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今後の情報提供のあり方について

ドキュメント内 電気通信大学 (ページ 176-187)

第 6 章 結論

6.2 情報システム事故情報提供に関する改善点

6.2.4 今後の情報提供のあり方について

本項では,各メディアの特性を生かした事故情報の提供のあり方について考察 する.

田中[6.1]は災害時の情報提供のあり方に関して新しい災害情報システムの仕 組みを提案している.それによれば,災害時の住民に対する情報提供のあり方と して,住民の「知覚」→「理解」→「予測」→「行動」を促進する情報を提供す ることを提言している.本論文の対象は災害ではなく情報システム事故であるが,

この考え方を適用して,各メディアの特性を生かした事故情報の伝達の手段につ いて考察する(表6.1,図6.1).

まず,第一ステップは事故の知覚である.ここでは即時性を要する事故情報,

例えば大規模な通信障害やATM障害などと,設計不良による製品交換のように 即時性を要しない事故情報に分けて考える.即時性を要する事故情報の提供手段 には,携帯電話またはパソコンへのニュース配信,ラジオやテレビ放送によるニ ュース速報,インターネット上のニュースサイトがある.即時性を要しない事故 情報の場合は,新聞,テレビまたはラジオ放送,インターネット上のニュースサ

イトがあるが,重大事故に対する網羅性が最も優れている新聞が最適である.

第二ステップは事故の理解である.第一ステップで知覚した事故に関心を持っ た場合に意識的に理解を行うステップである.この場合も即時性を要する場合と 要しない場合とで手段が多少異なる.さらに1週間分程度をまとめてチェックし たい場合もある.即時性を要する場合は,インターネット上のニュースサイトま たはサービス提供当事者会社のニュースリリースが適している.即時性を要しな い場合は,上記の他,新聞やラジオ放送,テレビ放送が可能であるが,新聞が見 やすさ,繰り返し読めるなどの点で最適である.1週間分をまとめて見る場合も 同じ理由により,新聞が最適である.さらに時間がかかっても良い場合は雑誌の 解説記事が有効である.

第三ステップの予測は,理解した事故が自分に何らかの関係,例えば,自分が 持っている製品のリコール情報や自分も関係のある銀行の誤請求情報などがあ る場合にとるべき行動である.自分との関わりを予測し,必要に応じて何らかの 行動を起こす必要がある.この場合は,信頼がおける情報としてインターネット

最適である.その他,インターネット上のニュースサイトの関連記事へのリンク 機能により,関連情報を収集できる.

市民に提供される事故情報は,上記第一ステップで事故を知覚させ,第二ステ ップで理解を深め,第三ステップで判断を促す情報および提供手段であるべきで ある.表6.1は現状のメディアを当てはめたものである.これらの情報提供の流 れを有効に機能させるために新聞報道が持つべき機能は下記のとおりである.

(1) 第一ステップ「事故の知覚」に対しては,知覚のきっかけを与えるポータル サイト的な役割が必要であり,重要な事故情報に対する網羅性は高い必要がある.

事故の重大性の判断に,本論文で提案している利用者へ与える影響の大きさによ る4レベルの重大性レベルの考え方が役に立つ.ただし,現状では本論文で指摘 したように重大性が高くてもニュース性の扱いが低い事故事例があるので,それ らに対しては改善が必要である.また,新聞の欠点は速報性,即時性が弱いこと であり,これに関してはテレビやインターネットで補う必要がある.

(2) 第二ステップ「事故の理解」に対しては,内容の正確性と分かりやすさが大 切である.3.4.3(2)の新聞報道内容の正確性に関する考察で指摘したように事故 の復旧時間や障害加入数に関して,記述がなかったり,違っていたりするケース が多少あった.これらは事故の最中でも報道しなければならないという新聞の特 性によるケースも多いが,重要な違いや追加情報はフォローアップ報道で伝える べきである.また,第二ステップの機能として,重要な事故に関しては,解説記 事があれば事故の理解を助けることになるので望ましい.

(3) 第三ステップ「予測&行動」に対しては,行動,例えばリコール製品の交換,

誤請求などについて行動の必要性を伝える必要がある.新聞には紙面の制約があ るため,詳細情報は提供しにくい.これを補うために事故の当事者であるサービ ス提供事業者のWEBニュースリリースを併用することが望ましい.そのために は,新聞報道にはこれらのニュースリリースをアクセスさせるようなメッセージ が欲しい.例えば,事故の当事者のサービス提供事業者名を明記すること,事故 の影響や必要な処置について記述することなどである.実際の行動のための情報 は事故の当事者であるサービス提供事業者のWEB上のニュースリリースは信頼 がおけるので新聞報道と併用すべきである.

