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4.1 深刻度が高い場面の送信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

4.1.4 メールの【主要部】の構造と意味公式

60 ページの表 4-4 に示したように、メールの主要部の意味公式として[前置き][キャンセ ル理由][キャンセル報告]「配慮表明」[謝罪表明][再約束の依頼][都合伺い][都合 報告][日程検討の依頼][再約束の依頼の終結]「遠慮表明」[埋め合わせの提案]の 12 種 が見られた。

表 4-4 より、相手が目上か対等かに関わらず、12 種の中で 50.0%以上のメールに出現してい るのは、[前置き][キャンセル理由][キャンセル報告]「配慮表明」[謝罪表明][再約 束の依頼]の 6 種である。それぞれの意味公式に関しては、次の 4.1.4.1 から 4.1.4.6 までで述 べる。それ以外の 50.0%未満の出現率であった 6 種の[都合伺い][都合報告][日程検討の

件名

宛名 名乗り

宛名 件名

60 依頼]「再約束の依頼の終結」[遠慮表明][埋め合わせの提案]の意味公式に関しては、

4.1.4.7 に述べる。

表 4-4 メールの【主要部】の意味公式の分類

意味公式の分類 出現数(出現率)

目上 対等

主 要 部

前置き 15 例 (75.0%) 17 例 (85.0%)

キャンセル理由 20 例(100.0%) 20 例(100.0%)

キャンセル報告 15 例 (75.0%) 15 例 (75.0%)

配慮表明 20 例(100.0%) 18 例 (90.0%)

謝罪表明 20 例(100.0%) 20 例(100.0%)

再約束の依頼 15 例 (75.0%) 18 例 (90.0%)

都合伺い 3 例 (15.0%) 5 例 (25.0%)

都合報告 4 例 (20.0%) 3 例 (15.0%)

日程検討の依頼 1 例 (5.0%) -

再約束の依頼の終結 2 例 (10.0%) 2 例 (10.0%)

遠慮表明 - 2 例 (10.0%)

埋め合わせの提案 - 2 例 (10.0%)

4.1.4.1[前置き]

[前置き]は「本日、3 時から個人面談をお願いしていたのですが、」や「今日のインタビ ューなんだけど、」などというように、送信されたメールがどんな内容であるかを伝える働き をする意味公式である。また、メールの本題に入る前に前置きとしての「大変申し訳ないので すが、」や「ほんまに申し訳ないんやけど、」などというような謝罪表現を使用しているもの も[前置き]とする。53 ページの表 4-1 でわかるように、目上の場合の出現率は 75.0%に、

対等の場合の出現率は 85.0%に上っており、重要な意味公式だと考えられるようである。

約束を実行することができないという本題に入る前に、[前置き]として既に約束をし たことについて言及することにより、受信者に約束の変更についてのメールだと予想さ せ、受信者に受け入れやすくさせる方法として用いられていると考えられる。[前置き]

の内容を観察すると、送信されたメールがどんな内容であるかを伝えるような内容のみなら ず、「急で申し訳ないのですが、今日時間とってもらっていた件、」や「ほんまに申し訳ない んやけど、」などのような謝罪表現で[前置き]として使用している例が少数あった(40 例中 3 例)。また、[前置き]は例 9 のように、ほぼメールの主要部の始めに書かれているが、

例 10 のように、[前置き]の前に[謝罪表明]が出現している例も少数見受けられた。

61

<例 9:2F-E1> [前置き] +【本題】(対等へのメール)

今日、卒論のインタビューお願いしてたんだけど、

急に熱が出て行けなくなってしまったんだ。

[前置き]

【本題】(キャンセル理由+

キャンセル報告)

<例 10:1M-S1> [謝罪表明]→[前置き] +【本題】(目上へのメール)

申し訳ありません。

本日お願していました件ですが、

自分の体調不良により延期させていただきます。

[謝罪表明]

[前置き]

【本題】(キャンセル理由+

キャンセル報告)

また、目上の場合と対等の場合共に以下の表 4-5 と表 4-6 のように、「〜が、」や「~けど、」

の表現を用いて、約束を実行することができないという本題に入る前に、既に約束をした ことについて言及している例が非常に多かった(目上:15 例中 13 例、対等:17 例中 16 例)。

表 4-5 「〜が、」の表現を用いている前置きの言語形式(目上)

データ 言語形式

1F-S1 本日先生にお願いしていた面談ですが、

1F-S5 本日 14 時からお約束いただいておりましたが、

1F-S7 本日、3 時から個人面談をお願いしていたのですが、

1F-S8 研究のご相談をいたしたく、今日13時から先生にお時間をいただいておりましたが、

1F-S9 本日の午後 3 時にしていた面談のお約束なのですが、

1F-S10 本日お願いしていた午後2時からの面談ですが、

1F-S11 本日の相談についてなのですが、

1M-S1 本日お願していました件ですが、

1M-S2 本日、研究について相談させていただくことになっていましたが、

1M-S3 本日 15 時からお願いしていた面談ですが、

1M-S5 本日は先生がお忙しい中設けてくださった面談の時間があったのですが、

1M-S7 本日の 15 時からお約束いただいている面談についてですが、

1M-S8 本日 14:00 に先生の研究室に伺う予定でしたが、

表 4-6 「〜けど、」の表現を用いている前置きの言語形式(対等)

