第 6 章 ジェンダー・センシティブな報道
3 社会の各セクターにおける自主的な取組み
(1)マスメディア
マスメディアの取材・報道システム、記者教育上の慣習から女性被害者報道の問題点を 指摘してきた。それらはジェンダー・バイアスを再生産し、報道被害を繰り返す要因でも ある。ジェンダー・センシティブな報道の構築と実践のためには、被害者に対する取材技 術やPTSD 等への知識と理解を進めるための実践的トレーニングが必要である。そして何 より被害者やその家族、関係者への共感と、尊重が求められる。また、トラウマのジャー ナリズム、ケアのジャーナリズムやコミュニケーションを実践・報道できる場を与えられ ることも重要である。ケアのジャーナリズムはプライバシーや偏向性が問題となる(林
2011)。しかし、その立場を表明し、当事者に寄り添うことで素晴らしい報道が実践されて
いる。
さらに女性やマイノリティのポジティブ・アクションによるジャーナリストの多様性/
多様な視点を担保することも重要である。特にメディア業界の女性が働き続けるために必 要な支援として1位「家事や育児、介護に対する職場の理解」(63.8%)、2位「育児や介護 のための休暇制度の充実」(55.2%)、3位「保育所等の整備」(47.0%)があげられている(内 閣府男女共同参画局2011)。これらは職場の環境整備、意識改革、会社の支援制度や運用面 が一体となり改善されなければならない。
この取組をテレビ業界で行っているのはベイビー*プラネットである。ベイビー*プラ ネットは女性メンバーだけの制作会社で、事務所にはキッズルームがある。代表のたむら ようこ氏は「産んで、育てて、働きたいというのがスタッフの共通意識。まだ子どもがい ないスタッフにとっても、子育てしながら働くモデルが身近にいることはプラスになって いる」(『Grazia』2013 3月号:122)と述べている。このようなチーム内における「お互 い様」という雰囲気を作り出す意識改革と環境整備と支援制度の運用こそが重要である。
同社では、働き方の改善にも取組んでいる。SNS「LINE」で、番組ごとにグループを作成 し、社内外のスタッフ全員が作業の進捗を書き込んだり、SNS 上で会議を行っている。ス マートフォンを持っていればいつでもどこでも仕事の確認、参加、共有ができる。このSNS の利用で早く帰宅したスタッフも作業時の情報共有ができる。空間や時間に縛られない働 き方が新しいメディア技術によって可能になっている15)。
また、マスメディアのメディア・アカウンタビリティ制度への市民の参加も今後の課題 である。
(2)関係公共機関
二次被害をださないよう被害者に接する人にはトレーニングが必要である。具体的には 裁判関係者 16)、行政職員、警察関係者、消防関係者への教育であり、とりわけ現在欠如し
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ているジェンダー視点による教育・トレーニングが大切である。
警察は捜査過程における被害者の負担の軽減として、①被害者の精神的ショックや不安 感などを踏まえた対応、②被害者の方から安心して協力できるようにしている。具体的に は被害の届出、現場臨場 17)、呼出、事情聴取時などである。特に現場臨場で被害者の自宅 等に急行する際、性犯罪被害などパトカーが自宅等にくることを被害者が望まないような 場合には、できる限り私服の警察官がパトカー以外の目立たない車両で赴く。さらに、被 害者ができるだけ事件のことを他人に知られたくないと思うような場合は、近隣者や報道 機関に直接被害者を会わせないようにするなど、被害者が周囲の目にさらされないよう、
特に注意してプライバシーに配慮するとしている(警察庁犯罪被害者支援室 2000)。
しかし、二次被害を受けた相手として13項目中2位(51.0%)に「警察から」があげら れている。また5位(34.4%)「検察庁から」、7位(27.1%)「裁判所から」となってお り、二次被害の内容に共通しているのは「被害者の心情に配慮しない言動」があったこと、
また、関係機関や専門家に対して期待している役割が十分満たされなかったとしている(社 団法人被害者支援都民センター 2007:34-39)。
また、上述した専門的な被害者支援が必要とされる事案が発生した時に、捜査員とは別 の指定された警察職員が、各種被害者支援活動を行う「指定被害者支援要員制度」が各都 道府県警察で導入されている。指定被害者支援要員制度では、殺人、傷害、強姦等の身体 犯、ひき逃げ事件、交通死亡事故、その他事案により必要と認められる事件において、事 件発生直後から付き添い、ヒアリング、説明、民間の被害者支援団体、部外のカウンセラ ー等の紹介、引継ぎ等の支援が受けられる18)。被害相談窓口は各都道府県警察にある19)。
