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4.1 深刻度が高い場面の送信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

4.1.6 目上へのメールと対等へのメールの相違点

以上、深刻度が高い場面の送信メールの構造を分析した。その結果、目上へのメールと対等 へのメールの構造には、以下のような相違点があることがわかった。

(1)メールの意味公式は 23 種に分類できた。23 種の中で目上へのメールに出現しているが 対等へのメールには出現していないのは、メールの開始部の[感謝表明]、メールの主要 部の[日程検討の依頼]、メールの終了部の[連絡の要求]の 3 種である。一方、目上へ のメールには出現していないが、対等へのメールに出現しているのは、メールの主要部の [遠慮表明]と[埋め合わせの提案]、メールの終了部の[連絡の予告]である。53 ペー ジの表 4-1 に示したように、[感謝表明][日程検討の依頼][連絡の要求]は目上への メールのみに、「遠慮表明」[埋め合わせの提案][連絡の予告]は対等へのメールのみ に出現している結果が出ているが、これらの意味公式の出現率は[感謝表明](目上:4例、

対等:なし)、[日程検討の依頼](目上:1例、対等:なし)、[遠慮表明](目上:な し、対等:2 例)、[連絡の予告](目上:なし、対等:1 例)、[連絡の要求](目上:

2例、対等:なし)と目上の場合と対等の場合の出現率の違いに大きな差が見られなかった。

そのため、これらの意味公式が目上か対等かいずれかにしか出現しないということが目上 の場合と対等の場合の根本的な違いであるとは言いがたいのではないかと考えられる。

(2)54 ページの図 4-1 に示されているように、23 種の中で半数以上出現している意味公式の数 は、目上の場合は 11 種で、対等の場合は 9 種である。目上へのメールには〈[件名]→

[宛名]→[名乗り]→[前置き]→[キャンセル理由]→[キャンセル報告]→[配慮 表明]→[謝罪表明]→[再約束の依頼]→[終了の挨拶]→[署名]〉という 11 種の出

86 現順序が最も多かった。一方、対等へのメールには〈[件名]→[宛名]→[前置き]→

[キャンセル理由]→[キャンセル報告]→[配慮表明]→[謝罪表明]→[再約束の依 頼]→[署名]〉という 9 種の出現順序が最も多かった。

以上の出現順序から、目上と対等で用いられている出現率が半数以上出現している意味 公式は、ほとんど同じであり、違いは目上ではメールの開始部の[名乗り]と、メールの 終了部の[終了の挨拶]が用いられていることである。対等の場合に[名乗り]があまり 使用されていないのは、自分の名前を書くことは必須であるとはいえないからである。し かし、目上の場合は約束をキャンセルするメールだけでなく、他の目的でも指導教員であ る目上にメールを書く場合は、先生と学生がお互いを知っているにも関わらず、決まり文 句のように自分の名前を名乗ることは、一般的なことのようであるため、今回の約束キャ ンセルのメールには半数以上使用されている。一方、対等の場合には[終了の挨拶]があ まり使用されていないが目上の場合に半数以上使用されているのは、目上である指導教員 へのメールを送信することは、かしこまったフォーマルな場面であるため、儀礼的に[終 了の挨拶]が使用されているからではないかと考えられる。

(3)目上の場合は[名乗り]と[署名]として、メールの開始部と終了部合わせて 2 回自分の 名前を書いている例が半数あったが、対等の場合は2例(10.0%)しかなかった。また、対 等の場合はメールの開始部にも終了部にも自分の名前を書いていない例は9例(45.0%)あ ったが、目上の場合は 1 例もなかった。つまり、対等にメールを書く際に、送信者が自分 の名前を 1 回も書いていない人がいたが、目上に書く際には、送信者全員が必ず自分の名 前を 1 回は書いている。

(4)目上の場合と対等の場合共に最も多く見られた件名は、非明示的な件名であるが、件名の つけ方が異なっている。目上へのメールに最も多く見られたのは、「~について」「~に 関して」という表現を使った件名であるが、対等の場合は「~の件」「~のこと」「~の 連絡」という表現を使った件名が最も多く見られた。また、目上の場合は明示的な件名で ある「~変更のお願い」という約束変更の依頼表現で件名をつけているメールが 3 例、

「日程変更のお願いとお詫び」というように 3 番目の分類の「~変更のお願い」という約 束変更の依頼表現と 1 番目の分類の「お詫び」という表現を併用している表現でメール をつけているメールが 1 例あったが、対等の場合は 1 例もなかった。そして、対等の場合 は件名をつけていないメールが 3 例あったが、目上の場合は 1 例もなかった。

(5)[再約束の依頼]の言語形式として、目上の場合は「大変お忙しいとは思いますが、また お時間を作ってはいただけないでしょうか。」などのように非常に丁寧な依頼表現で書く

87 傾向が強い。また、「V-ていただけないでしょうか」だけでなく、「ご相談の日程のご変 更願えますでしょうか。」や「先生のご都合がよろしいときに再度お伺いしてもよろしい でしょうか。」などのように、依頼表現の文末に「~でしょうか」という表現が使われて いることが多かった。一方、対等の場合は「日にち変えてくれないかな?」というような 「〜かな?」の表現を用いて依頼している例が最も多かった。

