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事例研究の方法

ドキュメント内 組織能力の独自性 -成長企業3社の事例- (ページ 33-43)

本章では、事例研究の目的と方法を述べ、そして事例対象企業の選定を行う。

本稿で事例研究を行う目的は、事例研究を通じて組織能力論を発展させることである。

それは、事例研究の対象企業である 3 社の経営の実態(持続的競争力)を解明し、そのう えで事例対象企業の組織能力の実態を解明することでなしえる。

組織能力とは、「企業が固有にもつ有形無形の資源と、それを活用する能力やプロセス」

(延岡, p.50)であり、企業の競争優位性の源泉と考えられている。組織能力を明らかにす るには、企業の経営の実態を明らかにし、何によって長期にわたって競争優位性を発揮し ているかを把握する必要がある。つまり、長い年月をかけて形成された企業の持続的競争 力を解明していくことで、組織能力の実態を明らかにすることができると考える。

次に、事例 3 社の組織能力を、事例の具体的な事象を用いて明らかにしたい。事例を見 ていく際は、企業の顧客や最終消費者にとってどのような価値を組織能力が提供し、その 結果企業の競争力にどのように繋がったのかという観点をもって見ていくこととする。例 えば経営者は何を目指し、その方向性を受け従業員はどのような行動を取り、どのような 業務を遂行していったか。どうしてそのような手法を取ったのか。こういった一連の事象 を紐解きながら、上記観点をもって、組織能力を明らかにしていく。そして、組織能力が 複数ある場合は、組織能力同士がお互いにどのように関係しているか、その関係性も明ら かにする。例えば、一つの組織能力は他の組織能力を強めた、とか、この組織能力があっ たから他の組織能力が構築された、というような関係性である。

さらに、企業の組織能力のうち、中核的な能力であるコア・コンピタンスも特定してい く。なぜその能力がコア・コンピタンスであるのか、具体的な事象を用いて説明したい。

最後に、組織能力を DC の観点から捉えて説明する。ここでも具体的な事象を用いて、企 業を取り巻く環境がどのように変化し、変化に対して企業はどのように行動したかを説明 する。このように、組織能力同士の関係性、コア・コンピタンス、および組織能力を DC の観点から捉えてそれぞれ具体的に説明することで、組織能力の全体像を捉えることがで きる。すなわち、こうした一連の作業を通じて初めて、「組織能力とは何か」、具体的に理 解することができると考えている。

以上のような事例研究の目的に鑑み、本稿では、事例対象である 3 社についてできる限 り詳細な事例研究を行いたい。先行研究を踏まえて組織能力のフレームワークを提示し、

そのフレームワークを用いて、具体的な企業について詳細で多面的な分析を行う。創業時 から現在に至るまでの、企業全体についての事象を追っていく。企業の創業時からの歴史 や、企業全体で行われた各種施策と結果との因果関係を明らかにするのである。また、あ る一時点の組織能力ということではなく、創業時から現在までの長い時間のなかでの組織 能力を明らかにする。そして、組織能力を軸に時間を追って見ていくことにより、組織能 力の変遷を捉えていく。ここで重要なのは、事例を単に成功要因を抽出するということで

はないということである。組織能力を軸に事例を見ていくのである。そのためには、組織 能力のフレームワークが必要となり、このフレームワークに照らしあわせて事例を見てい くことにする。

以下では、本稿で事例研究を行うことが合目的であるかについて、論じたい。

事例研究の長所と短所について、吉原はその著書『中堅企業の海外進出-6 社の成功例に みる-』(1984)と『戦略的企業革新』(1986)において、以下のように述べている。

事例研究を行うことの長所として、まず詳細に事例研究をした場合、少数の事例に関す る奥深い、多面的な分析が可能であるとする。そして、企業の実態や活動と結果との因果 関係について全体像を提示することが可能となり、また歴史的な動きや遷移をとらえるこ とができることを長所としてあげる。また、短い簡潔な事例を複数行った場合は、企業の 具体的な事象について要点だけに焦点をあわせることができ、広く一般的な要点を把握で きるという長所を持つとする。しかし短い簡潔な事例では、事例研究の長所である多面的 で奥深い分析、実態や活動と結果の因果関係の全体像の把握や、経時的・歴史的な変遷や 変化についての解明を行うには限界があると指摘する。

一方、事例研究を行うことの短所について吉原(1979, 1984)は、事例研究で得られた 発見事実は特異なケースなのかまたは一般性をもつか不確定であること、また事例の分析 において研究者の恣意的判断が介入しやすい点を挙げている。

このように事例研究には長所・短所が存在するが、そのうえで、吉原(1984)は、未開 拓の研究分野に対する事例研究の意義を提示している。また、クリステンセン&レイナー

(2003)は、理論を進展させるには、先行研究を踏まえた理論について具体的な企業の事象 を用いて検証し、理論を進展させるという流れを繰り返すことの重要性を提示する。

こういったことからも、組織能力という研究テーマは、いまだ未開拓な分野を多く残し ており、理論を進展させるには事例研究に基づいた組織能力研究を行う意義があるように 思われる。これに対して、短所はそれほど大きい支障とは思われない。結論として、本稿 での研究の目的である企業の経営(持続的競争力)の解明と、組織能力の実態を明らかに するという課題に対しては、事例研究の方法は適していると考えられる。

