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地球史の解読

ドキュメント内 陸上掘削サイエンス・プラン (ページ 31-34)

掘削コアは 1 次元的な情報であり,採取にコストがかかることなどの問題がある.

3.6  地球史の解読

 

海洋底にある地球上で最も古い物質は西太平洋にある中部ジュラ系(約 1.8 億年 前)の海底堆積物である.それ以前の海洋底の歴史は,海洋プレートの沈み込みの ために,陸上に付加した海洋底物質(海洋地殻を構成していた玄武岩類,珪質堆積 物

,炭酸塩堆積物)から復元するしかない. 

この海洋底の復元は,付加体の露出が限られていること,また古い時代ほど変成・

変形・変質などを被っていることから,従来の地表調査を中心とした研究ではきわ めて困難であった.陸上掘削はピンポイントで連続サンプルを取得できるため,付 加体の新鮮で連続的な地層を掘りぬくことで精度の高い地球史の復元を可能にす る. 

   

現在,地球の歴史は,1)25 億年以前に小大陸群が形 成された初期大陸形成の時代,2)25 億年から 2 億年前 まで幾たびか繰り返されてきた超大陸の時代,3)現在も ふくめ,それらの超大陸が分裂を繰り返した時代,と大き

く区分できるようになってきた.特に超大陸の時代,初期 大陸形成の時代は現在とは全く違った地球環境であった と考えられてきている.これらの時代,大陸地殻上での地 球環境の痕跡は数多く報告されているにもかかわらず,海

洋底でいかなる事件が起こっていたかはあまりわかって いない.しかし,地球表層面積の大部分を占める海洋の情 報は地球史を考える上で必要不可欠であり,沈み込んでし まった海洋底物質を紐解くことで,今まで想像できなかっ た地球史の復元が可能になるはずである.ここでは,地球 史的に重要で表層環境が特異だった三つの時代に焦点を 当てて陸上掘削の重要性を述べる.陸上に付加した海洋底 堆積物を連続的にかつ系統的に掘削し,海洋底の層序・分 布を復元することにより,超大陸時の海洋環境や初期地球 の海洋環境を明らかにできることを,例を示しつつ説明し たい.さらに,これらの海洋底物質は沈み込み帯において マントルに環流して行くが,その一部は陸側プレートの下 側に付加され付加体を形成する.この付加様式の違いにつ いても考える. 

 

<超海洋パンサラッサ復元計画(3 ‒ 2 億年前)> 

地質学者の間でパンサラッサと呼ばれている復元され た海はパンゲアと呼ばれる超大陸が形成している時代の 巨大海洋である.そのような海洋は超大陸にならって超海 洋と呼ばれている.この時代は世界的にも寒冷化が進み,

大陸氷床などが存在した.また,生物の大絶滅がおこった ペルム紀/三畳紀境界(PT 境界: 〜 2 億 5 千万年前)や三 畳紀/ジュラ紀境界(TJ 境界: 〜 2 億年前)の時代もこの 海洋が地球上に広がっていた.残念ながらその全貌は海洋 プレートの沈み込みにより,付加体中に含まれる海洋底物 質の断片にしか当時の情報が残されていない.特に深海に おける PT 境界層を含む連続層は報告されていない.連続 コアから大量絶滅後の海洋環境および生物群集の回復過 程を明らかにする事ができる.またこの時代の大洋には珪 酸質の骨格を持つプランクトンである放散虫が繁栄し,そ の遺骸が海洋底に珪質堆積物を形成していた.現在と全く 異なる海洋システムをもつこの時代の海洋が,どのような タイミングで現代型の,炭酸塩の殻を持つ有孔虫の遺骸が 炭酸塩堆積物を形成する海洋システムに移行したかを明 確にすることは非常に重要である. 

露頭状況に左右される地表でのサンプリングでは,海 洋底堆積物の連続サンプルはせいぜい数百  ‒  2 千万年程 度しか得られなかったが,陸上掘削により 1 億年をこえる オーダーで連続サンプルを得る事が可能となる.さらに古 地磁気学的手法を用いて,採取したコアの超海洋内におけ る堆積緯度を特定し,堆積物の緯度分布を明らかにする.

これにより,パンサラッサ海の浅海〜深海,低緯度〜高緯 度までの全海洋情報を得る事ができる.新鮮なサンプルに ついては炭素・酸素・硫黄などの化学分析や同位体組成分 析により,生物生産性や当時の古水温などを推定し超海洋 がどのような海洋であるか復元できる. 

このようなことができる掘削場所として,以下の候補 がある. 

