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組織能力論の進展

ドキュメント内 組織能力の独自性 -成長企業3社の事例- (ページ 141-149)

7. 研究成果と今後の課題

7.2 組織能力論の進展

第 1章で述べたように、本論文の研究の 1つの目的は、組織能力論を進展させることで ある。本稿の研究が組織能力論の進展に貢献したと考えることができる点として、次の 4 点をあげることとしたい。1)については、サーベイ研究にもとづいており、2)~4)は、

事例研究にもとづくものである。

1) 組織能力論は、静態論と動態論に分類される

2) コア・コンピタンスとその他の組織能力に分けられる

3) 組織能力はDCの観点から捉えると、漸進的なDCと急進的なDCに分けられる 4) 組織能力の「独自性」について、その源泉は業界慣行の否定とイノベーションで

ある

以下について、それぞれ説明する。

(1)組織能力論における静態論と動態論

組織能力論は、静態論と動態論に分類される。組織能力を静態論で捉えるということは、

ある一時点における組織能力そのものについて論じるということである。一方、動態論と は、組織能力の進化や将来の組織能力の構築を重視し、組織能力はその特徴の故に変化発 展するものであるという考え方である。

文献サーベイの対象とした研究者のなかで、組織能力を静態論として捉えている研究者 は、バーニーとハメル&プラハラードである。バーニーは、競争優位の源泉を明らかにす ることを目的として、組織能力の特性を明らかにした。ハメル&プラハラードは、コア・

コンピタンスを明らかにしている。但し、両研究ともに、組織能力とコア・コンピタンス が、時間の経過と共にどう変化するかということは論じられていない。

対して組織能力を動態論として捉える研究者は、ペンローズ、伊丹、ティースおよび藤 本である。

ペンローズが動態論であることを論じるには、説明が必要である。まず、ペンローズは、

企業の成長メカニズムを明らかにすることを研究の目的としている。そして、そのペンロ ーズの企業の成長理論は、企業というのは経営資源の集合体であるということを起点に組 み立てらている。厳密にいうと、ペンローズは経営資源(resources)を 2 つの生産用役

(productive services)に分解して認識する。そこでは、経営資源を「事業活動にいまだ 貢献することのない「未利用で潜在的な」生産サービスとすでに既存の事業活動に貢献し ている「顕在化した」生産用役との束として定義」している(軽部,2004,p.111)。ペンロ ーズが、なぜ経営資源(resources)と生産用役を別概念として認識をしているかというと、

単に経営資源が成長や競争優位の源泉となるとは考えていないからである。すなわち、経 営資源という概念では、競争優位の説明がつかないと考えたのである。それは、同じ資源 をもっていても、その資源から提供される用役(サービスや機能)によって、異なる顧客 価値が生まれるといったほうがより競争優位の説明に関して説得力があるということであ る。このように考えると資源は、ある特定の用役を提供する顕在化した存在というだけで はなく、複数の用役を提供しうる未利用で潜在的な用役が必ず存在しているということに なる。

ペンローズは、この未利用で潜在的な用役に着目する。日々遂行される事業活動では、

資源、すなわち生産用役のすべては、完全に使い尽く(顕在化)せず、継続的に潜在的な 資源は蓄積される。この生産用役のすべてを使い尽くせ(顕在化でき)ないのは、人間(意 思決定の主体者である個人や企業)の限定的な合理性に起因している のである(軽 部,2004,p.111)。すなわち、人間の能力が不完全であるということであるが、それ故に、

合理的であろうとする意思決定の主体者である個人や企業は、資源を新たな事業活動をも って活用しようとする。このため、資源には常にさまざまな用役を提供する可能性がうま れる。

上記のように、ペンローズは、資源には未利用で潜在的な用役が存在し、あらたな事業 活動を通じて、特定の生産用役が顕在化されるプロセスとして企業成長をとらえる。具体 的には、未利用な資源を活用して、既存ビジネスの強化や合理化、販売強化をしたり、新 製品や新規事業を試み、資源の未利用状態をなくそうとする。この未利用で潜在的な用役 が新たな事業活動をし用役が顕在していく過程は、企業にとっては、生産サービスの引き 出される量が不均衡な状態から、均衡状態になることを意味している。そして、この特定 の生産用役があらたに顕在化する、生産サービスの「引き出され方」にこそ個別企業の独 自性の源泉が求められるとしている(軽部,2008)。しかしながら、人間の限定的な合理性 もあって、不均衡の解消は、あらたな不均衡を生み出し、結局、不均衡状態はなくならな い。こうして、企業は外部環境というより、主体的に成長を志向していくのである。この ようなペンローズの資源、および、企業活動についての考え方は、組織能力を動態的に考 えているといえる。

