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研究課題の考察と仮説の検証

ドキュメント内 テレビニュースに表象される女性被害者 (ページ 95-103)

第 3 章 テレビニュース内容分析 1(量的分析)

4 研究課題の考察と仮説の検証

ここでは内容分析による量的調査結果のまとめをし、本章で設定した研究課題の考察を 行う。

①被害者報道の全体傾向: 「RQ1:NHK と民放の被害者報道量」

被害者報道は3番組平均で1日に1.8本報道され、1日のニュースに占める割合は本数、

報道時間双方で1割(10.0%)であった(表3-4)。

番組ごとの特徴として、3番組中被害者を最も取り上げた(232本)が、総放送時間は少 なく(27,384秒)、1本あたりの放送時間が比較的短いニュース(フラッシュニュース型と 標準型の合計63.8%)で占められていた『NEWS23』。逆に、被害者報道数は最も少ない(136 本)が、総放送時間は最も長く(38,474秒)、1本あたりの放送時間が長いニュース(重点

型67.6%)だった『報道ステーション』。これら民放2番組の中間に位置する被害者報道ス

タイル(176本、総放送時間34,948秒、重点型55.1%)が『ニュースウオッチ9』であっ 174

13 5 9 21

44

9 23

217

24

5 7 20

74

6 16

130

17 1 4

34 45

3 8

0 50 100 150 200 250

業務VTR 民生VTR 生中継 PC画面 CG 写真/ 資料映像 その他

『ニュースウオッチ9』

『NEWS23』

『報道ステーション』

92 た(表3-4、5)。

つまり、短いニュースをたくさん報道する『NEWS23』、1本のニュースを長く取り上げ る『報道ステーション』、『ニュースウオッチ9』はその中間に位置していた。

犯罪の種類は、3番組ともに「身体的犯罪」が最も多く報道され(3 番組平均 66.5%)、 続いて「経済的犯罪」(3番組平均13.4%)、「性的犯罪」(3番組平均9.2%)であった(表 3-6)。報道段階は「捜査段階」の報道(3番組平均39.3%)が最も多かった(図3-1)。これ は、1章で指摘した人々の関心を引くニュースがより報道されるInfotaiment(インフォテ イメント)、つまりニュースの娯楽化の表れである。

上記の番組ごとの報道傾向の違いが被害者報道のジェンダー面にどのように影響するか については次章の質的分析で取り上げる。

②被害者報道の全体傾向:「RQ2:被害者報道の情報源」

事件を知るきっかけとなった情報源は 3 番組の差はほとんどなく、平均で「官公庁等」

に 89.5%依存していた(表 3-7)。いわゆる「発表モノ」は、ニュース取材が容易である。

記者経験の浅い者でも担当しやすいが、報道システム自体が問題であり、画一的報道につ ながりやすい。

③被害者報道の全体傾向:ニュースの提示様式

ニュース中に主に使用される画像素材は3 番組とも「業務用VTR」(図3-12)であり、

音の演出に関しブリッジ音は 3 番組ともに使用していたが、『ニュースウオッチ 9』だけ BGMと効果音を全く使用していなかった。3種類の音の演出をしているという点では民放 2 番組は娯楽性があるといえるが、NHK はブリッジ音のみであるため限定的である(図 3-11)。

被害者報道の提示様式は番組ごとに異なる。『ニュースウオッチ9』は、約4割のニュー スで「女性」「キャスター」が「顔出し」(43.8%)(表3-8)し、ニュースの概要を述べてか ら(「リード有」58.0%)(図3-10)「男性」「ナレーター」が本編のニュース原稿を読む(59.1%)

(表3-11)スタイルが最も多かった。

『NEWS23』はキャスター等の「顔出しなし」(40.1%)で「男性」「ナレーター」が原 稿を読むニュースが最も多かった(61.2%)。顔出しがある場合は「男性」(21.1%)・「女性」

(28.4%)「キャスター」双方が映像に現れた(表3-9、12)。しかし、当該ニュースについ て出演者による「スタジオでの対話」(12.5%)「論評/評論」(9.1%)は3番組中最も少な かった(図3-10)。

