• 検索結果がありません。

ファーストリテイリングの組織能力

ドキュメント内 組織能力の独自性 -成長企業3社の事例- (ページ 86-99)

5. 株式会社ファーストリテイリング

5.7 ファーストリテイリングの組織能力

の工場だけでなく、ベトナムやバングラデッシュの生産工場との提携を開始した。2009年 時点で中国パートナー企業での生産は全体の 90%であるが将来的には 2/3 とし、残りはベ トナムとバングラデッシュで生産することを目指している(日経ビジネス, 2009/06)。

今後の挑戦的な成長戦略

こうして、日本で優秀な成績を上げている店長を海外店舗の立ち上げに指名し、FR の 理念、経営スタイルや企業文化を海外新店舗にも展開していった。柳井は世界中のグルー プ会社で、国籍を問わない人材の最適配置を目指している。業務基幹システムを統一し、

業務を標準化したことで、異動してもすぐ業務に着手できるようインフラを整えた。FR は世界一のアパレル製造小売業になることを目指し、10年後に日本1兆円、中国1兆円、

アジア1兆円、米国1兆円、欧州1兆円の売上目標を掲げた(柳井, 2011)。成長率は、年

率20%の成長と、経常利益率20%の達成を目標とした(柳井, 2011)。FRは日本発のグロ

ーバル イノベーション カンパニーになる必要があると認識しており、合言葉は「グロ ーバルワン」(全員経営)である(柳井, 2011, p.19)。これらの目標を達成するために、FR は、上海、シンガポール、ニューヨーク、パリに経営拠点を設置する予定である。そし て、ユニクロだけでなくセオリー、コントワー・デ・コトニエ、プリンセス タム・タ ム、ジーユー事業の経営を行っていく(柳井, 2011)。柳井曰く、「我々の目指すところは、

我々全社員が世界中で、世界最高水準の経営をする、世界最高水準の商品をお届けする、

世界最高水準の店舗経営をするところにあります」(柳井, 2011, p.20)。

るため、既存のデザインチームに加えて世界一流のデザイナーを集め、デザイン研究室を 設立した。商品企画のための情報収集は、日本国内のみならず海外を含めた市場動向、街 のストリート情報などのリサーチを行う。商品企画について、ABC改革前は年3回であっ たが、商品のマンネリ化を起こしたため、年6回に増加した。また、商品サイクルを、4カ 月から 2 カ月程度に短縮し、回転を早めることで新鮮さを打ち出している。これらは、顧 客ニーズを反映した結果となっている。

店長は顧客ニーズを把握する際に、全社の業務が統合されている業務基幹システムを活 用している。基幹システムで、全世界の店舗の売上や在庫情報を参照することが可能とな ったため、店舗間の情報共有が活発化され、成功事例の共有がなされるようになった。さ らに、店舗の販売情報は需給調整に活用され、需要の変化に柔軟に対応している。具体的 な対応方法は後述の「需給調整力」の通りである。

2 点目の市場創造力の具体的事象について述べる。FR は、カジュアル衣料市場におい て、ベーシック・カジュアルという標準品の市場を新しく創造した。FR は標準品を単に 生産性の向上や低価格で販売しようとすることだけに力を注いだのではない。ベーシッ ク・カジュアルというコンセプトのもと市場を創造し、顧客を啓蒙することにも力を入れ たことが同社の成功の要因の一つである。

FR は日本で始めて SPA 体制を構築したが、海外企業では既に確立した体制であった。

同社が他SPAと大きく異なる点は、まず商品の方向性を「ベーシック・カジュアル」と定 めたことである。また、FRの商品は年齢に関係ない普段服をコンセプトとしており、ター ゲット顧客を「ノン・エージ、ユニセックス」としている点である。ターゲット顧客が絞 られていないことは、アパレル業界の常識では考えられないことであった。客層や趣向を 選ばないこのコンセプトは、商品の標準化が難しいと言われていたアパレル商品につい て、「商品の標準化」をしていくことを宣言しているのである。この考えは飽和状態とも 思われたアパレル業界においては、新たなマーケットを生み出すことも意味していた。

ベーシック・カジュアルの商品は、他社商品と比べてファッション性が低いことから、

FR はベーシック・カジュアル商品の利点を消費者にアピールすることにも重点を置い た。マスマーケティングの強化や、店舗での商品の機能の説明を行った。マーケティング の重要性について柳井は、FR は小売業からマーチャンダイジングとマーケティングの会 社になると表現している。カジュアルチェーンからカジュアル産業になり、お客様に最高 品質で市場最低価格の商品を最短期間で提供する『カジュアル・ダイレクト・ビジネス』

を目指している。

2. 大規模な単品経営

2 つめは、「大規模な単品経営」を実現する組織能力である。ここでいう「大規模な単品 経営」とは、設立当初から大規模な経営を目指し、企画から調達・生産・販売等を大規模 に実行することである。

新しいビジネスを立ち上げる時には、小さく生んで大きく育てるという考えが一般的で あるが、FRの場合は、当初から大規模なビジネスを目指していた。つまり、最初から大規 模な企画から調達・生産・販売に耐えうる仕組みを構想し、その仕組みを構築していった ということである。この一貫した企画、調達・生産と販売の体制を構築する力は、「大規模 な単品経営」の1つめの要素となっている。

また、「大規模な単品経営」が目指した規模は、業界の慣行に比べて桁違いの規模であっ た。何が桁違いかというと、具体的には、1アイテムあたりの販売量が桁違いに多かったと いうことである。この規模の経済を可能とする経営の実行力が「大規模な単品経営」の 2 つめの要素である。具体的には、アイテム数を絞り込み、大量の素材を調達・生産し、販 売を実行する力である。これは、まずアイテムごとのコスト管理、需給調整や店舗での管 理・販売において発揮される。そしてFRの規模拡大に伴い1アイテムあたりの販売数は増 加していったが、その過程においてこのマネジメント力は発揮された。

