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カタストロフィックな環境変動の記録

ドキュメント内 陸上掘削サイエンス・プラン (ページ 38-42)

第 4 章  地球環境変遷の復元

4.2  カタストロフィックな環境変動の記録

カタストロフィックな地球環境変動の引き金として,地球外的要因(巨大地球外天 体衝突など)と,地球内的要因(大規模火山噴火,巨大地震,津波など)が考えら れる. 

地球史における地球や生命の進化過程を考える上で,地球内外に起因する環境変動 の影響やその後の回復過程を解明することが重要である.また,防災上の観点から も,こうした環境変動の規模や発生周期を評価する必要がある. 

我が国が陸上科学掘削において主導的に行うべき研究課題として, 以下の 2 つの掘 削計画を提案する. 

・地球外的要因: 白亜紀/第三紀境界における巨大天体衝突 

今から約 6500 万年前の白亜紀/第三紀境界は,巨大天体衝突と生物大量絶滅事変 の同時性が示されている唯一の例である.この天体衝突時には,巨大地震や津波,

酸性雨や温暖化など,様々な環境変動が発生した.こうした環境変動の影響の評価 と,その後の回復過程の理解は,今日の様々な地球表層環境変動を理解する上で重 要である.そこで,天体衝突が地球システムに及ぼした影響と,その後の回復過程 を調べるため,こうした記録が連続的に保存されている可能性が高い,天体衝突ク レーター中心部の掘削を提案する. 

・地球内的要因: インド洋大津波 

2004 年 12 月 26 日のスマトラ島沖地震に伴って発生したインド洋大津波は,周 辺各国に甚大な被害を及ぼした.インド洋大津波の将来の発生時期の推定は急務で あり,そのためには過去の津波発生周期を正確に評価する必要がある.そこで,タ イまたはスリランカのラグーン内の数千年分の湖底堆積物記録を採取することを 提案する. 

     

<白亜紀/第三紀境界における巨大天体衝突に伴うカタス トロフィックな環境変動の実態解明> 

巨大天体衝突現象は地球史において普遍的に起き,生 物の絶滅や進化に大きな影響を与えてきた.その中でも,

今から約 6500 万年前の白亜紀/第三紀境界における天体 衝突は,地球史上最大規模であり,かつメキシコ・ユカタ ン半島において衝突クレーター(チチュルブクレーター)

が発見されている.そのため,衝突に伴うカタストロフィ ックな環境変動を詳しく調べることができる.また,同衝 突は恐竜をはじめとする動植物の大量絶滅事変と衝突時 期が一致することが唯一示されている例であり,巨大天体 衝突が生物大量絶滅を引き起こすメカニズムを詳細に探 ることができる.この衝突に伴う環境変動は,衝突に伴う 巨大津波や地震,衝突放出物(イジェクタ)の大気圏再突 入による大気加熱など衝突後数日以内の短期的変動と,衝 突により放出された微粉塵やエアロゾルによる太陽光の 長期遮断に伴う光合成生物の死滅,酸性雨,温暖化など数 年〜数十万年に及ぶ中〜長期的変動が考えられる(図 4.2).特に,微粉塵やエアロゾルによる太陽光の長期遮 断(「衝突の冬」仮説)やイジェクタの大気圏への再突入 に伴う大気加熱は,海洋の一次生産を減衰させ,生物の食 物連鎖を崩壊させるなど,生物大量絶滅の直接的原因にな った可能性が指摘されている.ところが,こうした環境変 動の様式,規模,継続期間,生物大量絶滅との関係といっ た具体的な点については,いまだ定量的に議論されておら ず,どれも憶測の域をでていなかった.その理由の一つと

して,チチュルブクレーターの研究がこれまで余り進んで いなかったため,未だに衝突の規模や様式が良くわかって いないこと,衝突後  ‒  数年程度の期間の情報を連続的に 記録した堆積物を高時間解像度で解析した研究がほとん どないことが挙げられる. 

このような現状を打開するため,ICDP とメキシコ国 立自治大学により,2002 年にチチュルブクレーター内で 初めて研究目的でクレーター内堆積物の掘削が行われた.

掘削地点は YAXCOPOIL‒1 と呼ばれ,チチュルブクレー ターの規模の推定,衝突メルト等の衝突起源物質の化学的 性質の理解,クレーター形成の物理過程の解明,海洋衝突 クレーターにおけるイジェクタの再堆積過程と津波発生 メカニズムの理解,などを主な目的として掘削が行われた.

