6. 株式会社ミスミグループ本社
6.6 ミスミの組織能力
ミスミの事例から、組織能力を明らかにする。ミスミの組織能力は、「1.持たざる経営」、
「2.購買代理」および「3.オープンデジタル経営」の3つである。以下、それぞれについ て述べたい。
1.持たざる経営
「持たざる経営」とは、社内に資源をもたずに外部資源を極力活用して経営することであ る。ミスミを実質的に創業した田口は、企業は資産を所有した瞬間に身動きが取れなくな り、顧客ニーズの変化に柔軟に対応できくなると考えていた。そのためミスミは、生産の みならず、基幹業務である受注の一部までも外注している。ミスミの「持たざる経営」の
要素は2点ある。1点目は、生産と受注を委託することで達成した低コストでの生産・受注 力である。2点目は、外注を成功させるには、関係会社との連携が必須であるため、協力メ ーカーとの調整力である。これらの能力は、「持たざる経営」を可能にしている。「持たざ る経営」は低コスト生産・販売を実現していることから、コスト競争力につながるため、
競争優位の源泉といえる。具体的には、次のとおりである。
田口は顧客ニーズを起点として商品を提供する購買代理を始めた当初から、常に変化す る顧客のニーズに合わせて柔軟に変化することができる組織を目指していた。企業は資産 を所有した瞬間に、簡単に資産を捨てたり変えたりできないために、身動きが取れなくな る。そこで田口は、社内に資源を所有せず、外部資源を極力活用するという「持たざる経 営」を行うことにした。
「持たざる経営」としては、まずミスミが顧客に販売する製品の生産と、製品の受注の一 部を外注した。これは、「低コストでの生産・受注力」と呼ぶことができる。生産について は、低コストで生産できるメーカーを選別する仕組みを構築することと、ハーフメード方 式を導入して在庫数を減らすことで達成した。受注については、受注センターや物流の積 極的なアウトソースと、生産を委託するメーカーとの受発注がスムーズに行えるプロセ ス・システムを構築し、低コスト化した。
1点目の「低コストでの生産・受注力」の具体的な事象は、次の通りである。
ミスミは 1985 年に協力メーカーによる競争入札制度を導入し、1997 年にはオープンコ ンペティション方式を導入した。競争入札を実現することにより、低コストでの商品の仕 入れを実現した。オープンコンペティションでは、ミスミからの売値、仕入れ値、流通マ ージンや取引金額・数量など購買条件を詳細に提示している。協力メーカーとのしがらみ を無くすことで、常に最も低価格の協力メーカーから仕入れることができるようにするた めの合理的な取り組みである。選出された協力メーカーとは、初期には専用回線、インタ ーネットの普及により現在ではインターネットで連携しており、顧客からミスミへの受注 がそのまま協力メーカーへの発注になる仕組みを構築している。
また、ハーフメード方式を採用し低コストでスムーズな受発注を実現している。金型部 品は標準品でも点数が多く、取扱い部品は約 100 万種類で、サイズ違いも含めると総数は 数百垓にも達する(約 500 垓)。垓という単位は、星の数の表現に用いられるほど膨大な 量であり、兆の億倍である。例えばミスミのある金型部品の商品アイテムを取り上げると、
その商品のタイプ、形状やサイズ(長さ、幅など)の全てのパターンは合計すると、1.5京
(兆の一万倍)パターンにも達する。単純に、200万アイテムがそれぞれ1.5京パターンあ ると考えると合計で商品点数は約300垓となるが、日経ビジネスで500垓との掲載があっ たことから、アイテムにより更に多くのタイプ、形状やサイズの違いが存在すると想定さ れる。メーカー側でもそれら全てを在庫することは現実的ではないため、ハーフメード方 式を考え出した。最終加工をしていない半製品(ハーフメード品)をメーカーが在庫し、
受注してから最終加工して顧客に納品する。これにより、在庫する数量を抑えかつ、スピ
ーディーな納品を実現する。
「顧客が欲しい商品が載っているカタログ」を作るということは、「市場の声をよく聞い て、その時々のニーズに直結した製品を提供できるようにする」ということである(日経 アドバンテージ, 2003/05, p.129)。田口の時代には、これらを低コストで実現するために は、余計なものは持たないことが重要だと考えた。情報システムは一時期自社で保有して いたが、1994年ごろ大和総研にアウトソーシングした(綾部・國領, 1994)。カタログか らの受注についても、受注センターの一部を外部へアウトソースした。また物流について も、商品の配送は配送業者へ委託していた。
2 点目の「協力メーカーとの調整力」の具体的事象は、次のとおりである。「持たざる経 営」を実現するために生産と受注の一部を外注したが、外注を成功させるには協力メーカ ーとの調整が必須であった。「協力メーカーとの調整力」とは、「納期保証」「供給保証」「開 発保証」「価格保証」を実現するために必要な組織能力であり、協力メーカーとは、ミスミ が生産を委託するメーカーのことである。ミスミは委託先のメーカーを選別することを重 視しており、これらメーカーは、納期を守ることができ、かつ低コストで生産できるメー カーとして選定されたメーカーといえる。これらメーカーとは前出の専用回線やインター ネットを通じて蜜に連携し、受発注のプロセスを円滑に行っている。
