• 検索結果がありません。

本章では、約束をキャンセルする深刻度が高い場面の送信メールと深刻度が低い場面の送信 メールの構造を分析した。その結果、深刻度が高い場面の送信メールと深刻度が低い場面の送 信メールの構造には、次のような相違点があることがわかった。

(1)深刻度が高い場面における意味公式は 23 種に分類できたが、深刻度が低い場面は 22 種に 分類できた。そして、それぞれの場面には、以下の表 4-36 に示すように、同じ意味公式も あれば、違う意味公式もある。

表 4-36 深刻度が高い場面と低い場面における意味公式の出現 共通の意味公式 深刻度が高い場面にしか

現れなかった意味公式

深刻度が低い場面にしか 現れなかった意味公式

[件名]

[宛名]

[開始の挨拶]

[名乗り]

[感謝表明]

[再約束の依頼]

[都合伺い]

[都合報告]

[日程検討の依頼]

[再約束の依頼の終結]

[残念な気持ちの表明]

[キャンセルに対する対応の言及]

[別の機会での対面の期待]

[参加できる人への伝言]

[参加可能の期待]

131

[メール送信への謝罪]

[前置き]

[キャンセル理由]

[キャンセル報告]

[配慮表明]

[謝罪表明]

[メールの終結]

[連絡の予告]

[連絡の要求]

[終了の挨拶]

[署名]

[遠慮表明]

[埋め合わせの提案]

[共有事項への言及]

以上の共通の意味公式は深刻度が高いか低いかに関係なく、約束をキャンセルす るメールの最低限必要な意味公式とみなすことができる。それぞれの意味公式の場 面ごとの出現率は表 4-37 のとおりである。この中で網かけを施したものは、場面に よって出現率に大きな違いが見られたものである。

表 4-37 共通の意味公式の場面ごとの出現率 NO 意味公式の分類

出現率

深刻度が高い場面 深刻度が低い場面 目上 対等 目上 対等 1 件名 100.0% 85.0% 100.0% 85.0%

2 宛名 100.0% 75.0% 100.0% 70.0%

3 開始の挨拶 45.0% 20.0% 60.0% 25.0%

4 名乗り 50.0% 10.0% 65.0% 15.0%

5 感謝表明 20.0% - 15.0% 5.0%

6 メール送信への謝罪 20.0% 5.0% - 5.0%

7 前置き 75.0% 85.0% 90.0% 65.0%

8 キャンセル理由 100.0% 100.0% 100.0% 100.0%

9 キャンセル報告 75.0% 75.0% 90.0% 100.0%

10 配慮表明 100.0% 90.0% 45.0% 50.0%

11 謝罪表明 100.0% 100.0% 70.0% 95.0%

12 メールの終結 35.0% 45.0% 15.0% 5%

13 連絡の予告 - 5.0% 5.0% - 14 連絡の要求 10.0% - - 5.0%

15 終了の挨拶 50.0% 15.0% 45.0% 10.0%

16 署名 100.0% 55.0% 100.0% 60.0%

表 4-37 から、ほとんどの共通の意味公式の出現率に大きな違いはないが違いがあるのは、

相手に対する[開始の挨拶][終了の挨拶」と自分の名前を書く[名乗り][署名]の 4 種である。この 4 種はメールを始めたり、メールを終えたりするために慣用的に使用され

132 るものだと思われる。また、4種の全ては深刻度が高いか低いかに関わらず、対等の場合よ りも目上の場合の方が出現率が高かった。これは指導教員へのメールを送信することは、

かしこまったフォーマルな場面であるためではないかと考えられる。

(2)半数以上出現している意味公式の数と最も多く見られた意味公式の出現順序の違いは、以 下の図 4-3 のとおりである。

図 4-3 それぞれの場面における意味公式の出現順序

高い場面:目上 高い場面:対等 低い場面:目上 低い場面:対等 件名

宛名 名乗り 前置き キャンセル理由 キャンセル報告 配慮表明 謝罪表明 再約束の依頼 終了の挨拶 署名

件名 宛名 前置き キャンセル理由 キャンセル報告 配慮表明 謝罪表明 再約束の依頼 署名

件名 宛名 開始の挨拶 名乗り 前置き キャンセル理由 キャンセル報告 謝罪表明

残念な気持ちの表明 キャンセルに対する対応の言及 別の機会での対面の期待 署名

件名 宛名 前置き キャンセル理由 キャンセル報告 配慮表明 謝罪表明

キャンセルに対する対応の言及 署名

(3)表 4-38 に示すように、深刻度が高い場面の送信メールの場合はメールの件名を 8 種に分類できたが、深刻度が低い場面の送信メールの場合は 6 種に分類できた。な お、表 4-38 に示される「○」は、その件名の分類がその場面に出現していること、「×」