そして,この掘削により得られたコア試料の分析によって,

衝突の規模や様式,チチュルブクレーターの形成過程や衝 突津波の発生メカニズムなどに関する新しい知見が数多 くもたらされた.しかし,同コア試料中の衝突に関連して 形成された堆積物(インパクタイト)の最上部付近に侵食 面があり,一部の堆積物が侵食されて失われていたため,

同コアを用いて衝突に伴う環境変動とその後の地球表層 環境の回復過程を連続的かつ詳細に調べることができな かった.2002 年の掘削では,インパクタイト層下位の基 盤岩まで掘削するために,インパクタイト層の層厚が薄い クレーターリムの斜面上が掘削地点として選ばれた.こう した急峻な地点では,衝突後に堆積した未固結堆積物がク レーター内部に向けて流下した可能性が考えられ,侵食面

図 4.2  白亜紀/第三紀境界での天体衝突により生じたと考えられる様々な環境変動.クレーター中心部 の掘削により,天体衝突 が地球表層環境に及ぼした影響とその後の回復過程.および生物大量絶滅を引 き起こしたメカニズムに迫ることができると期待される. 

の存在は,こうしたクレーター中心部への堆積物の流下に よる可能性が高い.この解釈が正しければ,衝突クレータ ー中心部付近には,衝突直後の環境変動とその後の地球表 層環境の回復過程を高解像度で記録した堆積物が厚く堆 積しているはずである.実際,地震波探査データに基づけ ば,クレーター中心部に向かってインパクタイト層が厚く 堆積している.このような堆積物を用いれば,イジェクタ や微粉塵の堆積過程を詳細に調べることができ,微粉塵や エアロゾルによる太陽光の長期遮断や,イジェクタの大気 圏への再突入に伴う大気加熱の影響や持続期間などを高 解像度で解明できるもとの考えられる. 

以上の理由から,チチュルブクレーター中心部の厚い インパクタイト層の掘削を提案する.近年,メキシコ国立 自治大学によりクレーター外部で 3 本の掘削コアが採取 され,さらに,クレーター内 2 地点の掘削計画案が統合 深海掘削計画(IODP)に提出されている.しかし,これ らの掘削は主としてクレーターの形状やサイズを推定す るために提案されたものであり,地球表層環境変動の解明 に重点を置いたものではない.しかし,こうした掘削計画 と連携して,さらに地震波・重力異常探査データを組み合 わせることで,天体衝突の規模や様式を広域的かつ高精度 で推定できるだけでなく,この衝突が地球表層環境に及ぼ した影響とその後の回復過程,および生物大量絶滅を引き 起こしたメカニズムに迫ることができると期待される. 

この研究は,以下の諸点によって,我が国が国際的に イニシアチブを発揮できると確信する. 

過去 8 年間に渡り,衝突地点に最も近い陸上露頭が存

在するキューバやベリーズにおいて,衝突に伴って形成さ れた堆積層を広域的かつ高解像度で研究してきた実績が ある.そして,これらが衝突に伴う津波や地震の影響を強 く受けて堆積したことが示されている.さらに,堆積層中 の衝突起源物質の飛来・沈降時間を見積ることにより,こ れらの堆積層を数時間スケールで解析し,衝突直後から数 日以内に堆積したことなどが推定されている.同様の研究 手法を掘削コア試料に応用することにより,衝突後の地球 表層環境変動とその後の回復過程を数時間のオーダーで 解析できると考えられる. 

2002 年の ICDP によるチチュルブクレーター内掘削 計画に参加し,衝突クレーター内堆積物の堆積メカニズム を研究した実績がある.そのため,チチュルブクレーター 内堆積物の堆積メカニズムの理解が進んでおり,掘削地点 の選定において,主導的立場を担える. 

これまでの研究を通じて,我が国では地質学,堆積学,

古生物学,地球化学,地球惑星物理学,海岸工学など幅広 い分野の研究者が共同で天体衝突に関する研究を行う体 制が整っている.そのため,天体衝突に伴う短期的・長期 的変動の様式,規模,持続期間,生態系への影響を,掘削 コア試料の記載,定量分析と,理論的検討など様々な手法 を用いて総合的に理解できる. 

 

<過去のインド洋大津波の発生周期と規模の解明: 将来の 大津波発生時期の推定を目指して> 

2004 年 12 月 26 日に発生したスマトラ島沖地震によ り,人類史上最大規模の巨大津波(インド洋大津波)が発

図 4.3  過去のインド洋大津波の発生周期と規模の解明.タイやスリランカのラグーンの湖底堆積物中に は,過去のインド洋大津波により形成された津波堆積物が存在すると考えられる.こうした堆積物を用 いて,過去のインド洋大津波の発生周期を調べることで,将来の大津波の発生時期の推定につながると 期待される. 

ドキュメント内 陸上掘削サイエンス・プラン (ページ 38-42)