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学習動機および自己形成と環境の関係

第 7 章 日本語学習者の学習動機および自己形成と社会環境との関係

7.3 総合考察

7.3.3 学習動機および自己形成と環境の関係

以上を鑑みると、教育現場では、クラス内の人間関係に注目し、違う国や年齢層の異な る学習者が交流しやすいような環境を作ることを目指す必要があると言える。これは、中 国出身の日本語学校生にとって「居場所づくり」が重要であるという範(2005)の主張や、

日本人配偶者である学習者がコミュニティや他者との関係の中で「居場所」を獲得し「自 分」を表現することこそが日本語の使用であるという八木(2004)の主張とも重なるだろ う。ただし、一人ひとりの学習者にとって居心地のいいクラスを作ることは、日本語学校 が予備教育機関である以上、極めて困難な状況であることは、我々は理解しなければなら ない。例えば、クラス編成は基本的に学習者の日本語習得レベルによって編成される。ま た、高等教育機関への進学を目指す学生が多数を占めることから、当然のことながら、学 生の年齢構造を見れば若年層が多くなる。このような制約があることは日本語学校の性質 上仕方がないことと思われるが、それでもなお、可能であればより多様性を有するクラス 編成を心掛け、その中での人間関係にも注意を払うことが望ましいだろう。

次に、家族との関係について述べる。4人全ての語りから、インターネットを利用して、

国の家族と密に連絡を取っていることが分かった。困ったことがあった時はインドネシア にいる父親に相談し、父親を通じて現地の日本人に質問をしたこともあった、という学習 者Cのエピソードなど、留学生活には家族や友人との連絡が心の支えとして、学習者を支 えていることが、彼らの語りから伝わってきた。

インターネットの普及により、家族や友人と手軽に連絡が取れることは、自己形成にお いても意味がある。なぜなら、異文化においても人的ネットワークが維持されていること が保証されることにより、「自己斉一性・連続性」が維持されるからである。

だが、時として家族の存在が心の支えであると同時に、プレッシャーとなることもある。

Bは家族の中でも母親とは「日本好き」という感覚も共有しており、日本留学中もよく連 絡を取っていた。母親を初めとする家族の存在が、Bの自己形成を支えていたと考えられ る。だが、Bは大学院進学という夢について、インタビュー当時は母親にしか伝えておら ず、経済的に援助してもらっている父親にはまだ話していなかった。また、Bの留学を応 援してくれている母も、娘に早く結婚してほしいという意志表示をしていたため、Bの葛 藤をより深刻にしていたと考えられる。

以上のことから、教育現場では、学習者と家族との関係にも注意をはらう必要があると 思われる。その際に、家族との関係を維持することが、日本の留学生活そのものを支える 働きをもたらしている反面、それが逆にプレッシャーの原因となり常にプラスの影響を与

えるとは限らないことも注意しておいたほうがいいだろう。

では、最後に、学習者A, C, Dにおいてはクラス内での位置取りに成功したという感触 を持ったのに対し、Bにおいてはそのような語りが出現しなかったのか、考察しよう。両 者の違いとして、①前者は日本語がほぼゼロ初級で来日したのに対し、後者はある程度の 既習者であったこと、②前者の抱える問題(孤立感)がネットワークの構築によって解消 できたのに対し、後者の抱える問題(結婚か進学か)はネットワークの構築によっては解 消できないこと、③後者の語りにおいて矛盾が多くみられ、具体的な将来像が描けないこ と、などが考えられる。

① は、ある程度台湾で日本語を学んできたBにとって、学習の成果がそれほど感じら れなかったことが推測できる。②の学習者が抱える問題の種類であるが、Bはクラス内の 友人の他に、日本人・台湾人の友人もおり、交流をしていた。先に述べたように家族との 連絡も密に取っていた。だが、Bの抱える問題を打ち明けられる存在はいなかったかもし れない。インタビュー調査を行った当時を振り返ると、Bのみが質問紙調査の後に筆者に インタビューに協力したいと連絡してきたのであった。当初、筆者は「熱心な学生だなあ」

とBのことを捉えていたが、Bにとっては「女性で大学院に行っている人」と話をしてみ たい、悩みを打ち明けたい、という切実な願いがあったのかもしれない。筆者はBのおこ した行動に対して、期待通りの対応ができなかったのかもしれない。その後Bとの連絡は 途絶えてしまったからである。ただ、もしこのインタビューをきっかけに、Bが他にも行 動を起こし、女性のキャリアに興味のある人たちとネットワークが築けたら、Bの人生は 大きく変わっていくだろうと考えられた。③は、学習者A, C, Dが進学や就職といった明 確なビジョンを持ち、そのために日本語が必要であることを認識していたのに対し、Bは 日本語が好きだという気持ちを持ち続けているものの、自分がどうしたいのか葛藤を抱え ており、悩んでいる自分を受け入れていないように見えたからである。それは、自己の変 化において矛盾する発言をしていたこととも関連する。学習者Cが「独りぼっちになった」

という現状を認識した後で自分から積極的にクラスメイトに声をかけたように、学習者B も悩んでいる自分に向き合い、父親に進路を相談するなどの行動を起こした場合、また違 う語りが聞けるのではないだろうか。

(引用文献)

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編著 塚野州一編訳(2009)『自己調整学習と動機づけ』北大路書房 pp.263-281.

8 章 結論:学習者の力を引き出す教育とは

本研究では、日本語学校生の学習動機および自己形成が、時間と共にどのように変遷 していくのか、量的および質的研究法を合わせて考察した。

本章では、各章の結果を要約し、これらの結果を二つの視点でまとめる。一つは、日 本留学の意義を、学習者の視点からまとめるものである。もう一つは、学習者の力を引き 出すための教育についての提言を示す。学習者の内在する能力や意欲を引き出すには、ど のような教育が望ましいのか、教師はどのような学びの「場」を学習者に提供できるの か、述べることにする。