はその場面に出現していないという意味である。

表 4-38 両場面におけるメールの件名の分類

NO メールの件名の分類 深刻度が高い 深刻度が低い 1 「謝罪表現」や「お詫び」という表現 ○ ○ 2 [キャンセル報告][キャンセル理由]を用いている文 ○ ○ 3 「~変更のお願い」という約束変更の依頼表現 ○ × 4 3 番目の分類の「~変更のお願い」という約束変更の

依頼表現と 1 番目の分類の「お詫び」という表現を併 用している表現

○ ×

5 「~について」「~に関して」という表現 ○ ○ 6 「~の件」「~のこと」「~の連絡」という表現 ○ ○ 7 どんな約束をしたかを名詞句で要約 ○ ○

8 件名なし ○ ○

133

(4)約束の[キャンセル理由]は送信者によってそれぞれ異なっているが、深刻度が高い場 面の送信メールは体調を崩したという理由が、深刻度が低い場面の送信メールはバイ トや就職の関係という理由が最も多く見られた。

(5)[謝罪表明]は相手に約束をキャンセルすることについて申し訳なく思う気持ちを伝達 するものであるが、全てのメールには使用されていない。深刻度が高い場面では送信者 が全員使用しているが、深刻度が低い場面では使用していない人がいた。

(6)「謝罪表現」は[謝罪表明]の意味公式の箇所のみならず、他の意味公式の箇所にも用 いられている。目上の場合は[メール送信への謝罪][前置き][再約束の依頼の終結]

[メールの終結]の 4 種の意味公式の箇所にも用いられているが、対等の場合は[メール 送信への謝罪][前置き][メールの終結]の 3 種の意味公式の箇所のみに用いられてい る。「謝罪表現」の言語形式は深刻度が高い場面は「申し訳ない系」「すみません系」

「ごめん系」「悪い系」「恐縮系」「失礼系」「お詫び系」の 7 種が見られたが、深刻度 が低い場面は「申し訳ない系」「ごめん系」「悪い系」の 3 種のみであった。また、1 つ のメールに謝罪表現が何回出現しているかということを分析した結果、深刻度が高い場面 は相手が目上か対等かに関わらず、謝罪表現の出現率が最も多かったのは 2 回であるが、

深刻度が低い場面は相手が目上か対等かに関わらず、謝罪表現の出現率が最も多かったの は 1 回である。ただし、二番目に多かった出現率の合計のことも考えると、深刻度が高い 場面は目上にメールを書く際には謝罪表現を 1 回か 2 回、対等に書く際には 2 回以上使用す るという傾向が見られたことがわかった。一方、深刻度が低い場面は目上にメールを書く 際には謝罪表現を 1 回、対等に書く際には 1 回か 2 回使用するという傾向が見られたことが わかった。

謝罪表現の現れ方とその機能を考えると、深刻度が高い場面は「メール送信への謝罪と しての用法」「約束をキャンセルする本題の前置きとしての用法」「配慮表明としての用 法」「約束をキャンセルすること自体に対する謝罪としての用法」「再約束の依頼の前置 きとしての用法」「再約束の依頼の終結としての用法」「謝罪メールの終結としての用 法」の 7 種の用法に分類できたが、深刻度が低い場面は「メール送信への謝罪としての用 法」「約束をキャンセルする本題の前置きとしての用法」「配慮表明としての用法」「約 束をキャンセルすること自体に対する謝罪としての用法」「謝罪メールの終結としての用 法」の 5 種の用法のみ用いられていた。

以上の用法の中で深刻度が高い場面において、相手が目上か対等かに関わらず最も多く 現れている用法は、「配慮表明としての用法」(目上:20 回、対等:19 回)であるため、

134 「配慮表明としての用法」は深刻度が高い場面の約束キャンセルのメールの謝罪表現の基 本的な用法だと考えられる。しかし、深刻度が低い場面において、目上の場合は最も多く 現れている用法は、「配慮表明としての用法」(8 回)と「キャンセルすること自体に対 する謝罪としての用法」(8 回)で、対等の場合は最も多く現れているのは、「キャンセ ルすること自体に対する謝罪としての用法」(16 回)であるが、「配慮表明としての用 法」も 11 回も現れているため、深刻度が低い場面の約束キャンセルのメールの謝罪表現の 基本的な用法は、「配慮表明としての用法」と「キャンセルすること自体に対する謝罪と しての用法」といえるのではないかと考えられる。

135

第 5 章

一回目の返信メールの構造

本研究では、送信メールの構造のみならず、返信メールの構造も分析する。分析方法 としては、送信メールと同様にまずメール全体の構造、メールの意味公式の分類、意味 公式の出現率、意味公式の出現順序、メールの件名の分類を明らかにし、メールの【開 始部】【主要部】【終了部】のそれぞれの意味公式と言語形式の特徴を考察する。最後 に、目下1への返信メールと対等への返信メールの相違点を検討する。本章では、その分 析結果と考察を述べる。

5.1 深刻度が高い場面の返信メールの構造の分析結果と考察