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研究開発部門の役割に関する再考

ドキュメント内 技術用途の不確実性と企業の戦略行動 (ページ 170-177)

第 9 章 ケーススタディー

2 研究開発部門の役割に関する再考

新規事業を育成する際に、 研究開発部門の提案や成果はどのように影響を与えるのか。

本研究の実証により、部分的な支持(モデル2で研究開発部門の提案の影響を想定すること で事業ドメインの拡張に与える他の要因の影響度が高まった点)を得ることができたが、全 体的な支持(研究開発部 門が事業ドメインに与 える 直接な影響につい て統計的な支持が得 られなかった点)を得ることができなかった。第 9章を通じて、実証研究の結果を再考した が、研究開発部門が事業ドメインに影響を与えないと結論付けられるかの問題は残る。 そ こで本節では、研究開発部門の役割について改めて整理することとする。

2-1 新規事業の創造のための研究開発部門の役割

企業組織の中で研究開 発部門の位置づけは三 つのパターンに分ける ことができる(日 本 能率協会, 1982 : p.54)。まず、一つ目は、トップマネジメントの下に製造部門があり、製 造部門の研究開発を担当する型(A 型)である。A 型の場合は、製造部門のマネジャーの意 向が研究開発部門にただちに反映される。二つ目は、 トップマネジメントの下に製造部門 と研究部門が直接繋がっている型(B 型)である。B 型は、研究開発部門が製造部門と独立

して研究開発が行われる。そして、A型とB 型を合わせたものが三つ目のC 型である。C 型は、大企業でよくみられ各事業部門にそれぞれ研究開発部門が存在すると同時に、これ と独立した研究開発部門を設ける型である。C 型の事業部門と独立した研究開発部門は、

新製品・新技術を開発する研究部門となり、中央研究所・総合研究所といわれることがあ る。

図表 10-1 : 研究開発部門の組織上の位置づけ 型 組織上の位置付け

A 型

B 型

C 型

出所 : 日本能率協会(1982 : p.54)

このような研究開発体 制は、マトリックス組 織の体系を整えるよう になっている(図 表

10-2)。C型は、事業部門の研究開発部門とトップマネジメント直下の研究開発部門の間で

コミュニケーションをとることができる。このC型が研究開発部門におけるマトリックス 組織型である。マトリックス組織の研究開発体系により、A 型の研究開発体制の弱点と B 型の研究開発体制の弱点を補うことができる。組み合わせにより、 プロジェクトチームと いわれる新規事業を支える研究開発が行われるのである。プロジェクトチームの成功と失 敗を左右する要因は、明確な目標の提示の有無、期間限定の有無、適切なリーダーの有無 である。この際に、生じるコミュニケーションは提示された目標の達成 が目的になる。マ トリックス研究開発組織の目標を達成するためには、コミュニケーションの拡散と集約を 反復し、最終的な解を導き出さなければならない。最終的な解を求める過程において提示 された目標とは異なるが、事業機会を掴むためのイノベーションの種が生えてくる可能性 がある。

図表 10-2 : 研究開発のマトリックス組織体系

出所 : 日本能率協会(1982 : p.59)

リニアモデルに合わせて考えると図表 10-3 のようになる。基礎研究を行う際に、応用 できる範囲を定め、応用研究を行うのである。しかし、市場環境の変化Ⅰにより、応用開 発の段階で失敗が起きる可能性がある。この種の市場環境変化は、基礎技術間の競合によ り、起きるものと考えられる。基礎技術間の競争において開発に失敗する可能性もある。

一方で、この際に事業ドメインの範囲を超える研究テーマに関して研究開発部門が提案す る可能性もある。研究開発部門の提案が棄却されない場合、事業ドメインを拡張に影響す るのである。

応用研究を行い、製品を開発する。しかし、市場環境の変化Ⅱにより、製品開発が失敗 で終わる可能性がある。市場環境変化Ⅱは、製品のレベルで起きるものと考えられる。例 えば、同じ製品カテゴリの中での各社が想定した顧客層が同じであり、想定した用途が同 じである場合に生じる。この場合に製品開発には繋がるが、競合を深化させることになる。

一方で、応用研究が製品化される際に、応用研究の研究開発プロジェクト チームが解体さ せられることもあると考えられる。

そして、製品が市場で、販売され、改良されるようになる。まず、販売されて市場ニー ズに適合しないことによる失敗があると考えられる。この際には、技術が高度化される。

競合に入っている企業間の競争は、持続的な技術の開発競争につながるからである。持続 的技術を開発し、性能を向上させることで、新たな破壊的技術により代替されるのである。

破壊的技術の開発がなされるかどうかが不確実性の増大している状況である。ここで、製 品の持続的な開発競争での負けによる失敗が生じる可能性がある。一方で、製品カテゴリ を超えていない製品ではあるが、市場で失敗してしまう場合も生じるのである。

