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放射性廃棄物の地層処分

ドキュメント内 陸上掘削サイエンス・プラン (ページ 50-53)

第 6 章  地下空間の利用

6.1  放射性廃棄物の地層処分

我が国における高レベル放射性廃棄物の地層処分とは,廃棄物を工学的な対策を施 した上で地下 300 m より深い地層や岩盤中に安全に隔離し,人間とその生活環境 が影響を受けないようにすることである. 

これまでの調査研究により,特定の地層や岩盤がそのような条件を備えているか否 かを調査する技術や評価する方法が開発されてきた. 

これについてさまざまな意見が寄せられているが,地質環境の長期安定性と特性に 関するデータがまだ不足しているという点では一致しており,その上でオープンで 科学的な検討が必要である. 

今後の深地層の研究施設計画における掘削・調査・研究が,地層処分実現への大き な前進になるとともに,防災対策や他の地下空間利用技術に役立つと期待される. 

   

我が国における高レベル放射性廃棄物の最終処分の基 本概念は,廃棄物をガラス固化したものを地下 300 メー トルより深い地層中に隔離することである(図 6.1).こ

れは処分後のいかなる時点においても人間とその生活環 境が高レベル放射性廃棄物中の放射性物質による影響を 受けないようにすることを目的としている.したがって,

処分にあたっては,安定な地質環境(地層や岩盤とそこに 含まれる地下水)の中に工学的な対策(人工バリア)を 施す.人工バリアと地質環境による多重な防護(多重バリ ア)によるために,両者を合わせて地層処分システムと 呼ぶ.このシステムが長期にわたり合理的・科学的に安全 に機能するかを評価(性能評価)することが求められる.

評価の対象となる時間の長さは 1 万年 ‒ 10 万年程度と想 定されており,広さは処分場に相当する数 km 四方である. 

世界的に見ると,地層処分を計画している国々におい て,処分する廃棄物の形態や処分の深度など国によってい くつかの違いはあるが,深い地層や岩盤中に人工バリアを 含む多重バリアを構築して安全に隔離するという点では 各国共通である.これらの国々において研究開発が行われ てきているが,日本では 1970 年代半ばから検討が開始さ れ,現在までに研究開発の成果が段階的に提示されてきて いる.この問題を原子力の推進派と反対派の綱引きの対象 とせず,社会全体で議論するためには,まず地層処分のオ ープンで科学的な検討がなされなければならない.そこで まず,我が国の地層処分に関する研究開発の考え方・進め 方,そして研究結果の現状について概観してみよう. 

地層処分における地球科学に関連する研究開発課題と して,地質環境の長期安定性と特性とがある. 

地質環境の長期安定性に影響を与える可能性のある重 要な天然現象には直接的なものと間接的なものの 2 つが ある.直接的な影響として,断層活動が地層処分システム を破壊すること,火山活動が同システムを直撃し廃棄物を

地表へ放出すること,侵食が進み深い地層中へ隔離した廃 棄物が地表へ露出することなどの可能性があり,これらを 避けるために処分場となる地域をどのようにして適切に 選定するかが問題となる.間接的な影響には,地震・断層 活動の場合,岩盤の破断・破壊に伴う地下水の移行経路の 変化・形成と,地震動による岩盤や地下水の性質の変化が ある.火山活動によるものとしては,マグマの熱による地 温の上昇などが想定される.また,隆起・沈降・侵食に伴 う処分場の深度の変化や,海水準の変化による地下水流動 と水質の変化が間接的影響として想定される.この間接的 影響については,それに伴う地質環境の変化の幅を把握す ることが必要である. 

これらの天然現象の特徴とその活動に伴う地質環境の 変化について明らかにするために,天然現象の活動履歴が 残されている地質や地形を対象に現地調査や年代測定な どの事例研究や地球科学分野の文献情報の整理・解析が行 われてきた.その結果,地震・断層活動は,過去数十万年 にわたり既存の活断層帯において同様の様式で繰り返し 起こっており,今後も同様の活動が継続すると考えられる こと,第四紀において火山は限定された地域内で新たな 火山の形成を含む活動が繰り返し起きていること,火山の 周辺では地下にあるマグマからの熱による地温の上昇な どは噴出の中心から数 km から 20  km 程度までであるこ とが示された.また,十万年間の隆起・沈降量は多くの地 域で 50 m から 100 m 程度であること,一般に長期的な 侵食速度はその地域の隆起速度と同程度かそれ以下であ ること,さらに気候・海水準変動については,過去数十万 年以上にわたり地球規模での周期的な氷期‒間氷期サイク ルが確認されていることが明らかにされた.それにより第 四紀の活動が継続すると考えられる将来十万年程度の期 間について直接的影響を避け,間接的影響についても地質 環境の変化の幅を押さえることが可能であるとされた. 

