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事業ドメイン

ドキュメント内 技術用途の不確実性と企業の戦略行動 (ページ 71-75)

第 3 章 不確実性の増大に対応するための企業改革

3 事業ドメイン

いう。企業再生が可能であるとすれば、各段階での望ましい行動は次のようになる。第 1 段階では、現状を正確に認識するための情報を収集することである。第 2段階では、とに もかくにも迅速に行動することである。第 3段階では、問題解決のために正しい行動を選 択することである。第4段階では、組織を効果的に再編成することである。このような行 動をとることによって、企業における危機感を認識し、対処することができる。第5段階 に至っては、企業は対処のしようがない。

図表 3-13 : 衰退のプロセス

出所 : Weitzel & Jonsson(1989 : p.102)に基づいて槇谷(2012 : p.25)が作成

しかし、企業組織が衰退段階にあるが故に、企業が対応できない場合もある。対応を妨 げる要因は、慣性(Burgelman et al., 2004 : 邦訳pp.306)である。事業遂行の効率性を目 指すことによって生じた慣性の壁である。慣性による阻害は、安定した大規模組織に存在 するため、これと別の組織で環境変化に対応することが求められる。企業が衰退を避ける ために新しい事業を立ち上げる時、或いは新しい取り組みを行う際には、組織レベルで区 別することが必要となる。そして、組織レベルの区別を行うと同時に組織自体に柔軟性を 持たせること、意思決定のスピードを迅速にし、組織が挑戦的な試みを行うことが重要で ある。さらに、組織全体の目標を明確にしなければならないが、企業組織の目標を規定す る要因として、事業ドメインを取り上げることにする。

きない(Drucker, 1973, 1974a : 邦訳pp.91-92)。事業ドメインの明確な定義が企業活動に おける優先順位、戦略、計画を可能にする。企業は、自社の事業は何か、何であるべきか を考えなければならない(Drucker, 1973, 1974a : 邦訳pp.91-92)が、事業ドメインを定義 することで、活動領域或いは活動外領域を規定することができ る。ただし、事業ドメイン を定義しても、定義は何れ陳腐化する(Drucker, 1973, 1974a : 邦訳 pp.112)ため、再定義 を要する。再定義は、既存の事業ドメインを解釈し直すことによってなされる。事業ドメ インを再定義する際には、将来の進出可能性のある新事業も考慮しなければならない。新 事業を考慮した上での再定義は、事業ドメインの拡張を示唆する。

3-1 Levittの事業ドメイン

事業ドメインを定義する基準として、Levitt(1960 : 邦訳pp.68-69)は、顧客ニーズが重 要であると述べている。Levitt(1960 : 邦訳 p.53)は、アメリカ鉄道企業の失敗を分析し、

衰退しない産業や代替品が現れない製品は本来存在しないことを述べながら、事業の衰退 の原因が経営の失敗によるものと強く指摘している。Levitt(1960 : 邦訳pp.53-54)によれ ば、アメリカの鉄道企業は、自社の事業ドメインを鉄道事業として定義することにより、

鉄道事業の衰退に歩調を合わせて企業自体が衰退してしまった。アメリカの鉄道企業は、

鉄道としての事業ドメインではなく、輸送としての事業ドメインを持つ必要性があ ったの である。これは、事業ドメインを製品・サービス(鉄道)による定義ではなく、ニーズ(運ぶ) に基づく事業ドメインに転換すべきであることを示唆する。これにより 企業が、どのよう な価値を顧客に提供しているかを見誤ることを防止する(Levitt, 1960 : 邦訳 p.54)。第 2 章で顧客ニーズと技術シーズの整理で検討したように、顧客のニーズは、顧客の使用目的 によって構成される。顧客の使用目的を用途と考えれば、事業ドメインの定義は、市場用 途によって定義されると言える。

3-2 Abellの事業定義

Abell(1980 : 邦訳 pp.222-226)は、事業ドメインが、顧客層、顧客機能、代替技術の三

つの軸により構成されると述べている。この軸を当てはめることで、自社の 差別化程度を 把握することができる。どの顧客に(顧客層)、どのような顧客の用途を(顧客機能15)、どの 技術を使用して提供するか(使用技術)を明確にすることで、事業ドメインを定義すること

ができるのである。

図表 3-14 : Abellのドメインを定義する三つの次元

出所 : Abell(1980 : 邦訳p.37)

一つ目の顧客層は、同一性に基づいた分類軸である。同一性は、地理的特性、人口統計 学的特徴、社会経済的特徴、ライフスタイルの特徴、パーソナリティの特徴、ユーザーの 業界と規模などで表現される。二つ目の顧客機能は、製品やサービスが顧客のために果た す仕事に基づいた分類軸である。例えば、輸送は機能であり、タクシー輸送は機能遂行の 方法であり、価格・快適さ・スピード・安全性は選択に関連した属性或いは価値である。

