第 3 章 通信ネットワーク事故に関する新聞報道の分析と考察
3.3 通信ネットワーク事故のニュース性を決めている要因
3.3.1 ニュース性を決めている要因の分析
障害時間とは,障害発生から障害復旧までの時間を指す.図3.2から分かるよ うに障害時間の大小による平均新聞数の変化はほとんどない.したがって,障 害時間は,ニュース性に影響を与えていない.
4NDBのケースについて全データによる統計解析をおこなった結果,相関係 数r=0.01,有意確率P値=0.85であった.但し,障害時間はLOG10をとった値とし た.社会調査の場合,相関係数rの目安は経験的に下記のようにいわれている [3.6].
0.0≦|r|≦0.2 ほとんど相関なし 0.2<|r|≦0.4 弱い相関がある 0.4<|r|≦0.7 中程度の相関がある 0.7<|r|≦1.0 強い相関がある
本ケースの場合,相関係数0.01であるので,「障害時間」と「新聞数」はほと んど相関がないといえる.「障害時間」の回帰係数の有意確率P値は0.85であり,
帰無仮説は棄却できない.したがって,「障害時間」は「新聞数」に影響を与え るとはいえない.以上の検定結果は,グラフの視覚による判定と一致している.
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
~30 ~100 ~300 ~1,000 ~3,000 3,000以上
障害時間(分)
事例件数
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
平均新聞数
件数
平均新聞数(4NDB) 平均新聞数(3NDB) (4NDB N=284,3NDB N=281)
図 3.2 障害時間分布
②障害加入数(図3.3)
障害加入数とは,障害の影響を受けた加入数または利用者数を指す.障害加 入数の増加と共に平均新聞数も多少増加しており,ある程度ニュース性に影響 を与えている(4NDBの場合,r=0.37,P値<0.01).
0 10 20 30 40 50 60 70 80
障害加入数
事例件数
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
平均新聞数
~102 ~103 ~104 ~105 ~106 106以上
(4NDB N=270,3NDB N=266)
*凡例は図3.2と同じ
図 3.3 障害加入数分布
③障害規模(図3.4)
障害規模とは,「障害時間(分)×障害加入数」である.障害規模が大きく なるに従い,平均新聞数は大きく増えているのでニュース性に与える影響は大 きい(4NDBの場合,r=0.42,P値<0.01).
図3.5に障害時間と障害加入数の相関図を示す.図内の斜線は障害規模を示し ている.図3.5は,図3.2,図3.3,図3.4の各要素を一つの図の上に表したもの であり,各点は,本社版と地域版の区別および報道されている新聞数によって 区別している.
図3.5より,本社版は障害規模が大きい事故を取り扱い,地域版は障害規模が 小さい,すなわちローカル的な事故を取り扱っていることが分かる.なお,図 3.5の中で障害時間が67,680分と非常に長い事例が1件あるが,これはN社の携帯 電話で写真を送るサービスがサービス開始日の2002年6月1日午前0時から同年7 月18日午前0時までの間,利用者の一部で送信できない不具合が発生した事例で
0 10 20 30 40 50 60 70 80
障害規模
事例件数
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
平均新聞数
(4NDB N=226,3NDB N=225)
*凡例は図3.2と同じ
~104 ~105 ~106 ~107 ~108 ~109 109以上
図 3.4 障害規模分布
1 10 100 1000 10000 100000 1000000 10000000 100000000
10 100 1,000 10,000 100,000
障害時間(分)
障害加入数
▲本社版・1紙 ◆本社版・2紙 ■本社版・3紙 +本社版・4紙
△地域版・1紙 ◇地域版・2紙 □地域版・3紙
母集団:4NDBの内、サービス関係全事例 N=226
101 102
1 103 104 105 106 107 108
109 108 107 106 105 104 103
1010 障害規模=1011
図 3.5 障害時間と障害加入数の相関図(4NDB)
④広域性(図3.6)
障害地域の広さ(広域性)とニュース性の関係を明らかにするために,障害 地域を数市以内,1-2県,地方ブロック(3県以上),全国(日本全体の半分以上)
に分けてそれらと事例件数および平均新聞数の分布を求めた.図3.6より,障害 地域が広い程ニュース性は高いことが分かる.例えば,4NDBの場合,「数市以 内」では平均新聞数2.1に対して,「全国」では3.1である.同様に3NDBおよび 本社版のみや地域版のみのケースでも右肩上がりになっており,広域性はニュ ース性に影響を与えていることが分かる(4NDBの場合,r=0.37,P値<0.01).
0 20 40 60 80 100 120 140
数市以内 1-2県 地方ブロック 全国
事例件数
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
平均新聞数
本社版(4NDB) 地域版(4NDB)
平均新聞数(全体,4NDB) 平均新聞数(本社版,4NDB)
平均新聞数(地域版,4NDB) 平均新聞数(全体,3NDB)
(4NDB N=325, NDB=319)
図 3.6 障害地域別分布
⑤一部機能不良
表3.2のサービス関連の内,「一部機能不良」の内訳を表3.4に示す.表3.4よ り,機能不良でニュース性が高い事故は,第一に新サービス開始初期の機能不 良,第二に誤接続,通話時無音,発信または着信不可などの機能不良により通 信できない事故である.メールの送受信不良に関しては,上記二つより平均新 聞数が小さいが,事例件数が突出しており,この項目に絞って平均新聞数をみ ると図3.7に示すとおり,障害規模がニュース性を大きく左右している(r=0.51,
表 3.4 「一部機能不良」の内訳 機能不良の内訳 事例件数 平均新聞数
新サービス不良 8 3.0
誤接続 6 2.8
通話時無音 3 2.7
発信または着信不可 2 2.5 メールの送受信不良 21 2.2
緊急通報不良 6 1.8
その他 6 1.7
留守番サービス不良 3 1.3
誤表示&誤請求 1 1.0
0 1 2 3 4 5 6 7
~106 ~107 ~108 ~109 109以上 障害規模
事例件数
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
平均新聞数
事例数 平均新聞数
~106 ~107 ~108 ~109 109以上 注
注 本要素は分割事例であ り、メインではない.
