第5章 誘惑対処方略の抽出と尺度の作成
第2節 研究3 再検査信頼性の検討
(1)問題と目的
研究2では,誘惑対処方略尺度の項目の選定を行い,4つの下位方略が抽出された。本 研究では,誘惑対処方略尺度の再検査信頼性を確認することを目的とする。また,どのよ うにそれぞれの下位方略が使用されているかを明らかにするため,誘惑対処方略を使用す る程度に何らかのパターンがみられるかについても検討する。人によっては1つの方略だ けを使用するのではなく,複数の方略を組み合わせて使用する可能性も想定されるからで ある。
(2)方法 1)調査対象者
関東圏内の大学生を対象とし,Time 1は136名,Time 2は134名から回答を得た。Time
1とTime 2の2時点双方での回答が確認された104名(男性:29名,女性:75名; 平均年齢
20.01歳, SD=0.86)を分析に用いた。
2)調査手続き
授業時間の一部を利用して,2011年6月 (以下Time 1とする)-7月(以下Time 2と する)に実施した。Time 1とTime 2の測定間隔は2週間であった。
3)質問紙の構成
研究2と同様の教示文と項目を用いて測定を行った。各下位尺度の内的整合性は,Time 1ではα=.78~.88,Time 2ではα=.87~.91であった。
(4) 結果 1)変数の得点化
研究2と同様に4つの下位尺度の得点化を行った。
2)再検査信頼性の検討
再検査信頼性を検討するため,誘惑対処方略尺度の各下位尺度得点について Time 1 と
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Time 2との相関係数を算出したところ,中程度から高い相関係数を示した(目標意味確認方
略:r =.79, p<.001; 気分転換方略:r =.72, p<.001; 誘惑回避方略:r =.76, p<.001; 目標実行 方略:r =.60, p<.001)。
3)誘惑対処方略の使用パターンの分類
誘惑対処方略が人々にどのように使用されているかを検討するため,Time 1のデータを 用いて誘惑対処方略尺度の4つの下位因子である“目標意味確認方略”,“気分転換方略”,
“誘惑回避方略”,“目標実行方略”によるクラスタ分析(Ward法, 平均ユークリッド距離)
を行った。その結果,5つの解釈可能なクラスタが得られた。第1クラスタには17名(a 群), 第2クラスタには33名(b群),第3クラスタには27名(c群),第4クラスタには 15名(d群),第5クラスタには13名(e群)の調査対象が含まれていた。
次に,クラスタ分析により抽出された5つの群を独立変数,誘惑対処方略尺度の下位尺 度得点を従属変数とする一元配置の分散分析を行った(表6-3,図6-3参照)。分析の結果,
全ての下位尺度において有意な差が得られた。
a群 b群 c群 d群 e群
(n=17) (n=33) (n=27) (n=15) (n=13)
5.83α 4.16 γ 4.96 β 4.23 γ 2.79 δ
(0.61) (0.67) (0.76) (0.43) (0.73)
5.72α 5.41 αβ 5.72 α 4.81 β 3.97 γ
(1.13) (0.64) (0.71) (0.47) (0.85)
5.12α 4.57 α 3.09 β 3.41 β 2.89 β
(0.87) (0.63) (0.86) (0.46) (0.83)
6.27α 4.81 β 4.79 β 3.33 γ 3.97 δ
(0.58) (0.48) (0.69) (0.55) (1.06)
目標意味確認 44.37
F値
***
目標実行 45.22
気分転換 14.86
誘惑回避 33.82
***
***
***
表6-3 各方略における群ごとの分散分析結果
注1) ***p<.001
注2) 表中の数値は平均値, カッコ内は標準偏差を示す。
注3) 表中のサブスクリプト(α, β, γ, δ)は, 多重比較の結果を表し,同じサブスクリ プトをもたない平均値間に有意差があることを示す。
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(5)考察
本調査では,誘惑対処方略尺度の再検査信頼性の検討を行った。その結果,どの下位尺 度においても中程度から高い相関係数を示したことから,十分な信頼性が得られたといえ る。また,誘惑対処方略の使用について検討するため,方略ごとのクラスタ分析を行った。
その結果,誘惑対処方略の使用パターンにはそれぞれ特徴がみられることが示された。平 均値パターンとしては,気分転換方略において各群の使用度合が全体的に高い数値を示し ていた。多重比較の結果,a 群において誘惑対処方略を使用する程度が最も高く,e 群は 最も低い特徴がみられた。特に,方略の使用が中程度であった b群,c群,d群において は明確な弁別差はみられなかったものの,方略使用に関する特徴的傾向がみられていた。
例えば,b群はその他の群(c群,d群)よりも“誘惑回避方略”の使用程度が高い傾向が みられた。また,c群はその他の群(b群,d群)よりも“目標意味確認方略”の使用程度 が高い傾向がみられた。d群では,その他の群(b群,c群)よりも“目標実行方略”の使 用程度が低い傾向がみられた。これらの結果から,人によって誘惑対処方略の使用パター
1.00 2.00 3.00 4.00 5.00 6.00 7.00
目標意味確認 気分転換 誘惑回避 目標実行 使
用 程 度
a 群 b 群 c 群 d 群 e 群
図6-3 各方略別による各群の使用程度
注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c群:目標意味確認高 傾向, d群:目標実行低傾向, e群:使用低群
注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c群:目標意味確認高傾向, d群:目標実行低傾向, e群:使用低群
注) a群:使用高群, b群:誘惑回避高傾向, c群:目標意味確認高傾向, d群:目標実行低傾向, e群:使用低群
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ンが異なることが明らかとなったが,なぜこのような使用パターンに分類されたのかにつ いては明らかになっていない。例えば,誘惑対処方略の使用程度は全体的に高い方が,自 己制御に対して多くの手段をもっており,結果的に自己制御に成功しやすいことが考えら れる。一方で,誘惑回避方略や目標意味確認方略といった一つの方略が高い傾向にある使 用パターンは,誘惑を回避することや目標の意味や重要性を確認にすることが最も自己制 御に有効に働くのかもしれない。しかしながら,これらの使用パターンが特性的なものな のか,状態的なものなのかについては今後も検討していく必要があるだろう。また,この ような使用パターンは,目標の種類(例:試験勉強に関する目標なのか,レポート課題に 関する目標なのか)や目標達成までの期間(達成まであと1週間なのか,1年後なのか)
などによっても変化するだろう。本研究では,学業場面における様々な自己統制葛藤状況 における使用パターンを抽出しているため,今後は目標の種類や目標達成までの期間など を統制したときにどのような使用パターンがみられるのか,自己制御の成功や目標達成に どのように影響を及ぼすかについて検討していく必要がある。
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