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男性中心のジャーナリズム

ドキュメント内 テレビニュースに表象される女性被害者 (ページ 61-70)

第 2 章 女性被害者と事件報道

3 男性中心のジャーナリズム

ここまで、事件報道における女性被害者、またその取り上げられ方、報道被害の内容に ついて男性被害者との比較も交え論じた。その被害を生じさせる原因の 1 つとしてニュー ス制作過程に関与するジェンダーの本節ではニュース制作とジャーナリズムについてジェ ンダーの視点から問題点を述べていく。

欧米の新聞市場は大衆化と商品化の過程を経て、メディアを受動的に享受する「オーデ ィエンス」を生み出していった。そのようなメディアの商品化過程において重要な役割を 果たしたのが女性たちだった。経営者たちは、経営という視点から消費者行動の主体とし て「女性」というテーマに取り組むことになり、やがて経営者たちは女性記者を採用する 動機を持つようになる。女性記者たちによる女性向けの記事を増やすことによって、女性 マーケットを開拓した。そして欧米の新聞市場は高級紙、タブロイド紙という 2 つのセグ メントに枝分かれしていった。ゴシップや生活記事等の娯楽モノを主体にしたタブロイド 紙で女性が存在感を増していくことになる。日本の新聞も、こうした西欧の社会の動向と ほぼ足並みを揃えていた。つまり、女性は、記者であれ、読者であれ、新聞が企業化され、

市場に基盤をおくようになる過程でメディア産業に引き込まれていった(林2012:125)。

歴史的にみると、マスメディアは男性に支配されてきた。ヨーロッパ、特にイギリスで は女性が活躍するのは、メディア産業の中でもロー・ステータスの職場(地方紙や女性雑 誌)と、決まった役割(管理部門やアシスタント等)で占められている。女性は男性と比 べるとヒエラルキー的に低い位置を占め、収入も女性の方が男性より低いことが指摘され

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ている。近年、メディア産業で働く女性数は多いが、男性と比較すると女性は結婚してい る割合が低く、子どもがいる割合も低い。つまり、男性は仕事しながら家族を持つことが できるが、女性にはそれが難しいのである。その理由の 1 つは、ジャーナリズムが「男性 の世界」であって、女性のグラビアも扱われるので女性が入りにくい/入ってほしくない 領域でもある。したがって、女性たちはダブル・スタンダードに直面しており、彼女たち は男性のように働き/振舞うべきか、あるいは女性としての策略を立てて、男性ができな い仕事をするべきだとされる(Gill 2007:121-124)。

(1)報道部門における女性記者・制作者の少なさ

2001年、39カ国についてIFJ(International Federation of Journalist)が調査したと ころによると、ヨーロッパの女性ジャーナリスト比率は平均で 40%であったが、日本を含 むアジア・太平洋地域の平均は12%であった(Perters2001:4)。

2010 年、日本調査に筆者も参加した IWMF(INTERNATIONAL WOMEN’S MEDIA FOUNDATION, IWMF)による『報道メディアにおける女性の地位に関する世界レポート

(Global Report on the Status of Women in the News Media)』は、世界59ヵ国の500 以上の報道機関(新聞社、テレビ局、ラジオ局)の女性の数、地位、処遇、男女平等に関 する指針などを調査したものである。その結果によると、各職階・職種の女性比率世界平

均は35.1%であったのに対し、日本の報道機関(調査対象 8 社)の各職階・職種の女性比

率の平均は15.2%、下から3番目の57位であった(表2-2)。1995年調査では、上位管理 職の女性比率世界平均は 12%であったのが、今回の調査では 27.3%に躍進しているが、3 割には達していない。意思決定に関わる者の約4分の3が男性で占められており、59ヵ国 中20ヵ国で「ガラスの天井」に直面していると指摘されている。女性やマイノリティの昇 進を阻む、能力や成果に関係のない障壁である「ガラスの天井」は、上位管理職と中位管 理職においてみられると指摘されている(Global Report on the Status of Women in the News Media2012:9)。しかし、日本の女性ジャーナリスト比率は、管理職以前に記者や 編集者などの「専門職」(22.0%)が、世界平均(36.1%)と比較すると非常に低い。先進 国の中では最下位である(表2-2)。

