海陸(IODP と ICDP)を統合した科学計画として推進 すべき事柄に特化して,以下に試論を試みる.
<地球環境変動ダイナミクス>
人口の爆発的増加を反映したエネルギー消費量の上昇 は地球環境の劣化・温暖化へ直結し,放置すれば 21 世紀 の遅くない時期に地球環境が危機的状況になるとの近未 来予測は国際的な共通認識となっている.しかしこの地球 環境を直接的に決めるであろう,地球表層における各圏
(人類圏,生命圏,大気海洋からなる流体圏,そして固体 地球圏)における物質エネルギー循環や,地球外も含めた それらの相互作用は,依然として科学的には解明が遅れて いる領域で,そのことが地球システム科学という新しい科 学分野の発展を促している.これまで海洋や湖沼における 堆積物の掘削は,古環境・古気候や大規模海洋循環の歴史 を解く鍵となる地域,急激な環境変動の起った時代を対象 として行われ,多くの成果をあげてきた.今後はそれらに 加え,さらに,「生きている」相互作用,特に地下の浅い 堆積物中における物質エネルギー循環過程(たとえば炭素 循環過程)と環境変動との関連を描き出すことが重要であ ろう.そのためには掘削孔を使った循環過程の物理的化学 的観測が鍵となる.また掘削孔を用いて物質循環過程を再 現する「積極的実験」も計画されてよいであろう.また,
環境変動と地球内部のダイナミクス(短周期の地殻変動や 長周期の造山運動,大陸の離合集散,海峡の開閉など)を 関連づけ,その相互作用を厳密に解き明かすことも重要で ある.地域的に体系化された海陸掘削計画,特に,アジア モンスーンの成立とヒマラヤチベット造山運動,アジア大 陸内部環境変動,インド洋・南太平洋海洋域環境変動など は,引き続き日本のリードする科学計画として一層強力に 進めていく必要がある.また対象とする時代として,全球 温室化が起こった白亜紀の特異な地球環境の成立・持続・
消滅過程の研究は,地球内部ダイナミクス研究とも関連し て,大変挑戦的なものであろう.
<地球内部ダイナミクス,とくに地震発生帯断層掘削>
ICDP では,カリフォルニアのサンアンドレアス断層
(SAFOD 計画),台湾チェルンプ断層(TCDP 計画)に おいて地震発生帯断層の掘削を実施中である.また,我が 国ではこれとは別個に阪神淡路大震災を引き起こした,野 島断層の掘削が行われた.これらの掘削は,地震発生断層
の科学を飛躍的に発展させた.IODP では,南海地震発生 帯掘削(NantroSEIZE 計画)が,「ちきゅう」の国際運用 の最初の対象として 2007 年よりはじまる.この中で,
SAFOD 計画と NantroSEIZE 計画は,地震発生断層内の 掘削孔を観測基地としてネットワークで常時モニターし,
来るべき地震の予測につなげようというものである.具体 的には,掘削による断層物質の分析・解析,断層物質を用 いた実験,掘削孔の観察・観測,そして掘削孔を用いた連 続繰り返し長期観測を結合し,地震発生帯の準備・破壊・
終息の物理過程を理解し,もって予測につなげようという 計画である.
地震予知は叫ばれてから半世紀近くたった.しかし,
一度として成功せず,地震動,津波による予告無き被害は 自然災害の中でも最たるものであることは言うまでもな い.いわば自然の大量破壊兵器そのものであり,その予測 の成功は人類の見果てぬ夢である.
これまで提案されている関東大地震の震源域を対象と した JUDGE 計画(3.1 節)を,相模トラフ掘削をも巻き 込んだ海陸統合の計画として押し上げること,あるいは南 海トラフの NantroSEIZE 計画を陸と連結させ,震源域直 上の陸上に掘削をほどこし,孔内観測基地を設置すること,
などは既に一部提案されているものである.さらに,日本 海東縁域の活動的な地震発生帯に対しても,海陸を統合し た掘削計画を考える必要がある.
<地下極限生命圏解明>
地球上の微生物の過半は,地下圏に生息すると考えら れている(第 5 章).このことは生命の起源と進化,地球 における炭素循環の理解に極めて重要である.このような 大規模な地下生命圏の存在が,極限的な環境で生存してい ることは,生命科学として重要な研究対象であるだけでは ない.新しい遺伝子資源の発見や,環境浄化に対応する生 命技術開発などへも直結するものである.
極限環境を保持したままの試料採集や培養技術なども 重要である.陸上掘削により実現する研究対象と海底下で 実現する研究対象の多様な環境での戦略的配置も重要で ある.
<長期観測技術開発>
これからの陸上掘削・海底掘削において重要な課題の 1 つは,掘削孔を使用した長期観測にある.その掘削孔は
高温高圧状態にあるために,長期観測を安定的に実現する ための技術開発は決定的に重要である.また,観測装置を 維持するためのエネルギー供給,観測データのオンライン 化なども大きな課題である.これらはいずれも大型の開発 経費を要するために,海陸を統合した開発計画を策定する 必要があるであろう.
<教育体制の確立>
これまでの地質学あるいは地球物理学,地球化学にお いて,コア解析・検層・掘削孔観測による科学を推進する ために特化した教育体制は存在しなか った.しかし,
J-DESC の重要な活動の柱として,海陸を統合した教育体 制を考える必要がある.国際的に実施される掘削現場での セミナーなどとも連携しつつ,実施体制を検討されるべき であろう.本年より,IODP と ICDP は共同で掘削科学に
関する学術誌 Scientific Drilling を出版することになった.
<J-DESC の独自性を生かして>
我が国の J-DESC(日本地球掘削科学コンソーシアム)
は他の国の同様な組織と異なり,海陸を統合したコンソー シア ムで ある とい う独 自性 を持 って い る.J-DESC は IODP 部会と陸上掘削部会を有しているが,会員機関は共 通で,活動も連携して行われている.IODP 部会では 2002 年に「地球システム変動の解明をめざして̶IODP におけ る我が国の研究計画」という初期科学計画を出版しており,
今回陸上掘削部会が本サイエンス・プランを出すことによ って両方の科学計画が出そろうことになった.J-DESC の 優位性を最大限生かして,海陸を統合した科学計画,技術 開発,そしてそれらを推進し,次世代を育成する教育体制 の確立にもっと力を集中していくべきであろう.
★地球深部探査船「ちきゅう」の掘削能力
「ちきゅう」は,世界で初めてライザー掘削システムを搭載した,世界最高の掘削能力を誇 る最新鋭の科学掘削船である.また,船上の研究区画は 4 層からなり,採取したコアや間隙水,
掘削孔内の物理的,化学的,生物学的な分析・研究をおこなうための豊富な研究設備が搭載さ れている.主要項目は次のとおりである.
・ 全長: 約 210 m; 型幅: 38 m; 総重量: 約 57000 ton
・ 掘削可能最大水深: 2500 m(将来目標 4000 m)
・ 最大掘削深度: 7000 m
・ コアリング: ワイヤライン工法
*・ 噴出防止装置(BOP)装備
おわりに