5. 株式会社ファーストリテイリング
5.5 トップメーカーを目指した躍進(2001 年頃~現在)
明らかになった課題と理念の再確認
1999 年~2000 年のフリースブームでは、消費者の予想以上の反応に量産を繰り返し何 とかしのいだが、逆に2001年末~2002年初めには需要の激減に苦しんでいた。生産調整 が上手くいかず、値下げにより粗利益が低下し、株式上場後初めて減収減益となった。そ の原因を、柳井以下経営陣は次のように捉えていた。「ベーシックとファッションのバラ ンスが崩れたことが売上げ減少の一番の理由だ。FR で扱うのは生活必需品である。FR の シェアが増し、ほとんどの顧客が FR の商品を持つに至ると、同じ商品が毎シーズン店舗 に並んだのでは、お客様の買いたい商品がなくなってしまう」「FRは『ベーシック』と『ク ラシック』を間違えてしまった。今年ほとんどの人が欲しがる商品を『ベーシック』と呼 び、それこそ、FR の目指すものだった。しかし、あまりのブームが起こり、欠品問題で 苦労したため、いかに欠品を起こさないかという点に関心が集まりすぎた。ファッション とは、『変わる』ことが原点であるにもかかわらず、昔からあるいわゆる『クラシック』、
つまり変わらないものを『ベーシック』と捉えてしまい、『クラシック』に偏りすぎてし まった」(石倉, 2004, pp.135-136)。そして柳井はFRの方向性を再確認する。2000年2月 18日、恒例の証券アナリスト向け説明会で次のように宣言した。「ユニクロはGMSでも ジーンズ・カジュアルショップでもない新しいポジションを得た。全く新しい店、ブラン ドが誕生したと思う。当社は小売業から、マーチャンダイジングとマーケティングの会社 になる。カジュアルチェーンからカジュアル産業になり、お客様に最高品質で市場最低価 格の商品を最短期間で提供する『カジュアル・ダイレクト・ビジネス』を目指す」(山根・
小倉, 2000, pp.13-14)。また2001年には、「洋服は『服装の部品』であり、FRの存在価 値は一枚の完成された商品、部品を作ることで、トータルコーディネーションではない。
単品として完成品を作りたい。日本企業が世界に通用するのはこれしかない」と述べてい る(販売革新, 2001/01)。単品大量販売方式を強化し、粗利益率を40%から45%、経費率
を30%から25%、経常利益率を10%から20%に引き上げることを目標とした。
今後の成長における課題と対応策
今後の成長に向けた課題は「①流行にかかわらないベーシック・カジュアルに絞り込んだ FR の商品自体のマンネリ化、②規模がここまで増大するなか、トレントをどう捉え、商 品企画と需要予測を調整するか、③整合度の高いバリューチェーンの強みをどこまで活か せるか」である(石倉, 2004, pp.127-128)。課題1つ目の商品のマンネリ化については、
ベーシック・カジュアルを目指す FR にとってある程度仕方がないことと柳井は見てい た。しかし新鮮味を出すため、シーズンごとに色やデザインを変える方針とした。既存の デザインチームに加えて世界一流のデザイナーを集め、デザイン研究室を設立した。商品 企画のサイクルも、従来の年3回から6回に増加した。商品アソートの中心を、展開期間4 カ月から 2 カ月程度に短縮し、回転を早めることで新鮮さを打ち出した。それにより商品 アイテム数は年間500から 20%程度増加するが、店舗数を増やすことでコスト・メリット を出せると試算した。NB(National Bland)はほぼ全廃し、ユニクロ、ユニクロ・ウィメ ンズ、ユニクロ・キッズに絞り込んだ。特に強化した商品は、ウィメンズである。ユニク ロ・ブームを牽引してきた女性層の一部が離れてしまったこと、またカジュアルの世界ブ ランドになるためにはウィメンズからの支持が必須条件と考えたためである。ベーシック
要素が70%程度のメンズ商品に比べて、ファッション要素が70%で残りがベーシック要素
と考えられるウィメンズに継続して支持されることは、挑戦であった。
課題 2 つ目の商品企画と需要予測については、次のような取り組みを行った。まず、生 産POSを構築して店舗での販売情報とパートナー工場とをつないだ。販売データを素材の 発注計画や生産計画へ緻密に反映できるようにした。品番だけでなく、色やサイズ別にデ ータを管理することを目指した。以前は計画販売量の6~8割程度をパートナー工場へ早期 発注し、残りは売れ行きの動向を見て期中に分散発注していた。一方新しいやり方では、
早期発注は5割程度に留め、残りを適時補充した。早期発注の時期も、6ヶ月前から3ヵ月 前に短縮するよう取り組んでいた。また商品企画についても、以前はデザイナーのコンセ プトをパタンナーがパターンを作り、パートナー工場がサンプルを作るという過程を繰り 返していた。商品企画におけるこの試作をなくし、1 回目の企画で完成として素材・副資 材・工場キャパシティの確保等を並行して進めることで、生産までのリードタイムを短縮 した。
課題 3 つ目の整合度の高いバリューチェーンの強みを生かすことについては、今まで以 上にSPAのバリューチェーンの垂直統合を強めていく。柳井はパートナー工場との関係を
深めるため、2002年1月に、中国の主要なパートナー工場40社の経営者を招き、上海に て「工場コンベンション」を開催した。FRはパートナー工場に高品質と高生産性を厳格に 求めるが、同時に工場への発注や素材調達は全量責任を取ることで、信頼関係を構築して いた。パートナー工場とは、共にものづくりをしている運命共同体と見ていた(石倉, 2004, p.119)。海外調達のコスト削減においては、トヨタのグローバルソーシングモデル を参考にしている。トヨタは部品調達において、主要ベンダー各社の生産工程数やコスト をデータとして把握している。FR は、それぞれの専門分野のキャリアをもつ社員を集 め、約 3 年がかりで調達モデルをほぼ完成させた。各商品の工程数、所要時間、所要コス トが見える化され、商品単位の製造コストが把握でき、コントロールが可能となった。ま た、前述の通り商社との連携や、後述で触れる素材調達についても協力会社との連携を強 めていく。
