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5.1 深刻度が高い場面の返信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

5.1.7 深刻度が高い場面の返信メールの構造のまとめ

(1)メール全体の構造

深刻度が高い場面の返信メールの意味公式は、[件名][宛名][開始の挨拶]「名乗り」

[感謝表明][メール受信の報告][キャンセル報告の了解][キャンセル報告への反 応][謝罪の受け入れ][状況の受け入れ][キャンセル理由への言及][気遣い表明]

[応援表明][再約束の承諾][都合伺い][都合報告][都合報告の要求][日程の 提案][日程検討の依頼][当日の予定の報告][再約束への提案][埋め合わせの要 求][メールの終結][連絡の要求][終了の挨拶][署名]の 26 種に分類できた。

26 種の中で半数以上出現している意味公式の数は、目下の場合は 6 種で、対等の場合は 4 種 である。目下へのメールには〈[件名]→[宛名]→[キャンセル報告の了解]→[気遣い表 明]→[再約束の承諾]→[署名]〉という 6 種の出現順序が最も多かった。一方、対等への メールには〈[件名]→[キャンセル報告への反応]→[謝罪の受け入れ]→[再約束の承 諾]〉という 4 種の出現順序が最も多かった。この出現順序の中で、目下と対等のいずれに も用いられている意味公式は、[件名]と[再約束の承諾]であるため、全 26 種の意味 公式の中で全 20 例のうちの半数以上のメールに出現している意味公式は、[件名][宛 名][キャンセル報告への反応][キャンセル報告の了解][謝罪の受け入れ][気遣 い表明][再約束の承諾][署名]の 8 種となる。これらの 8 種の意味公式は深刻度が 高い場面の返信メールの構造として重要な要素で、返信メールを書く際に書くべきもの だと考えられる。意味公式をこのような出現順序で組み合わせることにより、まとまっ た 1 つの返信メールが成り立つ。今回のデータでは、このようなパターンを深刻度が高 い場面の返信メールの典型的な構造とみなすことにする。

(2)件名

深刻度が高い場面の送信メールの件名は 8 種に分類できたが、深刻度が高い場面の返 信メールの場合は、全員「Re:本日のご相談の件」や「Re:今日のインタビュー」などと いった「Re:~」のように、新しく件名をつけずに、受け取ったままの件名で相手から のメールに返信している。フォローアップ・インタビューの結果によると、このような 件名のつけ方はメールを受け取った側が約束をキャンセルするという話題を続けるため

157 に、わざと新しく件名をつけずに、受け取ったままの件名で返信するという意図を持っ て行なったことがわかった。

(3)メールの【開始部】の構造と意味公式

メールの開始部の意味公式は[宛名][開始の挨拶][名乗り][感謝表明][メール 受信の報告]の 5 種が見られたが、出現率が半数以上であった意味公式は、[宛名]のみで ある。[宛名]は全ての目下へのメールに出現しているが、相手が対等の場合は 45.0%

しか出現していない。また、目下の場合は[宛名]を書いてから[名乗り]として自分 の名前を書いている例は 25.0%であったが、対等の場合は 5.0%のみであった。対等の 場合より目下の場合の方が[宛名]と[名乗り]が多く出現しているのは、指導教員と 学生のメールのやりとりがフォーマルな場面であるからだと考えられる。[名乗り]以 外に、目下へのメールには[開始の挨拶][感謝表明][メール受信の報告]を書いて いる例があった。しかし、対等へのメールには[名乗り]以外に[開始の挨拶]を書い ている例はあったが、「感謝表明」と[メール受信の報告]を書いている例は 1 例もな かった。この出現率から見ると、メールに返信する際に、開始部を書かずに、主要部の 内容のみ書けば十分だと考えられているのではないかと思われる。

(4)メールの【主要部】の構造と意味公式

メールの主要部の意味公式として[キャンセル報告の了解][キャンセル報告への反 応][謝罪の受け入れ][状況の受け入れ][キャンセル理由への言及][気遣い表明]

[応援表明][再約束の承諾][都合伺い][都合報告][都合報告の要求][日程の 提案][日程検討の依頼][当日の予定の報告][再約束への提案][埋め合わせの要 求]の 16 種が見られた。この中で目下へのメールに 50.0%以上のメールに出現してい るのは、[キャンセル報告の了解][気遣い表明][再約束の承諾]の 3 種であるが、

対等の場合は[キャンセル報告への反応][謝罪の受け入れ][再約束の承諾]の 3 種 である。これらの意味公式は、深刻度が高い場面の返信メールの重要な内容だと考えられる。

[キャンセル報告の了解]は相手が約束をキャンセルしたいということを了解したと 知らせる働きをする意味公式である。それを知らせることで、キャンセルしたい側は相 手がキャンセルを承諾したということが理解できるようになるため、キャンセルしたい 側の目的が達成される。目下の場合と対等の場合のいずれも「了解しました。」や「了 解!」というような「了解」の言葉を使用している例が最も多かった。