次に、事例研究の方法について説明する。

本稿では、これまで述べてきた事例研究の目的に適合するために、以下の 3 つの観点に 留意して、事例研究を行うこととしたい。1つめは、「①組織能力をキーコンセプトとした」

事例研究を行う。すなわち、組織能力を議論の中心とした事例研究を行うということであ る。具体的には、後述する組織能力の概念フレームワークを用いて、事例を分析していく。

そして、「②詳細な事例研究である」ことを目指すことが2点目である。前出のとおり、

歴史的な動きや遷移をとらえながら、企業の実態や活動と結果との因果関係について全体 像を提示したい。

最後に、「③組織能力に関する示唆を提示する」ことを目指す。これは、事例研究を行 うことによって組織能力論を発展させていきたいということである。

ここで本研究を具体的にイメージするため、組織能力を研究する際によく引用される先 行研究である3つの事例研究を取り上げる。まず1つめは、DC論において主要な研究の 1つであるヘルファットら(2010)の「ダイナミック・ケイパビリティ - 組織の戦略変 化」である。この研究では、ラバーメイドとクエーカーオーツの2社について、組織能力 のうちDC をキーコンセプトとした研究を行い、組織能力に関する示唆を提示している3。 ヘルファットらは、まず組織能力をオペレーショナル・ケイパビリティとDCに分類し、

DCについてのフレームワークを提示している。そしてDC のフレームワークのうち、パ フォーマンスの基準についてラバーメイドとクエーカーオーツの事例研究を行い、専門能 力をもった企業でも、経営者の判断が間違えば、DC が生産的ではなくなることを明らか にしている。また、研究での発見事実として、経営者は企業の資源をどのように扱ってい るかを注意深く考察する必要性を説く。このようにヘルファットらは、提示したDCのフ レームワークのパフォーマンス基準について、新たな観点を追加し、組織能力論を前進さ せている。

次に、バーゲルマン(1994, 1996, 2002a, 2002b)の一連の研究について見てみる。バ ーゲルマンはインテルのDRAM事業からの撤退事例を分析した論文を1994年と1996年 に、そして1990年代のインテルにおける新規事業開発の事例を分析した論文を2002年に 発表している。そしてこれらの研究成果を『インテルの戦略―企業変貌を実現した戦略形 成プロセス』(バーゲルマン, 2002b)としてまとめている。バーゲルマンの研究の目的は、

新規事業開発の成功要因を明らかにすることであり(福澤・新宅, 2007)、戦略形成プロセ スをキーコンセプトとしてインテルの事例を詳細に研究している4。バーゲルマンの一連の

3 ヘルファットら(2010)の研究は、先行研究を踏まえた上での「①組織能力をキーコンセプトとした」

研究でり、かつ、「③組織能力に関する示唆を提示する」。ヘルファットらはまず、組織能力をオペレ ーショナル・ケイパビリティとDCに分類する。そして先行研究をもとに、DCをプロセスとパフォーマ ンス基準のフレームワークを提示している(ヘルファットら, 2010, p.13)。ヘルファットらによると、

DCの根幹は経営プロセスと組織プロセスであり、これには意思決定を伴う探索と選択が含まれる。そし て、変化に対応して、資源ベースの配置と活用を実行する。またDC のパフォーマンスの基準は、専門 的適合度と進化的適合度だとする。専門的適合度とは、単位費用あたりの質をさす。そして進化的適合 度とは、存続、成長、価値創造、競争優位、持続的競争優位や利潤である。

そして「③組織能力に関する示唆を提示する」かについては、DCの新たな観点を追加し、組織能力論を 前進させている。ヘルファットらは DC のパフォーマンスの基準について、「専門的適合度は、物事を 続行していく自信を企業に与えるのかもしれないが、進化的適合度の欠落のために、競争環境でのダイ ナミック・ケイパビリティが生産的ではなくなってしまうおそれがある」(ヘルファットら, 2010, p.109)と結論づけている。事例ではラバーメイドのクエーカーオーツの経営者が判断を誤った結果が大 きく影響していることに着目し、研究での発見事実として経営者の行動・不行動を注意深く考察する必 要性を説く。「②事例を詳細に研究した事例研究である」かについては、ヘルプファットらはこの研究 2社の事例の概要を記載するにとどまる。今研究では、概念フレームワークである「パフォーマンス の基準」について、ラバーメイドとクエーカーオーツの事例研究がなされている。この2社を失敗事例 として、経営者の意志決定が、専門的適合度と進化的適合度に及ぼす影響を示している。ラバーメイド とクエーカーオーツの事例は、それぞれ約11頁と8頁である。この2社はかつて高いマーケットシェア を獲得していたが、過去の栄光にあぐらをかいていたということもあり、経営者が判断を誤った結果、

マーケットシェアを失ってしまった。

4 バーゲルマンが示す戦略形成プロセスとは、「新たな事業機会を発見し、それに戦略的な意味づけをし て必要な資源が配分されることによって、全社戦略が変化していく一連のプロセス」(福澤・新宅, 2007,

p.414)である。1983年~2002年の間に、インテルを詳細に研究し、事例研究をいくつも発表している。

インテルの新規事業開発において、80年代の成功と90年代の成功をつぶさに描写し、戦略形成プロセ

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