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4.2 深刻度が低い場面の送信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

4.2.6 目上へのメールと対等へのメールの相違点

以上、深刻度が低い場面の送信メールの構造を分析した。その結果、目上へのメールと対等 へのメールの構造には、以下のような相違点があることがわかった。

(1)メールの意味公式は 22 種に分類できた。22 種の中で目上へのメールに出現しているが 対等へのメールには出現していないのは、メールの主要部の[共有事項への言及]と、メ ールの終了部の[連絡の予告]である。一方、目上へのメールには出現していないが対等 へのメールに出現しているのは、メールの開始部の[メール送信への謝罪]、メールの主 要部の[参加可能の期待]、メールの終了部の[連絡の要求]である。96 ページの表 4-19 に示したように、[共有事項への言及][連絡の予告]は目上へのメールのみに、[メー ル送信への謝罪][参加可能の期待][連絡の要求]は対等へのメールのみに出現してい

120 る結果が出ているが、これらの意味公式の出現率は[共有事項への言及](目上:2例、対 等:なし)、[連絡の予告](目上:1 例、対等:なし)、[メール送信への謝罪](目 上:なし、対等:1 例)、[参加可能の期待](目上:なし、対等:1 例)、[連絡の要求]

(目上:なし、対等:1例)と、目上の場合と対等の場合の出現率の違いに大きな差が見ら れなかった。そのため、これらの意味公式が目上か対等かいずれかにしか出現しないとい うことが目上の場合と対等の場合の根本的な違いであるとは言いがたいのではないかと考 えられる。

(2)97 ページの図 4-3 に示したように、22 種の中で半数以上出現している意味公式の数は、目 上の場合は 12 種で、対等の場合は 9 種である。目上へのメールには〈[件名]→[宛名]

→[開始の挨拶]→[名乗り]→[前置き]→[キャンセル理由]→[キャンセル報告]

→[謝罪表明]→[残念な気持ちの表明]→[キャンセルに対する対応の言及]→[別の 機会での対面の期待]→[署名]〉という 12 種の出現順序が最も多かった。一方、対等へ のメールには〈[件名]→[宛名]→[前置き]→[キャンセル理由]→[キャンセル報 告]→[配慮表明]→[謝罪表明]→[キャンセルに対する対応の言及]→[署名]〉と いう 9 種の出現順序が最も多かった。

以上の出現順序から、目上と対等で用いられている出現率が半数以上出現している意味 公式は、同じものが多かった。違いは目上ではメールの開始部の[開始の挨拶]と[名乗 り]、メールの主要部の[残念な気持ちの表明]と[別の機会での対面の期待]が用いら れているが、対等ではメールの主要部の[配慮表明]が用いられていることである。対等 の場合に[開始の挨拶]と[名乗り]があまり使用されていないのは、友達にメールを送 信することは、かしこまったフォーマルな場面ではないため、相手に挨拶することや自分 の名前を書くことは、必須であるとはいえないからである。また、目上の場合より対等の 場合のほうが[残念な気持ちの表明]と[別の機会での対面の期待]の出現率が少なかっ たのは、友達の場合はお互いの都合がよければ、いつでも一緒に食事ができるが、先生の 場合はゼミの食事会以外の場合は、なかなか一緒に食事ができないため、先生に対しては 残念に感じていることを伝えて関係修復をはかろうとするからではないかと考えられる。

対等へのメールでは、目上へのメールより[別の機会での対面の期待]の出現率が少な かったが、一方で、対等へのメールのほうが目上へのメールよりも「配慮表明」と[謝罪 表明]の出現率が多かったということから、相手との関係を修復したいと思っていなかっ たのではなく、[別の機会での対面の期待]の代わりに[配慮表明]と[謝罪表明]を書 くことによって相手に申し訳なく思う気持ちを伝達し、相手との関係を修復しようとして

121 いたのではないかと考えられる。

(3)目上の場合は[名乗り]と[署名]として、メールの開始部と終了部に自分の名前を書い ている例が 13 例(65.0%)あったが、対等の場合は 3 例(15.0%)しかなかった。また、

対等の場合はメールの開始部にも終了部にも自分の名前を書いていない例は8例(40.0%)

