第 2 章 不確実性に影響する技術と技術の用途
2 企業の不確実性の発生と対処
から直接に影響される半面、研究開発能力(図表 2-5 の技術)を介しても影響されるのであ る。
図表 2-5 : 加護野の不確実性の増大要因
出所 : 加護野(1980 : p.115)に基づいて作成
このように、企業を巡るが不確実性の増大は、研究開発能力を生かし、環境の変化や競 争の激化による負荷を削減することで一定の対処ができる。企業は、環境変化の負荷を軽 減するために、不確実性に対して積極的に戦略的行動とらなければならない。積極的な行
動をHugh et al.(1997)の不確実性に対する行動を参考にし、整理する。
2-2 不確実性に対する企業行動
企業における不確実性に対処する行動には、Hugh et al. (1997 : p.32)によれば、「形成」
「適応」「プレー権の留保」があげられる。「形成」行動は、自ら市場・技術を形成する行 動である。「適応」行動は、他者が形成した環境に素早く「適応」する行動である。「プレ ー権の留保」は、不確実性がある程度削減されるまで消極的に投資しながら環境変化があ る程度収まるまで時期を待つ行動である。これらの行動は、先行者(形成)、追随者(適応、
プレー権の留保)の行動であるとも考えられる。本研究で検討しようとする 研究開発行動に おける不確実性に対処する行動(技術用途に関する不確実性に対処する行動)に当てはめる と図表 2-6のようになる。
技術用途に関する不確実性への対処は、第一に、新市場・新技術を自ら「形成」する行 動が考えられる。技術或いは市場における主導権を自社が形成した新市場・新技術で握る 行動ともいえよう。第二は、技術変化や市場変化に敏感に「適応」していくことである。
他社が「形成」した技術・市場に逸早く「適応」していく行動と言える。第三は、「適応」
しつつ当該新市場・新技術領域に漸進的な投資をしながら、機が熟すのを待ち、不確実性 が削減された時点で一期に対応を決する「プレー権の留保」である。これは、技術が市場 で評価された後に積極的に参入しようとする行動である。ただし、「プレー権の留保」につ いては、技術用途をめぐる不確実性への対処という視点からは、技術が市場で評価された 後での参入(技術的な参入)を目指すものであり、最終的には「適応」行動をとっていく行 動であるため、「適応」の一種と見ることもできる。したがって、技術用途の不確実性への 対処としては、「形成」と「適応」の二つに分けられる。
図表 2-6 : 不確実性の対応行動の分類 戦略的な不確実性に対する対応行動
(Hugh et al., 1997)
技術用途における不確実性に 対する対応行動
行動 内容 行動 内容
「形成」 未来を「形成」 「形成」 自ら新しい技術の用途を「形成」
「適応」 「形成」された未来に「適応」
「適応」 「形成」された用途に「適応」
「 プ レ ー 権の留保」
「適応」において漸進的な投資 をしつつ、不確実性が削減され た時点で対応
出所 : Hugh et al.(1997)を参考し、著者作成
これまでの議論を整理すると以下のようになる。 不確実性は、企業の利潤の獲得のため の競争によって生じる。不確実性に対しては、対応できるかできなか、という二者択一で はなく、変化の原因を特定する行動や変化の結果を予測する行動をとることで対処するこ とができる。変化の原因の特定や変化の結果の予測が全くできない場合には、対処するこ とができない。しかし、変化の原因が把握できなくても、変化の結果の程度が分かる場合 には、この変化の結果に備えて対処することができるのである。企業内部では、企業が達 成水準を高く設定することで不確実性が高まる。企業内部の不確実性の増大に対しては、
目標を適切なレベルに設定する行動や、環境変化を考慮した目標に設定し直すことで対処 することができる2。一方で、企業外部の環境変化に対しては、研究開発部門の問題解決能 力を高めることによって、不確実性が軽減できる。不確実性を軽減させるために、企業は
「形成」、「適応」、「プレー権の留保」を通じて対処しようとするが、これを技術用途の観
点から考えれば、「形成」と「適応」の行動に整理することができる。