1、2 章でも触れたが、マスメディアは事件報道に関して警察発表(記者会見)の公式情 報の他に、捜査関係者への夜討ち朝駆け等で得る非公式なリーク情報に頼るところが多い。
そうであるならば、殺人事件やその他報道されやすい事件の被害者や遺族に対し発表をす る前に、マスメディア対策を講じられるよう関係諸団体を紹介する20)のも1つの方策であ る。同時に被害者への対応トレーニングと、被害者に関する様々な教育を警察官に実施す ることも重要である。捜査関係者がマスメディアの記者等に非公式に伝えるリーク情報に、
ジェンダー・バイアスが潜んでいることについては、2章で取り上げた『桶川女子大生スト ーカー殺人事件』で既に述べた。このような事例を出さないためにも、犯罪・事件におけ る女性被害者に対する強姦神話、性のダブルスタンダードについてのジェンダー講習実施 の必要性がある。それを実施することによって、コインの裏表の関係にある性暴力や DV の男性被害者に対しても「女々しい」「男らしくない」「抵抗できなかったのか」といっ たジェンダー・バイアスによる二次被害を防ぐことにもなろう。
(3)その他犯罪に関わることの多い組織
犯罪に関わることが多い組織である弁護士および弁護士会、病院、役所等についてのス タッフトレーニングが必要である。
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民間被害者支援団体は、犯罪等の被害者やその家族等に対して、様々な支援を行い、ま た、広報啓発活動などを通じて、被害からの回復に向け役立つことを目的に設立された団 体である。具体的な支援は大きく 5 つに分類される。専門的な訓練をつんだ支援者による
①電話相談・面接相談、②自宅訪問、検察庁、警察署、病院、法廷への付き添い、③支援 員の養成・研修、④被害者支援活動における広報啓発活動、⑤被害者自助グループへの支 援である。
「NPO法人全国被害者支援ネットワーク」には全国47都道府県に48団体が加盟してい る(2012 年 7 月現在)。活動内容は主に被害者支援に関する社会全体の広報・啓発・教育 活動、民間支援団体の支援スタッフの教育と研修、支援マニュアルの作成、被害者の権利 擁護支援活動である。また2008年度より「法科大学院に於ける教育による犯罪被害者等へ の理解の向上促進」を目指し講義への講師派遣事業を始めている21)。
1999年に「犯罪被害者の権利宣言」が作成され、その中には「犯罪被害者は被害を受け たことからおこるプライバシーの侵害からまもられ、平穏かつ安全な生活を保障されるべ きである」(平穏かつ安全に生活する権利)と明記している。
その他に自助グループを含む犯罪被害者団体には、交通事故、少年犯罪、地下鉄サリン 事件など被害別の団体などもあり、それぞれサポート体制が整えられている。
上記のような NPOや当事者団体には、「警察やマス・メディア、弁護士との連携をはか り報道被害を防ぐコーディネーターや仲介者の役割を果たしていく危機応答・危機介入の 中に捜査機関やマスメディアへの対応が含まれる必要がある」(諸澤1998:431)。
目に見える支援として「混乱期の犯罪被害者に対しては、犯罪後に待ち受けている課題、
たとえば司法解剖の手続き、マスコミ取材、葬儀、警察対応などについて前もって説明で きるような『コンサルタント』の役割が重要になる」(酒井肇・酒井智惠・池楚聡・倉石哲
也2004:70)ことが指摘されている。
また、一般企業はリスク・マネジメントとコミュニケーションの視点から、社員が加害 者・被害者になった場合や自社製品に何らかの問題が発生し人が傷ついた場合の想定も必 要である。さらに、広告などを出す際、ジェンダー・センシティブな視点が担当者には求 められている。
(4)教育機関
たとえば大学でジャーナリズムを学ぶ理由の 3 番目に「ジャーナリストの報道の姿勢、
世界観・価値観・さらには職業的倫理観を問う」(田村2004:14-17)ということがあげら れている。ジャーナリズム教育は記者養成という目的だけではなく、ジャーナリズムを国 民がどう理解し、対応するかということも目的としている。したがって共通科目として犯 罪被害者、人権教育やジェンダー、ジャーナリズム、コミュニケーション、情報通信関連 講義も必要である。
つまり「民主的な情報化社会は、人々を受動的な読者や視聴者の立場にいつまでもおい