158 [キャンセル報告への反応]は相手からの約束キャンセルの報告に対してがっかりや 驚きなどというような気持ちを伝達して、相手のメールへの反応を表す意味公式である。

対等へのメールには「そっか」「えっ!!」「まじか!」などというように、50.0%出 現しているが、目下へのメールには「そうですか、」というように、5.0%しか出現し ていない。これらの表現を用いることで、メール返信者は相手が約束をキャンセルした いという情報を受け取ることになり、相手のキャンセル理由を納得しているが、その情 報は意外なので多少がっかりや驚きなどの気持ちも含まれているのではないかと考えら れる。

[謝罪の受け入れ]は約束をキャンセルされたことが自分にとって問題がないという ように、約束キャンセルについての謝罪を受け入れることである。[謝罪の受け入れ]

は相手との関係に支障が生じるのではないかと不安に思うキャンセルする側を安心させ たり、怒っていると思われないように、出現していると考えられる。対等の場合は[謝 罪の受け入れ]を使用している例が半数であったが、目下の場合は 10.0%のみであった。

目下へのメールの出現率は非常に少なかったが、[再約束の承諾]という意味公式の出 現率(50.0%)から考えると、[謝罪の受け入れ]を書いていないことは、指導教員が 学生からの約束キャンセルを受け入れないというわけではないことがわかった。メール 返信者である指導教員は自分が学生より社会的な立場が高いので、[謝罪の受け入れ]

を書かなくてもよいと考えたためではないだろうかと考えられる。[謝罪の受け入れ]

の言語形式として、対等の場合は「全然大丈夫ですよ。」や「「こちらの方は全然大丈 夫なので気にしないでね。」などというように、「全然+大丈夫」と「気にしない」と いう表現が最も多く出現している。目下の場合は「突然のお願いは困りますが、約束が なくなる分には困らないので、気にせずに。」というような「気にしない」という表現 と「そのような状態では研究にも身が入らないし、より体調を悪化させてしまうでしょ うから、参加できなくても構いません。」というような「構わない」という表現をそれ ぞれ 1 例(5.0%)ずつに使用されている。

[気遣い表明]は相手の現状について聞いたり、対処方法を提示したり、相手に心配する 気持ちや気遣う気持ちを表す意味公式である。目下の場合と対等の場合共に「体調は大丈 夫ですか。」や「仕事、大丈夫??」などというような「~大丈夫ですか」という表現 が最も多く出現している。これを用いることによって、メール返信者が相手の体調は大 丈夫であるかどうかを確認して相手への心配を表すことになる。次に多かったのは、

「今日は、ゆっくり休んでください。」や「今はゆっくり休んでね 」などというよう

159 な「V-てください」の表現である。この表現を用いることは、相手の状況がよくなるよ うにするための対処方法を提示することだといえる。

[再約束の承諾]は送信メールの[再約束の依頼]に対する応答の意味公式である。

相手が目下か対等かに関わらず、研究についての約束をキャンセルされた場合は、キャ ンセルした側に再度約束を依頼されたら、調査協力者はその再約束の依頼を引き受けよ うとする可能性がある。再約束の依頼を引き受けることは、相手との関係に支障が生じ るのではないかと不安に思うキャンセルする側を安心させるために使用されており、相 手との関係を維持する方法になると考えられる。[再約束の承諾]そのものの内容と

[再約束の承諾]の前後に出現している内容を観察すると、一文で単純に再約束の依頼 を引き受けている例もあれば、[再約束の承諾]の前後に次回会える日時を報告したり、

相手の都合のいい日時を聞いたりする、[都合伺い][都合報告][都合報告の要求]

[日程の提案][日程検討の依頼][当日の予定の報告]という意味公式を使用してい る例もあった。また、「調査のことはまた落ち着いたら連絡してくれ。」や「個人面談につ いては、また後日連絡ください。」などというように、相手の状況がよくなったら、次回 の再約束ができる日時についての連絡をしてもらうようお願いもしくは指示をしている 例もあった。そのように[再約束の承諾]の内容が異なっていることが多かったため、

再約束の依頼を引き受けるのに出現している言語形式もメール返信者によって様々であ った。そのため、[再約束の承諾]の 1 つの典型的な言語形式にはまとめることができ ない。

[再約束の承諾]の出現率は、目下の場合と対等の場合のいずれも返信者の半分

(50.0%)が使用している。[再約束の承諾]を使用していないメールの内容を観察す ると、[再約束の承諾]の代わりに[都合伺い][都合報告][都合報告の要求][日 程の提案][日程検討の依頼]の中のいずれかを使用している例、またはこの中のいず れかを併用している例があった。このように、半分の返信者が[再約束の承諾]を使用 していないことは、半分の返信者は相手からの再約束の依頼を引き受けないというわけ ではなく、[都合伺い][都合報告][都合報告の要求][日程の提案][日程検討の 依頼]を使用することによって、相手からの再約束の依頼を引き受けることになると捉 えることができる。

(5)メールの【終了部】の構造と意味公式

メールの終了部の意味公式として[メールの終結][連絡の要求][終了の挨拶]