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表 2-2 各職階・職種女性比率

職階 世界平均 日本

経営トップ(株主、オーナー、役員など) 25.9% 16.0%

上位管理職(報道局長、次長、編集長・幹部編集者) 27.3% 1.4%

中位管理職(報道部長・次長、デスク、論説委員) 38.7% 4.8%

下位管理職 28.7% 5.7%

上位専門職(ニュース収集・編集・執筆) 41.0% 17.9%

専門職(記者、編集者など) 36.1% 22.0%

制作・美術 34.4% 11.2%

技術職 26.8% 5.4%

営業、経理、総務 35.6% 20.0%

その他 32.9% 11.6%

各職階・職種女性比率 合計 35.1% 15.2%

(57位/59カ国)

(出所)Global Report on the Status of Women in the News Media 2012 より筆者が作成

図 2-1 報道部門における民間放送局の男女比

(出所)日本女性放送者懇談会編2005より筆者が作成

日本の国内のローカル局、キー局・準キー局を調査した「放送ウーマン2004」調査によ ると、図2-1にあるとおり民放、ローカル局、キー局・準キー局の管理職女性と非管理職女 性の合計は20%未満である(図2-1)(日本女性放送者懇談会編2005)。

2012年新規採用の女性数をみてみると、NHKは27.8%(放送総数(26.9%)、放送技術 0.0%

10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

60.0%

キー・準キー局 ローカル局 民放計

60

(31.3%))、民放は 30.4%と女性の採用に積極的になってきている(『総合ジャーナリズム

研究』No.224:48-49)。ただし、長期にわたる少数採用の影響で、2012年の全体の女性従

業員比率はNHK14.5%、民放24.7%にとどまる。この数字には、報道職以外の部門も含ま れているが、依然として日本の女性ジャーナリストは非常に少ないことに変わりはない(図

2-2)。加えて、(2)で述べた長時間労働が慣習化している職場環境から女性の中途退職率

が高いことから、女性のキャリア形成がいまだ困難であることが示唆される。

図 2-2 2012 年 NHK・民放の女性従業員数

(出所)『総合ジャーナリズム研究No.224』より筆者が作成

(2)長時間労働とワーク・ライフ・バランス

日本の内閣府男女共同参画局による『メディアにおける女性の参画に関する調査』によ ると、新聞・放送・出版の3業界の中でも放送の「報道・制作」担当者の 1週間の平均労 働時間は57.4時間、「50時間以上〜60時間未満」の労働が1位(34.7%)となっており、

3 業界のどの職種より長時間労働が当たり前となっている(図 2-3)(内閣府男女共同参画 局2011:25)。

また、同調査の職種別 1 か月の深夜労働日数を各選択肢の中央値をとって換算してみる と、最も多いのは放送の「報道・制作」7.3 日、次いで新聞の「編集」6.1日、新聞の「制 作・印刷・発送」が5.4日であった(内閣府男女共同参画局2011:34)。

職種別週あたりの休日日数の結果でも、放送の「報道・制作」担当者で「1.5日」と最も短 く、次いで新聞の「編集」1.64日、新聞の出版・文化事業1.65日であった。最も長く週あ たりの休日を取得する出版の「営業(広告・販売等)」は1.96日と差が生じている(内閣府 男女共同参画局2011:38)。