『報道ステーション』は「男性+女性」キャスターの「顔出し」(31.6%)、または「女性」

キャスターが「顔出し」(25.0%)し、ニュースの概要を述べてからニュース本編に入る(「リ ード有」80.1%)のスタイルが最も多かった。そして「女性」「キャスター」がニュース原 稿を読む場合(33.1%)と「ナレーター」「男性」(30.9%)「女性」(27.2%)が原稿を読む

93

場合とに分かれた(表3-10、13)。また当該ニュースについて出演者による「スタジオでの 対話」(60.3%)「論評/評論」(53.7%)が最も多かった(図3-10)。

以上から、被害者報道(=犯罪・事件報道)の提示様式はニュース冒頭で「女性」「キャ スター」が事件の概要を述べ、「男性」「ナレーター」が映像に合わせてニュース本編の原 稿を読み、それに併せて編集された業務用VTRで撮影された映像が流され(図3-12)、関 係者や識者のインタビューが入る(図3-9)。民放はそれらに音の演出(BGM、ブリッジ音、

効果音)を使用する(図3-11)。そして事件についての論評や評論、対話がキャスターやコ メンテーターによって加えられ(図3-10)終わることが多いと思われる。ただし、「スタジ オでの対話」「論評/評論」におけるジェンダーについては、誰が主導的立場でニュースに 意味づけを行っているか質的分析が必要である。

④被害状況と性別:「RQ3:女性被害者と男性被害者の報道量」

「男性」および「女性」被害者報道量については違いが認められた。3番組の「男性」「女 性」被害者の報道量を平均してみると、「女性」被害者は、「男性」被害者の1.5倍報道され ていることが明らかとなった(図3-2)。特に性別、犯罪分類、年齢、氏名、死亡、顔映像、

事件報道回数(図 3-2、3、4、5、6、7、8)のプライバシーに関わる情報は、女性被害者 が大きく取り扱われていた。これは女性の「性」とプライバシーを結び付けるニュースが Infotaiment(インフォテイメント)に端を発するニュースの娯楽化と密接に関連している 証左である。また、女性被害者のニュース・バリューの方が男性より高いことが明らかと なった。

上述より、第2章で設けた第一の仮説について検証する。「テレビの送り手側に、ニュー ス制作・放送の各過程において、ジェンダーに配慮した報道ができにくい産業構造、ニュ ース文化が存在する」は、以下の理由で存在する。ニュース制作の過程において、身体的 犯罪の捜査段階にある女性被害者のニュースを多く取り上げており、ニュースの娯楽化傾 向が明らかとなった。また女性のニュース・バリューが高いことの背景として、第 1 章お よび第 2 章で確認された(報道部門に女性記者/制作者が少ないことによる)男性中心の ジャーナリズムと、日本のジャーナリズムで慣習化している長時間労働が考えられる。

上記により、テレビの送り手側に、ニュース制作・放送の各過程において、ジェンダー に配慮した報道ができにくい産業組織、ニュース文化が存在する。よって第一の仮説は立 証された。

⑤被害状況と性別:「RQ4:報道される犯罪の種類と被害者の性別」

すべての犯罪において女性被害者が男性被害者よりも多く取り上げられていた。性別に よって報道の異なる点は、「性的犯罪」の報道が女性のみで、調査期間中に男性被害者は全 く報じられなかったことである(図 3-2)。ニュースに取り上げられた被害者の生死につい

94

ては、「死亡」している女性被害者が最も報道された(3番組平均98.0本)。男性被害者(3 番組平均71.0本)と比較すると、「死亡」した女性被害者は1.4倍報道されていた(図3-7)。

以上から、テレビニュースは女性被害者の報道量が多く、性別によって報道される被害 内容が異なることが明らかになった。そこで報道傾向と実際の犯罪認知件数(平成20年度 罪種別被害者の年齢・性別認知件数(危険運転致死傷、自動車運転過失致死傷を除く))(警

