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学習動機因子と在籍期間および性差の関連

第 6 章 日本語学校生の学習動機と自己形成および在籍期間の関係

6.2 結果と考察

6.2.3 学習動機因子と在籍期間および性差の関連

学習動機因子の値が在籍期間および性差によって異なるか検討するために、在籍期間お よび性を要因とする3(4か月以内・6-10か月・1年以上)×2(男性・女性)の分散分析 を行った。下位検定には Tukey 法を用いた。結果を表6-3に示す。

表 6-3 在籍期間および性差別の学習動機の平均値(二要因分散分析の結果)

学習動機因子のうち、「内発的価値」、「能力期待」、「努力肯定」において在籍期間 の主効果が有意であった。また、能力期待において交互作用が見られた。

「内発的価値」については、在籍期間の主効果(F(2, 397)=3.46, p <.05)が有意であり、

1年以上の学習者群は、4か月以内の学習者群よりも有意に値が低かった。

「能力期待」については、有意な交互作用(F(2, 395)=4.46, p <.05)と在籍期間の主効 果(F(2, 395)=7.67, p < .01)が認められた。単純主効果検定の結果、男性学習者群におい て在籍期間の単純主効果(F(2, 395)=9.41, p <.001)が有意であり、在籍期間が6か月か ら10か月までの男性学習者群は、4か月以内及び1年以上の男性学習者群よりも有意に値 が高かった。また、6 か月から 10 か月までの学習者群において性差の単純主効果(F(1, 395)=7.14, p <.01)が有意であり、男性学習者群のほうが女性学習者群よりも有意に値が 高かった。在籍期間の主効果については、1年以上の学習者群は、4か月以内及び6か月か ら10か月までの学習者群よりも有意に値が低かった。

在籍期間 4か月以内 6-10か月 1年以上 F

性別 男性 女性 男性 女性 男性 女性 在籍 性別 交互作用

人数 71 68 65 76 59 67 期間

1利用獲得価値 4.67 4.63 4.55 4.49 4.41 4.66 1.78 0.71 2.36

(0.47) (0.56) (0.62) (0.69) (0.78) (0.54)

2内発的価値 4.41 4.43 4.31 4.25 4.08 4.28 3.46 * 0.51 0.99

(0.63) (0.75) (0.78) (0.78) (0.92) (0.69)

3能力期待 2.88 3.05 3.28 2.87 2.58 2.73 7.67** 0.12 4.46*

(0.87) (0.86) (0.87) (0.90) (0.96) (0.92) 男性: 4か月 ≺ 6~10か月 1年以上< 6~10か月 6~10か月: 女性 <男性 4努力肯定 4.46 4.57 4.23 4.18 4.23 4.35 6.47** 0.67 0.63

(0.58) (0.61) (0.79) (0.81) (0.76) (0.78)

5学習困難 3.20 3.19 3.29 3.00 3.39 3.34 1.84 1.51 0.90

(0.96) (0.86) (0.90) (0.88) (1.08) (0.97)

( )内は標準偏差 *: p≺.05, **: p≺.01

「努力肯定」は、在籍期間の主効果(F(2,397)=6.47, p <.01)が有意であり、4か月以 内の学習者群は、6か月から10か月まで及び1年以上の学習者群よりも有意に値が高か った。

以上の結果から、「内発的価値」は、在籍期間が1年以上の学習者群の値が、4か月以 内の学習者群に比べて有意に低かったことから、在籍期間が1年以上の学習者は、来日直 後の学習者に比べて、「日本語が楽しい」という意識が低いことが分かった。縫部ら(1995)

は学習の継続生を高めるためには「外発的動機の内発化」が望ましいとしているが、内発 的動機と類似した構成概念である「内発的価値」は、学習の継続という観点から見ると、

時間が経つに従って値が低くなる傾向があることが示された。「能力期待」は、在籍期間 が1年以上の学習者群の値が、4か月以内および6か月から10か月の学習者群に比べて有 意に低かったことから、在籍期間が長くなるにつれて、「日本語が上手になるだろう」と いう自信が低下することが推測される。自己効力感と類似した構成概念である「能力期待」

も、時間の経過と共に減少する可能性が明らかになった。「努力肯定」は4か月以内の学 習者群の値が他の二つの学習者群よりも有意に高いことから、在籍期間が短い方が「頑張 らなくてはならない」という意識が高いことが推測される。

以上のことから、日本語学校生を在籍期間別に分類して分析すると、在籍期間が短い学 生は、「日本語は楽しい」および「頑張らなくてはならない」という学習へ積極的に向か う意識が高いが、在籍期間が長い学生は、日本語そのものへの興味や自分の能力に対する 自信が有意に低いことが示された。Eccles et al. (1993)は、4年間の縦断調査の結果から、

小学生低学年の学習動機は高学年に比べてより高いことを報告しているが、青年期の学習 者を対象とした本調査の結果においても、同様の傾向が見られたと言える。また、本調査 で見られた傾向として、1 年以上在籍している学生群において、複数の学習動機因子の値 が他の期間の学生群に比べて有意に低いことを指摘したい。教育現場においては、新入生 に注意を向けることはあっても、長く在籍している学生に対して特別な配慮はまずなされ ないと言ってよい。だが、1 年以上在籍している学習者は、学習への興味や自信を失って いる状態にあることが多いため、新たに教師との面談の機会を設けるなど、彼らの精神状 態についても配慮すべきだと言える。

一方、学習動機因子のうち、「内発的価値」、「能力期待」および「努力肯定」は在籍 期間が長くなると低い値を示すのに対し、「利用獲得価値」は有意な差を示さなかった。

楊(2011)は、台湾の大学生を対象とした質問紙調査の結果から、日本語が主専攻ではな

い学習者の場合は「実用性重視志向」が学習の継続性を高めると述べている。「利用獲得 価値」の「日本語の勉強は役に立つ」という意識は、「実用性」に関する意識であるから、

本調査の結果は、楊(2011)と同様に、「利用価値」と継続性の関係を改めて支持したと も言える。また、Matusovich et al.(2010)は、期待価値理論を援用し、11名の工学専攻の 学生を対象に4年間の縦断的なインタビュー調査を行った結果、「獲得価値」の値が高い 学生は4年間を通じてその傾向が続いたという結果を報告している。本調査の「利用獲得

価値」はMatusovich et al.(2010)の「獲得価値」と構成概念が一部重なっていることから、

「日本語の勉強は重要だ」という意識を含む「利用獲得価値」は継続性が高い可能性が示 された。

また、学習動機においては、性差の主効果は見られなかった。Eccles et al.(1983)で、在 籍期間が学習行動に及ぼす影響は、性差による影響よりも大きいと報告されていることか らも、性差は在籍期間ほど大きな影響を与えなかったとも考えられる。

ただし、「能力期待」に関しては、在籍して6か月から10か月の男性学習者群は、他の 期間の男性学習者群および6 か月から10 か月の女性学習者群よりも高い値を示すことが 分かった。これについては、総合考察において述べる。