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5.1 深刻度が高い場面の返信メールの構造の分析結果と考察 .1 メール全体の構造 .1 メール全体の構造

5.1.4 メールの【主要部】の構造と意味公式

136 ページの表 5-1 に示したように、メールの主要部の意味公式として[キャンセル 報告の了解][キャンセル報告への反応][謝罪の受け入れ][状況の受け入れ][キ ャンセル理由への言及][気遣い表明][応援表明][再約束の承諾][都合伺い]

[都合報告][都合報告の要求][日程の提案][日程検討の依頼][当日の予定の報 告][再約束への提案][埋め合わせの要求]の 16 種が見られた。この中で目下へのメ ールの 50.0%以上に出現しているのは、[キャンセル報告の了解][気遣い表明][再 約束の承諾]の 3 種である。一方、対等へのメールに 50.0%以上出現しているのは、

[キャンセル報告への反応][謝罪の受け入れ][再約束の承諾]の 3 種である。それ ぞれの意味公式に関しては、次の 5.1.4.1 から 5.1.4.5 までで述べる。それ以外の 50.0%未満の出現率であった 11 種の[状況の受け入れ][キャンセル理由への言及]

[応援表明][都合伺い][都合報告][都合報告の要求][日程の提案][日程検討 の依頼][当日の予定の報告][再約束への提案][埋め合わせの要求]の意味公式に 関しては、5.1.4.6 に述べる。

5.1.4.1[キャンセル報告の了解]

[キャンセル報告の了解]は相手が約束をキャンセルしたいということを了解したと 知らせる働きをする意味公式である。それを知らせることで、キャンセルしたい側は相 手がキャンセルを承諾したということが理解できるようになるため、キャンセルしたい 側の目的が達成される。そのため、この返信メールは約束キャンセルの承諾のメールに なるといえる。

この意味公式は目下へのメールには 10 例(50.0%)出現しているが、対等へのメール には 8 例(40.0%)出現している。目下の場合は「了解しました。」「了解です。」

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「表題の件ですが、了解いたしました。」「面談のキャンセルの旨、了解しました。」

「下記の件、了解しました。」というような「了解」の言葉を使用している例が最も かった(10 例中 5 例)。次いで、「わかりました。」「事情はわかりました。」「メ ールを見て、事情がわかりました。」というような「わかる」の言葉を使用している 例が 4 例で、「今日面談に来られなくなったとのこと、承知しました。」というよう な「承知」の言葉を使用している例が 1 例あった。

一方、対等の場合は目下の場合と同様に「了解!」「了解です!」「調査の件、了 解です。」「了解した!!!!」「了解しました。」「本日のインタビュー延期の件、

了解です。」というような「了解」の言葉を使用している例が最も多かった(8 例中 6 例)。「承知しました d(^_^S)」の言葉と「わかった。」の言葉を使用している例が それぞれ 1 例あった。

5.1.4.2[キャンセル報告への反応]

[キャンセル報告への反応]は相手からの約束キャンセルの報告に対してがっかり や驚きなどというような気持ちを伝達して、相手のメールへの反応を表す意味公式で ある。対等へのメールには「そっか」「そうなんだ、」「そうか…」「そっかー」

「そうか、」「えっ!!」「まじか!」という表現で 10 例(50.0%)出現しているが、

目下へのメールには「そうですか、」という表現で 1 例(5.0%)しか出現していない。

「そうですか、」「そっか」「そうなんだ、」「そうか…」「そっかー」「そう か、」の「そう」系の言葉は、あいづちの一種か応答であるかということは研究者に よって違いが見られ、あいづちと応答とを明確に区別することは難しいようである。

対面会話における両者の出現位置から考えると、「あいづち」は相手の反応を求める 場所や一定の区切れがなされたところで打たれるもので、「応答」はまとまった文に 対する反応である(森山 2000)。

郷矢(2014)は「そうですか」「そうなんですか」「そうなんだ」「そうか/そっ か」の「そう」系の 4 形式を対象として、話し言葉コーパスを分析資料として量的・

質的分析を行った。その結果、4 形式はいずれもあいづちとしてよりも応答として用 いられている場合が多く、あいづちよりも応答として機能する性質、つまり応答性の 高い形式であると結論づけている。このことから、今回の返信メールに出現している

「そうですか、」「そっか」「そうなんだ、」「そうか…」「そっかー」「そうか、」

の言葉は、相手のキャンセル報告への反応として出現しているといえる。

141 これらの表現を用いることで、メール返信者は相手が約束をキャンセルしたいという 情報を受け取ることになり、相手のキャンセル理由を納得しているが、その情報は意外 なので多少がっかりや驚きなどの気持ちも含まれているのではないかと考えられる。

5.1.4.3[謝罪の受け入れ]

[謝罪の受け入れ]は約束をキャンセルされたことが自分にとって問題がないという ように、約束キャンセルについての謝罪を受け入れることである。第 1 章で述べたよう に、既に約束したことをキャンセルすることは、相手の時間を無駄にし、相手に損害を 与えたり迷惑をかけたり、相手を不快にさせたりしてしまうことがあるため、キャンセ ルする側がキャンセルされる側との関係に支障が生じるのではないかと不安に思うこと が多いだろう。[謝罪の受け入れ]は相手との関係に支障が生じるのではないかと不安 に思うキャンセルする側を安心させたり、怒っていると思われないように出現している と考えられる。

対等の場合は[謝罪の受け入れ]を使用している例が半数であったが、目下の場合は 2 例(10.0%)のみであった。目下へのメールの出現率は非常に少なかったが、後述す る 5.1.4.5 の[再約束の承諾]という意味公式の出現率(50.0%)から考えてみると、