通常、ミスミは顧客から受注すると、そのまま協力メーカーへの発注となり、「納期保 証」を守れるようスムーズな受発注が行われている。標準品の受注であればこのように自 動化されているが、顧客からの仕様変更(標準外品)、特注品や納期短縮の要望があった 場合には、協力メーカーとの細かい調整が必要となる。サービスセンターで受注してか ら、該当製品担当の市場開発チームに対応を依頼する。市場開発チームは協力メーカーと 顧客の要望に応じて調整し、顧客との更なる調整が必要になればサービスセンターに対応 を再度依頼する必要があり、複雑な流れとなっている。
また「開発保証」という付加価値を顧客に提供するには、顧客からの要望に応じて標準 品を継続して開発していく必要があった。これにはミスミのカタログに添付されているコ ミュニケーションカードや、サービスセンターに寄せられたカタログに掲載のない規格の 引き合いに関する情報が活用された。実際に商品化に結びつくことは多くはないが、協力 メーカーに対しては、必要に応じて開発を委託できるような関係を構築しておくことが重 要になってくる。
上記のように効率的な受発注のプロセスに加えて、例外対応や標準品開発に対して、担 当者が協力メーカーに対して細かく調整することができることがミスミの強みとなってい る。この「協力メーカーとの調整力」により、自社で生産や受注機能のすべてを持つ必要 がなくなり、「低コストでの生産・受注力」の実現が可能となっている。また、効率的な 受発注や標準品の開発についての連携を実現することで、納期や開発が保証され、後述の
「商品提供力」を可能にした。
協力メーカーに対し、常に調整力を発揮するには、社員の主体的な行動が求められる。
そこでは、「協力メーカーとの調整力」は、「チーム制により企業家精神を醸成された社 員」という資源を活用する。そして、アウトプットとして、「納期保証」「供給保証」「開 発保証」「価格保証」で商品を提供できる協力メーカーとの密な連携」が蓄積されていくの である。
2.購買代理
「購買代理」とは、顧客の代理として必要な部品を探し出し提供するという、業界慣行で ある販売代理に反した仕組みである。これは生産財の流通革命を目指した田口が考案した 仕組みで、それまでの業界慣行であった販売代理、すなわち、販売側が顧客に販売したい ものを売るのではなく、顧客に価値を提供する仕組みであった。この組織能力は、生産財 部品を標準化して標準品の市場を創り上げ、「納期保証」「供給保証」「開発保証」「価格保 証」という付加価値を付けて商品を提供する。また、購買代理は顧客のニーズありきの仕 組みであるため、把握した顧客ニーズを分析して事業計画に反映する力でもある。このよ うに、「購買代理」の要素は、3 点ある。1 点目は、生産財の標準品市場を創造した市場創 造力である。2点目は、「納期保証」「供給保証」「開発保証」「価格保証」という付加価値を 付けて商品を提供する商品提供力である。3点目は、顧客ニーズを分析して事業に反映する 顧客ニーズ分析力である。
1点目の市場創造力の具体的事象は、次のとおりである。ミスミの創業者である田口は、
生産財の金型部品市場における標準部品というニッチな市場を発見し、参入していった。
その後、田口は生産財の流通革命を目指し、標準品のカタログ通信販売の市場を創造して いくことになる。メーカーが製造した商品を代理で販売するという発想(販売代理)とは 逆に、田口は、顧客の代理として必要な商品を探し出すという顧客指向の考え方(購買代 理)でビジネスを行おうとした。逆転の発想で購買代理という新しいコンセプトを打ち出 し、金型部品という生産財の流通革命を実践したのである。そして、そのことによって新 たに市場を創造していったのである。
市場創造力の具体的な事象は、金型部品の標準品市場の展開があげられる。ミスミが金 型部品の標準部品を発売した当初は、日本では標準部品はほとんど日本で発売されておら ず、部品の規格化は遅れていた。しかし実際には各メーカーが使用する部品の仕様はわず かな差しかないことに気が付いたミスミは、部品を標準化した。委託生産に慣れていた顧 客は、初めはなかなか標準品を受け入れられなかったが、ミスミは辛抱強く顧客に標準商 品のメリットを説いて回った。オイルショックによるコスト削減のプレッシャーも後押し し、標準品が受け入れられていく。
この金型部品の標準品市場の展開には、カタログでの通信販売の開始がかかせない。ミ スミは購買代理を開始した当初は、営業担当者が顧客を訪問して標準部品の普及に努めて いたが、営業担当者 1 名あたりの受注金額は低いという問題があった。そこで営業の効率 化とサービスの平準化を目指して、カタログによる通信販売を開始した。カタログでの通