第 2 章 不確実性に影響する技術と技術の用途
5 不確実性の計測
ところで、研究開発投資や事業開発投資を実施する際には、市場の魅力度や技術の実現 可 能 性 を 測 る こ と で 投 資 に お け る 不 確 実 性 を 見 積 も る こ と が 必 要 と な る 。McGrath &
MacMillan(2000 : 邦訳 pp.133-134)によれば、市場の不確実性と技術の不確実性は、図表
2-21の各項目の合計で評価することができるという。これらの評価により、不確実性の程 度を測ることができる。
図表 2-21 : 不確実性の程度を把握するための因子
市場の不確実性 技術の不確実性
市場の総需要 開発完了期間
得られる売上高 設備機器類の開発コスト
第三者からの協力 必要なインフラストラクチャーの開発 売り上げの大きさの変動幅 開発コストの総額
法的責任問題 補完的技術の入手可能性
価格水準の見通し 必要なシステムのコスト
許認可獲得の期間 必要なスキルの種類
市場での受容期間 必要な人材の確保 商品投入に必要な投資額 設備機器類の種類 サービス体制づくりに必要な投資額 設備機器類の入手可能性
デザイン変更頻度 設備機器類のコスト
競合相手名 原材料の種類
競合相手の対応力 原材料の入手可能性
顧客が求める商品特性 技術的障害の克服能力
潜在競合相手数 品質レベル
商品発売まで顧客が購入を控えるかどうか サービスレベル
標準規格の特徴 生産能力
標準規格の設定にかかる時間 人材確保可能性 標準規格の最終決定にかかる時間 失敗の原因 補完的商品の標準規格設定までに投資
をするかどうか 商品化に必要なスキル
競 合 可 能 な 技 術 ス キ ル を 保 有 す る 人 材 のチーム編成可能性
開発期間短縮可能性 成功のための打開策
※各項目が明確であるか不明確であるかについて評点し、 総得点でどの程度不確実な状 態であるかを把握することができる。
出所 : McGrath & MacMillan(2000 : 邦訳pp.133-134)より作成
これらの変数を使って、McGrath & MacMillan(2000 : 邦訳 pp.133-134)は、積極的に 投資を行うか或いは事象がより明確になるまで投資を留保するかの意思決定 をすることが 可能であると述べている。しかし、図表 2-21の不確実性の程度を把握するための因子は、
市場・技術の明確さのチェックリストに過ぎないし、また、不確実性に対処するための行 動を示してはいない。そこで、第3章では、不確実性に対処する実際の企業行動を整理し、
ここまでの考察結果との関係を検討していくことにする。
1 意思決定環境において、「外部環境の変化」や「技術」、「目標」、「戦略」によって「不確 実性」が規定され、「規模」は「複雑性」を生ずる要因として考えられる(加護野, 1980 : pp.115)。
2 企業内部の目標設定を巡る問題は、環境変化に合わせて再設定することで対応できるの である。この企業内部の目標がどのように低くなったのか等を問題として捉えるより、
変化した環境に対応できる目標に変更することができるかを問題として捉えることが必 要であろうと思われる。環境変化に対応できる目標設定の問題は、第 3章を通じて検討 することにする。
3 伊藤(2000 : p,15)によれば、科学とは、自然科学的・物理学的・生物学的本質に関する 言明の発見・創造・検証・体系化・蓄積・普及であり、研究は科学の活動的側面、知識 は科学的活動成果であるとしている。技術は、ある対象物の操作を可能にする、創造さ れた人工的能力であり、自然科学的な情報を特定の仕事に応用するための知識である(伊 藤, 2000 : p.86)。
4 Robert et al. (2004 : 邦訳p.34)では、次のような事例を用いている。例えば、「用途と
して一般的すぎるもの(住宅建築用の素材)」と「限られた可能性しかない用途の狭いも の(キャビネットの蝶番の素材)」における研究開発では、用途によって異なる性能が要 求される場合が挙げられる。この場合、マーケティング管理者から極端な用途を橋渡し される際に、研究開発の目標の頻繁な変更により、問題が生じる可能性がある。
5 Robert et al. (2004 : 邦訳p.34)では、アナログからデジタルに変化する際に、「アキュ
ラシー」という企業が、アナログとデジタルの両方を制御するシステムを開発したが、
アナログコンピュータが陳腐化していく市場トレンドを見逃した事例を挙げている。
6 Robert et al. (2004 : 邦訳 p.34)では、市場アナリストに潜在製品として調査されても、
この製品群の将来性が保証できないと指摘されている。これは、市場アナリストにおい て新規製品は、複数ある市場調査対象の一つに過ぎないために生じる問題である。
7 技術的な新奇性の向上を中心に行うインクリメンタルイノベーションである。日本は、
特に、インクリメンタルイノベーションを重ねてきている(濱岡, 2012: p.76)。
8 顕在ニーズに対して技術を開発しても、本来想定した用途で使用されるとは限らない。
9 この Ansoff(1965 : p.137)の多角化は、図表 2-17でいう集成型多角化である。
10 福島(2009:p.52-55)は、今まで製品多角化と地域多角化の議論が区別されてきているこ とを指摘し、統合した軸で考えることが必要であるという問題意識の元で、統合軸の形 成を試みたのである。
11 これについては、第4章で詳しく検討することにする。
12 これについては、第4章で詳しく検討することにする。