[謝罪の受け入れ]を書いていないことは、指導教員が約束のキャンセルを受け入れな いわけではないことがわかった。メール返信者である指導教員は自分が学生より社会的 な立場が高いので、[謝罪の受け入れ]を書かなくてもよいと考えたためではないだろ うかと考えられる。

[謝罪の受け入れ]の言語形式として、対等の場合は「大丈夫だよ!」「私は全然大 丈夫だから、」「全然大丈夫だよ!!」「こちらの方は全然大丈夫なので気にしないで ね。」「全然大丈夫ですよ。」「大丈夫だよ!!」「全然気にしなくていいからね、」

「全然、気にしなくていいよ。」「全然気にしなくていいから!!!」「全然ええで!」

というように、「全然+大丈夫」と「気にしない」という表現が最も多く出現している。

目下の場合は対等の場合と同様に「突然のお願いは困りますが、約束がなくなる分に は困らないので、気にせずに。」というように、「気にしない」という表現を使用して いる例が 1 例見られた。残りの 1 例では、「そのような状態では研究にも身が入らない し、より体調を悪化させてしまうでしょうから、参加できなくても構いません。」とい うように、「構わない」という表現が使用されている。「構わない」はそれを行っても 問題ない、気にしない、といった意味の表現である。すなわち、「構わない」は「気に

142 しない」と「大丈夫」と同じ意味とみなすことができよう。

5.1.4.4[気遣い表明]

[気遣い表明]は相手の現状について聞いたり、対処方法を提示したり、相手に心配す る気持ちや気遣う気持ちを表す意味公式である。目下の場合は 10 例(50.0%)出現して いるが、対等の場合は 7 例(35.0%)のみであった。相手が目下か対等かに関わらず、

[気遣い表明]は「体調を崩した」というキャンセル理由のメールで最も使用されて おり、目下の場合は 10 例中 9 例で、対等の場合は 7 例中 6 例で使用されている。残り の 1 例は目下の場合と対等の場合のいずれも「職場(バイト先)でトラブルがある」

というキャンセル理由のメールで使用されている。[気遣い表明]の言語形式は、表 5-2 と表 5-3 に示す。

表 5-2 気遣い表明の言語形式(目下)

データ 言語形式

1F-S1 今日は、ゆっくり休んでください。

1F-S3 インフルエンザと診断されたとのこと、大丈夫ですか。無理をせず、今日はゆっ くり休んでください。

1F-S4 どうぞ、行ってきてあげてください。

1F-S5 トラブルは、うまく収まりそうですか。

1F-S11 お加減いかがですか?

1M-S1 まずは療養してください。

1M-S4 体の方は大丈夫ですか?

1M-S5 お父様のご心配を優先させてください。

1M-S7 とにかくまずはお父さんの所に行ってあげてください。

1M-S9 体調は大丈夫ですか。/それよりも自分の体のことを考えて、今日のところは 十分に休んで下さい。

表 5-3 気遣い表明の言語形式(対等)

データ 言語形式

2F-E1 体調大丈夫かな。

2F-E3 △△ちゃん、大丈夫 ?/今はゆっくり休んでね 2F-E4 仕事、大丈夫??

2F-E10 熱があるって、大丈夫?ちゃんと病院行くんやで。

2F-E11 大丈夫??

2M-E1 それよりも体大丈夫?

2M-E9 はよ行ってあげな。

143 表 5-2 と表 5-3 より、目下の場合と対等の場合共に「体調は大丈夫ですか。」や「仕 事、大丈夫??」などというような「~大丈夫ですか」という表現が最も多く出現して いる。これを用いることによって、メール返信者が相手の体調は大丈夫であるかどうか を確認して相手への心配を表すことになる。次に多かったのは、「今日は、ゆっくり休 んでください。」や「今はゆっくり休んでね 」などというような「V-てください」の 表現である。この表現を用いることは、相手の状況がよくなるようにするための対処方 法を提示することだといえる。

5.1.4.5[再約束の承諾]

[再約束の承諾]は送信メールの[再約束の依頼]に対する応答の意味公式である。

表 5-1 に示したように、目下の場合と対等の場合のいずれも[再約束の承諾]の出現率 が 50.0%である。場面設定①の場合は指導教員との研究相談の約束で、指導教員が 1 名 しかいないため、今回の約束をキャンセルしても約束をキャンセルする側である学生は、

どうしてもその指導教員に再び依頼しなければならない。

一方、場面設定②の場合は卒論のデータを収集するために、友達に調査協力者となり インタビューを受けてくれるよう依頼する約束である。場面設定②は場面設定①と違っ て、今回約束をキャンセルし、相手が次回の再約束の都合が合わなければ、キャンセル する側は他の友達に依頼できるだろう。しかし、対等への深刻度が高い場面の送信メー ルにおける[再約束の依頼]の出現率が 90.0%であることから考えると、キャンセルす る側は他の友達に依頼することができるにもかかわらず、今回の約束をキャンセルする ことになっても同じ人に依頼したいと考えていることがわかった。

以上のことから、相手が目下か対等かに関わらず、研究についての約束をキャンセル された場合、キャンセルした側に再度約束を依頼されたら、調査協力者はその再約束の 依頼を引き受けようとする可能性があるといえる。[謝罪の受け入れ]と同様に再約束 の依頼を引き受けることは、相手との関係に支障が生じるのではないかと不安に思うキ ャンセルする側を安心させることになるため、相手との関係を維持する方法になると考 えられる。

[再約束の承諾]そのものの内容と[再約束の承諾]の前後に出現している内容を観 察すると、例 25 のように、一文で単純に再約束の依頼を引き受けている例もあれば、例 26 から例 29 までのように[再約束の承諾]の前後に次回会える日時を報告したり、相 手の都合のいい日時を聞いたりする、5.1.4.6 で後述する[都合伺い][都合報告]