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地下水資源と地下環境

ドキュメント内 陸上掘削サイエンス・プラン (ページ 63-66)

第 7 章  都市の防災と地質

7.3  地下水資源と地下環境

弧(伊豆­小笠原弧)の衝突境界のすぐ東側に位置してい たため,衝突にともなう変形を被ってきた.関東地方の地 質構造が複雑な第 2 の理由は,1500 万年前以降の伊豆­

小笠原弧の衝突により変形したからである.さらに 300 万年前になると日本列島は強い東西圧縮場になり活発な 断層運動により地形的起伏が発達して今日に至った.関東 地方では山地の隆起と呼応するように関東平野側は沈降 し厚い地層が堆積した(図 7.2 C). 

このように地表に露出する地層を調査することにより 関東平野の成り立ちを把握しその視点で平野の地下地質 を推定すると,地下深部に日本海拡大時期のハーフグラー ベン(半地溝; 図 7.2 B 左側)を埋積した地層(図 7.2 C の a および aʼ )が局所的に発達し,その上に厚い地層(図 7.2 C の b および c)がほぼ一様に被覆していると予想さ れる.このような観点で,これまで解明されなかった関東 平野西部の反射断面(図 7.2 D)を地質学的に解釈すると,

地下深部に伏在する 2 つのハーフグラーベンが見出され る.この解釈では基盤構造は従来のモデルに比べ起伏に富 み,また非対称な形態を持つことを特徴とする.すなわち,

関東平野の基盤構造は日本海拡大時期に形成されたハー フグラーベンにより起伏に富む凹凸が推定され,その構造 により地震動が局所的に増幅されることが予想されるか

ら,首都圏の地震防災において地下深部のハーフグラーベ ンの把握がきわめて重要と判断される. 

地下深部の伏在ハーフグラーベンの境界は落差の大き い正断層であると考えられる.この境界正断層に沿って基 盤深度,すなわち堆積物の厚さが急変し地震動が増幅する と推定されるが,断層そのものが現在の圧縮応力場のもと で活断層として再活動する可能性も十分考えられる.たと えば,関東平野西部の立川断層(活断層)の地下地質を調 べると,断層を境に基盤深度が大きく異なっていること,

また現在隆起している東側の地下にはハーフグラーベン が形成された年代を示す厚い地層が伏在し,当時は反対に 東側が沈降域であったことが確認される.したがって,立 川断層は日本海の拡大末期に形成されたハーフグラーベ ンの境界正断層が,現在の圧縮場により反転し東側が隆起 する逆断層として活動していると判断される.このように,

関東平野の地震防災に関しては日本海の拡大時期に形成 されたハーフグラーベンがきわめて重要な要因のひとつ といえる.このように,地表地質から構築された関東平野 の地下地質構造モデルを深層ボーリング調査によって確 認することにより,首都圏の地震防災に対するより説得力 のある強振動予測が可能になると期待される. 

   

 

日本の大都市が立地する平野地下では,1000  ‒  5000  m もの柔らかい堆積物が基盤を厚く覆っている.この堆 積物中には水資源として重要な地下水が大量に含まれて いる.地下水の水資源としての利点としては,水温が一定 であり水質が良好なこと,さらに水利権がなく水自体はタ ダであること,加えて取水施設の建設が安価ですむことが あげられる.1950 年代から 1970 年代にかけて,このよ うな地下水を大量に揚水し利用することによって都市は 急速に発展することができたが,その代償として,地下水 位(水頭)の低下に伴う地盤沈下や塩水侵入などの甚大な 被害を被るという結果となった.そこで,現在,多くの大 都市域では法律や条例によって地下水の揚水を厳しく規 制している.この揚水規制は地下水位の急激な回復をもた らし,地盤地下や地下水の塩水化といった従来型の地下水 障害の防止には目覚ましい効果をあげてきた.しかし,皮 肉なことに,地下水位の回復と関係した新たな問題が 10 年くらい前から深刻化している.地下鉄やビル地下階とい った地下構造物への地下水の大量漏出,さらには構造物自 体の浮き上がりという問題である.これは我が国ばかりで なく,多くの欧米先進諸国の平野部でも共通して見られる 現象である. 

いずれにしても,被害軽減のため水位を適当なレベル まで下げることが必要であるが,一方で,このような地下 水資源の急速な回復を背景に,その利用再開のために揚水 規制の緩和を求める声が産業界を中心に強くなっている.

また,阪神・淡路大震災を契機に,地震等の災害時におけ る防災用水源,あるいは都市域の環境用水源として,浅・

中層地下水が自己水源として再び脚光を浴びている.さら に,昨今の温泉ブームによって,深さが 500 ‒ 1000 m を 超えるような平野部の深層地下水(温泉水)に対する関心 も増大しており,東京都区部をはじめとして温泉開発申請 が目白押しである.このような状況から,国や自治体では 都市域の地下水資源の利用再開あるいは温泉水開発の是 非に対して判断を下す必要に迫られている.基本的に地下 水は流動しており,流動量(あるいは涵養量)以上の揚水 をしない限り地下水障害は発生しないが,揚水量や揚水深 度の判断を誤ると,都市の持続的発展を妨げる地盤沈下や 地下水塩水化という障害が再発することは確実である. 