(6)謝罪表現の言語形式は「申し訳ない系」「すみません系」「ごめん系」「悪い系」「恐縮 系」「失礼系」「お詫び系」の 7 種に分類できた。目上にメールを書く際に、ほぼ全員の 調査協力者(82.9%)が「申し訳ない系」を使用しているが、対等に書く際に、最も使用 しているのは「ごめん系」である(59.1%)。さらに、目上にメールを書く際には、謝罪 表現を 1 回か 2 回、対等に書く際には 2 回以上使用するという傾向が見られた。

また、謝罪表現は「メール送信への謝罪としての用法」「約束をキャンセルする本題の 前置きとしての用法」「配慮表明としての用法」「約束をキャンセルすること自体に対す る謝罪としての用法」「再約束の依頼の前置きとしての用法」「再約束の依頼の終結とし ての用法」「謝罪メールの終結としての用法」の 7 種に分類できた。この 7 種の用法の中 で目上と対等で出現数が大きく違うのは、「約束をキャンセルすること自体に対する謝罪 としての用法」である。対等へのメールには 11 回現れているが、目上へのメールには 2 回 しか現れていない。

つまり、調査協力者は対等にメールを書く際には、相手との約束をキャンセルするとい う事柄自体に対する直接的な謝罪を、配慮表明としての謝罪と謝罪メールの終結としての 謝罪と同じ程度で重視しているが、目上の場合には、相手との約束をキャンセルするとい う事柄自体に対する直接的な謝罪よりも、配慮表明としての謝罪と謝罪メールの終結とし ての謝罪の方を重視しているということである。このような違いは目上へのメールと対等 へのメールの根本的な謝罪の仕方の違いではないかと考えられる。

以上、目上の場合と対等の場合の相違点をまとめた。以上の(1)(2)(3)のように、メ ール全体の構造、メール全体の意味公式の出現率および意味公式の全体の出現順序の違いには 大きな差が見られなかったため、メール全体の構造に大きな違いがあるとはいえない。しかし、

(6)で述べたように、目上の場合と対等の場合に重要な違いが見られたのは、謝罪表現の用法 についてである。謝罪表現の用法の違いは、目上の場合と対等の場合の約束キャンセルのメー ルでの謝罪の仕方の根本的な違いとみなすことができる。

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4.1.7 深刻度が高い場面の送信メールの構造のまとめ

(1)メール全体の構造

深刻度が高い場面の送信メールの意味公式は、[件名][宛名][開始の挨拶][名乗り]

[感謝表明][メール送信への謝罪][前置き][キャンセル理由][キャンセル報告]

[配慮表明][謝罪表明][再約束の依頼][都合伺い][都合報告][日程検討の依 頼][再約束の依頼の終結][遠慮表明][埋め合わせの提案][メールの終結][連 絡の予告][連絡の要求][終了の挨拶][署名]の 23 種に分類できた。

23 種の中で半数以上出現している意味公式の数は、目上の場合は 11 種で、対等の場合は 9 種 である。目上へのメールには〈[件名]→[宛名]→[名乗り]→[前置き]→[キャンセル 理由]→[キャンセル報告]→[配慮表明]→[謝罪表明]→[再約束の依頼]→[終了の挨 拶]→[署名]〉という 11 種の出現順序が最も多かった。一方、対等へのメールには〈[件名]

→[宛名]→[前置き]→[キャンセル理由]→[キャンセル報告]→[配慮表明]→[謝罪 表明]→[再約束の依頼]→[署名]〉という 9 種の出現順序が最も多かった。この出現順序 より、目上と対等で用いられている意味公式は、ほとんど同じであり、違いは目上では、開始 部での[名乗り]と終了部での[終了の挨拶]が用いられていることであるため、全 23 種の 意味公式の中で半数以上出現している意味公式は、[件名][宛名][名乗り][前置 き][キャンセル理由][キャンセル報告][配慮表明][謝罪表明][再約束の依頼]

[終了の挨拶][署名]の 11 種となる。これらの 11 種の意味公式は深刻度が高い場面の送 信メールの構造として重要な要素で、メールを書く際に書くべきものだと考えられる。意味公 式をこのような出現順序で組み合わせることにより、まとまった1つのメールが成り立つ。

本研究のデータでは、このようなパターンを深刻度が高い場面の送信メールの典型的な構造と みなすことにする。

(2)件名

メールの件名は「明示的な件名」と「非明示的な件名」の 2 種に分類でき、目上の場合と対 等の場合共に明示的な件名よりも非明示的な件名の方が多く使用されている。また、目上への メールに最も多く見られたのは、「~について」「~に関して」という表現を使った件名であ るのに対して、対等へのメールに最も多く見られたのは、「~の件」「~のこと」「~の連絡」

という表現を使った件名である。「について」「に関して」「の件」「のこと」「の連絡」の 前に書かれている内容を見ると、「本日の面談について」や「今日のインタビューの件」など のように、今日どのような約束をしていたかということについての内容が最も多かった。「に