データ 言語形式

2F-E1 今日、卒論のインタビューお願いしてたんだけど、

2F-E3 今日調査協力をお願いしてたと思うんだけど、

2F-E4 今日のインタビューだけど、

2F-E5 急で申し訳ないのですが、今日時間とってもらっていた件、

2F-E7 今日なんだけど

2F-E8 今日の午後にお願いしていた調査なんだけど、

2F-E9 今日の約束のことなんだけど、

2F-E10 今日お願いしていたインタビューやねんけどさ、

2F-E11 今日インタビューをお願いしてたけど、

62 2M-E2 今日アンケート調査の予定してもらってたと思うんだけど、

2M-E3 今日お願いしてたインタビューやけど、

2M-E5 今日って言っていたインタビューなんやけど 2M-E6 ほんまに申し訳ないねんけれど、

2M-E7 今日のインタビューなんだけど、

2M-E8 今日卒論のインタビューお願いしてたんだけど、

2M-E9 ほんまに申し訳ないんやけど、

4.1.4.2[キャンセル理由]

当日約束をキャンセルすることは相手の時間を無駄にしてしまい、大変失礼になるため、キ ャンセルの理由や事情などを説明しないと、相手に納得してもらえないおそれがある。そのた め、送信者が全員[キャンセル理由]を書いているのだと考えられる。約束のキャンセル理由 は表 4-7 にまとめられる。

表 4-7 約束のキャンセル理由

NO キャンセル理由 出現数(出現率)

目上 対等 合計 1 体調を崩した(自分、家族、犬) 11 例 7 例 18 例 (45.0%)

2 急用ができた 5 例 6 例 11 例 (27.5%)

3 職場(バイト先)でトラブルがある 1 例 5 例 6 例 (15.0%)

4 電車の事故で電車が動いていない 2 例 - 2 例 (5.0%)

5 突然水道が流れなくなってしまい、修理をしてもらう 1 例 1 例 2 例 (5.0%)

6 前の用事が長引いてしまい、約束の時間に間に合 わなさそうだ

- 1 例 1 例 (2.5%)

合計 20 例 20 例 40 例(100.0%)

表 4-7 より、約束のキャンセル理由はそれぞれ異なっているが、「体調を崩した」という理 由が最も多かった。日本では、「約束を守る」ということは、社会生活を送る上で守られるべ き最も重要なルールの1つである(山岩:2006)。急に体調を崩したことは、よほどの事情の理 由の 1 つだと捉えられ、社会生活を送る上で納得できるキャンセルの理由だといえる。

本研究はロールプレイの手法でデータを収集したため、日本語母語話者が実際に書いている 約束キャンセルのメールではないが、調査協力者に依頼するとき、ロールプレイで設定したよ うな状況が実際に起きた場合を想定してメールのやりとりをしてもらうように指示した。その ため、表 4-7 に示した約束のキャンセル理由は、日本語母語話者が社会生活を送る上で実際に 約束をキャンセルする可能性がある理由だといえる。

なお、最も見られた「体調を崩した」という理由でキャンセルしたメールの例は、以下の例 11 のとおりである。

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<例 11:1F-S10>

本日の面談の件 [件名]

△△先生

△△です。

本日お願いしていた午後2時からの面談ですが、

体調を崩してしまい、

学校に行けそうにありません。

また後日、ご相談にうかがってもよろしいでしょうか。

お忙しいところお時間いただいていたのに、

本当に申し訳ありません。

またよろしくお願い申し上げます。

△△

[宛名]

[名乗り]

[前置き]

[キャンセル理由]

[キャンセル報告]

[再約束の依頼]

[配慮表明]

[謝罪表明]

[終了の挨拶]

[署名]

4.1.4.3[キャンセル報告]

[キャンセル報告]は約束に行くことができないことの知らせや、約束のキャンセルや約束 の延期をさせてもらいたいことを表す意味公式である。約束に行くことができないことの知ら せというのは、「その時間に伺うことができなくなってしまいました。」や「行けなくなって しまったんだ。」などという表現である。一方、約束のキャンセルや約束の延期をさせてもら いたいことを表すのは、「キャンセルさせていただけないでしょうか。」や「延期させていた だきます。」などという表現である。この意味公式は相手に自分が約束の通りに会えないこと を知らせる働きをするものである。それを知らせることによって、受信者は今日の約束がキャ ンセルになったという旨を理解する。これはメールの中で最も中心的な内容で、メール全体の 主題(テーマ)を表す「主題文」とみなしてもよいと考える。

一般的に 1 つの文章(談話)の中に 1 つの主題があるとされるが、文章(談話)によって主 題文を直接表現しないものもある(佐久間 1993:108)。佐久間の言う「1 つの主題がある」とい うのは、本研究で取り扱うメールの場合は、主題文とされる[キャンセル報告]の意味公式が メールの本文に明示的に出現しているということなのに対して、「直接表現しない」というの は、主題文とされる[キャンセル報告]の意味公式がメールの本文に明示的に出現していない ということである。[キャンセル報告]の意味公式がメールの本文に明示的に出現していない という現象が見られたのは、送信者が受信者に約束をキャンセルするという報告をしていない わけではなく、他の意味公式の箇所に今回の約束がキャンセルとなるという報告が行われる、

または、他の意味公式を使用することで今回の約束がキャンセルとなったと了解されるからだ と考えられる。次の例 12 を詳しく見てみる。