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4.1 深刻度が高い場面の送信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

4.1.2 件名

メールの件名は 55 ページの表 4-2 のように、「明示的な件名」と「非明示的な件名」の 2 種 に分類できた。前者は「本日の面談、急きょキャンセルさせていただきます」や「日程変更の お願いとお詫び」など、送信者が今日の約束をキャンセルしたいことやその約束キャンセルに 対して謝罪したことなどをはっきり理解できるような内容が明示的に書かれている件名である。

それに対して、後者は「本日の面談に関して」や「本日のご相談の件」「今日のインタビュー」

など、今日の約束の内容が書かれているだけで、送信者がその約束をキャンセルしたいという 内容が明示的に書かれていない件名と、何も書かれていない件名なしの場合である。

件名

宛名 名乗り

前置き キャンセル理由 キャンセル報告

配慮表明 謝罪表明 再約束の依頼

終了の挨拶 署名

宛名

前置き キャンセル理由 キャンセル報告

配慮表明 謝罪表明 再約束の依頼

件名

署名

55 表 4-2 メールの件名の分類

分類 件名のつけ方 例 出現数(出現率)

目上 対等 合計

明示 的

1 「謝罪表現」や「お詫び」

という表現

ごめん!! 1 例

(5.0%)

4 例

(20.0%)

5 例

(12.5%)

2 [キャンセル報告][キャ ンセル理由]を用いている 文

本日の面談、急きょ キャンセルさせてい ただきます

1 例

(5.0%)

2 例

(10.0%)

3 例

(7.5%)

3 「~変更のお願い」という 約束変更の依頼表現

面談の日程変更のお 願い

3 例

(15.0%)

- 3 例

(7.5%)

4 3 番目の分類の「~変更の お願い」という約束変更の 依頼表現と 1 番目の分類の

「お詫び」という表現を併 用している表現

日程変更のお願いと お詫び

1 例

(5.0%)

- 1 例

(2.5%)

小計 6 例

(30.0%)

6 例

(30.0%)

12 例

(30.0%)

非明 示的

5 「~について」「~に関し て」という表現

本日の面談に関して 9 例

(45.0%)

2 例

(10.0%)

11 例

(27.5%)

6 「~の件」「~のこと」

「~の連絡」という表現

本日のご相談の件 4 例

(20.0%)

6 例

(30.0%)

10 例

(25.0%)

7 どんな約束をしたかを名詞 句で要約

今日のインタビュー 1 例

(5.0%)

3 例

(15.0%)

4 例

(10.0%)

8 件名なし 件名なし - 3 例

(15.0%)

3 例

(7.5%)

小計 14 例

(70.0%)

14 例

(70.0%)

28 例

(70.0%)

合計 20 例

(100.0%)

20 例

(100.0%)

40 例

(100.0%)

表 4-2 に示したように、目上の場合と対等の場合共に明示的な件名よりも非明示的な件名の 方が多く使用されている(明示的:12 例、非明示的:28 例)。また、目上へのメールに最も多 く見られたのは、分類 5 の「~について」「~に関して」という表現を使った件名であるのに 対して、対等へのメールに最も多く見られたのは、分類 6 の「~の件」「~のこと」「~の連 絡」という表現を使った件名である。このような分類 5 と 6 のつけ方は、約束をキャンセルす るつもりのメールだけでなく、他の目的のメールにもよくつけられており、一般的な件名のつ け方である。「について」「に関して」「の件」「のこと」「の連絡」の前に書かれている内 容を見ると、例 4 のように、今日どのような約束をしていたかということについての内容が最 も多かったことがわかった。

<例 4>

「本日の研究相談の件」(1F-S1)

56

「本日のご相談の件」(1F-S2)

「本日のご相談について」(1F-S3)

「本日の面談について」(1F-S9、1M-S8)

「本日の面談の件」(1F-S10)

「本日の研究相談について」(1M-S2)

「本日のご相談の事について」(1M-S4)

「本日の面談に関して」(1M-S5)

「本日のご指導に関して」(1M-S9)

「今日の卒論調査のこと」(2F-E1)

「今日のインタビューの件」(2F-E3)

「今日の調査の件」(2F-E8)

分類 1 は送信者が約束をキャンセルすることは、相手にとってよくないと思っており、メー ルの件名の部分で明らかに相手に申し訳なく思う気持ちを伝達しようとする件名ではないかと 考えられる。このような件名のつけ方は、因他(2003)、ウィッタヤーパンヤーノン(2004)、

Yabuuchi 他(2004)が指摘しているように、日本人が何か過ちやミスを起こした場合に、すぐ に謝ることを反映するものであろう。

分類 7 は「本日の面談」「今日のインタビュー調査」「今日のインタビュー」など、今日ど のような約束をしていたかを名詞句で要約し、既に約束をしたことに言及してつけられた件名 である。

分類 2 も分類 7 と同様に既に約束をしたことについて言及しているが、それを名詞句で要約 せずに、「本日の面談、急きょキャンセルさせていただきます」「今日のインタビュー、キャ ンセルさせてください!」「今日風邪を引いてしまいました…」というように、[キャンセル 報告]や[キャンセル理由]を用いた文を件名にしている。

分類 2 は既に約束をしたこと、約束をキャンセルすることや約束をキャンセルする理由につ いて明確に表す件名であるため、千田(2009)が指摘している「重要文」を件名に入れたもの だとみなすことができる。また、分類 7 の件名の内容は分類 5 と 6 の「について」「に関して」

「の件」「のこと」「の連絡」の前に書かれている内容と同様である。

分類 3 は今回のメール送信の目的は約束をキャンセルすることであるが、送信者が約束をキ ャンセルすることを報告するだけではなく、約束を変更してもらうように、件名の部分から相 手に依頼しているものである。

57 分類 4 は分類 3 と同じような約束変更の依頼のみならず、分類 1 と同じような「お詫び」と いう表現を組み合わせた件名である。このような件名は送信者が件名の部分で約束をキャンセ ルするだけではなく、約束を変更することについても謝りたいと考えていることが窺える。

分類 8 は目上には出現していないが、対等には出現している。メールの書き方のマナーとし て、件名をつけずにメールを書くことは、非常識で適切ではないと思われるが、分析結果では、

件名をつけていないメールが 3 例あったことがわかった。これは友達のように自分と同じ立場 の人の場合は、件名をつけなくてもよいと考えていたためではないだろうか。

以上、それぞれの件名の分類について述べた。分類 1、2、3、4 は明示的で、第 2 章で述べた 藤本(2006)、簗他(2005)、三省堂編集所(2007)が指摘しているように、これらの件名はメ ールの内容が予想しやすく簡潔で具体的な件名だといえる。一方、分類 5、6、7、8 は明示的で はなく、メールの内容が明示的な件名ほど予想しやすく簡潔で具体的な件名であるとはいえな いが、送信者と返信者が既にお互いに約束をしたことを意識しているため、分類 5、6、7 のよ うな件名をつけてもメールを受け取った側がメールの内容がなんとなく予想できるのではない かと考えられる。