あったが、目上の場合は 1 例もなかった。つまり、対等にメールを書く際に、自分の名前 を 1 回も書いていない人がいたが、目上に書く際には、送信者全員が必ず自分の名前を少 なくとも 1 回書いている。

(4)目上の場合と対等の場合共に最も多く見られた件名は、非明示的な件名であるが、件名の つけ方が異なる。目上へのメールに最も多く見られたのは、「~の件」「~のこと」「~

の連絡」という表現でつける件名と、「~について」「~に関して」という表現でつける 件名であるが、対等の場合は「~の件」「~のこと」「~の連絡」という表現でつける件 名のみが最も多く見られた。対等の場合は「謝罪表現」で件名をつけているメールが 1 例 あったが、目上の場合は 1 例もなかった。また、対等の場合は件名をつけていないメール が 3 例あったが、目上の場合は 1 例もなかった。

(5)[残念な気持ちの表明]の言語形式として、目上にメールを書く際に、「楽しみにしてい た」という表現と、「とても+残念」「大変+残念」「非常に+残念」「本当に+残念」

という程度を表す副詞と「残念」という言葉を併用して、食事会を楽しみにしていたが参 加できなくなったのは、とても残念だという気持ちを明確に表している例が非常に多かっ た(14 例中 13 例)。しかし、対等に書く際には、「楽しみにしていた」という表現と程度 を表す副詞を併用して残念な気持ちを表している例が 1 例もなく、みんな様々な表現で残 念な気持ちを伝達している。

(6)[キャンセルに対する対応の言及]を観察すると、目上の場合は言及されている対応の内 容と言語形式にばらつきがほぼなかったが、対等の場合にばらつきがあった。目上の場合 は 12 例中 11 例で幹事に自分が参加できなくなった旨を伝えておくという内容が言及されて おり、「幹事の△△さんには、私から伝えておきます。」や「幹事の方にはわたしから連 絡しておきます。」などというように、「V-ておく」という言語形式で表している例が多 かった(12 例中 9 例)。反面に、対等の場合は目上の場合と異なり、キャンセルに対する 対応の内容と言語形式が送信者によって様々であった。

(7)謝罪表現の言語形式は「申し訳ない系」「ごめん系」「悪い系」の 3 種に分類できた。目 上にメールを書く際に、全員の調査協力者が「申し訳ない系」を使用しているが、対等に 書く際に、最も使用しているのは「ごめん系」である(74.2%)。そして、目上にメール

122 を書く際には謝罪表現を 1 回、対等に書く際には 1 回か 2 回使用するという傾向が見られ た。また、謝罪表現は「約束をキャンセルする本題の前置きとしての用法」「配慮表明と しての用法」「約束をキャンセルすること自体に対する謝罪としての用法」「謝罪メール の終結としての用法」の 4 種に分類できた。この 4 種の用法の中で、目上と対等で出現数 が大きく違うのは、「約束をキャンセルすること自体に対する謝罪としての用法」である。

対等へのメールには 16 回現れているが、目上へのメールには 8 回しか現れていない。

つまり、調査協力者は目上にメールを書く際には、相手との約束をキャンセルするとい う事柄自体に対する直接的な謝罪を、配慮表明としての謝罪と同じ程度で重視しているが、

対等の場合には、配慮表明としての謝罪よりも相手との約束をキャンセルするという事柄 自体に対する直接的な謝罪の方を重視する傾向があるということである。このような違い は目上へのメールと対等へのメールの根本的な謝罪の仕方の違いではないかと考えられる。

以上、目上の場合と対等の場合の相違点をまとめた。深刻度が高い場面と同様に以上の(1)

(2)(3)のように、メール全体の構造、メール全体の意味公式の出現率および意味公式の全 体の出現順序の違いには大きな差が見られなかったため、メール全体の構造に大きな違いがあ るとはいえない。しかし、(7)で述べたように、目上の場合と対等の場合に重要な違いが見ら れたのは、謝罪表現の用法についてである。謝罪表現の用法の違いは、目上の場合と対等の場 合の約束キャンセルのメールでの謝罪の仕方の根本的な違いとみなすことができる。