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研究6 誘惑対処方略の使用に関する時系列変化

第6章 誘惑対処方略の使用・有効性 に関する検討

第2節 研究6 誘惑対処方略の使用に関する時系列変化

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92 に回答することを求められた。

3)質問紙の構成

調査の内容は,目標を達成するために毎日どのくらい誘惑対処方略を使用しているかを 尋ねるものだった。調査対象者には,初回の調査協力(1日目)の時点で,“試験勉強をし て良い成績をとる”という目標を設定してもらい,さらに調査対象者自身にとっての“目 標を妨げる魅力的な誘惑”について1つ設定することを求めた。そして2週間のモバイル 調査では,初回の調査協力で設定した目標と誘惑に対して,以下の項目に回答を求めた。

1.誘惑対処方略尺度

目標と誘惑について想起してもらった後,誘惑対処方略尺度(全20項目)に回答を求め た。その際,“あなたがはじめに設定した‘目標’と‘誘惑’について思い浮かべながら, 本日のあなたの行動を振り返ってください。あなたは下記のような行動をどのくらい行い ましたか?最もあてはまる数字に1つだけ○をつけてください”と教示を行った。今まで の研究と同様に,7件法で回答を求めた。

2.目標達成見込み

続いて,“あなたは今日の行動だけを振り返って,目標をどれくらい達成できそうです か?0~100%で回答してください”と教示し,目標達成見込みの回答を求めた。

モバイル調査が終わった後,2週間後の試験終了後に事後調査が実施された。事後調査 では,試験までの今日1日の行動を振り返って回答を求めた。内容は,モバイル調査と同 様の誘惑対処方略尺度,目標達成見込みのほかに,“試験に対しての主観的労力”3項目

(例:あなたは、この授業の試験勉強をどれくらい頑張ったと感じますか?),“授業へ の好意度”3項目(例:あなたはこの授業にどれくらい興味をもっていましたか),簡易 版感情尺度(沼崎・北村・工藤, 1993)への回答を求めた。

(3)結果

調査開始から事後調査までの2週間(14 日間)を3日ごとに区切って5時点(Time1~

Time5)ごとに分析を行った。つまり,1日目(調査開始日)から3日目までをTime1,4

日目から6日目までをTime2,7日目から9日目までをTime3,10日目から12日目までを

Time4,13日目から14日目(事後調査)までをTime5とした。

93

M SD M SD M SD M SD

time1 2.43 1.32 2.58 1.31 2.27 1.12 2.45 1.24 time2 2.61 1.52 2.82 1.56 2.67 1.26 3.09 1.75 time3 3.00 1.57 3.05 1.60 2.95 1.62 3.46 1.76 time4 2.88 1.50 3.12 1.47 2.76 1.34 3.50 1.64 time5 3.91 1.55 4.23 1.47 3.93 1.52 5.18 1.42

目標実行 意味確認 気分転換 誘惑回避

1)時系列ごとの誘惑対処方略の使用について

時系列ごとの誘惑対処方略の使用度合について記述統計を示す(表7-2; 図7-2)。使用程 度の平均値パターンをみると,どの下位方略(目標意味確認方略,気分転換方略,誘惑回 避方略,目標実行方略)においても目標達成(Time5)に近づくにつれて徐々に使用程度 を増加させることが示された。

表7-2 各時点における誘惑対処方略の記述統計

注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c群:目標意味確認高 傾向, d群:目標実行低傾向, e群:使用低群

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次に,使用程度を従属変数として,誘惑対処方略と時点の被験者内2要因分散分析を行 った。その結果,時点の主効果,誘惑対処方略の主効果がともに有意であった(F(4, 276)=42.42, p<.001; F(3, 207)=18.55, p<.001)。また時点×誘惑対処方略の交互作用も有意であ った(F(12, 828)=8.91, p<.001)。さらに時点の各水準における誘惑対処方略の単純主効果検 定を行ったところ,どの時点においても有意な差がみられた。また,誘惑対処方略の各水 準における時点の単純主効果検定を行ったところ,どの方略も目標達成に最も近づいてい るとき(Time5)に有意に使用度合が高まっていた(図7-3)。しかしながら,Time2からTime4 間では有意な差は見られなかった。

1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 4.50 5.00 5.50

time1 time2 time3 time4 time5

使

意味確認 気分転換 誘惑回避 目標実行

図7-2 各時点における誘惑対処方略の使用程度の推移

注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c群:目標意味確認高 傾向, d群:目標実行低傾向, e群:使用低群

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意味確認 気分転換 誘惑回避 目標実行 Time1 .47*** .51*** .55*** .50***

Time2 .62*** .69*** .57*** .67***

Time3 .65*** .74*** .70*** .77***

Time4 .67*** .53*** .61*** .63***

Time5 .32** .29* .31** .53***

2)時系列ごとの誘惑対処方略と達成見込みの関係

次に各時点の誘惑対処方略の使用程度と達成見込みとの関連をみるため,相関分析を行 った。各時点の誘惑対処方略と達成見込み間には全て正の相関がみられた(表7-3)。特に,

Time2からTime 4にかけては,どの下位方略においても達成見込み間と高い正の相関がみ

られた。

1 2 3 4 5 6 7

意味確認 気分転換 誘惑回避 目標実行 使

用 程 度

Time1 Time2 Time3 Time4 Time5

図7-3 方略別における時点ごとの誘惑対処方略の使用程度の推移

注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c群:目標意味確認高傾向, d群:

目標実行低傾向, e群:使用低群

表7-3 誘惑対処方略の使用程度と達成見込みの関連

注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c群:目標意味確認高傾向, d群:

目標実行低傾向, e群:使用低群

***p<.001, **p<.01, *p<.05 注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c

群:目標意味確認高傾向, d群:目標実行低 傾向, e群:使用低群

96 3)時系列ごとの誘惑対処方略と主観的労力の関係

はじめに主観的労力の指標として,3項目(“この授業の試験のためにどのぐらい準備で きたと感じましたか”,“この授業の試験にどれくらい力をいれましたか”,“この授業の試 験勉強をどれくらい頑張ったと感じましたか”)の合成変数を作成した(α =,94)

次に,主観的労力を目的変数とし,誘惑対処方略を説明変数とした重回帰分析を時系列 ごとに行った。その結果,Time1とTime5では気分転換方略が主観的労力に有意傾向では あるが正の影響を及ぼしていた(Time1: β = 0.44, p<.10; Time5: : β = 0.28, p<.10)。Time3で は,目標意味確認方略が主観的労力に正の影響を及ぼしていた(β = 0.55, p<.01)。Time4 では,気分転換方略が主観的労力に正の影響を及ぼしていた(β = 0.41, p<.05)

(4)考察

1)時系列ごとの誘惑対処方略の使用について

本研究では,試験勉強状況に焦点をあて,誘惑対処方略の時系列変化を検討した。その 結果,試験(目標達成)までの2週間の間の誘惑対処方略の使用傾向について明らかにな った。これらの結果は目標勾配仮説と一致して,目標達成が迫るにつれて誘惑対処方略の 使用程度も増加傾向にあることが示唆された。誘惑対処方略のなかでも,特に目標実行方 略の使用程度が最も高かったことから,目標達成(試験日)が最も近づいたときには,多 くの人々が強制的に目標を実行しようとしていたことが考えられる。これは,Steel(2010)

の先延ばし方程式にも一致する。先延ばし方程式では,目標に対する期待や価値が高いと 動機づけを高めるが,目標達成までの時間が遠い先である場合(“遅れ(時間)”が大きい)

や,誘惑に対して身近である(“衝動性”が強い)と,目標に対する動機づけが下がると説 明している。本研究では,目標として設定されていた試験が学生にとって期待と価値がと もに高かったことが考えられる。また,目標達成(試験日)が間近であり(“遅れ”が小さ い),誘惑に対して目標意味確認方略や気分転換方略,誘惑回避方略のような方法で対処を 行っていた場合(“衝動性”が弱い)に,目標に対する動機づけが高まり,強制的に目標実 行(ここでは試験勉強)をより行いやすかった可能性が考えられる。

誘惑対処方略の使用程度と時点の関係をより詳細に検討するためには,階層線形分析を 行う必要があるが,本研究では分析人数が足りず,詳細な分析ができなかった。今後は,

階層線形分析を行い,誘惑対処方略の使用程度と時点の関係をより詳細に検討していく必 要があるだろう。

97 2)時系列ごとの誘惑対処方略と達成見込みの関係

達成見込みとの関連について時系列ごとに検討を行った結果,誘惑対処方略の使用はど の時点においても達成見込みと関連していた。特に, Time3もしくはTime4の時点におい て,誘惑対処方略と達成見込み間にやや高い相関がみられた。因果の方向性については今 後の検討が必要であるが,1つの解釈として,試験1週間前あたりに誘惑対処方略を使用 することで,“試験勉強をして良い成績をとる”という達成見込みを高めていたことが考え られる。また一方で,達成見込みが高い人ほど,試験1週間前に誘惑対処方略を使用する 傾向が高かったとも考えられる。

さらに,興味深いことに,Time5 の時点において,誘惑対処方略と達成見込み間の相関 はどの方略においても相関係数の値が低くなっていた(目標意味確認方略,気分転換方略,

誘惑回避方略は中程度以下の相関であった)。時系列ごとの誘惑対処方略の使用程度をみる と,Time5 の時点では誘惑対処方略の使用程度自体は最も高いことが示されているが,試 験間近になってやっと試験勉強に着手した人が達成見込みを低く見積もったことによって 相関が低くなった可能性も考えられる。

3)時系列ごとの誘惑対処方略と主観的労力の関係

最後に,各時点において,どの方略が主観的労力を感じやすいかについても検討を行っ た。その結果,気分転換方略がTime1, 4, 5において主観的労力に正の影響を及ぼしていた

(ただし一部は有意傾向)。Time1の時点では,試験まで2週間あり,多くの人は目標(試 験)に対する動機づけがあまり高くない状態である可能性がある。そのため,気分転換方 略によって間接的に目標に対する動機づけを増加させることで,試験勉強に着手し,結果 的に主観的労力を高めたのかもしれない。

また,目標意味確認方略がTime3の時点で主観的労力に正の影響を及ぼしていた。これ は,試験1週間前になり,徐々にこれから試験勉強に着手しようとする人が増加していく なかで,目標意味確認方略を使用することで目標の動機づけを高め,結果的に主観的労力 を高めていた可能性が考えられる。

以上のことから,誘惑対処方略は時点(例:目標達成までの期日)や状況(例:目標達 成の困難度)によってそれぞれ有効に働く方略が異なる可能性も示唆される。例えば,本 研究の結果から,Time1, 4, 5の時点では気分転換方略が有効に働き,Time3の時点で目標 意味確認方略が有効に働くかもしれない。その他にも,試験勉強に関する目標ではなく,