1) 秋吉帯:  石炭〜下部三畳系石灰岩(青海地域,富山),

三宝山帯,上部三畳系〜ジュラ系石灰岩(球磨川流域,

熊本),秩父帯,上部三畳系〜ジュラ系石灰岩(武甲 山,埼玉),3 ‒ 2 億年前の連続地層 

2) 美濃帯下部三畳系〜中部ジュラ系層状チャート(犬山 地域,岐阜),秩父帯ペルム系〜下部ジュラ系チャー ト(天神丸,徳島),丹波帯下部ペルム系〜下部三畳 系チャート(笹山地域,兵庫) 

 

<酸素濃度が急上昇した始生代/原生代境界(27 ‒ 23 億 年前)> 

この時代は大陸がある程度成長し,大気中の酸素濃度 が上昇していった時代にあたる.特に 27 ‒ 22 億年前にか けて地球環境は劇的に変化している.この時代には 1)巨 大火成岩区の発達,2)縞状鉄鉱層,3)何回もの隕石衝 突の痕跡,4)23 ‒ 22 億年前のスノーボールアース事件 などが報告されており,地球表層環境が急激に変化してい ったと思われる.スノーボールアースというのは地球が寒 冷化し,地球全体が氷河に覆われた現象であるが,これら の現象の因果関係は明らかでなく,連続した新鮮なサンプ ルよりその変動をつかむことは非常に重要である. 

西オーストラリアのピルバラ地塊には,始生代,原生 代の地層が広く分布している.その南部地帯に分布するマ ウントブルース層群は厚さ 10000 m,27 億 ‒ 23 億年前 の大陸棚起源といわれる地層が累重する地質帯である.特 に,上部の地層の露出が悪く,24 億年前以降の縞状鉄鉱 層形成後の地球がどのように変化していったか明らかで ない.世界最大の縞状鉄鉱層形成後すぐにスノーボールア ース事件も起こったと言われており,連続コア摂取により それらの因果関係が明らかになるであろう. 

また,アメリカ五大湖域には地下に原生代の凹地が残 っている.これらは全く地表に露出していないが,当時

(24 ‒ 19 億年前)の大陸縁辺部の海洋状況を保存良く残 していると考えられる.オーストラリアとアメリカの例を

比較することで,始生代/原生代における浅海域から深海 にかけての地球環境変動が明らかになると考えられる. 

 

<大陸地殻形成期の始生代における海洋表層(38  ‒  30 億年前)> 

30 億年以前はまだ大陸地殻の成長初期段階であり,地 球表層は海洋底がほとんどを占めていたと考えられる.残 されている始生代の堆積物には当時の海洋底表層に生存 した初期生物の遺骸の痕跡が残っている.初期生物の化石 と言われている黒色珪質堆積物中のシアノバクテリアの 化石や,南アフリカ・バーバートン帯の溶岩内にバクテリ ア様の化石の発見などである.しかし,それらは,熱水 作用による化学的反応の痕跡や後の混入などの可能性が 指摘され,初期生物の生息については決着がついていない.

これらの問題を解決するには,できるだけ新鮮な堆積物を 掘削し,太古代の海底層序を明らかにし,どのような場所 に,微生物の痕跡があるかを調べることが必要である.そ して,流体含有物・有機炭素の同位体・バイオマーカー分 析により,当時の海底表層の生物活動・堆積作用・大気と

の関連・熱水活動や熱水循環と海洋底表層状態を追及する 必要がある.また,当時の海洋底は熱水活動が盛んであり,

表層堆積物直下の基盤岩は著しい変質作用を残している.

当時の熱水活動による変質作用の影響や分布を知るため にも,掘削により連続した海洋底サンプルの取得が重要で ある. 

特に 33 ‒ 30 億年前にかけては,地球史上の記録の空 白期間にあたる.というのも,当時どのような堆積作用や テクトニクスが起こっていたかほとんどわかっていない ためである.しかし,この時代を境に地球は大陸上に堆積 物を残すような安定した大陸地殻になっており,33 ‒ 30 億年前に地球システムの大変化の可能性がある. 

海洋底に残される記録は地球表層環境を記録するバロ メーターである.超大陸の時代・陸地の無い時代の海洋環 境・付加テクトニクスの違いを新たな地球の顔を見直すこ とで,全く想像できなかった時代の地球を明確に理解する ことができるだろう.それは,今後人類が進んでいく長い 目で見た未来への環境問題への対処法にもつながるので ある. 

     

 

★孔と坑 

いずれも「こう」と読み,ボーリングによって開けられた穴を指し,掘削孔ないし掘削坑井

(こうせい)というように使われる.その穴を使って種々の測定を行うことを,孔内計測ない し坑内計測と呼ぶ.本出版物の中でも,両方の言葉が使われているが,意味におおきな違いが ある訳ではない.一般に孔が鉱物資源探査など口径の小さい場合に,坑が石油探査など口径の 大きい場合に使われることが多いようである. 

 

図 3.4  地球史: 海と超大陸の変遷と地球イベント. 

ドキュメント内 陸上掘削サイエンス・プラン (ページ 31-34)