(N=16)
図 3.7 メールの送受信不良の分布
(2) 誤請求に関する事故:誤請求
誤請求総額と平均新聞数との関係を図3.8に示す. 誤請求総額とは,同一事 例内の誤請求額の合計値を指す.図3.8から分かるとおり,誤請求総額が大きく なるにつれて平均新聞数も大きくなっており,誤請求総額はニュース性を決め ている要因といえる(r=0.65,P値<0.01).
数についても調べたが,これらがニュース性に与える影響は小さいことが分か った.
0 24 6 108 12 1416
誤請求総額(円)
誤請求件数
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
平均新聞数
件数 平均新聞数
~105 ~106 ~107 107以上 (4NDB N=28)
図 3.8 誤請求総額分布
(3) 情報に関する事故:情報流出事故
情報流出件数と平均新聞数の関係を表3.5に示す.表3.5から分かるとおり,
情報流出件数が大きくなるにつれて平均新聞数も大きくなっている.すなわち,
情報流出件数は本事故のニュース性を決めている要因である(r=0.36,P値=
0.06有意傾向.外れ値1件を除けば,P値<0.01).
さらに情報流出事例の内,約1/3は犯罪がらみであり,犯罪はより一層ニュー ス性を高めている.
(4) 装置に関する事故:設計不良
4NDBによると設計不良対象装置は携帯電話が約70%,その他モデム,ルータ,
固定電話,IP電話FAX,PHS端末などである.装置設計不良による改修台数と平 均新聞数の関係を図3.9に示す.図3.9より,平均新聞数は3000台以上では2.6~
3.3と高い.すなわち,装置設計不良は改修台数によらず,高いニュース性を持 っていることが分かる(r=0.24,P値=0.07有意傾向.外れ値2件を除けば,P値
=0.31).特に携帯電話関係のニュース性が高い.
表 3.5 情報流出件数と平均新聞数
0 2 4 6 8 10 12 14 16
改修台数
事例件数
0 1 2 3 4
平均新聞数
事例件数(全体) 事例件数(内,携帯電話)
平均新聞数(全体) 平均新聞数(携帯電話)
~103 ~3×103 ~104~3×104 ~105~3×105 ~106 106以上 4NDB N=57 (内,携帯電話 N=38)
図 3.9 改修台数
(5) 機能不良に関する事故
上記(1)から(4)では,表3.2の事故分類に従ってニュース性を決めている要因 を抽出した.本項では,表3.2の分類によらない横断的な観点で,機能不良の中 で利用者にとって特に重要である個人の安全性を損なう事故についてニュース 性の現状を調べる.
上記事故に該当する事例を4NDBの全事例から抽出した結果を表 3.6 に示す.
情報流出件数
~101 2 (1) 3.0 (4.0)
~102 2 2.0
~103 11 (2) 2.6 (4.0)
~104 5 (1) 3.0 (4.0)
~105 6 (3) 3.3 (4.0) 105以上 2 (2) 4.0 (4.0) 事例件数 平均新聞数
注( )内は犯罪がらみの場合を示す.(内数)
安全性の対象は,命・健康,財産(お金),個人情報流出に分類される.表 3.6 より,個人の安全性を損なう事故は,報道されている事例件数は少ないが,内 容的には利用者への影響が大きい事故ばかりである.これらの平均新聞数は,
表 3.6 から分かるとおり 1.0 から 4.0 まで多様であり,平均新聞数が 2.0 以下 でニュース性が低く取り扱われている事例は 29 事例中 13 事例(表中の平均新 聞数欄で灰色に塗ってある項目)ある.具体的には,緊急通報機能不良,パス ワード流出,IP電話料金誤請求,個人情報流出事故である.
表 3.6 個人の安全性を損なう事故
110番,119番,118番などの緊急通報機能不良,緊急
通報利用後の緊急機関からの「折り返し」機能不良 8 1.8 携帯電話の設計不良,製造不良等により発熱の恐れ,
メッキはがれで3人指負傷 4 3.8
IP電話試験サービスで固定電話とアダプタの接続ミス
で通常電話料金を請求されるケース多発 1 1.0 料金請求システムのソフト不具合により,高額な過剰
請求(最大267万円が3人) 1 4.0
誤請求額が1件当たり平均1万円以上の事例 5 3.6 大手プロバイダの会員20名のパスワードが盗まれ,外
国から不正アクセス相次ぐ 1 1.0
貸し出し用通信機器,新品の携帯電話および修理後の 携帯電話の中に以前の利用者または他人のデータが紛 れ込んでいた
3 1.3 無料メールサービスでパスワード流出,悪用の恐れ 1 3.0 最低限,氏名,住所,電話番号,メールアドレスを含
む個人情報の流出 4 3.3
携帯電話で個人情報流出の恐れのあるソフト不具合 1 4.0
事故の具体的内容 事例数 平均新
聞数
個人情報 流出 命・健康 安全性の
対象
財産
(お金)
3.3.2 ニュース性を決めている要因に関する考察