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競争の激化と市場の成熟化への対応(1990 年代後半~現在)

ドキュメント内 組織能力の独自性 -成長企業3社の事例- (ページ 54-59)

4. 株式会社シマノ

4.5 競争の激化と市場の成熟化への対応(1990 年代後半~現在)

コンポーネント化されたSISやSTIの投入によって、シマノは自転車部品メーカーとし てトップの地位を確立していた。ロードレーシング車向けの部品では、イタリアのカンパ ニョーロが以前は有力であったが、シマノのポジションはなお強固である。たとえば、

1996 年アトランタ五輪の自転車ロードレースでは、12 位までの選手の自転車のすべてが 同社の変速機とブレーキを搭載していた。ツール・ド・フランスで総合 3 連覇を成し遂げた アームストロング選手の自転車も、シマノの部品システムをつけている。 更にMTBでも 世界選手権をはじめとして、ほとんどの主要レースでシマノ製の部品システムを装着した 自転車が席巻している。F-lとパリ・ダカール・ラリーの両方で常に上位を独占しているよう なものである(武石・青島, 2003, p.138)。

成長の陰り

しかし1990年代半ば以降、シマノの成長は頭打ちとなった。依然として世界のトップシ ェアを保っており収益率は高いものの、売上げが伸び悩んでいる。その背後には、自転車 業界の競争の激化と市場の成熟化という2つの問題があった。

シマノの製品が支配的になった今、競合他社はシマノの部品システムと互換性のある部 品で勝負を挑んできていた。全てシマノの部品でトータル・システムを組んだほうが高い 性能を実現できるのだが、MTBが一般大衆に普及するにつれて、必ずしも高度な性能を必 要としないユーザー層も増えてきた。また個々の部品の精度も高まり、互換品でもそれな りの性能を実現できるようになってきた。グリップ・シフト(樹脂製のグリップ)とシフト レバー一体型の部品を開発した米国スラム社は、強力なライバルとなりつつあった。中国 に生産拠点をかまえて、互換性のある部品を低コストで販売する台湾メーカーの競争圧力 もあった。シマノの部品が高いシェアを握ったため、自転車としての差別化が難しくな り、一部でシマノを意図的に避ける風潮も出ていたことも理由の 1 つである。そして追い 打ちをかけたのが、米国での独占禁止法違反の判決である。それによりトータル・システ ムで販売攻勢をかけていくことが難しくなった(武石・青島, 2003, p.157)。

自転車市場自体も伸び悩んでいる。1990年代前半までのシマノの成長を支えたのが、自 らその創造にかかわったMTB市場の爆発的な拡大であった。しかしMTBが普及し、市場 の成長が頭打ちになると、シマノの成長も頭打ちとなった。1993 年度の売上高は 2003年 時点では、それまで更新されていない(その後 2004 年に 1993 年売上高を越え、以降は 1993年売上高を上回る(2004年12月期~2010年12月期同社有価証券報告書))。連結 ベースでの海外売上高は全体の75%を占め(シマノグループ会社間の売上を含む)、自転 車部品の売上げの90%は海外向けが占めている(武石・青島, 2003,)。また外部顧客への売 上では、海外売上比率は2003年に25.6%であったが、2010年には32.6%に拡大した(2003 年12月期・2010年12月期同社有価証券報告書)。

オペレーショナル・ケイパビリティの構築

競争力につながる技術や人材といった資源の形成や、バウンダリーレスに行動したり部 門間連携力といった組織能力が重要である。一方で、効率的な作業方法を確立し、それを 定着させて再現性を高めることも重要である。この能力に該当するのがオペレーショナ ル・ケイパビリティ(OC)である。OC は、組織能力における資源活用の側面からは、実 行に分類されるものである(小出・城戸,2011)。

シマノにおけるOCの構築は、シマノの成長に陰りが見え始めた94年(1994・95年は 減収減益)に当時の社長であった故島野敬三が「チームシマノ」を唱えはじめたときが発 端である(日経情報ストラテジー,2007/01, p.56)。世界中のシマノの工場・販売会社には、

その国の国旗と共に、白地にオレンジ色で「Team Shimano」とデザインした旗を掲げてい る。「チームシマノ」とは、日本も海外のシマノも平等で自由に発言でき、どこの能力も 製品・サービスも高いレベルでありたいという、一体感への思いを表したものである。日 本の技術開発力と海外の低コスト生産、世界的な販売網を有機的に結び、レベルの高い製 品を開発、生産、提供することを目指している。ある拠点の挑戦が全体に刺激を与え、そ の成功を他にも波及させるという思いもあった(日本経済新聞, 2005, 私の履歴書26)。