図表 10-3 : 研究所の提案の事業ドメインへの拡張プロセス

出所 : 著者作成

以上の整理を通じて、事業ドメインの拡張に影響を与える研究開発部門の提案が企業の ビジネスとして成り立つ過程を整理している 。研究所が担当する分野が新しい技術を事業 化することができる。しかし、事業ドメインの拡張を促進する要因と阻害する要因はどの ようなものであろうか。

2-2 事業部門の役割

事業部門は、新しい市場を見つけ市場を分析することによって、研究開発部門の新事業 提案の可能性を図ることが必要である。新事業の可能性の測定には、 既存事業で行ってき た市場調査と異なる場合(或いは、市場の採算性を測定しにくい場合)が存在する。このた め、研究開発部門の提案があっても、市場調査が行われないことになる。 この種の市場調 査を行うためには、組織的な構造変更が必要であろう。綜研化学では、市場調査を行うた めに、組織構造を変更し、対応している。組織構造の変更は、事業部門自体で行われない

ため、トップマネジメントのサポートが必要であろう。トップマネジメントが自ら環境に おける不確実性を把握することが前提されなければならない。大企業においては、トップ マネジメントの行動を不確実性の把握だけに集中させることは難しいのであろう。

し た が っ て 、 ミ ド ル マ ネ ジ メ ン ト の 役 割 が 大 事 に な る と 考 え ら れ る 。 十 川 他(2006 : pp.155-156)は、ミドルの役割として次のように述べている。新事業育成のためのミドルマ ネジメントの役割は、「創造性を引き出す」、「上下・左右のコミュニケーション」、「経営方 針・短期目標の伝達」、「人々の挑戦意欲の喚起」、「部下のアイディア評価と上司への働き かけ」、「資源配分の裁量」、「部下の提案の把握」が必要である。この役割は、新事業を創 出する際に次のような側面で影響を与えると考えられる。

図表 10-4 : 事業ドメインの拡張におけるミドルマネジメントの働きかけ 企業におけるミドルマネジメント の役割 事業ドメインの拡張との関わり

人々の挑戦意欲の喚起 提案の活性化の側面

創造性を引き出す 部下の提案の把握

部下のアイディア評価と上司への働きかけ

技術用途の転用促進の側面

上下・左右のコミュニケーション 経営方針・短期目標の伝達 資源配分の裁量

新事業開発の意義の正当化及び運営

出所 : 十川他(2006 : pp.155-156)に著者追記

このように、ミドルマネジメントは、企業の中で、提案を活性化させる一方で、上位 ト ップマネジメントに提案を伝達する役割、一方で、経営方針を部下に伝達させる役割を担 っているとも考えられる。これは、研究開発部門・事業部門の提案とトップマネジメント の構造改革意志の間を繋げる役割である。つまり、事業ドメインを拡張する行動の実行に おいてミドルマネジメントが重要な役割を持つと 言える。

2-3 中小企業と大手企業の事業ドメインの拡張における差異

事業ドメインの再定義について、本研究に類似した研究が行われている。山本(2011)は、

山本貴金属株式会社の事例を分析している。山本貴金属は、1957年創業以来、1974 年ま で成長してきたのであるが、1975年から2004年まで事業の体制を変更し、そして、2005 年から新たな成長を求め、新事業を育成してきている。山本(2011 : p.39)は、事業体制の 変更を、第一創業期、第二創業期、第三創業期として定義している。

図表 10-5 : 山本貴金属地金㈱のライフサイクル

出所 : 山本(2011: p.82)

2 回の転換期において事業ドメインを広く設定してきており、事業ドメインの再定義の 際に行われたプロセスを図表 10-6 のように示している。企業が成長して行く過程におい て、企業はPEST(P=political, E=economic, S=social, T=technological)分析を通じて企業 を巡る環境を分析する1。この分析を通じて現在の事業ドメインと環境とのギャップを認識 し、コア技術に基づき、新しいドメインの定義を行う。研究開発はこのように事業ドメイ ンに影響を与えるのである。つまり、研究開発と事業ドメインの関係は、研究開発部門で コア技術を応用し、製品を市場に提供し、製品に基づいて事業ドメインが形成される関係

である。

図表 10-6 : 中小企業における事業ドメインの再定義プロセス

出所 : 山本(2011 : p.87)

山本(2011)が主張する、事業ドメインが広がる際には、物理的ドメイン Xから物理的ド

メインY1, Y2, Y3に広くなっていくようになる。物理的ドメインの集合を機能ドメインと

して定義し、物理的なドメインY3と物理的ドメインWを含む再定義が行われるのである。

しかし、このような事業ドメインの展開は、大手企業と中小企業において差があると思わ れる。

この差は二つあると思われる。一つは、コミュニケーションの階層の問題である。規模 が大きくなるにつれ、組織的な効率性を目指すが、このために上下のコミュニケーション の距離が遠くなる。研究開発部門の提案がトップマネジメントの構造改革意志に影響を与 えるためには、研究開発部門とトップマネジメントの距離を近くするか、或いはミドルマ ネジメントからの提案の的確な評価が行われる必要性がある。しかし、この種の研究開発

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