表 6.1 各メディアの特性を生かした主な事故情報提供手段(現状)

1 第一ステップ:事故の知覚

即時性を要する事故情報:大規模事故など

・携帯電話またはパソコンへのニュー配信サービス

・インターネット上のニュースサイト

・ラジオ放送またはテレビ放送によるニュース速報 即時性を要しない事故情報

・新聞(朝刊、夕刊)

・ラジオ放送またはテレビ放送による定時ニュース

・インターネット上のニュースサイト 2 第二ステップ:事故の理解

即時性を要する事故情報

・インターネット上のニュースサイト

・サービス提供当事者会社のニュースリリース(WEB)

即時性を要しない事故情報

・新聞(朝刊、夕刊)

・インターネット上のニュースサイト

・サービス提供当事者会社のニュースリリース(WEB)

・雑誌

1週間分をまとめてチェックする場合:出張で1週間、家を空けたような場合

・新聞(朝刊、夕刊)

・インターネット上のニュースサイト

3 第三ステップ:予測&行動:リコール製品の交換、誤請求の問い合わせなど 詳細情報

・サービス提供当事者会社のニュースリリース(WEB)

・政府情報

・インターネット上のニュースサイトおよびリンクされた関連サイト

・新聞(朝刊、夕刊)

・雑誌 4 その他

過去のニュースの調査

・新聞の縮刷版

・新聞記事データベース検索サービス(有料)

・サービス提供会社のニュースリリース(WEB)

・インターネット上のニュースサイトおよびリンクされた関連サイト (3)

(1)

(2)

(1)

(2)

(1)  

(1)

図 6.1 市民から見た事故情報入手先(現状)

第三ステップで有効な情報は,政府が提供する事故情報である.現状では,製 品安全に関係する事故情報やセキュリティ関係の情報は,力を入れて情報提供さ れているが,情報システム関係の事故情報は一部を除いて公開されていない.市 民に影響を与えるような事故の重要性の判断は市民自らが行えるようにすべき であり,これらの事故情報は何らかの形で市民にも公開されることが望まれる.

もし,経営上の機微情報や個人情報とのからみなどで生情報の公開が困難な場合 は,事故内容の要約情報,集約情報,統計情報などの形でも良い.

最後に,情報システム事故情報の市民への提供に関する今後のあり方に関して 述べる.

第 4 章および第 5 章における金融情報システム事故の分析で明らかになったよ うに,最近の事故原因は,ヒューマンエラー,プログラムミス,犯罪行為など人 間側に問題があるケースが増えている.この背景には,物理的故障に対しては永 年培った自動回復技術などの耐故障技術が適用されているため,重大事故は比較 的低く抑えられているが,その反面,人間側に問題があるヒューマンエラーなど

と,またIT の生活への浸透と共に人間と情報システムとのやり取りが増大して おり,これらに起因する重大事故が増大しているという状況がある.さらに IT を悪用した多様な手口の犯罪が増えており,一般市民に多大な影響を与えて社会 的な問題になっている.今後,IT が広く生活に浸透する中では犯罪が容易にな り,一般市民が加害者になるケースも増えてくる恐れがある.このような傾向は 金融情報システムに限った問題ではなく,情報システム共通の問題である.

このような状況を改善するためには,まず実際の稼働システムの事故データを ヒューマンエラーや犯罪行為も含めて俯瞰的に,継続的に収集し,蓄積を図る必 要がある.製品安全分野やセキュリティ分野などではこのような活動が行われて いるが,情報システム事故という観点では未だ行なわれていない.情報システム 事故をその原因である「フォールト」という視点でみれば応用分野を問わず共通 の議論ができる.例えば,本論文の第5章の事故分析で使用した物理フォールト

(内部)であるハードウェア故障による重大障害や相互フォールト(悪意なし&

意図なし)である人為的ミスによる重大事故などの対策は分野を問わず共通性が あると考えられる.また,全てのデータを同じ詳細レベルで収集することは情報 収集能力や作業量の点で困難が伴うので,本研究で採用したサービス利用者への 影響の大きさによる重大性レベルを定義し,その「特大」と「大」を中心に詳細 データを収集すれば良い.以上の考え方で一般的な情報システム事故データの収 集,蓄積,分析の方法に関して,6.2.2項に提言した.

今後の課題として,重要インフラの情報システムに関して,サービス利用者,

市民および社会に影響を与えるような事故の新聞報道情報をサービス利用者お よび市民の立場で収集,蓄積し,市民への情報提供という観点で伝えるべき情報 の網羅性や正確性をチェックする仕組みが必要である.特に,報道する側の判断 である「ニュース性」と利用者側に立った判断である「事故の重大性」との間に ズレのない社会を形成,維持するためには,行政あるいは提供企業により重大事 故が確実に公表される仕組みも必要だろう.

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