マーチャンダイジングとマーケティング
前述の通り柳井は、FR は小売業から、マーチャンダイジングとマーケティングの会社 になると 2000 年に宣言した。高品質の商品を生産しても、消費者に伝わらないと売れな い。うまく伝える力はマーチャンダイジングと同等に重要であると認識しているからであ る。マーチャンダイズ部のミッションは、顧客のニーズを吸い上げ会社の理念を具現化す ることである。新商品の開発を通じて、全体的競争優位な商品を開発することが求められ る(杉田, 2003)。商品企画のための情報収集においては、日本国内のみならず海外を含め た市場動向、街のストリート情報などをリサーチしている。誰よりも早く市場動向を捉 え、商品化し、需要のピークに合わせて提供することで、販売機会ロスの削減や在庫の低 減を意識していた。そしてデザイナーとパタンナーをマーチャンダイジング部から分離さ せ、青山にデザイン研究室を設立した。彼らの地位と発言力を高め、いち早くリサーチし た情報を商品化する役割を担っていた。
素材開発と調達
アパレル製造コストにおいて、素材調達コストは大きなウェイトを占める。ユニクロの 売上は2001年8月期4,168億円から2002年8月期は3,441億円に減少したが、素材調達 費用は依然として大きな割合を占めていた(杉田, 2003)。そこで、億単位の商品に使用さ れている素材を20程度に集約し、1素材あたり1000万~2000万点単位で生産する計画を 立案した。日本国内向け商品と海外向け商品では、パターンやサイズが異なるが、同一素 材を使用することで規模の経済を最大限に活用した。また、FRは素材メーカー(東レ、東 洋紡や旭化成など)と協働で新素材の企画・開発や価格交渉を行い、素材調達リスクを 100%自社で負っていることも、素材調達コストを低く抑えることに貢献している。
同時に、素材メーカーにとっても FR との取引はメリットが大きい。顧客(この場合は FR)が求める素材を確実に開発することができ、その素材を長期的に安定して供給するこ
とができる。また 1 つの素材への発注量が桁外れに多いため、生産コストの削減が可能と なり、FRの商品のコストダウンにもつながっている(杉田, 2003)。例えば東レとは2000 年から戦略的パートナーシップを提携し、2006年には資本関係のないバーチャルカンパニ ーを設立した(日経ビジネス, 2009/06)。これらの提携により汗を吸い取り快適感が持続 する下着「サラファイン」や、世界 1 の柔らかさを実現したポリマー構造のポリエステル で高保湿性を実現した「ヒートテック」など、ヒット商品を生み出している(日経ビジネ ス, 2010/08)。2006年から5年間で200億円規模のビジネスに拡大する計画を立てていた が、2009年時点で既に200億円を超えた(日経ビジネス, 2009/6)。2010年7月には戦略 的パートナーシップ第二期 5 年計画を発表するなど、連携を強めている(同社 HP, www.fastretailing.com/jp/about/history/2010.html, 2012/12/5)。
こういった仕組みは、特定の消費者をターゲットにトレンド、アイテム数と低価格を追 求し品質の向上に注意を払っていない競合SPA業者とは一線を画すものである。またSPA ではないアパレル小売り企業では、単に出来上がった最終商品を仕入れるだけという企業 が多い。それら競合他社と比較し、これらの仕組みは独自性のある商品提供能力をさらに 強固なものにする要因となった。
基幹業務システムの更なる進化
2002年頃には、最新の統合業務基幹システム構築に向けて、SPA形態に豊富な経験を持 つ日米複数のシステム会社と取り組んだ(杉田, 2003)。日本にある店舗の販売情報を、自 社海外法人や駐在員事務所のみならず、中国のパートナー工場にも共有する。販売情報を 基に工場側は迅速な生産体制を調整することができる。このシステム「G4」は 2004 年 3 月に稼働し、原料、生産から販売までのバリューチェーン全体を一括管理することが可能 となった(日経情報ストラテジー, 2007)。システム導入の過程において、システムの複雑 化を招く地域ごとの仕入れ等は廃止した。その後も基幹業務システムを進化させ、2009年 4月からは「G1」(Global Group 1)プロジェクトを開始した。業務を支える情報システム を、クラウドコンピューティングのテクノロジーを用いて全世界で統一するものである。
対象業務は、生産や品質管理などの製販だけでなく、給与や人事情報など全ての業務に渡 る。また導入対象会社は、ユニクロだけでなく、買収したセオリー、コントワー・デ・コ トニエにも及ぶ。この2社についての説明は、後述(5.6)する。また2011年6月には、
全店舗スタッフに配信される端末で、世界中の店舗の売上、粗利、売れ筋、在庫の把握が 確認できるシステム、そして2011年中には全世界の工場の生産体制や納期・品質状況を一 元管理できるシステムを稼働する予定である。システム構築の際に標準化した調達ルール や品質基準などを、全世界の工場に適用し、順守を徹底させる(日経ビジネス, 2011/03)。
基幹業務システムを活用した店舗運営の継続的な改善
前述の基幹業務統合システムの導入は、店舗運営の改善にも貢献した。店長は、世界中