一方,地質環境の特性とは地層・岩盤や地下水の物理 的・化学的性質のことである.地層処分の場として好まし い地質環境特性として,岩盤が力学的に安定であること,

地下水の流速が小さいこと,水質が化学的に還元性である こと,放射性核種に対して大きな遅延機能を有することな どがあげられる.処分場の広さが数 km 四方であることか ら,地下深部の地質環境特性の把握においては,同じ程度 以上の広がりをもった地下の地質環境を対象とする.課題 として,日本の深部地質環境の特性はどういうものか知る  

図 6.1  放射性廃棄物の地層処分システムの概念図. 

ことと,それらを調べる技術を開発することであった.こ れまでにボーリング孔内において地下深部の高圧環境下 でも測定できる地下水の水理試験装置や,ボーリングに用 いる掘削流体をできるだけ排除した「真の」地層水を採 取することが可能な地下水の採水装置などの調査技術,そ して地下深部における地下水流動などを解析するための モデル構築の手法が開発されてきた.このような技術や手 法を駆使した調査研究により,以下の成果が得られている.

一般的に鉱物や割れ目充填鉱物の表面に強い吸着効果が ある.地下深部の動水勾配が地表付近に較べて小さく,

また断層破砕帯や割れ目集中帯を除く部分での透水係数 が極めて低いため地下水の動きが遅い.降水起源の地下水 の水質は岩石中の粘土鉱物や有機物,そして微生物との反 応で形成されたと考えられ,地下深部にいくほど一般的に 還元的になる.また火山地域を除く地域での地温勾配は 30 ℃/km であり,地下深部では鉛直と水平方向の応力の 比がほぼ 1 に近いことなどである. 

これに対して,たとえば藤村・石橋・高木(2000;「科 学」12 月号)は地殻変動や気候・海水準変動,火山噴火 についての考えかたについては一定の理解を示している ものの,地震についての結論は強く批判している.M7 ク ラスの大地震でも,明瞭な地表地震断層が出現しないもの があるので,「地震=地表でみえる活断層の活動だけ」と はいえないではないかというのである.また,地震は岩盤 の亀裂系を激増させるから,多重バリアシステムの機能を 大きく低下させる可能性があると示唆し,地質環境の特性 についても疑問を呈した. 

これまでの地質環境の長期安定性の研究は,日本にお ける天然現象の一般的な性質を解明・評価することに主眼 をおいてきたが,さまざまな意見を受け,今後は具体的な 地質環境を調査・評価する技術の確立が目標とされている.

具体的な課題としては,地表に現れない震源断層を抽出す る手法や,断層活動によって周囲の地質環境がどのような 影響を受けるかを調査する技術の開発などである.そのほ か,火山が地表に現れていない地域での地下深部のマグ マ・高温流体等を把握するための技術や,火山・熱水活 動等の復元技術の整備などがある.また隆起・沈降速度の 解析技術,気候・海水準変動に伴う気候変動の復元や海岸 線の移動プロセスの調査技術などが具体的な地質環境を

対象とした場合今後の調査解析技術として必要である. 

地質環境特性に関する今後の課題として,坑道掘削に 伴う周囲の地質環境の影響を把握することと,そのための 技術を開発することがある.地層処分においては,地層が 廃棄物を隔離する役割を有しており,地層自体がそのため の一種の施設であるとみなすことができる.一方で地層中 に廃棄物を定置するためには,地層中にアクセスのための 坑道を掘削しなければならない.したがって坑道掘削によ って地質環境の隔離性能が低下することをできるだけ避 けるため,地質環境へ及ぼす影響は最小限にすることが望 ましく,そのためには坑道掘削に伴う地質環境の変化を的 確に把握することが必要である.影響が想定されるものと して坑道周辺の地層での緩み領域の発生や応力の変化,ま た地下水の水圧や化学組成の変化などがある.そのための 主な調査研究として深地層の研究施設計画がある.これは,

処分場とはならない地域において地下深部の調査研究の ために坑道を掘削するものであり,従来の鉱山やトンネル など地下に空洞を建設する類似の施設とは基本的に性格 が異なる.この計画は花こう岩と堆積岩を対象に,地上か らの調査研究,坑道掘削時の調査研究,地下施設での調査 研究と 3 段階に分かれ,地上から地下へと段階的に調査 を進めていくことにより,坑道掘削に伴う地質環境への影 響を把握し,その技術を確立しようとするものである. 

さらに,より本質的な問題として,我が国の地質環境 の何がわかっていて,何がわかっていないかという視点を 常に持ち続けることが必要である.火山地域や活断層など の天然現象を対象としたボーリング掘削や,花こう岩ある いは堆積岩を対象とした深部ボーリングや坑道の掘削は,

単に与えられた問題を解決するだけではなく,地質環境に 関する知見の向上と地下深部における現象の理解を進め,

地層処分問題に対する国民的合意の形成にも資するであ ろう.さらに,地層処分の観点から整備された活断層や活 火山の分布・年代に関するデータはそのまま地震対策,火 山の噴火対策にも活用できるものでもある.また,開発・

改良されたこれらの地質環境の調査技術やその地下空間 利用としての評価手法は汎用性を持つものであり,たとえ ば一般産業廃棄物や二酸化炭素の処分などにも寄与する ことが期待される. 

   

 

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