第 4 章 金融情報システム事故に関する新聞報道の分析と考察
4.2 新聞報道による金融情報システム事故に関する事例収集
本節では,本研究で使用した新聞報道による事故事例の収集方法などについ て説明する.
4.2.1 対象とする情報システム事故の定義
本章で対象とする情報システム事故は,「銀行等金融機関,証券会社および 証券取引所の情報システムに関する事故」とする.ここで「銀行等金融機関」
とは,都市銀行,地方銀行,第二地方銀行,信用金庫,信用組合などの預金取 扱金融機関および中央銀行ならびに郵便局とし,本章ではこれらを「銀行等」
と総称する.本章で扱う情報システム事故には下記のような事故を含める.
1) 顧客サービス関連:全取引停止,ATM等端末停止,一部機能不良,ネット機 能利用不可など.
2) 業務処理関連:処理ミス,処理遅れ,誤情報配信,情報配信遅れなど.
3) 情報セキュリティ関連:情報流出(ミス),コンピュータ・ウィルス対応不 足など.
4) 犯罪行為:不正取引,情報流出(犯罪),その他情報セキュリティ犯罪(ホ ームページ改ざん,DoS攻撃,コンピュータ・ウィルス,ワームなど),市場 操縦など.なお,フィッシングを狙った偽のホームページの開設などその時 点では必ずしも犯罪とは断定できない「犯罪的行為」も含む.
なお,金融業務は対象とする顧客により,リテール・バンキングとホールセ ール・バンキングに分かれるが,それらを分析した結果,新聞報道では市民へ の影響の大きいリテール関係事故を中心として,市民生活や社会に影響を与え る一部のホールセール関係事故も取り上げていることが確認できたため,本論 文ではこれらを区別せずに,新聞報道されている事故はすべてを含める.
4.2.2 事例収集
事例収集の情報源は,第 3 章と同様に全国一般紙として朝日新聞,読売新聞,
毎日新聞を,経済専門紙として日本経済新聞を選び,東京本社版の縮刷版およ び各新聞社のオンライン記事データベース検索サービスを使用した.本サービ スを使用することにより,各社の複数の本社版および地域版を網羅している.
収集期間は 2000 年から 2006 年の 7 年間であり,426 件を収集した.
収集された426件の分類別事例を表4.1に,年推移を図4.1に示す.表4.1では 各事故事例を事故内容に基づき,サービス利用者の視点で事故の見え方(現象)
により,ダブりや漏れがないように下記考え方で分類した.なお,1事例の中に 複数の分類に該当する内容(現象)がある場合は,事例を複数に分割した.
まず,収集した事例を違法行為か否かで「事故」と「犯罪」に分類する.次 に「事故」に関して,大分類として取引の流れに従って,顧客が本部・営業店 およびネットバンキング・ネット証券によってサービスを受けるときに遭遇す る「顧客サービス関連」と,投入された取引に関するコンピュータセンターに おける「業務処理関連」,および全体で共通的な「共通関連」に分類する.中分 類として事故の場所により,小分類として事故の現象により,利用者の視点に より分類し,表 4.1 のとおりとする.
「犯罪」については,大分類として「犯罪行為」,中分類として「サイバー犯 罪」と「その他犯罪」に分ける.「サイバー犯罪」は,コンピュータ,電磁的記 録対象犯罪,ネットワーク利用犯罪,不正アクセス行為の禁止等に関する法律 違反に該当する犯罪である.「その他犯罪」は,金融商品取引法などで禁止され ている金融関係の犯罪である.小分類としては具体的内容により分類する.
以上の考え方により,収集した事例 426 件のすべてはダブりや漏れがなく表 4.1 に分類された.
表 4.1 金融情報システム事故の分類別事例件数
大分類 中分類 小分類 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 銀行等 証券
全取引停止 0 2 3 2 3 8 4 22 6 16 *1
一部取引停止
ATM等端末停止 17 18 16 7 15 14 9 96 96 0 *2 一部機能不良 7 7 9 12 11 10 9 65 49 16 *3 ネットバンキング・
ネット証券関連 ネット機能利用不可*4 3 4 7 10 4 12 9 49 27 22 *4 処理関連
処理ミス 2 4 10 7 3 5 14 45 35 10 *5 処理遅れ 2 1 10 8 5 2 9 37 31 6 *6 情報配信関連
誤情報配信 0 1 0 1 0 0 14 16 9 7 *7 情報配信遅れ 0 0 0 3 2 5 4 14 0 14 *8 情報流出(ミス) 1 0 1 1 5 6 11 25 19 6 *9 コンピュータ・ウィルス
対応不足 0 0 0 0 0 2 0 2 2 0 *10
不正取引 0 0 2 2 4 13 11 32 31 1 *11
情報流出(犯罪) 1 0 1 3 2 4 1 12 11 1 *12 その他情報セキュリティ
犯罪 2 1 0 2 0 0 4 9 8 1 *13
その他犯罪 市場操縦 0 0 0 1 1 0 0 2 1 1 *14
35 38 59 59 55 81 99 426 325 101
(合計)
事故
共通関連
コンピュータセンター 関連
サイバー犯罪 犯罪行為
犯罪 区分
本部・営業店関連
*14 株価操縦,風説の流布など
*8 [証券]約定,株価・注文状況,企業中間決済開示,取引所から証券会社や金融庁への通知などの配信遅れ
*3 [銀行等]ATM,CD,窓口端末の一部機能不良,電話サービス利用不可など
[証券]一部商品または一部銘柄の取引停止,ATM等端末の一部機能不良,債券取引停止など
*4 [銀行等]ネットバンキング利用不可(つながりにくい場合も含む)
[証券]ネット証券利用不可(つながりにくい場合も含む)
*5 [銀行等]入送金,引き落とし,振り込み,振り替え,金利・手数料などの処理ミス
[証券]入力ミスによる誤注文,買い注文がないのに売買成立,購入可能限度額誤表示,値幅制限の設定ミスなど
*13 HP改ざん,DoS攻撃,コンピュータ・ウィルス,ワームなど
*9 個人情報流出(設定ミス、操作ミス、プログラムミス、ウィニー、判断ミスなどによる),企業内部情報流出
*11 [銀行等]口座番号やパスワードの不正入手による不正引き出しなど [証券]なりすましによる不正株売買など
*7 入力ミス等による誤情報配信,誤情報表示など
*6 [銀行等]入送金,引き落とし,振り込み,振り替えなどの処理遅れ
[証券]証券会社から取引所への発注遅れ,TOPIXなどの終値確定遅れ,全銘柄の処理遅れなど 西暦(年)
事故等分類 事故
内容
顧客サー ビス関連
合計 内訳
*1 [銀行等]1支店またはそれ以上の取引停止 [証券]証券取引所、証券会社の全売買停止
*2 [銀行等]ATM,CD,窓口端末などの一部または全台数停止 業務処理
関連
*12 個人情報流出(内部犯行、盗撮、フィッシングなどによる),企業内部情報流出など
*10 コンピュータ・ウィルス付メール送信など 情報セキュリティ関
連
0 20 40 60 80 100 120
2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006
事例件数
顧客サービス関連 業務処理関連
共通関連 犯罪行為
N=426
図 4.1 金融情報システム事故事例件数の年推移(大分類別)