若い。27歳であいうえおは遅い

A1 147 *: あ、そうですか。でも、今、もう早く勉強したから。 今はもう日本語が分かる

A1 148 A: はい、はい。 今はもう日本語が分かる

A1 149 *: あ、そうですか。わかりました。今、学校以外で何か、趣味とか、何かアルバイトしていますか? アルバイトは?

A1 150 A: アルバイト?んー、ないです。 していない

A1 151 *: あとは、何か、学校・・・。週末、何かー趣味とか、していますか。 趣味は?

A1 152 A: 趣味?趣味はースポーツが大好きです。あ-トレー、トレーニングが1週間に1回。//*: トレーニング// トレーニング

をします。と、バスケットボールを1回します。 スポーツが好き。トレーニング、バスケットボール

A1 153 *: へー、どこするんですか。 どこでするか?

A1 154 A: 東板橋体育館。 東板橋体育館。

A1 155 *: あ、そうですか。すみません(何かこぼす)

A1 156 A: あ、大丈夫ですか。

A1 157 *: へー、誰としますか。 バスケットボールを誰とするか

A1 158 A: んー、人と。自分で。 バスケットボールを誰とするか

A1 159 *: そこに行くと、誰かバスケットボールをしているんですか。 バスケットボールを誰とするか

A1 160 A: あ、//*: トレーニング// バスケットボールは学校の友達と、知らないの人と会います//*: 週に//。じゃ、一緒にしま

す。A,いいよ。 バスケットボールは学校の友だちと

日本語学習 教室外の生活

教室外の生活

・趣味(スポーツ)

日本と母国での自己

教室外の生活

教室外の生活

・日本社会の中での自己

年齢 当時のクラス 日本では日本語がで

きないのでシャイ。

来日半年後からアク ティブになった。

半年前は日本語が分か らないので自信がなかっ た。今は大丈夫。

27歳であいうえおは 遅い。

今は日本語が分かる アルバイトはしていない

学校の友達と近くの体育館 でバスケットボールをする

表 7-3 コーディングの結果

A B C D

日本 語学 習

・日本語はゼロ初級から始めた

・勉強は楽しい(内発的価値)

・今は日本語が分かる(能力期待↑)

【JLPT】

・JLPT テストが目標→独学で勉強、N2 に合格 した。

【学習困難】

・「聞いたり話したり」が難しい(学習困難↑)」

→聞くことはできるようになった。ゆっくりならば 話せる。(能力期待↑)

・日本語の勉強は楽しい(内発的価値)

・好きだから楽しい

【学習困難】

・ハイレベルの文法を使うのが難しい

・読むのは分かるが使うのが難しい(学習困難

↑)

・最初は楽しくなかった(内発的価値↓)

・最初の 5 か月は「絞られた」

【JLPT】

・来日 2 か月後で JLPT の N3 に合格した(能 力期待↑)

・その後、N3→N2→N1 と合格した。

・最初は自信がなかった(能力期待↓)

【学習困難→援助申請】

・進学クラスへ勉強量も多く、先生も厳しかっ た。漢字も文法も難しかった。

・大変な時はクラスメイト(タイ人男性)からアド バイスをもらい、実行した。

・受験に失敗したときは落ち込んでいたが、み んなが頑張っているので、自分も頑張ろうと思 った。先生や友達のおかげでやる気が出た

(動機↑)

現在 のク ラス

【マイノリティ意識?】

・27 歳であいうえおは遅い。(能力期待↓)

・アメリカ人のクラスメイトは沢山話すので楽し

・クラスは楽しい。15 人のクラス。

・台湾人が多く、香港、マカオなど。

・今のクラスでも、女性は成績が悪いと心配す るが、男性は落ち込まない

【マイノリティ意識?】

・自分はクラスの中で一番年上で心配すること が多い

【普通クラス】

・初めてのインドネシア人で辛かった。

【進学クラス】

・最初みんなバラバラだった。独りぼっちにな ってしまった→友達に声をかけ始め、別の国 の友人と家族みたいに仲良くなった。

【マイノリティ/ライバル意識?】

・非漢字圏の自分が N1 に合格して嬉しかった

【進学クラス】

・大きいテストの後、一番下のクラスから上のク ラスへ。インドネシア人の学生 3 人→1人(自 分だけ)へ【マイノリティ?】

・タイ人クラスメイトの存在(同じように移動し た)→援助申請の相手

・クラスはみんな仲が良かった。

・クラスは楽しかった。お昼ご飯を食べたり、未