ここで,都市域での将来にわたる地下水の適正利用に ついて的確な判断を下すためには,流域全体における地下 水の埋蔵量,流動量,流動方向,流動経路(水理地質構造)

ならびにその水質,年齢,起源(水文化学構造)を把握し,

流域の三次元的な地下水流動系を明らかにすることが不 可欠となる.しかし,現状では表層から基盤まで及ぶ水理 地質構造や水文化学構造に関する情報量は極めて少ない と言わざるを得ない.我が国の代表的な平野である関東平 野を事例研究地域として,堆積層を貫き基盤まで達する 1000 ‒ 5000 m 級の陸上科学掘削を実施する意義はここ に見いだすことができる. 

各主要帯水層においては揚水試験や物理検層を実施し,

間隙率,密度,水理水頭,透水係数,貯留係数等の重要 な水文パラメータについての情報を獲得する.また,帯水 層以外の地層については,オールコアボーリングによっ て得られる各深度の不撹乱試料を用いた室内試験から,表 層部から基盤までの透水係数,間隙率,粒度組成に関する 鉛直プロファイルが得られる.これらのデータに基づき,

地下水の埋蔵量,流動量,流動経路,流動方向などの水理 地質構造を前例のない精度で把握し得るものと期待され る.一方,揚水試験で得られる水試料や遠心分離器を使っ て不撹乱試料から抽出した間隙水(地下水)からは,地下 水の水文化学構造に関する知見が得られる.トリチウム

3H),炭素(14C),塩素(36Cl)などの放射性同位体濃 度はそれぞれの深度の地下水の年齢(滞留時間)に関する 情報を提供する.酸素・水素安定同位体比(δ18O,δD)

や希ガス濃度(Ar,Ne など)は地下水が涵養された標高 や地域あるいは涵養時の気候環境について,また,塩化物 イオン濃度をはじめとする水質組成,炭素安定同位体比

(δ13C),ヘリウム同位体比(3He/4He)などは地下水の 起源を判断する上で重要なデータとなる. 

陸上科学掘削によって得られる以上のような地下水に 関する詳細な知見は,流域の三次元的地下水流動系に対す る理解を飛躍的に高めることは間違いなく,平野部の地下 水資源の今後の適正な利用・開発を通じて都市の持続的な 発展に直接貢献するものである. 

最後に,陸上科学掘削のもつ「資源としての地下水」

以外の側面について簡単に触れておく.最近の研究の結果,

平野部から海底を通じて海中に湧出する酸素や栄養塩に 富んだ地下水が,冷湧水域にみられる特殊な化学合成生態 系の維持に重要な役割を果たしている可能性が指摘され ている.フロリダ沖では深度数百 m までの海底において 地下水が盛んに湧出していることが確認されている.我が 国でも同様な事例が報告されており,海岸平野部での科学

図 7.3  流域の地下水流動系模式図と陸上掘削. 

掘削はこのような陸水̶海水相互作用のさらなる理解に も貢献するものと期待される.また,平野地下における伏 在断層の存在が防災面から近年注目を集めているが,この ような断層を通じては深部起源流体(スラブあるいはマン トル起源物質)が上昇している場合が多い.深部起源流体

の地下水中への混入の有無はヘリウム同位体比などから 評価できることから,陸上科学掘削によって得られた深層 地下水試料の分析を通じて伏在断層が検出される可能性 もあり,都市防災の面からも掘削の意義を見いだすことが できる. 

           

 

★高傾斜は傾斜が緩い? 

一般に傾斜の程度は「緩い: gentle」と「急な・険しい: steep」とに区別されるだろう.た とえば,スキーのゲレンデは「緩斜面」,「急斜面」となる.もし,傾斜を高い,低いで区別す ると,緩,急とどう対応するだろうか.日常生活では,水平状態が通常で,それからのずれが 大きい方,つまり急な方が高傾斜,近い方,つまり,緩い方が低傾斜といえそうである.一方,

掘削関係では,鉛直ボーリングが通常といっていいだろう.断崖絶壁状態である.すると,鉛 直からのずれが大きい,つまり緩いほうが高傾斜,鉛直からのずれが小さい,つまり急な方が 低傾斜という言い方がありうる.実際,45 位を境に高傾斜ボーリング=緩傾斜ボーリングと いうことが少なくないようである. 

本文では,迷いを防ぐために「高傾斜」という言葉を避け,水平状態に対しての「緩傾斜」

あるいは「急傾斜」という言葉で統一した.もし,掘削関係で「高傾斜」という言葉がでてき たら,前後の文脈から緩いか急か判断されるようご注意願いたい. 

 

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