伊丹についても、説明が必要である。伊丹は、『経営戦略の論理』(1980年)、『新経営戦 略の論理』(1984年)で、組織的学習プロセスの重要性を企業の競争力形成や企業発展の 説明論理の中心に捉えることに成功している(軽部,2008)。この組織的学習プロセスの重 要性は、1990年代に隆起するRBVの戦略論の主要な研究者が必ずしも十分に光をあてる ことができていないものであり、伊丹の RBV の特徴にもなっている。その中で伊丹は、

組織学習の主体としてのヒトの重要性に着目をしつつも、ヒトとヒトが生み出す用役(サ ービス、資源)の区分、および見えざる資産の同時多重利用可能性という特徴に着目し、

論理を形成した(軽部,2008)。

まず、伊丹のいう見えざる資産とは、特にヒトが創り出し、学習・蓄積する情報という 経営資源を指す。これは、目に見える経営資源としてのモノとは異なり、ヒトには組織内 における学習能力があるということを前提とする(沼上,2009,p.79)。次に、ヒトとヒトが 生み出す用役とを明確に切り離して認識することで、ひとたび生み出された用役がヒトの 行為とは独立して存在することを仮定とした具体的な論理形成をすることがしやすくなる。

これは、ヒト個人が、組織の協働管理機構システムのもつ物理的な制約に拘束されること なく、ヒトにより生み出された用役をもとに組織学習を説明することができるということ である。ヒトの持つ学習能力により時間の経過とともに組織能力は成長し、それに伴いヒ

トから生み出される用役も増加する。このような新たに生み出された用役が相当に余剰な 状態になってはじめて、組織は新たな事業活動をはじめることが可能となる。そして新た にはじめた事業活動の中で組織は学習によって、ヒトから生み出される用役をふたたび増 加させる。またこの例とは反対に、不均衡な状態でスタートする場合がある。これは、組 織目標に対してヒトを含む資源の投入量が少なく、ある一時点の組織活動におけるヒトか ら生み出される用役が当初、明らかに少ない場合である。これは、多少無理をした高いレ ベルの目標を実現するような経営戦略を描いたほうが、結果的に組織メンバーの学習が進 み、かえってダイナミックな成長を加速できる可能性があるという「オーバー・エクステ ンション」の論理である(伊丹,1984,2003;沼上,2008,2009)。

上記のように、伊丹は、学習をキーワードにヒトにより生み出された用役が時間の経過 とともに増加していくという論理形成を行っている。このように、学習によって組織能力 の質や量は変化していくという捉え方は、組織能力を動的に捉えているといえる。

上記のペンローズと伊丹は動態論であるが、その動態論を形成する論理の中に、組織内 に組織を動かすエネルギーが内在するという論理が組み込まれていることに特徴を見出す ことができる。

動態論の3人目であるティースは、環境変化に対応して組織能力を結合、構築、再配置 する能力として、DCを最初に提唱した研究者の一人である。そして、このDCという概 念自体が組織能力を進化させるという点において、動態論に立脚するものである。

ここまで、組織能力を動態論として捉える研究者を3人とりあげた。ペンローズ、伊丹、

ティースである。3 人が動態論であるという根拠といえる箇所を整理する中で、ある特徴 が明らかになった。それは、ペンローズ・伊丹とティースとの間で、動態論としての捉え 方に相違があるという点である。

ペンローズは、企業はすべての経営資源を活用しきれないと論じる。そして、企業はそ の潜在的に未利用な経営資源、すなわち企業が保有する組織能力の有効活用のために事業 活動をするものであるとしている。その事業活動によって新たな経営資源が生まれ、組織 能力は進化するのであるが、一方で新たな未利用な資源や未活用な組織能力が生まれる。

企業はこうした新たに生まれた未利用の資源や未活用な組織能力を有効に活用すべく、事 業活動を行っていく。このように、ペンローズはいまだ使われていない組織能力をいかに 活用するかという議論を中心にして、常に新たな事業の活動が行われるとする。

伊丹は、組織内でヒトが学習することに着目する。そして、既存事業、新規事業を問わ ず、企業はその事業活動において、ヒトが学習するために、経営資源や組織能力が新たに 生み出されるということを論じている。ここでは、この新たに生まれた経営資源や組織能 力が組織の内部に蓄積されて、既存の組織能力が強化されるとする。さらに、企業はそれ をベースにして、既存事業の拡大や新規事業への進出などを行っていく。このように、伊 丹は事業活動遂行の際、組織学習をもとにした経営資源や組織能力の蓄積・更新が常に行 われていくという議論の中で、既存事業の拡大や新規事業の展開などを論じている。

ドキュメント内 組織能力の独自性 -成長企業3社の事例- (ページ 141-149)