第8章 総合考察
第1節 本研究のまとめ
本章では,まず,第4章から第7章で行われた実証研究で得られた結果についてまとめ,
本論文の実証研究全体を通しての総括を行う。その後,本研究の意義,本研究における問 題点と今後の課題,本研究の応用可能性について述べる。
(1)第4章の概要
第4章では,学業場面において人々がどのような自己統制葛藤を経験し,どのような自 己制御方略を使用しているかを把握することを目的とした。研究1では,大学生を対象に,
学業場面における自己統制葛藤について調査を実施した。自由記述で回答を求めた結果,
人々の学業場面における自己統制葛藤状況が明らかになった。例えば,人々が学業目標の
“誘惑”として捉える事柄には,先行研究において研究者側が想定していた“誘惑”に一 致するものも多くあげられたが(例:娯楽など),一方で“生理的欲求(例:眠気)”や“身 体的要因(例:飽き)”といった先行研究ではあまり“誘惑”として取り上げられてこなか った事柄も抽出されていた。また,“誘惑に対する対処方略”については,誘惑に対する回 避や目標の確認といった,先行研究でも重視されている自己制御・自己統制方略が多く得 られたほか,興味深いことに“誘惑と目標の両立”という方法も含まれていた。さらに,
“自己統制葛藤時に誘惑を優先するときの状況”については,自己制御の失敗要因に関す る先行研究を支持する結果であった。
(2) 第5章の概要
第5章では,誘惑対処方略の尺度を開発することを目的とした。この尺度は,学業場面 全般における自己統制葛藤状況を想定しており,研究2では項目の選定を行った。その結 果,4つの誘惑対処方略(目標意味確認方略・気分転換方略・誘惑回避方略・目標実行方 略)が抽出された。目標意味確認とは,目標の重要性や利益を考える方略である。気分転 換方略とは,気分をかえて目標に対してやる気をだすという方略である。誘惑回避方略は,
誘惑を避ける,または誘惑のない環境を作り出す方略である。目標実行方略とは,とりあ
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えず目標をまずやってみるという方略である。項目は全部で20項目あり,誘惑対処方略 の使用度合を測定する尺度(誘惑対処方略尺度)が開発された。研究3では,再検査信頼 性を確認し,研究4では妥当性の検討として基準関連妥当性が確認された。しかしながら,
誘惑対処方略が目標達成に近づくにつれて人々にどのように使用されているかといった時 系列変化については検討されてこなかったため,誘惑対処方略の使用に関する検討の必要 性が述べられた。
(3) 第6章の概要
第6章では,前章で作成した誘惑対処方略尺度を用いて,日常生活において誘惑対処方 略がどのように人々に使用され,機能しているのかについて検討を行った。まず研究5で は,誘惑対処方略の全般的な有効性について検討を行った。自己制御プロセスを想定し,
誘惑対処方略が“自己制御の実行”として目標関連行動に有効であることかを確認したと ころ,全般的な誘惑対処方略の使用が目標関連行動に正の影響をもたらしていた。次に研 究6では,モバイル調査によって,誘惑対処方略の使用の時系列変化について検討を行っ た。具体的には,誘惑対処方略の使用程度を毎日測定し,人々が2週間後の目標達成に向 けて,どのように方略を使用するのかを検討した。その結果,誘惑対処方略の使用は,目 標勾配仮説と一致する結果が得られた。つまり,目標達成に最も時間的に近くなると,誘 惑対処方略の使用も最も高まることが明らかになった。
(4) 第7章の概要
第7章では,状況による自己制御方略の使用や選択の変化について検討を行った。
研究7では,目標達成の困難度の違いによって,誘惑対処方略の各方略の有効性が異なる ことが示された。目標達成が容易な目標条件においては目標意味確認方略,困難な目標条 件においては誘惑回避方略が有効であることが示された。また,目標達成が容易な目標と 困難な目標ともに,目標実行方略が有効であることも示された。これらの結果から,目標 達成が容易な目標では,目標に対する動機づけを高めるような方略が有効に働くことが考 えられる。また,目標達成が困難な目標では,誘惑を回避してストイックに目標実行を行 うような方略が有効に働くといえる。しかしながら,気分転換方略の有効性については確 認ができなかったが,自己制御の成功の指標が気分転換方略に適さなかった可能性がある ことが考えられる。研究8では,設定目標の違いとして,達成目標(遂行目標・習得目標)
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の違いによって誘惑対処方略の使用と目標関連行動および動機づけと関連がどのように変 化するかについて探索的に検討を行った。その結果,遂行目標条件においては,主観的労 力や成績との関連が強く,習得目標条件においては,内発的動機づけとの関連が強くみら れており,達成目標研究の先行研究とも一致する結果が得られた。結果から,誘惑対処方 略は,目標に関連する動機づけや行動を高める可能性があることが示唆された。
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