既に述べたとおり、FRは創造したベーシック・カジュアルという標準化商品市場におい て、顧客ニーズにあわせながらも、アイテム数を少なくし、大量販売を実現している。要 は、アイテム数は少ないが、結果的に多くの商品の種類により、大量販売を実現している のであるが、その実現方法が、業界の慣行に比べて異なっているということである。商品 の種類は、「アイテム(商品大分類)×型×素材×色×サイズ」と表すことができるため、

アイテム数や素材の種類が少なくても、色やサイズを豊富にそろえることで、多くの種類 の商品を提供することが可能になる。アイテム数は、標準化のために少なく、素材につい ては、集約化をしており、なおかつ開発に力を入れ、他社との差別化を図っている。例え ば、機能性下着に使われている発熱・保温・ドライ(吸汗速乾)機能を有する素材開発に 力をいれている。

「大規模な単品経営」の要素の1点めである「一貫した企画、調達・生産と販売の体制を 構築する力」の具体的事象は以下の通りである。柳井は、父親から経営を引き継ぐ前から、

SPAに対して興味を抱いていた。欧米のSPAを視察し、チェーン展開するにはSPAでし かありえないと考えていた。SPAとは、Specialty Store Retailer of Private Label Apparel の略であり、製造小売業、すなわち商品の企画から調達・生産、販売までの機能を垂直統 合したビジネスモデルのことである。

そして柳井は、1980年代半ばから、SPAの仕組みを構築し始めている。まず中国で他社 SPA の商品を生産している工場へ生産を委託し、商品を調達するルートを開拓した。そし て素材調達についても、商社への委託や、素材メーカーからの直接仕入れのルートを構築 している。さらに、非常に多くの商品に使用されている素材を集約することや海外調達モ デルを構築することで、素材調達コストの削減を試みた。これは、難しいとされていたア パレル商品の標準化を成し遂げたFRだからこそ、できることである。自動車メーカー用の 鉄鋼製品をグローバルソーシングの観点から商社で担当していた社員を採用し、その社員 はトヨタのグローバルソーシングモデルを参考にして調達モデルを構築した。各商品の工

程数、所要時間、所要コストが一貫して見えコントロールできるようにしたのである。

SPAの仕組み構築にITシステムが貢献したことはいうまでもない。FRは、自社のシス テムを徐々に進化させることにより、販売と生産の状況をほぼリアルタイムに把握する。

FRのシステムは、店舗での売り上げを管理するPOSシステムを1988年に、SCMシステ

ムとDC(電子商取引)や店舗情報共有システム(UMIX)を2000年に導入した。素材の

調達についても、各商品の工程数、所要時間、所要コストが見える化され、商品単位の製 造コストが把握できるシステムを構築した。そして2002年頃から、システムの統合範囲を 拡大し、統合業務基幹システムへと進化していく。2004年頃には、対象業務は、原料、生 産から販売までのバリューチェーン全体であり、日本の店舗での販売情報を自社社員だけ でなく中国のパートナー工場にも共有した。これにより、工場側は迅速な生産体制を調整 できるようになった。2009年頃には、クラウドコンピューティングを用いて、統合範囲を 全世界へと広げた。対象業務は、生産や品質管理などの製販だけでなく、給与や人事情報 など全ての業務に渡る。導入会社についても、FRだけでなく、セオリー、コントワー・デ・

コトニエなどその他のグループ会社にも及んでいる。2011年頃には、全店舗スタッフに配 信される世界中の店舗の売上、粗利、売れ筋、在庫の把握が確認できる端末や、全世界の 工場の生産体制や納期・品質状況を一元管理できるシステムの導入など、進化を続けてい る。FR はこのように SPA 体制を構築することで、自社が企画する商品を無駄なく大量に 生産し、大量に販売するということを可能にしている。

2点めの「規模の経済を可能とする経営の実行力」は、具体的には、大量の素材を調達し、

商品を生産・販売するマネジメント力といえる。以下、「規模の経済を可能とする経営の実 行力」について述べる。

まず、この「規模の経済を可能とする経営の実行力」は、「一貫した企画、調達・生産と 販売の体制を構築する力」により構築されたSPAの仕組みをベースとしている。例えば、

FRは、各商品の工程数、所要時間、所要コストを把握し、商品単位の詳細なコスト管理を 構築した海外調達モデルによって可能としている。

また、前出のマーケティング力が創造した標準品市場は、商品アイテム数や素材を絞り 込むことを可能にしており、「規模の経済を可能とする経営」の実現可能性を高めている。

FR は、「規模の経済を可能とする経営の実行力」により、大量の素材を調達し、大量に 商品を生産することを実現している。さらには、大量に生産した商品を売り切っている。

これは、FRが需給調整力に長けているといっていい。つまりFRは、はじめに売れ筋商品 を予測するとともに、市場に訴求し、販売計画を策定する。そして、その販売計画に基づ いた生産計画によって、商品を生産・販売をするだけでなく、積極的に販売活動を行なっ たその販売動向にあわせて、さらに生産を調整している。売れ筋商品の予測や販売活動に 関して、FRが積極的に実施していることや需給の調整時における精度の高さが通常の企業 の場合と大きく異なっている。

このような大規模な需給調整を可能にした要因は、商品アイテム数を絞り込んだことに

ドキュメント内 組織能力の独自性 -成長企業3社の事例- (ページ 86-99)