その後、弟の喜三(創業者の三男)が社長となり97年からビジネスプロセスの再構築を 実行していく中で OC は構築されていった。喜三が意識して取り組んだのは、更なる品質 の向上である。長年営業に携わってきた喜三は、品質管理で何か間違いがあると、ユーザ ーや流通関係者は実によく覚えていることを身をもって体験していた。これを完全に払し ょくするのには 7 年くらいかかると感じており、品質管理の重要性を痛感していた。(日 本経済新聞, 2005, 私の履歴書25)。喜三が策定した中期5カ年計画の中心は、品質管理で あった。各国全工場を国際水準に高めるため、ISO9001 の取得を目指し、同時に「工場を きれいに」ということをやかましく言った。工場が清潔であれば、お客が来ても好印象を 与えるからである。喜三はシマノ独特の原価計算方式にも手を着けた。これは工程別の損 益を出すシステムであり、その後シマノはこれを30年近く使い続けることになるが、基本 ルールとして徹底した。しかしこれからは、一品一品の利益管理が不可欠だった。現場で の計算、事務などが煩雑で、負担になる新しいやり方に、社内の多くは不賛成だった。

そのためシマノでは、2000年中盤にはシックスシグマを導入した。教え下手な日本人か らどう海外工場へものづくりを伝承するかやり方を模索する中で、これらに加えて更に は、開発部門ではタグチメソッド、また生産工程ではシックスシグマ(米国のシステムを 採用したものであり、不適合品発生率百分の3.4を目標にしたもの)を導入した。それによ り、プロセスの標準化を進め、情報共有や技術移転を促した。シックスシグマの推進に は、ブラックベルト研修を受講した PM40 名(日本・海外の概ね全部門)の中から、優秀 な 8 名を選抜し、社長命令でシックスシグマ専任チームへ異動させた。係長クラスであっ たが課長待遇とし、賞与は成果報酬とするなど処遇面でも工夫し、モチベーションを高め ることも考慮した(日経情報ストラテジー, 2007/01, p.56-61)。

タ グ チ メ ソ ッ ド や シ ッ ク ス シ グ マ 導 入 で は 、 次 の よ う な 成 果 が あ っ た 。2 年 で

CAD/CAM(コンピュータによる設計・製造)を組み合わせた試作回数が削減した。「ギア

チェンジがなめらか」「音が心地いい」といった官能評価も指標化し、改善された。シック スシグマが日本や海外の生産現場に浸透し、共通言語を持つことにつながり、コミュニケ ーションが向上した。そして生産における工程精度や測定精度データを設計に反映するこ とで、生産開始時の歩留まりを高めることができた(日経情報ストラテジー, 2007/01)。

シックスシグマの改善プロジェクトは年間 50 件のペースで継続的に実施されており、

1999~2006年の間にプロジェクト計507件、累計金額効果は54億円、経常利益は10%向

上した。

OCを構築するために、シマノはベテラン(30~50代の技術・スキル・能力が高い社員)

を活用した。新しい技術や考え方を既存の組織に効果的に伝播するには、既存の技術や社 内の業務や風土を理解した技術的にもスキル的にも高い人材が適しているからである。

実際にシマノでは、シックスシグマを導入するに際し、各部門長が推薦した10名程度の

「ブラックベルト」が、2 年の任期で導入・促進を主導していった(日経情報ストラテジ ー,2002/09, p.63; 日経情報ストラテジー,2007/01)。ここで注目されるのは、ベテラン熟 練社員にその技術を伝播させるためのスキルを共通に修得させたことである。実際に「ブ ラックベルト」に選ばれた人材は、米国の専門会社による研修でシックスシグマ基礎知識 やプロジェクトの進め方や他社員を巻き込んだ調整の仕方に関するスキルを学んだ。ファ シリテーションといわれるスキルである。その上で、各種プロジェクトのプロジェクトリ ーダーとなり、各種改善活動を推進していった(人材教育,2008/09; 日経情報ストラテジ ー,2006/06)。例をあげると、社員の理解促進と「6シグマ課がデータ収集を依頼した時に スムーズに協力を得る」ために、「原則、社員全員にシックスシグマの基本講習を実施」

する活動がある(日経情報ストラテジー, 2004/10, p.66)。ここで形成されたのは、組織の 壁を超越して行なわれる「技術の伝播・共有させる力」といえるものである。

また会議にファシリテーションを導入し、効果を上げた。月次の QC 会議(海外事業所 を含め全英語)では、時間短縮と理解度向上を目指した。ファシリテーションは品質管理 部門から日本国内へ、そして海外事業所へ展開されていった。品質管理部長は「組織力と は、個人の能力と個人間のつながり、つまりコミュニケーション能力が高まらなければ、

組織力は強化されません」と述べている(人材教育, 2008/09, pp.44-47)。こうしたシック スシグマの導入と様々な取り組みにより、改善活動の質も変化していった。以前までの

「『小集団における勘と度胸による職人的な改善活動』から、『数字の説得力で複数部署の 関係者を巻き込める風土改革としての改善活動』への移行」していった(日経情報ストラ テジー, 2004/10, p.65)。これらのものが組合わされて、シマノ独自のOCの構築につなが った。

完成車メーカーへの働きかけ

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