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ジェンダー・センシティブな女性被害者報道

ドキュメント内 テレビニュースに表象される女性被害者 (ページ 177-200)

第 6 章 ジェンダー・センシティブな報道

4 ジェンダー・センシティブな女性被害者報道

これまで、女性被害者の報道被害、テレビニュース内容分析を受け、報道被害の救済と 防止(教育)について取り上げてきた。その過程で、女性被害者報道を “ジェンダー・セ ンシティブ”なものに変化する必要性があると述べてきた。ここで改めてその定義をする。

ジェンダー・センシティブな女性被害者報道とは、女性を報道の客体とするジェンダー観 からの脱却と、ジェンダー・バイアスを含んだニュース内容を排除したニュースである。

対極にあるのが、女性被害者の「性」と「プライバシー(「性別」、「氏名」、「年齢」、「顔映 像」)を結び付け、事件に関係ない情報や人柄を報じることで視聴者の興味・関心、同情を 惹起する報道ではない。後者は女性の「性」がInfotaiment(インフォテイメント)として 扱われるニュースの娯楽化と、女性被害者にニュース・バリューがあると考える記者/制 作者のジェンダー観が密接に関連している証左である。このような女性被害者の取り上げ 方には先行研究で指摘されているジェンダー・バイアスやジェンダー・ステレオタイプの 表現、内容が潜在している。

それは同時に、女性被害者に隠れ取り上げられない性的犯罪の男性被害者がコインの裏 表である。社会にとって重大かつ深刻な犯罪や事件についてジェンダーに関わらずニュー スとして取り上げることができる状態がジェンダー平等な報道といえよう。したがって、

ジェンダー・センシティブな報道を突き詰めると、公共性や公益性の高い事件報道と一致 するのかもしれない。それは、被害状況と原因を報じ、事件を社会問題として提起するも のである。また、事件の経過(裁判等)を報じ、被害の回復、法整備等改善を促す報道で ある。

しかしながら現状はテレビの送り手側に、ニュース制作・放送の各過程において、ジェ ンダーに配慮した報道ができにくい産業構造、ニュース文化が存在すること、テレビジャ ーナリズムには、女性被害者を被害内容と被害者のジェンダーによってカテゴライズする 報道パターンが存在することは既に述べた。テレビニュースの1割を占める被害者報道は、

身体的犯罪の捜査段階のニュースが最も多く、画一的な発表モノ(ニュースの情報源を「官 公庁等」に依拠する)で 9 割が占められていたことが明らかとなった。それらのニュース 内容は女性被害者のプライバシー(性別、氏名、年齢、顔映像)が男性より多く取り上げ られ、女性被害者が死亡した事件の捜査過程が繰り返し報道される傾向が認められた。こ れらの結果は女性被害者の「性」とプライバシーを取り上げていることから、ニュースの 娯楽化が示唆された。その結果として女性被害者報道は犯罪被害の認知件数よりも各犯罪 で大きく取り上げられていた。

このように「歪んだ」女性被害者報道を認識し、脱構築してより適切なジェンダー観と ジェンダー秩序による被害者像の構築をめざすことが重要である。だが、このような取組 みは、メディア企業だけが実践したからといって改善できることではない。そこで本章で はジェンダー・センシティブな報道実践の土壌となる社会の各セクター(メディア、関係

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公共機関、その他犯罪に関わることの多い組織、教育機関、市民)による教育やケアにつ いて取り上げ考察を加えてきた。各セクターによる意識改革や環境整備、ジェンダー・バ イアス是正の取組みや被害者への理解が必要であることを既に述べた。特に、ジャーナリ スト教育にジェンダーの視点や被害者学を取り入れること、ジャーナリスト自身のケアが ひいては被害者のケアにつながり、報道の質の向上につながることを提起した。また、視 聴者である市民はメディア・リテラシーを持つアクティブ・オーディエンスとしてテレビ ニュースをはじめとする情報社会への積極的関与が期待される。

以上から、テレビの女性被害者報道が社会問題提起にとどまらず、被害者の回復を応援 するようなジェンダー・センシティブな報道への転換には、下記の実践が必要と思われる。

第一に記者や制作者たちの意識改革である。意識改革は民放連の放送倫理綱領や自社ガイ ドラインにジェンダー項目を明記すること、被害者報道に従事するすべての記者/制作者 への教育機会の提供が必須だ。

第二に制作環境の改善だが、制作環境とは、①長時間労働や担当したニュースに取材か ら放送まで関わる働き方の改善、②人材のダイバーシティの促進、③記者・制作者たちの 心のケアである。②の人材のダイバーシティについて、ジャーナリズムが男性中心である ことは第 2 章で既に述べたが、筆者が理想とする被害者報道は、単にメディアの送り手に 女性が増えれば成功するわけではない。外国籍の人、様々なハンディキャップを持つ人、

子育て中、親の介護をしている等、多様な属性と経験を持った人材が増えることが重要で ある。

第三に、社会の各セクターによる意識改革や環境整備、ジェンダー・バイアス是正の取 組みや報道被害の防止と被害回復のための支援と理解である。

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1) 日本における大学教育と職業との関係を「Jモード」と名付けている。JはJapanの 意味で、従来の日本の大学教育(の無効性)を表現している。「Jモード」においては、

「『職業知』は就職後のOJTによって形成すればよいとする。『職業知』の基盤となる

『基礎学力』は初等中等教育によって育成される。大学の専門教育は『職業知』には 弱い結びつきしか持たない」(金子元久2007:132-138)。

2) 2007 年度から早稲田大学オープン教育センターでテーマスタディ(全学共通副専攻)