察庁2009)が同じ傾向を示すか比較した。その結果、テレビニュースは犯罪の認知件数よ

りも身体的犯罪(男51,274名、女23,741名)で15.8倍、性的犯罪(男248名、女9,357 名)は13.1倍夜のテレビニュースによって取り上げられていた。一方、認知件数で約8割 を占める経済的犯罪(男762,393名、女413,154名)は、テレビニュースでは約6分の1 の報道量であった(図3-13)。

図 3-13 犯罪の認知件数とテレビニュース報道(3 番組平均)の比較 単位:%

(出所)平成20年度罪種別被害者の年齢・性別認知件数(危険運転致死傷、

自動車運転過失致死傷を除く)(警察庁2009)より筆者が作成

これらから、日本の夜のテレビニュースは犯罪認知件数と比較すると身体的犯罪と性的 犯罪を大きく取り上げる傾向が明らかとなった。ゆえに身体的犯罪と性的犯罪にニュー ス・バリューがあるとみてよい。

次に、犯罪の認知件数を1とした場合、テレビニュースに取り上げられた割合を被害者 の性別にみてみたところ、すべての犯罪類型において女性は認知件数より大きく報じられ ていることが明らかとなった。特に身体的犯罪は1.6倍、経済的犯罪1.2倍、その他は1.6 倍であった。(表3-14)。

66.5%

4.2%

9.2%

0.7%

13.4%

79.5%

10.8%

15.6%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

テレビニュース 認知件数

身体的犯罪 性的犯罪 経済的犯罪 その他

95

表 3-14 犯罪の認知件数を1とした場合のテレビニュース出現率 テレビニュース(男) テレビニュース(女)

身体的犯罪 0.7 1.6

性的犯罪 0 1.0

経済的犯罪 0.9 1.2

その他 0.8 1.6

(出所)平成20年度罪種別被害者の年齢・性別認知件数(危険運転致死傷、自動車運転過失致 死傷を除く)(警察庁2009)をもとに筆者が作成

この乖離は、犯罪被害の認知件数の中の、特定の出来事がテレビニュースへと変換され る過程で生じると考えられる。それらに密接に関連するのがニュース・バリューとメディ ア特性である。1点目のニュース・バリューは出来事の選択・取材・編集、ニュースの重要 度を比較する際に働く人々や組織の価値観を示す。つまり、被害者報道におけるニュース・

バリューは、社会全体の犯罪被害からある基準に沿った取捨選択をするフィルターとして 機能する。

その一方で、本調査では性的犯罪の男性被害者はテレビニュースにまったく取り上げら れていなかった。被害者が少ないという「希少性」と「異常性」というニュース・バリュ ーを有しながらなぜであろうか。それにはいくつかの理由が考えられる。第一の理由は、

性的犯罪は「暗数」が多いためである。暗数とは、事故・事件の件数などで,届け出もな く,調査も及ばないため,統計にあらわれない実数のことである。平成24年に実施された

「犯罪被害実態(暗数)調査」では、「性的事件」の被害申告「届出なし」は74.1%に及び、

ワースト 1 位であった(内閣府 2013)。第二に、性的犯罪の男性被害者は、社会のタブー

(禁忌)に触れる存在であるためである。たとえば男性聖職者による少年への性的虐待 5) や、同性愛者による強姦等がそれにあたる。第三に、社会や警察内に存在するジェンダー・

バイアスである。これは「性的犯罪の被害者は女性」、「男のくせに襲われた」等に代表さ れるものである。このようなタブー(禁忌)とジェンダー・バイアスによって、被害者は 口を閉ざし犯罪被害は認知されない。認知されたとしても報道においてはタブー(禁忌)

とジェンダー・バイアスによって報道しない状況が生じていると思われる。ただし、加害 者の社会的地位が高い、被害者数が多い場合には社会問題や事件としてされることもある。

近年問題となっているカトリックの男性聖職者による、性的虐待はこれにあたる。

2点目のテレビニュースのメディア特性は、映像として魅力のある出来事をニュースとし て取り上げる傾向にあることである。たとえば女性被害者や未成年の被害者の顔映像や事 件関係者へのインタビュー映像は、テレビニュースとして画になる。そのため取り上げら れやすいということも指摘できる。

ドキュメント内 テレビニュースに表象される女性被害者 (ページ 95-103)