ここで、機能と価値は明確に分けることが難しい。三つ目の代替技術は、ある顧客向け特 定機能の遂行のために用いることのできる異なる 方法に基づく分類軸である。機能が輸送 であれば、道路交通、鉄道交通、海上交通等が代替技術となる。技術は顧客機能を満たす ための手段である。Abell(1980)の主張からも、事業ドメインの定義の構成要因として、顧 客に対して果たす機能や顧客が求める価値(動作特性)のような、顧客の用途が重要な要因 であることが分かる。

3-3 榊原の事業ドメイン

一方で、榊原(1992 : pp.41-45)によれば、事業ドメインには変化可能性が表現されてい ることを必要とするという。事業ドメインの変化可能性は、事業ドメインの変更が随時で きるかどうかではなく、経営活動が可能な領域が動的に示されているかどうかを表す 。変

化可能性は、三つの軸を含んでいる。これは、空間軸、時間軸、意味軸である。第一の空 間軸は、組織体の活動空間の拡張である。空間軸は、「狭い 対 広い」で測ることができる。

第二の時間軸は、組織体の活動の時間の拡張である。時間軸は、「静的 対 動的」で測るこ とができる。最後の意味軸は、組織の活動の意味の拡張である。意味軸は、「特殊的 対 一 般的」で測ることができる。これらの軸を基準に、事業ドメインは 変化可能性を持つ必要 がある。企業が市場的不確実性に対処するために多角化するならば 、より広い空間とより 動的な時間とより一般的な意味を含む概念に事業ドメインを再定義することになる16。そ し て 、 企 業 は 顧 客 の 製 品 ・ サ ー ビ ス の 購 入 に よ っ て 収 益 を 獲 得 し て い る(榊 原, 1992 : pp.34-37)。したがって、顧客が属する社会において、顧客が望む製品・サービスを提供す るひつようがある。つまり、企業は、それが営む事業の社会・経済的な意味についても考 慮しなければならないのである。ある企業が何を行い、何を行わないか、についての社会・

経済的同意を「ドメイン・コンセンサス」と呼ぶ。企業が事業ドメインを再定義する際に は、ドメイン・コンセンサスが得られるようにしなければ、個々の事業は社会・経済には 受け入れられない。ドメイン・コンセンサスは、短期間で得られることはできないため、

既存事業の運営で構築されてきた企業のイメージに加え、新たな事業 のために発信する情 報が、企業外部の社会・経済において納得の行く内容である必要がある。

図表 3-15 : 事業ドメインの企業・社会の合意

出所 : 榊原(1992 : p.35)

3-4 伊丹による事業ドメインの拡張

一 方 で 、 事 業 ド メ イ ン の 定 義 は 企 業 が 戦 略 的 に 設 定 す る も の で も あ る(伊 丹, 2003 : pp.366-369)。企業が将来、必要とする資源を獲得するために設定する側面もある。これは、

現在の事業ドメインと将来の事業ドメインの差を自ら設定することを意味している。現実 に設定されている事業ドメインとこれより広く定義した事業ドメインとの間に差を作るこ

とで、企業が多角化する際に隙間を埋めるための 行動が促進される。現実と将来のドメイ ンの隙間は、組織が学習できる隙間となる。企業は自らが設定した目標或いは事業ドメイ ンの隙間を利用することで発展していくことができる。

図表 3-16 : ドメインを広げるための戦略設定(オーバー・エクステンション)

出所 : 伊丹(2003 : pp.366-369)に著者加筆

事業ドメインを再定義する時に、将来の成長要素を事業ドメインに含める行動をとるこ とが、事業ドメインを拡張する行動である。事業ドメイン を拡張する行動によって、企業 は既存事業ドメインの陳腐化に抗する新たな成長軸を設定することができる。

これまでの事業ドメインに関しての先行研究を整理すると次のようになる。 事業ドメイ ンは、顧客の用途に基づいて設定するが、対象顧客や顧客に提供できる用途、 用途を提供 するための技術を明示しながら、物理的な活動領域と 時間的な発展軸を示すことができな ければならない。そして、一度定義された事業ドメインはいずれ陳腐化する ため、これよ りも広く再定義することが必要となる。広い事業ドメインを再定義することで、企業が将 来必要とする資源の獲得方針が示されなければならないのである。

ドキュメント内 技術用途の不確実性と企業の戦略行動 (ページ 71-75)