• 検索結果がありません。

富士フイルムの不確実性の対応行動の整理

ドキュメント内 技術用途の不確実性と企業の戦略行動 (ページ 104-107)

第 5 章 事例分析

2 富士フイルムの不確実性の対応行動の整理

富士フイルムの戦略行動を第3章の考察を参照し、整理すると図表 5-13のようになる。

①富士フィルムは、本来の写真フィルムの技術において、写真フィルムの用途に留まらず、

用途を拡張してきた企業である。②2000年以前に、デジタルカメラによるフィルムの需要 の減少が予想される中で、研究開発部門は、フィルム事業 の運営で蓄積されてきた技術を 利用し、化粧品事業への参入を提案した。しかし、2000年以前は、フィルム事業が健全で あったことから、その提案は受け入れられなかった(永井, 2010 : p.199)。③その後、2004

年以前に、フィルムの需要が現実に減少し、フィルム事業の業績が悪化したことから、企 業内に危機感が生じた(島津, 2011 : p.68)。この後、④危機感を解消するために、2004年 2 月に富士フイルムは、新規事業として化粧品を含むヘルスケア・医薬事業への参入を決め、

社内に発信した。そして、⑤2006年の6月には、中期経営計画を外部に発表し、⑦同年9 月に化粧品事業として製品を発売した。

図表 5-13 : 富士フイルムの不確実性への対処

用途Ⅰ :写真フィルムの用途

用途Ⅱ :APS、写るんです、医療用(X線)、フィルム+音声 出所 : 著者作成

②の研究開発部門の化粧品事業への参入の提案は、フィルム技術の用途 における不確実 性の対応行動をとった結果である。この行動は、フィルム技術の用途を拡散させようとす る「技術集約・用途拡散型」の行動である。技術の提案に対して、同社は、健全な既存事 業の遂行を選択した。これは、事業部門での用途を集約した行動であると考えられる。こ の行動によって研究開発部門の行動と事業部門の行動の間で不整合関係が発生した(③)。

その後、2004年2月の新たな事業の育成をする意思決定(④)は、フィルム事業の業績の落 ち込みによる事業部門の不確実性への対処であったが、このままでは③と同様に事業部門 の行動と研究開発部門の行動は不整合状態にあるが、今回は全社的な経営計画の変更(⑤) によって整合可能になった。富士フイルムは、整合化の結果、⑥のように企業全体の不確 実性に対処できたと考えられる。富士フイルムにおいては、技術の不確実性への対処(化粧 品への進出の提案=用途拡張)と事業の不確実性への対処(安定している事業の遂行=用途 集約)の間で不整合が生じ、その不整合を事業ドメインの再定義によって解消したのである。

富士フイルムの事例で、研究開発部門の用途拡張の提案が受け入れられるまでには、二 つの壁が存在したことが分かる。一つは、既存事業部門の業績が健全であったこと である。

既存事業部門の業績が健全であれば、企業は不確実性が低い状態であると認識する。二つ 目は、既存経営理念や既存事業ドメインである。富士フイルムの事業を定義する事業ドメ インにおいては、化粧品関連の事業が明示されていなかった。またこうした事業ドメイン の源である経営理念も変更されていなかった ことが壁であったのである。

2-1 富士フイルムの事業ドメインの変化

富士フイルムは企業変革に際して、事業ドメインを拡張したと考えられる。富士フイル ムの企業理念は、「わたしたちは、より優れた技術に挑戦し、「映像と情報の文化」を想像 し続けます」(富士フイルム, 2005b)から、「わたしたちは、先進・独自の技術をもって最 高品質の商品やサービスを提供する事により、社会の文化・科学・技術・産業の発展、健 康増進・環境保持に貢献し、人々のクォリティオブライフのさらなる向上に寄与します」(富 士フイルム, 2006b)に企業変革時に変えた。これに伴い、富士フイルムには、健康増進に 貢献するという価値がライフサイエンス事業を積極的に展開することが可能になった。

同時に、社名を「富士写真フイルム」から「富士フイルムホールディングス」に変更し た。このような変更は、ライフサイエンス事業を新しい柱となる事業として育成するため の行動である5。さらに、2009 年には、クォリティオブライフの向上の一環として、ライ フサイエンス事業におけるスローガンである「生命を写す、生命を癒す、生命を守る」を 企業外部に発信した(富士フイルム, 2009b : p.12)6。富士フイルムの事業ドメインが「写真 フィルム」から「生命」に変わったのであろう。これは、「写真フィルム」という製品に基 づいた定義から、「生命」という一般性の高い定義に変わったものである。

2-2 ドメインの変化による更なる事業展開

富士フイルムは、事業ドメインを再定義し、生命関連事業を育成しており、「生命を守 る」事業にも取り込んでいる。富士フイルムは、2008 年 3月に富山化学工業株式会社(以 下、富山化学)を連結子会社化している。富士フイルムの事業ドメインの再定義により、新 たに富士フイルムが採択した戦略行動である。富山化学は、富士フイルムのメディカル・

ライフサイエンス事業の内、医療用医薬品部分を担当している。富士フイルムは、富山化 学をグループ内で育てることで、「価値の最大化」、「技術融合による新薬開発のスピードア ップ」、「新薬の継続的な創出」、「資金力を生かした開発・生産体制の強化」「販売体制の強 化」、「連携による生産の効率化」のシナジー効果が得られると期待したのである。

図表 5-14 : 富士フイルムの事業展開における富山化学工業の位置づけ

出所:富山化学工業H.P.(2011)

ドキュメント内 技術用途の不確実性と企業の戦略行動 (ページ 104-107)