75.3%

85.5%

24.7%

14.5%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

民放 NHK

男性 女性

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図 2-3 職種別 1 週間の平均労働時間

(出所)内閣府男女共同参画局2011:25

上記から、放送の記者・ニュース番組制作者はメディア業界の中で最もワーク・ライフ・

バランス(仕事と生活の調和)がとりにくい職種であるといえよう。このため、図2-4にあ るとおり放送の「報道・制作」部門は、仕事と生活の調和が「困難である」(70.6%)が他 業種、職種を含めて1位という結果となっている(図2-4)。

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図 2-4 職種別 仕事と生活の調和は困難か

(出所)内閣府男女共同参画局2011:59

上記のワーク・ライフ・バランスの偏りが、配偶者と子どもの有無に関わるジェンダー 問題を生じさせている。具体的には、配偶者「有」の女性(40.5%)に対し男性(72.5%)

は約1.8倍、子ども「有」の女性(27.2%)に対し男性(57.1%)は約2.1倍の差が生じて いる(図2-5、6)。

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図 2-5 配偶者の有無

(出所)内閣府男女共同参画局2011:17

図 2-6 男女別子どもの有無

(出所)内閣府男女共同参画局2011:80

長時間労働で深夜残業もあり、休日の少ない放送の「報道・制作」であるが、労働時間 や休日等での男女差は、ほとんどない。男女共に厳しい労働環境の中で、女性が結婚、子 どもの妊娠・出産を経て職場に継続就業し、キャリアアップをするには厳しい環境にある。

図2-7は、新聞・放送・出版業界の育児休業取得率を示したものである。「希望通りに取得 した」女性(61.7%)が約6割に対し、男性(1.6%)は1%台である。業界別でみてみると

「希望どうりに取得した人」の内、女性は新聞(74.5%)、出版(60.0%)、放送(59.3%)

と放送業界の女性の取得率が最も低い(図 2-7)。厚生労働省「平成 23 年度雇用均等基本 調査」によると、平成23年度に出産した女性の育児休業の取得率は90.1%で、配偶者が出 産した男性の育児休業の取得率は3.7%となっている(厚生労働省2012:20)。一般企業全 体と比較しても放送業界の女性の育児休業取得率が低いことがわかる。

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図 2-7 男女別育児休業の取得

(出所)内閣府男女共同参画局2011:81

前出のIWMFの日本調査では、調査対象は8社と限定的であるが全社で出産・育児休暇 制度の整備が進み、復帰しやすくなった。またすべての会社で男女平等に関する指針を持 っていると回答している。

確かに、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法などの法整備による後押しと充実によ って女性にとって働きやすい職場づくりはメディア組織においても進んできたようである。

今後は、男女ともにそれらを活用することができる環境を整え、運用していくことが次の 課題といえる(四方2012:88-89)。

(3)ニュース制作過程と内容におけるジェンダー

しかし、イギリスの事例で明らかなように、必ずしも女性のマスメディアへの参画が女 性記者たちの地位向上やジェンダー・センシティブな報道につながるとは限らない。欧米 の調査では、ジェンダーよりも記者の出自や社会階層、政治的立場などの個人的属性や、

ニューズルームの雰囲気などの方が報道の中身やニュースの価値基準により影響を及ぼし ているという結果が出ている(Chambers et al. 2004:104)。

一方で、やはり女性が作るニュースは男性が作るニュースとは異なるという調査結果も 出ている。たとえば女性はニュース制作で人間、健康、教育、家族に重点を置くという。

特に読者のニーズに重点を置き、出来事よりも人間に重点を置き、出来事の背景や文脈、

その影響を説明する傾向にある(Gill 2007:124-125)。

国広陽子は、大規模に組織化されたマスメディアであるテレビの場合、送り手組織全体 のジェンダー構造、分析単位としての特定番組の制作集団のジェンダー構造など、送り手 の様々なレベルが分析対象になるとする。その際、組織の男女構成比といった比較的単純 なジェンダー構成の量的側面ばかりでなく、組織内の権力構造に踏み込んだジェンダーの 検討が必要であると指摘する。国広は学校放送番組の制作現場の参与観察において、主婦

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