という制度がスタートし、そこに「ジャーナリズムコース」が設けられた。どの学部 の学生でも、「ジャーナリズムコース」の所定単位数を取得すれば、ジャーナリズムを 副専攻として修了することができる。早稲田大学ジャーナリズム教育研究所では、そ のコア科目の教育プログラムを担当している。一方、調査、現役若手ジャーナリスト への教育支援も行っている(最終確認2012年9月9日http://www.hanadataz. jp/00/

front.htm)。

3) メディア・コミュニケーション研究所のジャーナリズム教育は以下5点に集約される。

第一は、メディア・コミュニケーションに関わる基礎知識や考え方を修得する。第二 は倫理、法制度などメディアやジャーナリズムに直接関わる、あるいはそれに特化し た知識や情報を修得することであり、産業としてのメディア、さらにはメディア制作 の歴史や現状を学ぶ。第三は、ジャーナリストになるための能力を向上させ、また諸 技能を修得する。第四はジャーナリストになる研究生を送り出す。第五は実践的な教 育やメディアそれ自体を研究対象とするのではなく、社会で生じた問題や争点を自ら の関心に応じて選択し、研究を行い、それとメディアの報道を比較するというジャー ナリズム教育(大石2010:22-23)。

4) カリキュラム詳細については、小俣(2010)「NHK の記者教育とジャーナリスト教育

の展望」を参照のこと。

5) 詳細については小俣(2011)「ジャーナリスト教育再考~NHK 記者再教育をケースス

タディとして~」を参照のこと。

6) たとえばオウム真理教幹部に坂本弁護士のインタビュービデオを見せたTBSビデオ問 題(黒田清1996参照のこと)。2007年の『発掘!あるある大事典Ⅱ』納豆ダイエット データ偽造問題、1989年朝日新聞珊瑚記事捏造事件など。

7) (2012年9月6日取得,http://www.atp.or.jp/newsrel ease/show.php?subaction=show full&id=1334138033&archive=&start_from=&ucat=1&)

8) この調査では2006年6~7月に調査を実施し、記者・カメラマンなどの非管理職211

名と管理職 149 名から回答を得ている。同調査結果からソーシャル・サポートの観点 による分析については福岡欣治ほか 2007参照のこと。

9) 面接調査では、大災害や大事故において報道に携わり、報道機関(新聞・テレビ・ラジ

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オ)に所属していた記者・カメラマンおよび管理職・経営者31名が対象である。

10)ダートセンターはトラウマ専門の精神科医であり、ミシガン州立大学教授のFrank M.

Ochberg氏によって1991年に設立された。その後、ミシガン州立大学の教員交替とシ

ステムが変わったために、1999年にRoger Simpsom氏が教鞭をとっていたワシント ン大学にセンターが移された。2009年、コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクー ルの招請を受けセンターがニューヨークに移された。700 万ドルが提供され、5年間、

コロンビア大学にコア・プログラムを提供している。

11) 著作としては、Simpson, Roger & Cote, William, 2006, COVERING VIOLENCE-A Guide to Ethical Reporting About Victims and Trauma, COLUMBIA UNIVERSITY PRESS.

12) 詳しくは以下のサイトを参照のこと(2012年9月10日取得,http://www.nytimes. com/

national/portraits/)。

13) 制作テレコムスタッフ 『高橋シズヱさんと過ごした 7 ヶ月 ~地下鉄サリン事件 被 害者の会 代表世話人~』放送日2008年3月20日(木) 02:58~03:58。この作品 は第25回 ATP賞テレビグランプリ2008 ドキュメンタリー部門を受賞した。

14) 本作品は以下のサイトで公開されている。(取材・構成 橋爪明日香, 2005, 『みんな、

空でつながっている~イラク拘束事件・今井紀明君に出会って~』(2014年1月31日 取得, http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/562)。

15) この点については2013年9月11日にベイビー*プラネット代表たむらようこ氏より 口頭で教示を得た。たむら氏は番組制作会社の AD から放送作家に転職後ベイビー*

プラネットを2001年に設立した。放送作家を中心に社員は女性のみで構成されている。

たむら氏の代表作はSMAPの香取慎吾氏演じる「慎吾ママ」(フジテレビ)。「めざまし テレビ」(フジテレビ)、「サザエさん」(フジテレビ)「祝女」(NHK)等。

16) 犯罪被害者の刑事司法における被害者支援について以下参照のこと(2012年9月28 日修得,http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji11.html)。

17) 現場臨場とは、被害者からの連絡などによって警察が事件を認知した場合、捜査が開始 され、事件を担当する捜査官が現場に向かうこと。

18) たとえば付き添いは件発生直後早期に臨場し、医師の診察が必要な場合の病院の手配、

付添いを行う。その他に実況見分の立会い、自宅等への送迎がある。ヒアリングは心 配事の相談受理(身の回りの世話など)、事情聴取や被害者調書の作成又はそれらの 補助である。説明は「被害者の手引」の交付、刑事手続き等の説明、家族、会社、学 校などに対する説明、連絡である。

19) 各都道府県被害相談窓口については以下参照のこと (2013年3月15日取得,http://

www.npa.go.jp/higaisya/home.htm)。

20) 関係機関・団体との連携については、以下参照のこと(2012年9月10日,http:// ww w.npa.go.jp/higaisya/home.htm)。

21) 詳しくは以下のサイトを参照のこと(2012年9月10日取得,http://www.nnvs. or g /index.html)

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